- 作成日 : 2024年12月5日
美容室開業の資金調達はどうする?費用の相場や調達方法をわかりやすく解説
美容室経営には、美容師としての技術力と経営者としての手腕が必要ですが、特に開業における資金調達は最初の経営者としての悩みともいえるでしょう。独自の強みや特徴を持つ美容サロンを長く経営するために、しっかりとしたスタートを切りたいものです。
この記事では、個人事業主として美容室を開業する際の資金調達について解説します。
目次
美容室の開業費用の相場は?
美容室の開業といっても、その立地、規模、導入機器などによって状況は大きく異なります。
ここで示すものはあくまでも一般的な相場であるため、実際には見積もりや候補を複数準備して、求めているものに対し最善の選択ができるようにしましょう。
物件取得費用
平均的な物件取得費用:50万~200万円程度
新たに物件を取得するよりも、賃貸物件を借りて工事をするのが一般的です。
店舗の賃貸契約に関する費用として最初に支払うものには、敷金、礼金、仲介手数料などが含まれます。
敷金とは貸主に預けるお金であり、退去時に何もなければ返却されます。保証金と呼ばれる地域もあります。これに対して、礼金とは貸主に対するお礼のような位置づけで、返金はされません。
物件取得費の中で、敷金や礼金は大きな割合を占めるものですが、「敷金や礼金が不要」の物件も中にはあります。このような場合、家賃が高めに設定されていることがありますのでよく考えなければなりません。
さらに、開業当初は前家賃、火災保険料、仲介手数料、鍵交換費用などが必要な場合があります。これらは地域によって大きく異なりますが、都市部では高額になることが多いです。
内装工事費用
平均的な内装工事費用:400万~1,000万円程度
美容室特有の内装が必要となります。デザイン性と機能性のバランスを取りながら、長期的な運営を見据えた配管、電気、照明などを設計して施工する必要があるため、一般の店舗よりも高額になることがあるでしょう。
最近の傾向として、特に衛生管理を配慮した施設が求められるため、工事前に保健所に相談し、具体的な基準や要件を確認することをおすすめします。経験豊富な施工会社と詳細な打ち合わせを重ね、開業後の維持管理コストなども考えた計画を立てることが望ましいでしょう。また、改めて美容師法やその地域の条例なども確認することをおすすめします。
参考:美容師法|e-Gov
美容器具・設備費用
平均的な美容器具・設備費用:100万~500万円程度
美容室の運営で必要となる機材や設備、いわば「商売道具」の購入費用であり、シャンプー台、セット椅子、ドライヤー、ハサミ、ワゴンなどを含みます。特に維持費のかかる器具や設備の導入については慎重に考えましょう。美容器具は高額なものが多く、導入する設備の質や数によって費用が大きく変わるため、最新の機材や高品質の製品を選ぶかどうかも慎重に検討するのがおすすめです。
なお、居抜き物件などの場合、既存の設備を利用できるときは、賃料に含まれている場合があります。
メーカー直販の活用や、美容ディーラーの開業支援プランを活用するなど、いくつかの方法を検討しながら費用の低減を目指しましょう。
販促費用
平均的な販売促進費用:10万~100万円程度
顧客を集めるための広告費用です。チラシやフライヤー作成費用、Webサイト開設、イベントやキャンペーン費用などが含まれます。宣伝・広告にあたってはその店のコンセプトの設定が重要です。コンセプトは単にその店の特徴を言い表したものでなく、経営方針を形成する重要な考え方です。事業におけるコンセプトを明確にすることによって、日々の意思決定がゆるぎないものとなり、かつ効率的な運営ができるようになるでしょう。もちろん、スタッフとの意識統一にも大きく関係します。
開業準備の段階で十分な時間をかけてコンセプトを練り上げておくことで、その後の運営がスムーズになり、長期的な成功につながるでしょう。
また、費用のかからないSNSを活用して開業前から発信しておき、どのような反応があるのかを見ておくことも重要です。
運転資金
平均的な運転資金:300万~500万円程度
美容室開業後、当面の間、売上高が安定するまでの運営費用です。必要経費は、固定費(毎月定額で発生する費用:家賃、水道光熱費、減価償却費、人件費など)と、変動費(売上高に比例して増減する費用:材料費、商品仕入高など)に分け、3~6カ月分を考えておきます。特に、固定費は調節しづらいため、新たな固定費が発生する場面ではよく考えましょう。なお、原則としてプライベートの生活費は運転資金とは別に確保しなければなりません。
美容室は自己資金ゼロでの開業が難しい
一般に、個人事業主の美容院における開業費用を考えたとき、自己資金ゼロでの開業は非常に難しいといえます。開業時において、開業費用の30%以上の自己資金が望ましく、少なくとも10%以上は確保したいものです。
日本政策金融公庫「2023年度新規開業実態調査」によると、資金調達のうち自己資金の平均割合は23.8%とのこと。借り入れへの依存度が大きいほど月々の返済額も大きくなり資金繰りが大変になるので、実際の事業において「借りられるだけ借りる」という考え方では事業は難しいでしょう。美容業界の開業資金は高めの傾向なので、当初の自己資金は「多いほどよい」といえます。
参考:「2023年度新規開業実態調査」~アンケート結果の概要~
美容室開業の資金調達先
美容室を開業するにあたって、自己資金で足りない分の調達方法を考えなくてはなりません。ここでは4つの資金調達先を紹介します。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、政府100%出資の政策金融機関であり、民間の金融機関より金利が低いのが特徴です。融資の中には無担保・無保証人のものもあります。
美容室を開業する個人においては、「生活衛生貸付」が利用できるほか、各種の国民生活事業における融資が利用可能です。これらの融資においては、自己資金の要件は記載されていません。ただし、審査には実現可能な事業計画・返済計画が求められ、審査が通らない場合もあります。
