- 作成日 : 2024年11月29日
事業承継ファンドとは?メリット・デメリットや活用事例を解説
事業承継ファンドは、中小企業が直面する後継者不足や経営の引き継ぎを支援するためのファンドです。資金提供に加え、経営ノウハウやサポートを提供し、企業の持続可能な成長を実現します。本記事では、事業承継ファンドのメリットや注意点などを解説します。
目次
事業承継ファンドとは
事業承継ファンドとは、後継者不足に悩む企業に対して、経営の引き継ぎを支援するためのファンドを指します。単なる資金提供にとどまらず、企業の持続可能な経営を実現するための包括的な支援を行うのが特徴です。
中小企業が直面する事業承継の課題の対応に特化しており、企業の存続と成長を支援する重要な役割を果たしています。
一般のファンドとの違い
一般のファンドが上場株式や債券などに投資するのに対し、事業承継ファンドは後継者不在で悩む中小企業を投資先とします。また、一般のファンドが分散投資を行い経営権の獲得を目指さない一方、事業承継ファンドは経営権の獲得を目的としてオーナー経営者から株式を買い取るという違いがあります。
さらに、事業承継ファンドは投資先企業に対して積極的に人材を派遣し、経営支援を行うことで企業価値の向上を図るのも特徴です。これは、一般のファンドが経営に直接関与しないのとは対照的といえるでしょう。
M&Aとの違い
M&Aと事業承継ファンドはいずれも企業成長や存続を目的とする手法ですが、対象やアプローチが異なります。
市場シェア拡大や新規事業進出を目指す企業が、買収や合併によって経営権を完全に取得するのが一般的なM&Aです。一方で、事業承継ファンドは後継者不足に悩む中小企業が主な対象であり、一部の経営権を取得しつつ経営支援も行うことに特化しています。
また、M&Aでは財務面での取引が中心となり、短期的な成果や利益の確保が重視される傾向がありますが、事業承継ファンドは長期的視点で企業の持続的な成長や、企業価値向上にも注力します。
事業承継ファンドの活用が増加している背景
日本国内では後継者不足が深刻化しており、多くの中小企業が存続の危機に直面しています。その背景には、高齢化社会や若年層による起業志向の低下などがあります。
こういった状況下で、事業承継ファンドは資金調達だけでなく経営面でのサポートも提供できる有効な選択肢のひとつです。また日本は企業数の99.7%を中小企業が占めており、日本経済は中小企業によって支えられているといっても過言ではありません。
中小企業の後継者不足に関する報道も多く、社会全体で事業承継問題への関心が高まっていることも、この流れを後押ししているといえるでしょう。
事業承継ファンドのスキーム
事業承継ファンドのスキームは、ファンドが投資家から資金を集め、その資金で後継者不足に悩む企業の株式を取得することから始まります。株式取得後にはその企業への経営支援や成長戦略実行が行われます。
この過程では、既存経営陣との協力も重要です。通常支援期間は数年であり、その間に企業価値が向上した段階で株式売却が行われます。
最終的には、得られた利益が投資家へ分配される仕組みです。このように、中小企業は資金調達と経営支援を同時に受けられるため円滑な事業承継が実現します。
日本国内の代表的な事業承継ファンド
日本国内には、多くの事業承継ファンドがあります。それぞれ異なる運営母体や投資方針で、中小企業への支援活動を行っています。
以下で、代表的な国内の事業承継ファンドについて紹介しましょう。
株式会社日本投資ファンド
株式会社日本投資ファンド(J-Fun)は、日本M&Aセンターと日本政策投資銀行によって設立されたファンドです。
中堅・中小企業への成長支援が目的であり、日本M&Aセンターによる豊富な経験と日本政策投資銀行による金融ノウハウが強みです。J-Funでは単なる資金提供だけでなく、多角的な経営支援も行い、中小企業が持続可能な成長へと進む手助けをしています。
参考:株式会社日本投資ファンド
中小機構のファンド
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)は、中小企業特有のニーズに応じた公的ファンドを運営しています。
後継者不足問題への対応として設立されており、公的要素が強く審査ハードルも比較的低い傾向があります。経営改善や後継者育成など多様なサポートが提供されるため、多くの中小企業にとって利用しやすい選択肢となっています。
参考:中小機構
プライベートエクイティファンド
未上場企業への直接投資を行う、または上場企業を非公開化する投資を行い、企業価値の向上を目指す形態のファンドをプライベートエクイティファンドといい、近年は多くの企業で活用されています。
経営改善や再編成を通じて企業価値を高め、最終的には株式売却による利益獲得を目指します。
SBI地域事業承継ファンド
