- 作成日 : 2024年12月9日
海外子会社のガバナンスとは?なぜ難しい?不正事例や強化する方法を解説
海外子会社のガバナンスは、海外子会社における親会社への説明責任ともいえます。海外子会社での不正を防止するためには、内部統制の強化や管理方法の検討、適切な会計ソフトの利用などが必要です。海外子会社のガバナンスが問題になる理由やガバナンスが弱いことで起こる問題などについて解説します。
目次
海外子会社のガバナンスとは?
海外子会社のガバナンスとは、海外子会社が経営や業務の透明性を確保したうえで、親会社(株主)に対して説明責任を果たすことです。海外子会社は地理的に離れた場所にあります。日本国内にある企業と比較して直接現地を訪れて状況を確認することが難しいことから、海外子会社のガバナンスは海外子会社を統制するうえで重要な要素となります。
ガバナンスの意味
ガバナンスには、統治や管理などの意味があります。企業のガバナンスを「コーポレートガバナンス」といいます。コーポレートガバナンスとは、適切な情報開示や経営の透明化を図ることで、株主や取引先などあらゆる関係者が適切な意思決定ができるようにすることです。経営管理や内部監査、リスクマネジメント、コンプライアンスの遵守などがガバナンスの具体的な取り組みに挙げられます。
海外子会社のガバナンスはなぜ難しいのか
日本国内のガバナンスと比べて、海外子会社のガバナンスは難しいとされています。海外子会社のガバナンスで生じやすい課題について紹介します。
文化や法規制の違い
日本と海外では、法規制や会計基準に違いがあります。国別に違いがあるため、適切に対応するのが国内と比べて困難です。ビジネス手法や言語など、日本とは文化的な面も異なるため、海外子会社のガバナンスがうまくいかないことがあります。
親会社の意向が反映されにくい
海外の既存の会社を買収した場合に問題になりやすいのが、前任の経営陣や責任者との経営方針の不一致です。前任者との間に軋轢があると、親会社の意向や経営方針が反映されにくいという問題があります。
時差やインフラの制約
海外子会社と日本国内の会社には時差があるため、十分にコミュニケーションが図れない問題があります。海外で利用できるインフラの制約もコミュニケーションの妨げになるでしょう。相互に情報共有ができるITインフラが整備されていないと、海外子会社のガバナンスがうまくいかなくなる可能性があります。
属人化しやすい
海外子会社は地理的に離れた場所にあることから、日本国内にある企業と比べて監視の目が届きにくい面があります。結果として生じやすい問題が、業務の属人化(ブラックボックス化)です。属人化することで、業務の詳細を把握できなかったり、内部統制がうまくいかず改善できなかったりするなどの問題があります。
財務報告への意識が弱い
国や地域によっては、日本国内と比較して財務報告の意識が低く、適切な会計処理や財務報告が行われないこともありますが、財務報告が適切に行われないと、現地の財政状況が把握できないという問題が発生します。財務報告の意識だけでなく、セキュリティの意識やリスクマネジメントの意識などが日本と異なる可能性があることにも注意が必要でしょう。
海外子会社のガバナンスが弱いとどうなるか
海外子会社のガバナンスが働かないと、以下のような問題が生じる可能性があります。
- 不正行為が発生する
- 財務報告の信頼性が低下する
- 法令違反が発生する
- 経営判断が遅れる
- ブランドイメージが下がる など
不正行為が発生しやすい
海外子会社のガバナンスが働かないと、不正行為が発生しやすいという問題があります。中でも多いのが、横領や自分の業績をよく見せようとする不正行為です。海外の雇用は、日本国内の雇用と比べて流動的であることから、企業と労働者の関係性が希薄な傾向にあります。そのため、不正が起きた場合に再教育をするような対策は不適切です。海外の雇用事情に適した対策がされていないと、コンプライアンスが維持できず、不正行為が多発する可能性もあります。
財務報告の信頼性の低下
海外子会社の財務報告は、財務諸表の信頼性にも大きな影響があります。内部統制が行われず、会計処理や財務報告が適切に行われなかった場合、企業グループ全体の財務報告の信頼性が低下するおそれがあります。
法令違反が発生するリスク
