- 作成日 : 2025年2月12日
賃貸物件は法人登記に使える?認められるケースや確認方法を解説
賃貸物件の法人登記は、法律上は可能です。しかし、賃貸物件を法人登記するには大家さんの許可が必要であり、居住用として賃貸している物件は事務所としての使用が禁止されていることも少なくありません。実際に法人登記をするのは難しいでしょう。
本記事では、賃貸物件の法人登記について、認められるケースなどを紹介します。
目次
賃貸物件の住所は法人登記に使える?
法人登記をする際の本店所在地は自由に設定でき、とくに自己所有物件でなければならないという制約はありません。そのため、賃貸物件を登記することに法律上の問題はなく、賃貸物件を法人登記できるかどうかは、賃貸物件の管理規約と賃貸契約の内容によって決まります。
基本的に、居住用の賃貸物件は契約書に「居室の利用を住居に限る」旨が記載されていることがほとんどです。その場合、事務所としての使用は利用目的の範囲外であり、契約違反になる可能性があります。
法人登記について大家さんや管理会社に承諾を求めても、許可されない可能性が高いといえるでしょう。
賃貸の法人登記が認められるケース
貸賃物件の法人登記が認められるケースは、次のいずれかです。
- 大家さんに許可をとる
- 事務所兼用可の賃貸の場合
それぞれのケースについて、詳しくみていきましょう。
大家さんに許可をとる
居住用の賃貸物件でも、大家さんか管理会社から許可をもらえれば、法人登記が可能です。ただし、無条件ではなく、家賃が高くなったり、何らかの条件がつけられたりする場合もあります。
いずれにせよ許可される可能性はあるため、一度交渉してみる価値はあります。法人登記により事務所として利用されることを懸念している場合は、登記しても居住形態は変わらないなど、法人登記が大家さんの不利益にならないことを説明してみるとよいでしょう。
事務所兼用可の賃貸の場合
法人登記の許可を得たい場合は、まず管理規約の確認が必要です。管理規約には部屋を事務所として使用することを禁止する項目を設けている場合もあります。そのような場合は、法人登記ができません。
しかし、居住用として賃貸していても、管理規約で事務所兼用可としている場合もあります。そのような場合は、法人登記も可能です。
賃貸物件で法人登記ができるか確認する方法
居住している、もしくはこれから入居しようと考える物件で法人登記ができるかを確認するには、次の2つの方法があります。
- 契約書・管理規約を確認する
- 大家さん・管理会社に確認する
それぞれの方法について、詳しくみていきましょう。
契約書・管理規約を確認する
まずは、賃貸物件の契約書や管理規約で居住用の部屋を事務所・オフィスとして使用することが禁止されているかどうかを確認します。禁止条項がない場合は、許可を得られる可能性があるでしょう。
ただし、一般的な居住用賃貸物件では、契約書に「居室の利用を住居に限る」という内容が記載されていることがほとんどと考えられます。
居住以外の利用を禁止するのは、事務所利用によって入居者以外の人が出入りすることにより、騒音トラブルなどが起こる可能性があるためです。また、賃貸物件を事業用として貸した場合、家賃収入には消費税がかかるといった理由も挙げられます。
大家さん・管理会社に確認する
契約内容で事務所の使用を禁止している場合でも、交渉の余地があるか大家さん、管理会社に問い合わせてみるとよいでしょう。禁止している理由によっては、条件付きで許可を得られる可能性があります。
従業員がいない、もしくは少人数で経営している、関係者の出入りもほとんどないといった場合は、他の住民の迷惑にならないことを説明できるでしょう。
法人登記できる賃貸物件の種類
法人登記できるのは、居住用ではなく、事務所の利用を前提としている物件です。
ここでは、法人登記できる賃貸物件の種類を解説します。
コワーキングスペース
コワーキングスペースとは、複数の人や企業が共同で利用するオフィスやシェアスペースです。作業に必要な設備が揃い、時間単位や日単位、月単位で利用できます。
多くのコワーキングスペースは、空いているデスクを利用して作業を行うというフリーアドレス制です。「コワーキング」とは「Co(共同・共通)」と「work(働く)」を組み合わせた造語で、ただ空間を共有するだけでなく、利用者が交流し、共創するという特徴があります。
コワーキングスペースでは、法人登記も可能です。ただし、施設によって登記を認めているかどうかは異なるため、確認が必要です。法人登記を認めている場合でも、住所利用の費用が別途必要になるケースもあります。
シェアオフィス
シェアオフィスとは、複数の企業や個人が共同で利用するオフィスです。オフィス設備を共有できるため、初期費用やランニングコストを抑えて事業を開始できます。
コワーキングスペースとシェアオフィスは、どちらも作業スペースを共有するという点で同じです。しかし、シェアオフィスが作業場所の共有を重点的に考えた形態であるのに対し、コワーキングスペースは、利用者同士の交流や協業を重視する点が異なります。
