• 作成日 : 2023年6月16日

経営判断でM&Aをする際の注意点。目的や手法、成功への道筋を解説

経営判断でM&Aをする際の注意点。目的や手法、成功への道筋を解説

最近よく耳にするM&A(企業の合併や買収)ですが、中小企業においても件数は伸びてきているようです。中小企業の経営者にとってM&Aでの売却や買収などをどのように選択すればよいのでしょうか?この記事では、中小企業を想定したM&Aについてメリットや主な手法を中心にわかりやすく解説します。

経営判断としてM&Aを選ぶ理由

次の代に事業を継がせる事業承継ではなく、M&Aを選択する理由はどこにあるのでしょうか?具体的な例をもとに考えてみましょう。

M&Aのきっかけとなる例

①業績の伸び悩み解消

M&Aを通して、現事業を補完するような他社を買収することで、業績を飛躍的に伸ばせます。

例えば、同じ業界の競合他社を買収すると、地理的な拡大や顧客の基盤の拡充を実現し、シェアを伸ばせる可能性があります。

②技術の獲得

新たな商品やサービスを提供するためには、最新の技術が必要です。M&Aを通じて、技術力や特殊な特許などを持つ他社を取得することで、競争力のアップが図れます。

例えば、将来性がある特定の技術を持つスタートアップ企業を買収して、自社サービスに組み込むことで、市場での差別化を図れます。

③規模の拡大

中小企業が成長や効率化を実現するためには、追加のリソースや規模の拡大が必要です。M&Aによって、資金、施設、人材などの新たなリソースをまとめて取得し、事業拡大や生産性向上を図れます。

例えば、製造業のM&Aにおいて生産施設や供給チェーンを共有することは、生産効率を向上させられます。

売却する側のメリット

自社の売却には様々なメリットがあると言えます。

中小企業では、M&Aによって悩みの種である後継者問題の解決につながります。多くの中小企業の経営者は高齢化しても、後継者が見つからないという問題を抱えています。M&Aによる売却で、取引先には最小限の影響となり、事業継続だけでなく、さらなる発展の可能性もあります。

また、M&Aの手法によって自社の従業員を売却先の企業に引き継ぐことができます。従業員の雇用が安定することも大きなメリットと言えます。

さらに自社を売却することで、大きな資金が得られます。これにより、新規事業の立ち上げなどの新たなチャレンジへの可能性もでてきますし、第二の人生の資金とすることができます。

買収する側のメリット

M&Aで企業や事業を買い取る場合にも、メリットはたくさんあります。

まず、買収した資産や人材、取引先などを自社に取り込むことで、事業規模や市場シェアを拡大できるため、競争力や収益力を高められます。

複数の要素が組み合わさり、個々の要素の合計以上の効果を生み出すことをシナジー効果といいますが、M&Aによって買収した他社と自社の事業や技術がうまくかみ合えば、シナジー効果を発揮できます。

例えば、自社が開発に強く、買収した会社が販売に強い場合などが考えられるでしょう。

M&Aの主な手法

M&Aは、その名のとおり「Mergers(合併)andAcquisitions(買収)」によって企業同士が提携することです。主な提携方法を見てみましょう。

株式譲渡

株式譲渡とは、売り手が自社の株式を買い手に譲渡することによって、自社の経営権を移転する手法です。売り手の株主は、株式譲渡の対価として現金精算します。

株式譲渡は比較的スムーズな手続きであり、売り手の株主は対価を受け取れるため、M&Aの手法として株式譲渡が選択されることは多いと言えます。

株式譲渡では、買い手は売り手の事業を引き継ぐことができる利点があります。基本的に従業員との雇用関係や取引先との契約関係にも大きな影響が及ぶことなく企業の継続が可能となります。

事業譲渡

事業譲渡とは、売り手の会社の事業が譲渡の対象となる、いわば「事業のみの売却」です。

売り手である会社の対象となる事業に係わる資産(建物、在庫)、従業員、取引先を買い手に個々に譲渡することになります。したがって、譲渡対象となる事業に関係する個々の契約の名義や従業員との関係などについても変更になります。

売り手である会社は存続するため、得意とする事業に絞り込み、経営資源を集中したいときなどに利用します。

合併

合併とは、複数の会社を統合して一つにする手法で、合併によって消滅する会社の権利義務はすべて存続する会社に引き継がれることになります。

合併には、吸収合併(既存の会社を存続会社とする)、新設合併(新たに会社を設立して存続会社とする)がありますが、手続きの面から吸収合併が行われることがほとんどです。

合併によって引き継いだ会社は、経済的効率が向上したり、新たな市場に踏み出すことができたり、競合他社との競争力をアップしたりできます。また合併は、企業同士の文化を統合するという側面も持ちます。

会社分割

会社分割とは、事業の一部を切り出して他の会社に引き渡すという手法です。事業譲渡と異なるのは、事業譲渡が「事業の売却」であると説明したように売り手には現預金が支払われますが、会社分割では分割した対価として株式を交付することができる点です。

