• 作成日 : 2025年9月16日

年収1000万円の節税対策は?会社員と個人事業主で違う?法人化のポイントも解説

年収1000万円に到達すると、高収入の裏側で大きな税負担が発生します。所得税・住民税に加え、社会保険料の負担も加わるため、手取りは想像より少なくなりがちです。しかし、節税制度を上手に活用すれば、税負担を軽減しながら将来の資産形成にもつなげることができます。本記事では、会社員と個人事業主それぞれに適した節税方法や、法人化の判断基準について解説します。

年収1000万円の税負担はどれくらい?節税が欠かせない理由

年収1000万円に達すると、会社員・個人事業主を問わず税や社会保険料の負担が大きくなります。高収入である一方、実際の手取り額は想像以上に目減りすることが多く、節税への関心が高まるのも当然です。ここでは、給与所得者と個人事業主それぞれの立場から、税負担の実情と節税が必要な理由を解説します。

給与所得者は最大約43%の税率が課される

年収1000万円の会社員は、課税所得900万円超の部分には所得税33%が適用されます。これに住民税(標準税率10%)と復興特別所得税(所得税額の2.1%、実質約0.69%)が加わるため、この所得層における限界税率(所得の増加分にかかる税率)は合計で43.7%になります。

さらに、健康保険・厚生年金などの社会保険料も比例的に課されるため、年間の総控除額は約200万~300万円に達する場合があります。その結果、実際の手取りは約700万~800万円程度に収まります。

個人事業主も所得税・住民税・保険料の三重負担

個人事業主の場合も、所得が1000万円前後になると税負担は急増します。所得税の累進税率は会社員と同様に適用され、加えて住民税や国民健康保険、国民年金の負担が加わります。国民健康保険料は自治体によって差があるものの、所得に応じて大きく跳ね上がるため、所得税・住民税と合わせて年300万円以上に達することもあります。また、給与所得控除がないため、青色申告特別控除や経費計上によって所得を圧縮しなければ、実効税率がさらに高まる恐れがあります。

節税対策は所得の保全と資産形成の第一歩

このように、会社員でも個人事業主でも、高所得者になるほど「税率の壁」に直面します。収入の規模に関わらず、控除制度・共済制度・経費管理・法人化の検討など、制度を理解し活用することが、節税と手取り最大化につながります。節税は一時的なコスト削減ではなく、将来的な資産形成に直結する重要な戦略と言えます。

年収1000万の会社員が活用できる節税対策

年収1000万円の会社員は高所得者としてさまざまな税制上の制限を受けやすくなりますが、その反面、所得控除などによる節税効果も相対的に大きくなります。ここでは給与所得者が利用できる節税対策を制度ごとに解説し、手取り収入の維持・向上に役立てる方法を紹介します。

配偶者控除・扶養控除を適用する

家族構成に応じた控除は節税の基本です。配偶者控除は、配偶者の合計所得が58万円以下(給与のみなら収入123万円以下)であれば最大38万円の所得控除が受けられます。配偶者特別控除の満額(38万円)は、配偶者の合計所得金額が95万円以下(給与のみなら年収160万円以下)かつ、納税者本人の合計所得金額が900万円以下の場合に適用されます。

なお、本人の合計所得が1,000万円超(給与のみなら収入1,195万円超が目安)の場合は、配偶者控除・配偶者特別控除のいずれも適用できません。

また、扶養控除は、16歳以上の子や親等で合計所得58万円以下(給与のみなら収入123万円以下)の方が対象です。一般扶養親族38万円、特定扶養親族(19~23歳)63万円、老人扶養親族は同居老親等58万円/同居以外48万円が控除額です。

会社員等は年末調整で適用されます(勤務先へ各申告書を提出する)。自営業・副業のある人、医療費控除寄附金控除等を受ける人、年末調整がされない人は確定申告が必要です。

保険料控除の活用で所得税・住民税を軽減する

生命保険や地震保険に加入している場合は、保険料控除制度を通じて節税が可能です。新制度の生命保険料控除では、年間支払額に応じて最大4万円(所得税)・2万8千円(住民税)の控除が受けられます。地震保険料控除は所得税で最大5万円、住民税で最大2万5千円まで適用可能です。

旧制度による契約の場合も控除額が異なるだけで適用対象となります。毎年保険会社から届く「控除証明書」を年末調整時に提出すれば自動的に控除が反映されるため、手続きも比較的簡単です。

ふるさと納税で自治体への寄附を節税に変える

ふるさと納税は自治体に寄附を行うことで、実質2,000円の自己負担を除いた寄附額が控除対象となる制度です。たとえば、年収1,000万円の独身会社員であれば、おおよそ18万円前後までが控除の対象となります(家族構成により上限は変動します)。

寄附金額が控除上限を超えなければ、所得税と翌年度の住民税からそれぞれ控除されるため、税負担を減らしつつ返礼品も受け取れるという実利的な制度です。

ふるさと納税では、確定申告が不要な給与所得者等に限り、「ワンストップ特例制度」を利用できます。この制度を使えば、寄附先が5自治体以内であれば確定申告は不要です。

iDeCoで老後資金と節税の両立を図る

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自主的に老後資金を積み立てつつ、拠出額をそのまま所得控除できる制度です。勤務先に企業年金制度がない場合、会社員の拠出限度額は月額2万3,000円、年間で最大27万6,000円となります。

年収1000万円の会社員が年間24万円を拠出した場合、適用される所得税率(20〜33%)と住民税率(10%)に応じて、年間約7.2万円〜10.3万円の節税効果が見込まれます。

