- 作成日 : 2024年8月29日
人材紹介業の許認可や免許は必須?要件や取得方法をわかりやすく解説
多くの業種で人材不足が叫ばれ、中途転職に抵抗がなくなっている現代社会において、人材紹介業の需要は多く、新たに加入する業者も増えています。
しかし、人材紹介業を始めるには免許(許可)が必要です。この記事では人材紹介業の許可要件や具体的な手続き、注意点など、人材紹介業を開業するにあたって必要なノウハウを詳しく見ていきます。
目次
人材紹介業の許認可とは?
人材紹介業は、正式には「有料職業紹介事業」といい、職業紹介の法的な定義は「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんする(職業安定法第4条第1項)」となっています。
職業紹介事業には有料のものと無料のものがあり、無料の職業紹介事業で一番有名なのが「ハローワーク」です。
一方有料で職業紹介を行う業者は、企業に人材(求職者)をあっせんし、紹介手数料を得て収益を上げる営利追求企業です。一般的に人材紹介業者といえばこの形態だと考えればよいでしょう。
人材紹介業を行うには、必要書類を事業所の本店所在地を管轄する都道府県の労働局を経由して厚生労働大臣に提出し、許可を得なければなりません。
これは、一定の要件を満たした者にのみ事業を許可することで人材紹介業者の質を担保し、求職者が安心して求職活動を行えるようにするためです。
人材紹介業の許可の有効期間は新規の場合3年間、以後は5年ごとの更新です。
なお、無料の職業紹介事業についても許可制が採られていますが(有効期間5年)、学校が学生対象に行うものや、地方公共団体が行うものは届出制となっています。
人材紹介業の許認可の要件
人材紹介業が求職者の権利を保護し、「労働力の需要供給の適正かつ円滑な調整に果たすべき役割に鑑みその適正な運営を確保する(職業安定法第1条)」ものであるために、その許可を得るためには以下の要件を満たすことが必要です。
財産・資産の要件
人材紹介業の安定・継続した運営には一定の資産(財産的基礎)を有している必要があります。
国(厚生労働省)が掲げる財産的基礎の基準は以下の2点です。
- 資産の総額(繰延資産および営業権を除く)から負債の総額を控除した額が、事業所ごとに500万円以上であること
- 自己名義の現金・預金の額が、150万円+事業所の数から1を減じた額に60万円を乗じた額以上であること
例えば事業所を3カ所に置く人材紹介業を興そうとする人が、1,000万円の負債を抱えている場合、繰延資産および営業権を除いた資産が最低でも2,500万円あり、かつそのうち現金・預金額が270万円以上であることが要件となります。
職業紹介責任者の在籍
人材紹介業では「職業紹介責任者」を適切に選任しなければなりません。
職業紹介責任者は、成年に達した後に3年以上雇用管理経験を持ち、かつ申請受理日前5年以内に職業紹介責任者講習を修了した者であることが必要です。
もちろん当該事業所に在籍していることが要件で、名義貸しなどは許されません。
個人情報の管理
人材紹介業では企業情報はもちろん、多大な個人情報を取り扱うため、その適正な管理が厳しく求められます。
許可の申請には、その業者が個人情報適正管理規程を定めていること、および求職者などの個人情報を適正に管理するための措置が講じられていることが必要です。
管理規程は漫然と定めるのではなく、情報を扱う責任者の所在や範囲を明確にし、事業所全体で規程を遵守する体制が整っていることが重要です。
管理の措置についても、個人情報の紛失や改ざん防止のための措置、不正アクセスを防ぐためのシステム構築などが具体的に講じられているかが判断のポイントになります。
適正な事業運営
人材紹介業は、あくまでも企業と求職者を双方のニーズに応じて仲介することで利益を得る事業です。そのため以下のような要件があります。
- 人材紹介業を、当該事業以外の会員の獲得、組織の拡大、宣伝など他の目的の手段として使用しないこと
- 適法な仲介手数料以外に金品を徴収しないこと
適正な事業運営を行い、求職者が安心して利用できるようにしなければなりません。
人材紹介業の許認可申請・免許取得にかかる費用