会社分割には、新設分割(切り出した事業の会社を新たに設立する)や吸収分割(切り出した事業を他の会社が吸収する)などいくつかの手法があります。

分割された会社は切り出された事業に特化し、経営資源や人材を集中的に投入することができ、その事業のみの成長を促進させることができます。

会社分割がよく利用されるのは企業グループの再編などの場面です。

一般的なM&Aの流れと注意点

M&Aはいくつかの段階を経て、実施されます。ここでは、株式譲渡を例にとってどのような流れで成立するかを見てみましょう。

準備段階

株式譲渡の準備段階では、売り手と買い手の双方において、譲渡の目的や条件、価格やその支払方法などについて検討し、合意に至るまでのプロセスを設計します。

規模や内容にもよりますが、準備段階では双方の弁護士や会計士などの専門家に相談したり、必要な情報や資料を収集したりすることが重要となります。例え、実際の譲渡に至らない場合でも、秘密保持契約や独占交渉契約などを締結することもあります。

交渉段階

株式譲渡の交渉段階では、売り手が買い手に対して調査(デューデリジェンスといいます)を行います。デューデリジェンスにおいては、財務や法務、事業など多角的に売り手の情報を確かめて、内容を精査し、買うにふさわしい会社かどうかを評価します。

このように交渉段階では、双方が互いに交渉力や情報力を発揮し、価格を含めた重要事項について合意形成のための努力をします。

また、合意内容をもとにして株式譲渡契約の草案を作成し、互いに修正や確認を行います。

契約段階

株式譲渡の契約段階は、M&Aの最終段階として双方が株式譲渡契約に署名・捺印し、正式に契約を締結します。契約段階で、買い手は譲渡対価を支払って、売り手が株式や株主名簿などを引き渡し、株式の所有権の移転が実行されます。

ここで、契約後に発生する可能性のある紛争などに備え、互いに必要な措置や手続きを行って万全を期するようにします。

M&Aがうまくいかない理由

M&Aは戦略的な決定であり、慎重な計画やしっかりとしたデューデリジェンスが必要です。

デューデリジェンスとは、M&Aの合意前における詳細な調査プロセスであり、法的・財務的な調査や対象となる事業の評価を行います。デューデリジェンスにおけるリスク管理と価値の評価から総合的にM&Aについて判断を下すことになります。

中小企業がM&Aを成功させるためには、経営者だけの判断では危険だと言われます。ここではM&Aにおけるリスクを考えてみましょう。

売却する側のリスク

自社売却する側において、リスクとして考えられるものには次のものがあります。

①買収価格が適正でない

例えば、株式譲渡の場合、申し分のない価格提示はなかなか難しく、経営者や株主にとっては低い価格で買収された場合は不利益となります。

また、売却側で株主と経営者の意見が異なるケースも想定されます。

②売却した先での運営がうまくいかない

従業員や顧客が新たな組織に馴染めずに離れて行くこともあります。

従業員のため、顧客のためを思って選択したM&Aで、結果的には主戦力であった従業員や頼りにしていた顧客の離反をまねくこともあります。社内における説明は慎重に行うべきでしょう。

その他、買収の条件に不備や不利益な条項があり、売却後に損害賠償請求などに巻き込まれたり、そもそもM&Aのための情報交換や交渉に多くの時間やコストを費やして、本業に支障をきたしたりするなどのリスクも考えられます。

買収する側のリスク

①買収価格が高すぎる

買収し、取得した会社や事業が本業の財務状況に悪影響を及ぼし、回収期間が長くなってしまうことがあります。

②隠れた問題やリスクの顕在化

買収した事業や資産に問題が発生し、買収後に大きな損失やトラブルが発生することがあります。

その他、買収作業がスムーズに進まず、本業の組織や役員との摩擦、人材の流出などが発生したり、想定していた買収対象とのシナジー効果が期待通りにならなかったりすることも想定されます。

M&Aそのものが不調になる理由

M&Aそのものが不調となるのは、売却側にも買収側にも問題が発生するケースやどちらかに見過ごせない大きな問題が発生するケースがあります。具体的には以下のような理由でM&Aが不調に終わることがあります。

  • 売却側と買収側において、価格や契約条件の折り合いがつかない
  • 売却側または買収側において、見過ごせない内部の反対勢力や感情的な障害がある
  • 売却側または買収側において、M&Aを適切に推進する支援機関や専門家が不在である
  • 外部環境の大きな変化や災害などにより、M&Aの優先度が大きく下がる

いずれにしてもデューデリジェンスがどの程度しっかり行われているかにかかっていると言えます。

将来の発展のためにM&Aも活用してみませんか

M&Aは、ある一つの事業を売却するものから、グループ企業の大きな組織改正となるものまで非常に範囲の広い考え方です。どのようなM&Aであっても、売却側と買収側の双方がM&Aに対する意思や目的を明確にし、相互に信頼関係を築くことが重要となります。

そして、経験のあるM&A支援機関や専門家を活用し、随時適切なアドバイスや支援を受けることが大切です。会社を経営されているのであれば、将来の選択肢の一つにM&Aを考えてみてはいかがですか?


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