SBI地域事業承継ファンドは、地方企業への特化した支援活動が特徴です。SBIホールディングスのグループ子会社が設立した投資ファンドで、地域経済への貢献も重視されており、多様なニーズに応じた柔軟なサポート体制があります。
SBIグループならではの金融ノウハウと地域金融機関との連携によって、中小企業へのきめ細かな支援を行っています。
参考:SBIホールディングス
事業承継ファンドの活用が効果的なケース
事業承継ファンドは後継者が不在であることや、資金不足や経営ノウハウが欠如するケースにおいて特に効果的です。以下では、事業承継ファンドのメリットが活かせる具体的なケースについて詳しく見ていきます。
後継者が不足している・もしくは育成されていない
後継者不足は、多くの中小企業が直面する深刻な問題です。後継者探しが難航している、または後継者が育たないことに頭を抱える中小企業にとって、事業承継ファンドは有効な後継者問題解決策になります。
事業承継ファンドでは、社内の若手人材を育成するためのプログラムが提供されることもあり、企業は円滑に経営権を移行しつつ事業の存続を図れます。事業承継ファンドの支援によって、後継者候補が実務経験を積む機会も得られ、自信を持って経営に臨むことが可能になるでしょう。
後継者が資金不足である
事業承継には多額の資金が必要になりますが、後継者候補がその資金を確保できない場合も多くあります。このような状況においても、事業承継ファンドは有効な手段といえます。
ファンドは経営者から株式を取得し、後継者候補に経営権を移譲する形で支援します。このプロセスにより、後継者候補は初期投資なしで企業運営に関与でき、成長した企業価値に基づいて株式を買い戻すことも可能です。
事業承継ファンドを活用することで、企業の未来を確保しながら経済的な負担を軽減できます。
経営は現在の経営陣が行いたい
現経営陣が引き続き企業運営に関与したい場合でも、事業承継ファンドは良い選択肢といえます。
ファンドは経営陣と協力しながら支援を行うため、現経営陣は自身の経験や知識を活かしつつ、新たな視点や専門知識を取り入れることが可能です。また、外部から得られるサポートによって、後継者問題をはじめとする自社の課題解決にも取り組めるため、円滑な事業承継へとつながります。
事業承継ファンドを利用するメリット
事業承継ファンド利用は、経営者だけではなく投資家や従業員にも多くのメリットがあります。ステークホルダーごとのメリットについて、詳しく解説します。
経営陣のメリット
経営陣は事業を承継する際のリスクを抑えながら、企業の継続的な発展を目指すことが可能です。ファンドの支援によって経営に関する専門的な知識やノウハウを得られるため、経営課題の解決や戦略的な成長計画の策定がしやすくなります。
さらに、ファンドの広範なネットワークを活用して新しいビジネスパートナーや顧客とつながることができ、事業拡大の機会も広がるでしょう。また、経営者の意図に沿った形で事業承継を進められるため、企業理念や文化の継承も可能になります。
後継者のメリット
後継者にとってのメリットは、資金負担の軽減が第一に挙げられるでしょう。ファンドが株式を買い取るため、後継者が多額の資金を準備することなく経営の承継ができます。
また、ファンドの専門的な支援を通して業界の動向を学べる機会が得られ、自身の経営スキル向上も期待できます。ファンドによって経営判断への質の高いアドバイスも受けられ、企業価値向上にもつながるのもメリットといえるでしょう。
ただし、後継者が経営権を単独で持てるかはファンドの条件次第であり、共同経営の形をとる可能性もある点には注意が必要です。
出資者のメリット
出資者にとって事業承継ファンドを通じた投資は、成長が期待される中小企業への関わりを持つ貴重な機会といえます。特にファンドによる専門的な経営支援の結果、企業価値が向上し、将来的に売却益が見込めることが魅力です。
また、金銭的リターンだけでなく、地域経済の活性化や雇用創出といった社会的意義のある投資にも参加できるのも、事業承継ファンドに投資するメリットといえるでしょう。
自社の従業員のメリット
事業承継ファンドの活用によって雇用の安定につながることは、従業員にとって大きなメリットになるでしょう。ファンドからの支援で経営基盤が強化され、事業の継続が見込まれることで、長期的な雇用が保証されやすくなります。
ファンドによる経営改善や成長戦略が実施されれば業績向上が期待でき、待遇改善の可能性も期待できるでしょう。さらに、ファンドのネットワークを活かした新たな事業機会が創出され、従業員のキャリア成長やモチベーション向上に寄与する点も特筆ポイントです。
事業承継ファンドを利用する際の注意点
事業承継ファンドの利用にはさまざまなメリットがありますが、気を付けるべき注意点もあります。リスクを回避して利用するために、知っておきたい注意点を紹介します。
経営方針が変化する可能性がある