人材紹介業の許可申請時に必要な費用は、登録免許税 9万円、収入印紙代 5万円ですが、先述した「職業紹介責任者」が必要なため、講習の受講料も別途かかります。
受講料は「全国民営職業紹介事業協会」の会員なら8,800円、非会員なら12,500円です。
また、事業所の数が1カ所増えるごとに、収入印紙代が18,000円ずつ追加されます。
許可申請手続きを事業者が全て行うのであれば、以上に加え登記簿謄本や代表者などの住民票といった書類取得費用程度で申請が行えます。
しかし、申請手続きの準備を一から自分で行うと手間や時間がかかるため、人材紹介業許可に詳しい社労士(社会保険労務士)に、免許取得代行を依頼するという選択肢もあります。
その場合はもちろん社労士への報酬がプラスされます。士業は自由報酬制なので、報酬額はあくまでも目安ですが、10万~15万円を提示している事務所が多いようです。
なお、許認可の申請代行は一般的に行政書士が専門に行うイメージですが、人材紹介業許可に関しては、社労士の独占業務とされています。ご注意ください。
人材紹介業の許可取得の流れ
許可申請までの流れ
人材紹介業の許可を取得するには多くの基準があるため、まずはそれらを全て満たしているかをチェックします。
- 要件を満たす事業所の存在
- 職業紹介責任者がいる
- 財産・資産がある
- 個人情報管理体制に関する要件を満たす
など、労働局が示す基準を全て満たしているかを慎重に確認しましょう。
確認できれば、許可申請のため提出する書類(詳細は次章で説明します)の取得および作成作業に移ります。
提出書類の一つに事業計画書があります。これは今後の事業の指針になると同時に、許可の審査において重視される書類なため、しっかりしたものを作ろうとすると、ある程度時間がかかります。書類作成期間には余裕を持たせておきましょう。
書類が準備できれば、主たる事務所を管轄する都道府県の労働局に提出しますが、労働局の窓口は混み合っていることが多いため、事前に予約していくことをおすすめします。
審査期間を経て問題がなければ、2か月ほどで許可が下ります。ただし書類に不備があったり、追加資料を求められたりすると、審査期間はさらに延びるため、提出書類のチェックはもちろんですが、ぎりぎりの日程で開業予定を組まないよう注意しましょう。
許可証取得後の流れ
審査に通れば、厚生労働省から許可証が発行され、申請した労働局を通じて事業者に許可証が交付されます。許可証を受領すれば人材紹介業を開業できます。
開業後は、毎年4月末までに、前年4月~当年3月末までの期間の事業報告書を、事業所ごとに作成して提出する必要があります。
また、新規許可の有効期限は3年と短いうえ、更新のためには有効満了日の3か月前までに申請を行わねばなりません。
実質事業開始後2年半で次の手続きに入る感覚ですので、忘れないようにしましょう。
人材紹介業の許認可申請・免許取得に必要な書類
人材紹介業の許可申請に必要な書類は以下の通りです。
◆様式提出書類
- 職業紹介事業許可申請書
- 職業紹介事業計画書
- 職業紹介事業取扱職種範囲等届出書
- 届出制手数料届出書(届出制手数料による場合)
以上は各都道府県の労働局ホームページからダウンロードができます。それぞれ正本1部、副本2部を提出します。
◆添付書類
- 定款または寄附行為(目的に「職業紹介事業」の記載が必要)
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)(同上)
- 代表者、役員の住民票および履歴書
- 職業紹介責任者の住民票および履歴書(本人の署名または押印が必要)
- 職業紹介責任者講習受講証の写し(5年以内の受講日であるもの)
- 最近の事業年度における貸借対照表・損益計算書および株主資本等変動計算書
- 最近の事業年度における法人税の納税(確定)申告書の写し
- 法人税の納税証明書
- 職業紹介事業を行う事業所ごとの事業所の使用権を証明する書類(不動産賃貸契約書の写しや不動産登記事項証明書など)
- 業務運営に関する規程
- 個人情報適正管理規程
- 手数料に関する書類(上限制手数料表もしくは届出制手数料にかかる手数料表)
- 事務所のレイアウト図
以上は正本1部、副本1部(副本2部の書類もあり)を提出します。その他、労働局によって提出または提示が必要な書類がある場合があります。