各国において、日本とは異なる法令が定められています。例えば、EUでは、EUの水準を満たさない第三国などに対する個人データの移転を規制する法令が定められています。このように、日本の法令と外国の法令は異なるため、適切な企業運営のためには、海外子会社の現地の法令を遵守した対応が必要です。しかし、海外子会社のガバナンスが働かないと、法令が適切に守られず違反となるリスクがあります。
経営判断の遅れ
海外は、日本国内とはさまざまな面で環境が異なります。そのため、商習慣に関するトラブルや宗教に関するトラブルなども日本とは異なるシチュエーションで発生する可能性があるでしょう。必要に応じて親会社に報告が行われる体制が構築されていれば、素早く対処することもできます。しかし、海外子会社のコンプライアンス意識が弱い場合、報告が遅れたり、あるいは報告がなかったりすることで、経営判断が遅れるリスクがあります。
企業のブランドイメージの損失
海外子会社のコンプライアンス意識が弱いと、海外子会社だけでなく、企業グループ全体にも影響する可能性があります。例えば、粉飾決算などの重大な事案が生じた場合です。メディアやSNSなどで情報が拡散されると、海外子会社を展開している企業のブランドイメージの損失にもつながるおそれがあります。
海外子会社の不正事例
海外子会社での不正事例としてよく挙げられる行為をいくつか紹介します。
在庫の横流し
海外子会社の不正の事例でよく見られるのが、会社資産の流用です。在庫の横流しや金銭の横領などが該当します。在庫の横流しとは、正規ルートではないルートに商品を販売して、不正に利益を得ることです。海外子会社のコンプライアンス意識が働いていないと、監視の目が届かず、資産の流用がしやすい環境になってしまいます。
キックバック
キックバックは、特定の仕入先から商品や原料を仕入れることを約束して、私的に金銭を受け取る不正です。つまり、汚職行為に該当します。汚職行為には、キックバック以外に、贈収賄や利益相反取引などが含まれます。
架空取引
架空取引は、架空の取引を計上して、不正に売上を水増ししたり、あるいは不正に仕入れを計上したりする行為です。海外では横領などの会社資産の流用事例ほど多くないとされていますが、担当者の自己保身により粉飾決算が行われることがあります。
海外子会社のガバナンスを強化するには?
海外子会社のガバナンスを強化するにはどうすべきか、具体的な対策をいくつか紹介します。
子会社の役割や責任を明確にする
海外子会社の役割や責任があいまいだと、責任の所在もわからなくなってしまいます。海外子会社のガバナンス意識を高めるためにも、本社と海外子会社それぞれの役割や責任を明確にして、漏れのないように整理することが重要です。また、枠組みだけ取り決めても実行されないと意味がありません。意思決定者や指示をする立場の役職を明確にして、本社と海外子会社との間で共通認識をもてるようにしておきます。
モニタリングの実施
モニタリングとは、親会社の方針やルールに沿って適切に経営が行われているか監視することです。海外子会社の場合、物理的な距離があることから、現地に出向いてモニタリングを実施するのは難しい面があります。日本国内とは状況が異なることから、海外子会社のモニタリングは、発生リスクが高いものや影響度の高いものを中心に、優先順位を決めて実施することが重要です。
ローテーション制
海外子会社の不正の要因のひとつが、業務の属人化です。業務内容がブラックボックス化することで、外部からの監視の目が働かず、不正をしやすい環境が構築されてしまいます。不正のリスクを軽減する方法として考えられるのが、ローテーション制の導入です。業務をローテーションさせることで、不正が起きにくい環境を構築します。ただし、特定の職務を前提とした雇用が一般的な国や地域においては、ローテーション制が適さない可能性もあります。
内部通報窓口の設置
不正が発覚しやすい仕組みを構築するのに、内部通報窓口の設置は有効です。多国籍企業グループが内部通報窓口を設置する場合、グループ全体の窓口を設置する方法、現地法人ごとに窓口を設置する方法、両方を設置する方法が考えられます。海外子会社の不正についてしっかり情報収集できるようにするには、グループ全体の統一窓口の設置が望ましいでしょう。全体の窓口を設けることによって、海外子会社のトップの不正なども明らかにしやすくなります。
経理の見える化
