• 更新日 : 2024年7月8日

公庫の「新規開業資金」とは?自己資金なしや個人事業主でも可能?

開業予定のある人なら、一度は日本政策金融公庫の「新規開業資金」について調べてみたことがあるのではないでしょうか?この記事では、この「新規開業資金」の利用について、対象や要件、具体的な手続きなどについてまとめてみました。

日本政策金融公庫の「新規開業資金」とは?

日本政策金融公庫においては、令和6年3月をもって「新創業融資制度」が廃止となりました。「新創業融資制度」は、実質的に「新規開業資金」の中にリニューアルされて組み込まれることになったためであり、利用しやすい制度となったので安心してください。

新創業融資制度は廃止に

日本政策金融公庫のHP上には、次のような記載があります。

※新創業融資制度は、令和6年3月31日をもってお取扱いを終了しました。令和6年4月1日からは、新創業融資制度の適用なく、無担保・無保証人で各種融資制度 をご利用いただけます。

引用:創業前支援|日本政策金融公庫

結論として、創業時の融資については令和6年4月以降、以前より柔軟に「無担保」「無保証人」で融資を受けることが可能となり、融資の上限額も最大7,200万円と拡充されました。

新規開業資金と新創業融資制度の違い

「新規開業資金」も、従来の「新創業融資制度」も、国が100%出資する政府系金融機関である日本政策金融公庫の融資制度ですが、次のような違いがあります。

新規開業資金(拡充後)制度比較新創業融資制度(廃止前)
新たに事業を始める人
事業開始後概ね7年以内の人
融資の対象新たに事業を始める人
事業開始後2期を終えていない人
条件により異なるが低金利金利条件により異なるが低金利
7,200万円
(うち運転資金4,800万円)
融資上限額3,000万円

参考:新規開業資金|日本政策金融公庫

新たに拡充された「新規開業資金」と従来の「新創業融資制度」の違いを見ると、やや創業者にとって利用しやすくなっていると言えます。

新規開業資金の使い道については、新たに事業を始める、または事業開始後に必要となった設備資金・運転資金として利用できます。また、新規開業資金では新たに事業を始める人または事業開始後税務申告を2期分終えていない人については、次のように手厚い対応となっています。

  • 無担保・無保証人融資
  • 利率を一律0.65%引下げ
  • 長期で返済可能(設備資金20年以内等)

参考:創業融資のご案内|日本政策金融公庫

新規開業資金は自己資金なしでも使える?

では、拡充された「新規開業資金」について、自己資金がなくても融資が受けられるのでしょうか?

特に自己資金の基準がない「新規開業資金」

創業計画Q&Aによると、「自己資金はどれぐらいあればよいか?」という問いに対し、

「一概には言えませんが、日本政策金融公庫総合研究所の『新規開業実態調査』のデータによると、創業資金調達総額に占める自己資金の割合は24%となっています。」と回答しています。

引用:創業計画Q&A(Q4)|日本政策金融公庫

したがって、自己資金とのバランスを考え、ゆとりを持った返済計画があれば自己資金については特に決まりはありません。自己資金よりも、創業計画そのものがしっかりしているかが重要になるようです。

参考:よくあるご質問 創業をお考えの方(Q9)|日本政策金融公庫

新規開業資金の概要・条件など

日本政策金融公庫では、事業を営むほとんどの業種の人を対象に、「一般貸付」という制度があります。これに対し、新規開業資金は「特別貸付」として種々の特典が設けられています。また、生活衛生関係等の業種向けには、別途「生活衛生新企業育成資金」があります。

新規開業資金は、数種類ある特別貸付制度の中の「新企業育成貸付」に該当します。

  • 一般貸付 :事業を営むほとんどの業種向け
  • 特別貸付 :創業、事業拡大などの要件を満たす場合に適用
  • 生活衛生貸付 :生活衛生関係等の業種向け

これらの融資制度は、「固定金利」「元金返済の据置期間(5年以内)の設定可能」などが特徴です。

新企業育成貸付

そもそも特別貸付の新企業育成貸付には「新規開業資金」制度と「新事業活動促進資金」制度があります。このうちの一つである新規開業資金については、①〜③にあてはまる場合には特典があります。

【特別貸付:新企業育成貸付】

融資制度融資限度額返済期間
無担保有担保設備資金運転資金
新規開業資金4,800万円7,200万円
(うち、運転資金は4,800万円)
20年以内7年以内
①女性、若者/シニア起業家支援関連
②再挑戦支援関連15年以内
③中小企業経営力強化関連7年以内

参考:融国民生活事業|日本政策金融公庫、「中小企業・小規模事業者のみなさまへ

新規開業資金のさらなる特典

なお、上記①〜③については特別利率が適用されるなどの特典があります。

女性、若者(35歳未満)、シニア(55歳以上)の方で創業する場合

原則として基準利率より低率の特別利率が適用されるなどの特典があります。

参考:新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)|日本政策金融公庫

廃業歴等があり、創業に再チャレンジする場合

この資金は、前事業の債務を返済するための資金としても利用することができ、

新規開業資金の中でも、他の制度(返済期間7年以内)よりも長期(15年以内)となっています。

参考:新規開業資金(再挑戦支援関連)|日本政策金融公庫

中小会計を適用する創業の場合

「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用し、事業計画書の策定し、認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている人は、特別利率が適用されます。

参考:新規開業資金(中小企業経営力強化関連)|日本政策金融公庫

新規開業資金は個人事業主でも使える?