制度融資
制度融資は、地方自治体、金融機関、信用保証協会が連携して実施する融資制度です。地域性があるため、その自治体に事業所が存在する旨を伝える必要があります。
利子の一部を補助する「利子補給」や、保証料として、信用保証協会へ支払う「信用保証料」の補助など、地方自治体独自の負担軽減策が含まれているものがあります。ただし、制度融資の利用にあたっては、金融機関と信用保証協会の両方の審査に通過しなければなりません。
銀行
民間銀行では、定期預金、給与振込口座、投資信託、クレジットカード引落などいくつかの取引があるかと思いますが、開業までにその取引実績に応じて融資条件が変わることがあります。さらに、個人事業主の現況や事業計画に応じて、融資条件を柔軟に設定できる場合があります。
また、初回の借り入れによって返済の実績を積むことで、信用力が向上し、将来的な借り入れが可能です。ただし、消費者金融と比較すると低いものの、上記2つの制度よりも高めの金利となります。
補助金・助成金
補助金や助成金は返済する必要のないお金です。補助金は、国や地方自治体が特定の政策目標を達成するために個人事業主等に提供する資金支援です。
助成金の多くは、厚生労働省等が管轄する雇用関連の支援策として給付されるものです。両者とも公募要件に当てはまることを前提に必ずしも採択されるとは限りません。補助金の場合には費用を支出した後から給付されることが大半なので、資金繰りは必要です。
資金調達の融資審査を通過させるポイント
それぞれの融資形態により審査通過ポイントは異なりますが、共通して考えられる点をまとめました。美容室開業のための融資審査通過には、審査担当者とのコミュニケーション力や、面接時の印象(誠実さや熱意)も重要な要素となります。
美容師として3年以上の実務経験がある
美容室の開業には、一定の免許を持った美容師の配置が必要です。経営者自身が美容師として3年以上の実務経験があることで、次の点で評価されると考えられます。
- 技術力の証明:基本的な美容技術の保有、顧客対応ノウハウの保有
- 業界理解:美容業界の動向・顧客ニーズの把握
- 顧客基盤:過去実績から既存顧客の引き継ぎの類推が容易
開業までの経歴や実績を具体的に示すことで、その実績を踏まえた事業計画であることをアピールできるでしょう。
資金の3〜5割程度を自己資本で準備している
自己資金として開業資金の3〜5割を準備していることは、審査において非常にプラスに働きます。自己資金割合の高さは、事業への本気度(強い意志、責任感)だけでなく、事業開始後の資金繰りの安定性につながるでしょう。
自己資金や親族の支援協力など、具体的な金額や調達手段を事業計画書に落とし込むことで、金融機関にとってもリスク軽減につながり、安心感を与えることになります。
事業計画書が充実している
事業計画書の充実は融資審査の核となります。以下に注意して作成しましょう。
- 市場分析:出店地域の競合状況や予想される顧客層を分析しているか?
- 差別化戦略:他店との違い、独自性を明示できているか?
- 数値目標:来店客数、売上、経費などの目標を根拠に基づき提示しているか?
- マーケティング計画:集客方法および広告宣伝内容を具体的に記載しているか?
- 資金計画:開業資金の内訳や返済計画の詳細を記載しているか?
これらについて具体策を示すことで、より実現可能性を高めます。
信用情報に問題がない
信用情報にはプライベートにおける借り入れなども記載します。当たり前のことのように思われますが、信用情報に問題がないことが融資審査においても評価されます。
例えば、次のようなことには十分注意しましょう。
- クレジットカードなどの支払いを遅延しない
- 携帯電話料金、光熱費などの公共料金を滞納しない
- 過去の借り入れがある場合は確実な返済を行う
これらで過去の滞納などがないことや、金銭管理能力をアピールしましょう。
美容室開業にあたっての事業計画書の作成方法
融資を受ける際、事業計画書は中心的書類として位置づけられます。
事業計画書の記載にあたって、特に留意すべきポイントは2つあります。
- 数値の根拠を明らかにすること
予想される顧客、売上高、経費など、事業計画書の数値には予測値が多いものです。それぞれの数値は何を根拠にしているのかを明確にすることです。客単価を設定したら、なぜその単価となったのか、根拠を持っておきましょう。売上や必要経費の計画と資金繰りは別ものなので、これらの違いを認識して説明できるかもポイントとなります。 - リスクの分析ができていること
想定されるリスクを見込んでおり、対応策が具体的に示せているかという点を注意しましょう。例えば、季節による顧客変動、新規顧客の獲得失敗、ライバル店の出現、売上目標未達などがあった場合に、どのような対策を立てるかを考えておきます。季節メニュー、予約システム導入、近隣店の視察や協業体制の構築、コントロール可能は固定費の設定など、あらゆる角度から事業継続対策を考えておきましょう。
事業計画書作成についての詳細は下記の記事で詳しく紹介しています。
独自性を発揮し他店との差別化を目指そう!
厚生労働省の「令和5年度衛生行政報告例」を見ると、美容室数は前年より1.5%増えており、競合が激化の傾向であるといえます。
ある程度飽和状態にある事業で必要なことは、「他店との差別化」「顧客中心のサービス」ではないでしょうか。新たな技術、商品、コンセプトなどの要素を組み合わせて、顧客に新たな体験を提供できる、他店にはないサービスが求められます。
同時にリピート率の向上のために、顧客との良好な関係性の構築は言うまでもありません。これらにより少しずつ堅実な経営基盤を築くことで、その後の長期的な成功につなげましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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