海外子会社の経理の透明性が確保できていないと、財務報告を受けても不正が発覚するまでに時間がかかる可能性があります。不適切な会計処理にいち早く気づけるようにするには、経理の見える化が重要です。例えば、企業グループ全体で同じ会計システムを取り入れて、情報をリアルタイムで確認できるようにするなどの方法があります。
海外子会社と連結決算を行うポイント
企業グループ全体をひとつの組織とみなして決算することを連結決算といいます。海外子会社など海外にあるグループ会社も連結決算の対象です。連結決算をスムーズに実施するために、海外子会社との間で行なっておいた方がよいことなどを紹介します。
定期的に月次決算の報告書を提出してもらう
海外子会社を含めた連結決算をスムーズに行うためには、短いスパンで財務報告を受けることが重要です。決算までに報告書を提出してもらうのではなく、月次決算を実施して定期的に報告書を提出してもらうようにします。短いスパンで報告を受けた方がよいのは、重要な項目の増減や売上の増減の理由をすぐにヒアリングできるためです。海外子会社の予算統制にも役立ちます。
親会社からの連絡への対応期限を定める
海外子会社から親会社への連絡が遅れると、連結決算のスケジュールにも影響を与えてしまいます。特に、上場企業には情報の開示義務があるため、スケジュールに沿って手続きを進めていくことが重要です。海外子会社からの財務報告が遅れないように、あらかじめ対応期限を決めておきましょう。トラブルが起こる可能性も考慮して、スケジュールには余裕をもたせておくとよいでしょう。
親会社と同じ監査法人に依頼する
現地の会計事情がわからないため、海外子会社の監査は現地の監査法人に依頼するケースもあります。問題になるのは、現地との認識の違いなどで、うまく問題が解決しないことです。連結決算のスケジュールにも影響が及ぶ可能性があります。現地の監査法人とのトラブルなどを回避するために、親会社と海外子会社の監査を同一の法人に依頼する方法もあります。
会計ソフトを統一する
連結会計では、原則として親会社と子会社の会計処理は統一させることが求められます。海外子会社に対して会計処理を統一させるために有効な方法が、会計ソフトの統一です。会計ソフトを統一することで、連結会計がスムーズに実施できるだけでなく、海外子会社の会計処理の透明化にも役立ちます。
海外子会社のガバナンスを強化する会計ソフトの選び方
海外子会社のガバナンス強化に役立つ会計ソフトの選び方のポイントを4つ紹介します。
クラウド会計システム
海外子会社との情報共有は、時差の問題で円滑に進みにくいことがあります。海外子会社とリアルタイムで情報共有を図れるようにするには、クラウド型の会計ソフトがおすすめです。クラウド型の会計ソフトは、インターネット上のサーバーにデータを保管することで、インターネット環境があればいつでも情報を確認できるメリットがあります。そのため、時差があっても財務状況をすぐに確認できます。
多言語、多通貨対応か
親会社と海外子会社の会計ソフトを統一する場合、現地でも利用できる会計ソフトであるかは重要です。現地の担当者が使える会計ソフトでないと、活用されなくなってしまう可能性があるためです。現地の担当者が利用することを想定し、多言語対応や多通貨対応があるかも確認しておきましょう。
監査データの共有や分析
海外子会社の不正や法令違反などのリスクを軽減させるには、モニタリングの強化が求められます。監査データの共有や分析情報の確認ができる機能が備わった会計ソフトであれば、コンプライアンスの強化に役立ちます。
データの一元管理
会計データが複数に分散していると管理が困難になります。企業グループの複数の会計情報を一元管理できる会計ソフトであれば、必要なときに必要な子会社の情報を取り出せて便利です。
海外子会社のガバナンス強化は重要事項
海外子会社がある法人において、海外子会社のガバナンス強化は重要な課題です。ガバナンスがうまく働かないと、不正のリスクや法令違反のリスクが高まることもあります。海外子会社の経営の透明化を図るには、適切な会計システムの利用も重要です。海外子会社の財務状況をリアルタイムで確認できるようにしておけば、不正や変化にも気づきやすくなります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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