シェアオフィスもコワーキングスペースと同じく、場所によって法人登記が可能です。施設ごとに条件は異なるため、事前に確認してみるとよいでしょう。
バーチャルオフィス
バーチャルオフィスとは、物理的実体のない仮想事務所で、住所や電話番号を貸し出すサービスのことです。多くのバーチャルオフィスでは、郵便物の預かりや転送サービスを行っています。スペースの提供はないため、仕事を行う場所をほかに確保しなければなりません。
業務は自宅で行い、貸し出しされた住所で登記をしたい場合におすすめです。実際にスペースを借りるわけではないため、コストを抑えて法人登記ができます。会社設立時に資金が不足している場合も、無理なく事業をスタートできるでしょう。
賃貸事務所
賃貸事務所は、事務所として使用する目的で貸し出されている物件です。会社の事務所として使用できるため、当然ながら法人登記もできます。
事務所を構えることで対外的な信用度が高まり、取引先を見つけやすいのがメリットです。ただし、賃貸契約の初期費用がかかり、机や椅子をはじめ業務に必要な備品をすべて揃えなければならないため、まとまった資金が必要です。
賃貸物件で法人登記する流れや手続き
賃貸物件で法人登記ができる場合、手続きの流れは通常の会社設立の場合と同じです。
法人登記の流れや手続きについて、簡単にみていきましょう。
定款作成と登記申請を行う
まず、定款を作成し、必要書類を揃えてから法務局で登記申請を行います。定款とは、会社経営に必要な基本ルールをまとめた書類です。定款には、商号・事業目的・本店所在地など、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」があります。
定款を作成して資本金を払い込んだら、設立登記申請書など必要書類を揃えて法務局に申請します。登記申請後、不備がなければ1週間〜10日程度で登記され、会社設立が完了となる流れです。
税務署に届け出る
会社設立完了後は、税務署へ法人設立届出書などの必要書類を提出します。必要に応じて都道府県税事務所、市町村役場への届出も行いましょう。
さらに、社会保険の加入手続きが必要になり、従業員を雇う場合は労働保険の加入手続きも必要です。
会社設立の手続きについては、次の記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
無断で賃貸の法人登記をした場合どうなる?
居住用の賃貸物件では、大家さんや管理会社の許可がなくても法人登記を行うことは可能ですが、法人登記された住所は公開情報になり、国税庁の法人番号公表サイトに掲載されます。インターネットで調べればすぐに確認できるため、無断の登記が大家さん・管理会社に伝わる可能性は高いでしょう。もし判明した場合、賃貸契約を解除されたり損害賠償を請求されたりするリスクがあります。
ここでは、無断で法人登記をした場合のリスクについて解説します。
賃貸借契約を解除されるリスクがある
無断で法人登記をしたことが判明したら、賃貸借契約違反で解除され、退去を要求される可能性があります。解除されれば住居と事務所を同時に失うことになり、生活や仕事に大きな影響が出るでしょう。
ただし、無断登記による賃貸契約の解除は、直ちに認められるわけではありません。賃貸契約の解除は、賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されたと評価される場合に限って認められるという判例があります。
賃貸人や周囲に迷惑を及ぼしていない場合は賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されているとまではいえず、契約解除は認められない可能性があるでしょう。しかし、解除を求められて争うことになること自体、大きな負担になることは間違いありません。
トラブルで損害賠償を請求されるおそれがある
事務所の利用で賃貸人や周辺住民が損害を被った場合には、解除が認められるだけでなく、損害賠償請求を受けるおそれがあります。深刻なトラブルを起こして高額な金額を請求されれば、事業の存続も危ぶまれるでしょう。
許可を受けずに登記することは可能でも、解除による強制退去や損害賠償請求を受ける可能性が潜んでいることは、大きなリスクです。そのため、無断で登記することは避けたほうがよいでしょう。
賃貸物件でも法人登記は可能だが規約や契約を確認しよう
居住している賃貸物件でも、法人登記することは可能です。居住用で賃貸している場合は管理規約や契約書を確認し、事務所利用が禁止されていないか確認しましょう。禁止事項があっても、大家さん・管理会社に交渉し、許可を受けるという方法があります。
許可を受けずに無断で登記しても、インターネットで調べれば簡単にバレてしまうため、注意しましょう。賃貸物件で登記できない場合は、コワーキングスペースやバーチャルオフィスなどで登記する方法もあります。事業を円滑に進めるためにも、適切な方法で法人登記をするようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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