- 更新日 : 2024年10月8日
不動産業の許認可・資格は?開業の費用や申請方法、不許可の対応
新たに不動産業の開業を目指す人にとって気になるのが、どのような許認可が必要なのか、許認可の要件や難易度、そして開業にかかる費用でしょう。
不動産業の開業には「宅地建物取引業」の免許が必要ということはよく知られています。この記事では宅地建物取引業の免許の詳細に加え、不動産業開業に必要なノウハウを解説します。ぜひご参考ください。
目次
不動産業の開業に必要な許認可・資格は?
「不動産業」には4つの分野があります。
不動産に関する①開発・分譲業、②流通業、③賃貸業、④管理業です。このうち、どの分野で開業するのかで、宅地建物取引業の免許が必要な場合もあります。
大家など不動産賃貸業は不要
例えば、自分の土地に集合住宅を建て、その部屋を賃貸し、家賃を集金したりクレームの対応にあたったりする場合は、「③賃貸業」および「④管理業」に属しますが、大家には資格も免許も求められません。これは、自己の物件を第三者に貸したり管理したりという行為は「宅地建物取引業(以下「宅建業」)」に該当しないからです。
もちろん、大家が宅建業者に管理を依頼しているケースもあります。
宅地・建物の売買は「宅地建物取引業免許」が必要
まずは、宅建業の定義について知っておきましょう。
宅建業とは、「宅地」または「建物」の「取引」を「業」として行うことをいいます(宅地建物取引業法第2条)。すなわち不動産を自ら、または媒介、あるいは代理して売買や賃貸などを、広く一般の者に対して反復継続して行う場合には、前述①~④のいずれの業態でも宅地建物取引業の免許が必要になるのです。
一例をあげると、自身の土地を交渉して第三者に売る行為は宅建業に該当しませんが、自分の土地を区画整理して複数の購入者を求める行為は、「広く」「反復継続して」行う「業」となるため、宅建業に該当し、免許がないとできないことになります。
不動産業の宅地建物取引業免許を受ける要件
宅建業の免許を受ける要件は、以下の3つです。
- 欠格要件に該当していない
- 事務所の設置
- 専任の宅地建物取引士の設置
また、
- 代表者および政令で定められた使用人(いわゆる支店長)の常駐
- 営業保証金の供託または保証協会への加入
がないと営業が認められません。
要件ごとに詳しく説明します。
欠格要件に該当していない
宅建業では不動産という高価な、あるいは社会生活に欠かせないものを取り扱うため、免許を受けようとする事業者自身の要件が厳しく問われます。
事業者(個人事業主、法人役員、支店長などを含む)は、
- 宅建業免許を取り消され、その取り消しの日から5年を経過していない
- 不正行為などの疑いで聴聞の公示をされた後、廃業の届け出を行った日から5年を経過していない
- 禁固以上の刑または宅地建物取引業法違反等により(免許の申請前5年以内も含め)罰金の刑に処せられてから5年を経過していない
- 心身の故障により宅地建物取引業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの
- 宅地建物取引業に関し不正または不誠実な行為をするおそれが明らかである
場合は欠格要件となり、免許は受けられません。
事務所の設置
一定の要件を満たした事務所があることも、宅建業には求められます。
その要件とは、「継続的かつ独立して宅建業を行うことができる」こと。
例えば、仮設テントのような形態やホテルの客室を使用しての事務所は「継続性」があるとは言えず、一つの部屋で他の事業者と共同の事務所という形では「独立性」は認められないでしょう。もっとも後者の場合、パーテーションで仕切り、直接事務所に入れる造りであれば、独立性が認められる可能性があります。
専任の宅地建物取引士の設置
不動産取引の専門的知識を持つ国家資格である宅地建物取引士(以下「宅建士」)は、取引の安全を守るため、宅建業を営むにあたり必ず設置しなければなりません。
宅建士は当該宅建業者の専任でなければならず、他の業者とのかけ持ちはできません。また、支店があれば支店ごとにも設置する必要があり、本店支店ともに、宅建業の従事者5名につき1名以上の設置が義務付けられています。
不動産業の開業・許認可申請の流れ
それでは免許を要する不動産業、すなわち宅建業の開業までの流れを見ていきましょう。
①事務所を設置する
事務所をどこに開くか、どの程度の規模にするかなど、事務所の設置は免許要件であることはもちろん、営業や経営の面からも非常に重要なポイントです。支店は最初から置くことも、開業後に新たに設置することも可能です。
②会社を設立する
宅建業の主たる事務所は、登記上に「本店」として記載されている場所となるため、免許申請前に会社の設立登記を済まさなければなりません。
宅建士資格を持つ者が個人事業主として宅建業を営む場合は、この過程は不要となります。
③宅地建物取引業の免許を申請する
前章で述べた免許要件をすべて充足できると判断できれば、宅建業の免許申請を行います。申請は本店の所在地の都道府県で行います(知事免許)が、事務所が複数あり、その所在地が複数の都道府県にまたがる場合には、国土交通大臣免許の申請となります。
④免許通知を受け取る
申請内容に問題なければ、通常申請後4~6週間で免許の通知が申請者宛に届きます。補正や不足・追加書類があるとさらに時間がかかるので注意が必要です。
⑤営業保証金の供託もしくは保証協会への加入を行う
免許の通知が来てもすぐに免許を受け取れるわけではなく、営業保証金の供託もしくは保証協会へ加入したことが確認できてからとなります。
不動産取引は高額のものも多く、万一顧客に損害が生じた場合の保証や弁済がきちんと行われるシステムが必要なためです。
