• 作成日 : 2024年11月29日

事業承継ガイドラインとは?円滑に進める5ステップ、中小企業・個人の対応を解説

事業承継ガイドラインは、中小企業が円滑な事業承継を実現するための具体的な取り組みを示した指針です。

本記事では、事業承継ガイドラインの概要や目的、5つのステップ、そして中小企業や小規模事業者が直面する課題とその対応策について詳しく解説します。

事業承継ガイドラインとは?

事業承継ガイドラインとは、中小企業の円滑な事業承継を支援するための指針です。中小企業・小規模事業者の経営者が主な対象であり、事業承継の課題を認識したうえで計画的に取り組むための具体的な方法を提示しています。

事業承継は企業の存続と発展に不可欠ですが、多くの中小企業にとって大きな課題となっているのが現状です。日本の企業数の99.7%を占める中小企業では、経営者の高齢化や後継者不足が深刻化しており、円滑な事業承継の実現が急務となっています。

参考:事業承継ガイドライン 中小企業庁

事業承継ガイドラインを定めた背景

ガイドライン策定の背景には、中小企業における事業承継の困難さがあります。中小企業に限りませんが、日本における社長の平均年齢は上昇を続け、60歳を超えています。

また、後継者不在率も高く、2023年には60%を超えました。これらの課題に対応し、中小企業の事業継続と雇用維持を図るため、国は事業承継支援を重要施策として位置づけ、ガイドラインを通じて具体的な指針を示しています。

参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構株式会社 帝国データバンク株式会社 東京商工リサーチ

事業承継ガイドラインの改訂

事業承継ガイドラインは、経済環境の変化や新たな課題に対応するため、定期的に改訂されています。2022年の改訂では、以下のポイントが強化されました。

データや施策の更新

新しい統計データや支援施策を反映し、現状に即した内容に更新されました。さらに、この間に新設・拡充された施策なども反映し、中小企業経営者がより正確な情報に基づいて事業承継の準備を進められるようになっています。

従業員承継や第三者承継(M&A)についての説明を充実

親族内承継だけでなく、多様な承継形態に対応した説明が追加されました。特に、近年増加傾向にある従業員承継とM&Aについて、具体的な進め方や留意点が詳細に解説され、より実態に即した内容にアップデートしています。

後継者目線での説明を追加

従来のガイドラインは現経営者目線に立った説明や情報が主でしたが、この改訂では事業を引き継ぐ後継者からの視点も盛り込まれた内容に刷新されました。

後継者にとって事業承継は遅い状況にあることや、事業承継によって売上高や利益率のアップを実現している中小企業が多いこと、事業承継による経営改善には経営者と後継者の協力が重要であることなどが取り上げられています。

事業承継ガイドラインの3つの柱

事業承継ガイドラインの3つの柱を理解することは、経営者が自社の事業承継を効果的に計画し、実行するために不可欠です。

ここでは、事業承継ガイドラインを構成する3つの柱について、詳しく見ていきましょう。

経営の継続性確保

経営の継続性確保は、企業が世代を超えて存続し発展するための基盤です。そのためには、後継者への経営権の円滑な移転が求められます。具体的には、株式の譲渡や役員の交代など、法的・実質的な経営権の移転を計画的に進めることが挙げられるでしょう。

資産や経営権だけではなく、企業理念や経営者の想いを伝承する重要性についても触れられています。企業の根幹となる経営理念や企業文化も後継者に理解させることで、企業のアイデンティティを保つことが可能になるでしょう。

さらに、顧客や仕入先など重要な取引先との関係を維持することも欠かせません。このように、経営の継続性確保は多面的なアプローチが求められる重要な要素といえます。

財務基盤の安定化

事業承継時には、自社株式の評価や相続税、贈与税などの税務問題が発生します。また、後継者が株式取得や事業拡大のために資金を必要とする場合もあるでしょう。財務リスクは、事業承継にあたって無視できない部分です。

ガイドラインでは、これらの財務課題に対する具体的な対策を提示しています。例としては、株式や事業用資産の分散防止対策や、各種税制優遇措置の活用、金融機関との良好な関係構築などが挙げられます。

人材育成と組織強化

事業承継を機に、企業全体の組織力を高めることが重要です。後継者の育成はもちろん、幹部社員や従業員全体のスキルアップ、組織体制の整備の推進など、人的資源の強化の重要性に対する理解が必要です。

また、経営者自らが財務情報をステークホルダーに開示することで信用力を高めて取引の拡大や資金調達力を高めるなど、経営強化に対する取り組みも欠かせません。

事業承継に向けた5つのステップとは?

事業承継ガイドラインでは、円滑な事業承継を実現するための5つのステップを明示しています。事業承継の準備から実行までの一連のプロセスをカバーしており、各企業の状況に応じて柔軟に適用することが可能です。

各ステップについて、詳しく見ていきましょう。

ステップ1:事業承継に必要な準備

事業承継の第一歩は、その必要性を認識することから始まります。このステップでは、経営者が事業承継の重要性を理解し、準備を開始することが求められます。

自社の現状分析や後継者候補の検討・選定、事業承継診断の実施などが該当するでしょう。早期に準備を始めることで、円滑な承継に向けた十分な時間を確保できます。

ステップ2:経営状況や課題の棚卸し

このステップでは、事業承継に向けて企業の経営状況や直面している課題を明確にします。財務状況、事業の強み弱み、取引先との関係、従業員の状況など、企業の全体像を把握することが大切です。