新規開業資金を利用するのは、中小企業に限られるのでしょうか?

個人事業主でも利用できる新規開業資金

新規開業資金は個人事業主でも中小企業の経営者でも利用可能です。

日本政策金融公庫において、それぞれの融資制度は、個人事業主や小規模企業のための「国民生活事業」と中小企業向けの「中小企業事業」、そして、農林漁業者等向けの「農林水産事業」に分かれています。

例えば、先述の「女性、若者/シニア起業家支援関連」の新規開業資金ですが、該当のHPを確認すると、「国民生活事業」「中小企業事業」に分かれており、対象者、資金の使い道、融資限度額などが異なります。(中小企業向けは融資額が大きくなっています。)

参考:融資制度を探す|日本政策金融公庫

新規開業資金の申請に必要な書類

新規開業資金といっても、いくつかのパターンがあると説明しましたが、ここでは手続きについて種々のパターンに共通する事項を中心に説明します。

融資申し込み時の必要書類

新規開業資金についての融資申し込みは、インターネットが便利です。申し込みフォームに必要事項を入力し、申込時の必要書類を添付します。

【必要書類】

  • (個人事業主)最近2期分の確定申告書(法人) 最近2期分の確定申告書・決算書、最近の試算表
  • 設備資金の見積書 ※設備資金申込の場合
  • 創業計画書または企業概要書
  • (法人) 履歴事項全部証明書または登記簿謄本
  • (法人の場合代表者の)運転免許証またはパスポート
  • 許認可証 ※許認可が必要な事業の場合

参考:個人企業・小規模企業の方|日本政策金融公庫、「インターネット申込
ご提出書類 【インターネット申込用】

各書式の記入例について

それぞれの融資制度によって提出する書類も異なりますが、日本政策金融公庫では比較的、記入例が充実しています。各書類の記入例は、参考に自身の事業にあてはめて考える大きなヒントとなります。

参考:各種書式ダウンロード|国民生活事業

また、参考資料や新規開業実態調査などの結果も開示されているため、近年の業界の動向などを考えながら書式を埋めていくこともできます。

参考:新規開業に関する調査|日本政策金融公庫

新規開業資金の審査を通過するためのポイント

新規開業資金においては、提出書類や添付資料の完成度・充実度が審査にも大きく影響します。注意すべき点を3点挙げておきます。

事業計画の明確性・妥当性

事業計画書は、金融機関に対しての事業の説明書であり審査の際に必要です。先述したように、自己資金よりも創業計画全体がしっかりしているかがポイントとなります。資金計画や収益計画が市場分析に基づき、自己の実現したい事業内容と一致しているか、全体的に無理はないかなどをよく考える必要があります。

自らが思い描いた事業の実現方法がより具体的でかつ、説得力のあるものにするために何度も書き直すことを通じて、事業の成功の見込みなどが明確になってきます。提出前には第三者に見てもらうなど、必ず他者に目を通してもらいましょう。

参考:創業計画Q&A|日本政策金融公庫

財務状況が説明できる

添付資料には漏れのないようにし、過去の確定申告書や決算書を自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。将来についても財務リスクが低く、持続的な事業運営が可能であることは理想ですが、それより現実に基づき、しっかりとリスクの洗い出しができているかを見ておくことが大切です。

また、既存の借入についての経緯と現況を明らかにし、これら過去の事実を踏まえた具体的な事業計画によって、将来の返済能力のアピールにつなげましょう。

自己資金、担保・保証

自己資金よりも創業計画の明確性としているものの、創業のための自己資金があるに越したことはありません。

事業構想を実現するために、実際に自己資金をこれだけ貯めたという実績は大きなアピールになります。また、無担保や無保証であるよりも担保等があるほうが融資限度額も大きくなります。

「事業計画書」が未来を創る!

融資の審査では、「事業計画書」が重要視されます。事業の継続性や返済能力を判断するための証拠はあるか、矛盾点はないかなど融資にあたっては多方面から審査されます。

事業計画書に盛り込む前に、「事業内容と市場の見通しはどうか?」「何のために資金がどれだけ必要か?」「収支計画と返済計画に無理はないか?」などを何度もシミュレーションしておくことをおすすめします。


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