事業承継ファンドの活用により、企業の経営方針に変化が生じるリスクがあります。事業承継ファンドは企業理念や文化を尊重し継続の努力を図りますが、一方で投資リターンも重視するため、場合によっては事業方針の転換を求める可能性が否定できません。
経営者は、ファンドとの協議を通じて、自社の価値観や長期的なビジョンを明確に伝え、相互理解を築く必要があります。また、契約時に経営方針に関する取り決めを明確にし、急激な変更を避ける工夫も重要です。
必ずしもサポートが得られるわけではない
事業承継ファンドからのサポートは、希望すれば必ず受けられるわけではありません。後継者がいない以前に、企業の財務状態の悪化が激しく支援計画の策定が難しいと判断されれば、支援を拒否されるケースもあります。
そのため、経営者は事業承継ファンドを利用する前に自社の財務状況を正確に把握し、必要に応じて改善策を講じることが求められるでしょう。
ファンド選びには慎重になる必要がある
事業承継ファンドに限ったことではありませんが、ファンドにはそれぞれ個性があり強みと弱みが異なります。また、支援のノウハウにも違いがあるため、自社のニーズに適したファンドを選ぶことが大切です。
資金の提供だけではなく、事業承継についての考え方や企業文化との相性など、多角的な視点から評価し、慎重に選定しましょう。
事業承継ファンドの活用事例
事業承継ファンドは、後継者不足に悩む中小企業の継続や成長に大きく貢献しています。
経営者の高齢化と需要減少に直面していた老舗酒造会社では、事業承継ファンドの支援を受けて債務整理や新たな経営体制の構築を進めました。その結果、EC販売や酒蔵見学など観光事業の強化、輸出の拡大など、企業価値の向上に加え地域の活性化も目指している事例があります。
また、鋼管製造会社は急速に変化する市場環境に対応するため、ファンドからの資金調達を通じて設備投資を行い、経営基盤を強化しました。専門的なノウハウの提供により、新たな成長戦略が策定され、持続的な発展が期待されています。
こうした事例からは、事業承継ファンドが企業の存続と成長に寄与していることがうかがえるでしょう。
後継者問題を抱えるなら事業承継ファンドも選択肢のひとつ
事業承継ファンドの活用によって、後継者不在の中小企業に事業の存続や新たな成長の道が開ける可能性が高まります。単なる資金提供を超え、経営ノウハウや成長戦略の支援が期待でき、後継者不足に苦しむ企業にとっての良い選択肢となり得る存在といえるでしょう。
後継者問題に直面している経営者は、事業承継ファンドの活用も視野に入れ、専門家に相談して解決策を見つけることをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
事業承継について銀行に相談するメリットは?相談できる内容や料金も解説
銀行は融資先の経営状態をよく把握していることから、事業承継の相談相手として適しています。資金調達にとどまらず節税方法や経営の改善、承継先など幅広い領域における相談が可能です。本記事では、事業承継の相談を銀行にするメリット・相談内容・手続き・…
詳しくみる事業承継の相談先ガイド!無料支援や法律相談など相手や選び方を解説
事業承継の相談先には、事業承継・引継ぎ支援センターや商工会・商工会議所などの公的な機関のほか、専門家なども考えられます。事業承継は誰に相談するのがベストなのでしょうか。事業承継の相談ができる機関別の特徴や選び方などを紹介します。 事業承継の…
詳しくみる事業承継を税理士に依頼するメリットは?サポート内容や費用を解説
事業承継を検討するなら、税理士が役立ちます。。税理士は、税務の専門家であることから、自社株の評価や相続税の対策などをメインに相談しやすいでしょう。 この記事では、税理士に相談できる業務や税理士に事業承継を相談するメリットなどを紹介します。 …
詳しくみる従業員承継(MBO)とは?メリット・デメリットや事業承継の流れを解説
従業員承継(MBO)とは、役員や従業員に会社を承継することです。後継者不在に悩む企業が増えるなかで、役員や従業員を後継者にする事業承継が注目を集めています。従業員承継は、後継者を選択できる幅が広がる点がメリットです。 本記事では、従業員承継…
詳しくみる事業承継税制のデメリットは?考慮すべきポイントや活用すべきケースを解説
事業承継税制のデメリットとしては、免税になるまで時間がかかる、利子税発生のリスクなどが挙げられます。中小企業の円滑な事業承継を支援する税制措置ですが、デメリットを考慮し自社の状況に適しているかを慎重に検討する必要があります。 本記事では、事…
詳しくみる事業承継・引継ぎ補助金とは?要件や申請方法、募集時期を解説
事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業の円滑な事業承継を支援する施策のひとつです。経営革新、専門家活用、廃業・再チャレンジの3つの枠で構成され、最大800万円の補助金が交付されます。 本記事では、事業承継・引継ぎ補助金の概要や申請方法、注意点な…
詳しくみる