事業者自身で手続きを行うのであれば、まずは労働局で相談できますし、提出前に書類チェックもしてもらえますので利用してみましょう。
人材紹介業の許認可申請・免許取得の注意点
人材紹介業の許可申請の際は、以下の点に注意しましょう。
時間がかかる
先述の通り、許可を得るための審査は2か月ほどかかります。追加書類や提出書類の不備などがあれば期間はさらに延びます。
開業のスケジュールをあまりタイトに組むと、許可が間に合わないことも十分にあり得ます。とにかく余裕を持って手続きを行えるようにしましょう。
書類の不備
書類作成や取得は慣れていないと手間も時間もかかります。代行を依頼しないときは、申請前の入念な確認が欠かせません。
補正や追加書類提出で済めばまだよいですが、不許可になってしまうと一からの再申請になり、時間も費用も無駄になってしまいます。
オフィスの構造と設備
多くの個人情報を扱う人材紹介業は、求職者、求人者が多く訪れるオフィスにおいてもプライバシーの保護に注意が必要です。
そのため事業所としては、個室やパーティションの設置などの秘密保持を可能とするものであること、または事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あることが許可要件です。
事務所図面の提出も求められるため、左記要件に留意してレイアウトしましょう。
事業所がレンタルの場合、いわゆるレンタルスペースでなく独立したオフィスでなければなりません。
賃貸ならば賃貸借契約書、転貸ならば原契約書・転貸借契約書・所有者の承諾書の提出が必要です。
人材紹介業の市場規模は拡大中
2024年3月に厚生労働省が発表した「令和4年度職業紹介事業報告書の集計結果」によれば、人材紹介業(有料職業紹介事業)での求職申込件数は、前年度に比べ47%増加しています。
実際に就職に至った件数は10%近く、手数料収入額は22%、それぞれ前年度より増えており、確実に市場は拡大しているといえます。
終身雇用に頼るのでなく、まず就職してから自分に向いた仕事ややりたいことを探し、転職の機会をうかがうという考え方は、今はもう珍しくありません。
ベンチャー企業や外資系企業の増加もあり、転職のハードルはぐっと低くなっています。今後も人材紹介業の市場規模の拡大が期待できるでしょう。
人材紹介業で成功するポイント
人材紹介業は、就職確定時に得る紹介手数料が売上です。
事業報告書の集計結果によると、2022年度の有料職業紹介事業における求職申込者数は約2,870万件、うち就職件数は78万件で、就職確定の割合は約2.7%となっています。
人材紹介業で成功するには、この就職件数をいかに上げるかにかかっています。
一番のポイントは、紹介を適切に行えるエージェント(担当者)の確保です。
求職者の要望と企業の需要をしっかり理解したうえで調整し、確実な就職に結びつける能力が求められます。
事業数の規模にもよりますが、求職登録者が少なくとも、就職率が高ければ、他にかけるコストを減らせるため売上を増やせます。
また、紹介手数料は業種や年収などで大きく変わるので、小規模事業所の場合、高額の手数料が得られる人材に絞り込んだ事業とするのも一つの手です。
もちろんその人材、業種の内情に詳しい担当者がいることが条件です。
いずれにせよ人材を扱う企業として、どのようなスタイルで事業を行うかの戦略、日々更新される情報や市場を見定めたうえで開業することが大切です。
許可申請の時点で事業計画がしっかり立てられているかにかかっているのです。
人材紹介業の開業には許可が必要
人材紹介業は求職者、求人者を保護するため、事業を行うには許可を取得しなければなりません。許可要件があり、提出書類は多いものの、許可を得ること自体はそこまで難しくありません。
したがって、人材紹介業の市場規模が引き続き拡大しても、新規事業者数も増えていきます。
事業の安定継続には、自社の強みを明らかにし、同業者との差別化を図ることが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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