また、経営者の個人資産や負債、相続税の課題なども洗い出しましょう。事業承継に向けて取り組むべき課題が「見える化」され、具体的な対策を立てる基礎になります。

ステップ3:事業承継に向けた経営の磨き上げ

ステップ2で可視化された課題に基づき、承継前にできるだけ経営課題を解決するように努めなければなりません。並行して、収益性の向上、業務効率化、新規事業の開発などの企業価値を高める取り組みを行います。

また、後継者の育成や、経営者の保証債務の解除なども行い、承継後も持続可能な企業体制を構築します。

ステップ4:事業承継計画の策定・事業承継ファンドなどとのマッチング

具体的な事業承継の方法を決定し、実行計画を立てる段階です。

親族内承継や従業員承継の場合は、後継者の選定や育成計画、株式の移転方法などを含む詳細な計画を策定します。一方、社外への承継を検討する場合は、M&A仲介機関の選定や、事業承継ファンドとのマッチングなどを行います。いずれの場合も、10年程度の中長期的な視点で計画を立てることが重要です。

ステップ5:事業承継・M&Aの実行

最終ステップでは、策定した計画に基づいて実際の事業承継やM&Aを実行します。経営権の移転、株式の譲渡、事業売却などの法的手続きを行うとともに、従業員や取引先への説明、新旧経営者の役割移行なども進めます。

また、承継後のフォローアップも重要です。計画の進捗確認や必要に応じ、適宜修正を行います。

この5つのステップを通じて、企業の持続的発展と地域経済への貢献を目指します。

中小企業の事業承継のサポート体制

事業承継には会計・税務・法務といった多分野の専門知識が必要です。専門家の知識を借りることで成功の可能性も高まるため、相談など事業承継に関する支援が受けられる場所やサービスを把握しておきましょう。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、全国47都道府県に設置された公的支援機関です。中小企業の事業承継に関するあらゆる相談に無料で対応し、事業承継計画の策定支援、後継者育成のアドバイス、M&Aのマッチング支援などのサポートが受けられます。

また、地域の金融機関や商工会議所とも連携し、中小企業の円滑な事業承継を支援する中核的な役割を果たしています。

商工会議所

商工会議所は、地域の中小企業支援において中心的な役割を担う経済団体です。事業承継に関するセミナーや個別相談会を通じて経営者や後継者に向けた情報提供や相談機会を設けており、税理士や弁護士など各分野の専門家と連携したサポートが受けられます。

地域に根ざした活動を行っているため、地域特有の課題に対しても適応した支援が可能である点が強みといえるでしょう。

さらに、後継者に必要な知識やスキルを習得させるための研修プログラムも実施し、中小企業の事業承継が円滑に進むよう総合的に支援しています。

金融機関

金融機関は、事業承継に必要な資金の融資や、M&A時の資金調達支援などの金融サービスを提供するだけでなく、事業承継に関する相談窓口を設置し専門的なアドバイスも行っています。

また、金融機関ならではのネットワークを活用して後継者候補やM&A先の紹介も行うなど、多角的なサポートを提供しているケースも少なくありません。

顧問弁護士・会計士・税理士

顧問弁護士、会計士、税理士は、事業承継の法務、財務、税務面でそれぞれ専門的なサポートが期待できます。

特に顧問契約をしている場合は、自社の情報に通じているためより具体的なアドバイスを受けられるでしょう。専門家のサポートを受けることで法務や税務など、様々な分野で起こり得るリスクを回避しながらの事業承継が可能になります。

後継者育成支援

事業承継に向けて、各支援機関や教育機関が後継者向けの研修プログラムや経営塾を開催しています。たとえば、中小企業基盤整備機構が運営する中小企業大学校では、中小企業幹部向けの経営戦略や組織運営、財務管理といった研修を提供し、持続的な成長をサポートしています。

また、中小企業庁が主催する「アトツギ甲子園」は、全国の後継者が自社の強みを活かした新規事業アイデアを競い合うピッチイベントで、優秀者には経済産業大臣賞が授与されることもあります。このイベントは、後継者が革新的な発想を磨き、他の参加者や専門家とのネットワークを広げる機会にもなっています。

個人事業主の事業承継の課題と対応

個人事業主の事業承継には、法人とは異なる固有の課題があります。主な課題と対応策は以下のとおりです。

人的資産の承継

個人事業主は、経営者自身が顧客や取引先との直接的な信頼関係を築いていることが多いため、後継者への円滑な引き継ぎが課題になります。

信頼関係の構築はすぐにできるものではないため、早い時期から後継者候補を確保し、経営者と共に顧客対応や営業活動に参加させることが求められます。

事業用資産の分離と譲渡

個人事業主は事業用資産と個人資産の区別があいまいなケースが多く、事業承継の障害になりがちです。

特に自宅兼店舗の場合、個人資産の譲渡が必要となり複雑化することがあります。そのため、早期に事業用資産と個人資産を明確に分離し、譲渡計画を立てることが大切です。必要に応じて、事業用不動産の賃貸契約への切り替えなども検討するべきでしょう。

相続税対策と資金調達

個人事業主の事業承継では、相続税が大きな課題になります。また、後継者が事業を引き継ぐための資金調達も問題となる可能性も否定できません。

対策としては、事業承継税制などの税制措置を活用し、贈与時・相続時の現金負担を抑える方法が挙げられます。さらに、資金面では、事業承継時の融資制度や補助金の利用を検討し、専門家のアドバイスを受けながら準備を進めることが望ましいでしょう。

ガイドラインを活かして事業承継を実現しよう

事業承継ガイドラインは、中小企業や個人事業主が事業承継を円滑に進めるための羅針盤になります。ガイドラインに示された5つのステップを参考に、早期から計画的に準備を進めることが大切です。また、様々な支援機関や専門家を活用し、自社の状況に適した承継方法を選択することが成功への鍵になるでしょう。


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