営業保証金の場合、本店は1,000万円、支店1店ごとに500万円を供託します。
一方、保証協会加入であれば、弁済業務保証金分担金を本店60万円、1支店30万円納めればよいため、こちらを選択しているところが多いでしょう。
保証協会は「全国宅地建物取引業保証協会」と「不動産保証協会」があり、宅建業者はどちらかの団体に加入することで弁済業務保証金制度を利用できるようになります。
保証協会の加入手続きが終了すれば免許が受け取ることができ、宅建業開業となります。
不動産業の許認可申請の書類
宅建業の免許申請に必要な書類を表にまとめました。それぞれ正本1部、副本1部を提出します。
必要書類 | 法人 | 個人 | |
---|---|---|---|
1 | 免許申請書(指定様式。自治体サイトからダウンロードする) | 〇 | 〇 |
2 | 相談役および顧問 100分の5以上の株主または出資者記載(指定様式) | 〇 | ✕ |
3 | 略歴書(代表者、役員等。指定様式) | 〇 | 〇 |
4 | 専任の宅地建物取引士の専任性確認書類(誓約書、宅建士証の写しなど) | 〇 | 〇 |
5 | 法人の登記簿謄本(履歴事項全部証明書) | 〇 | ✕ |
6 | 宅地建物取引業経歴書(指定様式。新規であっても提出) | 〇 | 〇 |
7 | 貸借対照表および損益計算書 | 〇 | ✕ |
8 | 資産に関する調書(指定様式) | ✕ | 〇 |
9 | 納税証明書(法人税または所得税) | 〇 | 〇 |
10 | 誓約書(指定様式) | 〇 | 〇 |
11 | 専任の宅地建物取引士設置証明書(指定様式) | 〇 | 〇 |
12 | 事務所付近の地図(事務所ごとに作成) | 〇 | 〇 |
13 | 事務所の写真(外観、内部、必要設備など概要がわかる枚数。写真につけた番号と撮影した方向を矢印で記入した平面図を添付) | 〇 | 〇 |
14 | 事務所を使用する権原に関する書面(指定様式) | 〇 | 〇 |
15 | 上記書面を確認できる契約書・登記簿謄本等の原本(提示のみ) | 〇 | 〇 |
16 | 申請者の住民票抄本(個人が5の代りに提出) | ✕ | 〇 |
17 | 身分証明書(代表者、役員等。本籍地にて取得) | 〇 | 〇 |
18 | 登記されていないことの証明書(代表者、役員等。各都道府県の法務局本局で取得。郵送の場合は東京法務局に請求) | 〇 | 〇 |
この他に、各種事情や自治体によって別途書類が必要な場合があります。詳しくは申請先の都道府県庁で確認しましょう。
不動産業の許認可申請にかかる費用
免許申請手数料として知事免許は33,000円、大臣免許は9万円を支払います。また、書類取得費用や郵送費などの経費が別途かかりますが、代表者だけでなく役員、使用人、宅建士それぞれに必要です。
また、免許を受け取るまでに、保証金を少なくとも60万円支払う必要があります。
申請手続きを事業者自身で行うのであればかかる費用は以上となりますが、前章で紹介したように、宅建業免許申請に必要な書類は非常に多く、作成や取得に手間がかかるため、専門家である行政書士に手続き代行を依頼することを検討してもよいでしょう。
その場合は、行政書士への報酬を加えたトータルが申請にかかる費用となります。
報酬の相場は、士業は自由報酬制のためかなり開きがあるものの、だいたい法人の知事免許、1事務所のみであれば10万円~13万円あたりとしている事務所が多いようです。
宅建業の免許は必要書類を丁寧にそろえていれば受けられるものなので、報酬額が高い事務所なら受けやすくなるという訳ではありません。宅建業の免許は5年ごとに更新しなければならないため、長く付き合える、信頼できると思える事務所を見つけましょう。
不動産業の許認可申請で不許可になる場合と対応
申請したにもかかわらず免許を受けられない(不許可)という事態は、時間もお金も無駄になるため避けなければなりません。不許可の理由、いわゆる欠格事由を知っておき、あらかじめ注意しましょう。
欠格要件にあたるとされた場合
自己申告による要件の場合、申請後に欠格要件に該当していたことが判明することがありえます。役員を置かず、代表者が宅建士も兼ねる場合でない限り、起きうる事態ではあります。
このケースは、欠格要件があるとされた者を外し、新たな人員を探すしかありません。
事務所の要件を満たしていない場合
継続・独立して事業が行える事務所であるかは、写真を含む多くの書類によってしっかり判断されます。自分では大丈夫だと思っていても要件を満たしていないとされるかもしれません。特に1つの部屋を共同で使う場合や、自宅を事務所にする場合には注意が必要です。
不許可理由を改善してから再申請しましょう。現在の事務所でどうしても要件を満たせそうにないときは、別の事務所を探すことも視野に入れましょう。
ただ、事務所については申請時に写真や図面などを担当者が確認し、修正が必要な場合はアドバイスをしてくれるので、時間はかかりますがそれに沿って改善してゆけば通常は問題ありません。不許可となるのはよほどずさんなケースでしょう。
不動産業の開業には宅建業免許が必要
不動産の売買や賃貸、仲介などの取引を「業」として行う不動産業の開業には宅建業の免許を受けなければなりません。免許を受けるためには、不動産取引の安全を守るため、正しい事務所の設置、欠格要件にあたる人物がいない、専任の宅建士の設置という3つの要件を満たすことが求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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