掛金の運用益も非課税で再投資され、受け取り時も退職所得控除の対象となるため、多角的に税制優遇を受けられます。

NISAを使った非課税運用で間接的に節税する

2024年から恒久化された新NISA制度では、つみたて投資枠と成長投資枠を組み合わせ、年間最大360万円まで非課税で投資できます。通常、投資で得た利益(金融所得)には、所得の金額にかかわらず、申告分離課税として一律20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税金がかかります。NISA口座を利用すれば、この利益が非課税になります。

これは直接的な所得控除ではないものの、資産運用の観点からは大きな節税効果となります。年収1,000万円クラスで投資に取り組む場合は、NISA枠を活用することで中長期的に非課税の恩恵を享受できます。

医療費控除・セルフメディケーション税制を活用する

年間の医療費が10万円を超える、あるいは総所得の5%を超えた場合には医療費控除が利用可能です。たとえば家族全体の通院・薬代・治療費などで年間20万円かかった場合、そのうち10万円が控除対象となり、所得税と住民税の軽減につながります。

さらに、市販薬の購入費が年間1万2,000円を超える場合には「セルフメディケーション税制」による特例控除も選択可能です。会社員でも確定申告を行えば控除が適用されるため、レシートや領収書を日ごろから保管しておくことが重要です。

住宅ローン控除で所得税の還付を受ける

マイホームをローンで購入している場合は「住宅ローン控除住宅借入金等特別控除)」を適用することで、所得税からの大きな還付を受けられます。2022年以降の制度では、住宅ローン残高の0.7%を10年間(最大13年)にわたり所得税から控除可能です。

たとえば、年末のローン残高が3,000万円なら、最大で年間21万円の控除が受けられます。年末調整や確定申告の際に必要書類を提出することで、自動的に控除が反映されます。条件には所得制限(合計所得2,000万円以下)や住宅要件があるため、事前に確認しておくと安心です。

特定支出控除は条件が合えば強力な節税策になる

会社員が仕事で必要な経費を自己負担した場合、特定支出控除の対象となることがあります。対象となる支出には、資格取得費、書籍代、通勤費の差額、制服代などが含まれます。

ただし、控除を受けるには年間支出額が給与所得控除の1/2(年収1000万円の場合で97万5千円)を超える必要があり、また会社の証明も必要です。該当するケースは限られますが、例えばMBAや高額な資格取得を目指す場合などは、活用を検討してもよいでしょう。

年収1000万の個人事業主が活用できる節税対策

年収1000万円規模の個人事業主は、税負担が重くなる一方で、会社員に比べて節税の裁量が大きいのが特徴です。経費計上や専用の制度を活用することで、課税所得を圧縮し、手取り収入を効率的に守ることができます。ここでは、効果的な節税策を紹介します。

青色申告特別控除を活用する

個人事業主が複式簿記で帳簿を付け、e-Taxなど一定の要件を満たすと、最大65万円の青色申告特別控除が適用されます。事業所得が1000万円でも、控除によって935万円に圧縮でき、税負担を軽減できます。申請には届出が必要なため、事業を本格的に行っている方は早めに青色申告に切り替えるとよいでしょう。

小規模企業共済で将来に備えながら控除を得る

小規模企業共済は、掛金の全額が所得控除になる制度で、節税しながら退職金の積立もできます。たとえば月5万円(年60万円)を拠出すれば、税率30%なら年間18万円相当の節税効果になります。将来の資金計画とあわせて取り入れると有利です。

経費計上を徹底する

事業に必要な支出は、可能な限り経費に計上することが節税の基本です。自宅兼事務所の家賃や水道光熱費は家事按分により一部を経費とできます。10万円未満の資産購入であれば、少額減価償却資産の特例により一括で経費にでき、当期の所得圧縮が可能です。領収書の保管や記帳の習慣化を徹底しましょう。

家族への給与で所得を分散する

事業に実際に従事している配偶者や親族がいる場合、「青色事業専従者給与」を活用すれば、支払った給与を経費として認められます。たとえば配偶者に年間100万円を支払えば、その分課税所得を減らすことができ、所得税の累進課税の負担も和らぎます。ただし、業務実態と給与の妥当性が求められます。

年収1000万超なら法人化も視野に?会社設立の節税メリット

事業所得が1000万円を超えてくると、税負担が一段と重くなります。このタイミングで法人化を検討すると、税率差や経費拡大などにより大きな節税メリットを得られる場合があります。ここでは、法人化による利点と注意点を解説します。

所得税より有利な法人税率を活用できる

個人事業主は、課税所得が900万円を超えると所得税33%+住民税10%がかかり、税率は43%にも達します。一方で法人にした場合、法人税率は所得800万円以下で15%、800万円超でも23.2%にとどまり、住民税などを含めても実効税率は約30%前後となります。同じ所得でも法人の方が税率が低く、結果として手元に残る利益が増える可能性があります。

消費税の免税期間が得られる可能性

法人を新たに設立すると、原則として最長2年間は消費税の納税義務が免除されます(資本金1000万円未満であることなどが条件)。たとえば年間売上1000万円に対する消費税(約100万円)が2年分免除されれば、大きなキャッシュメリットになります。ただし、インボイス制度開始後は、取引先にとって免税事業者が不利になる場面もあるため、業種によっては慎重な判断が求められます。

経費の幅が広がり所得分散も可能に

法人では役員報酬や退職金、社宅家賃などを経費にできるため、節税の自由度が高まります。個人事業主では自分の報酬は経費にできませんが、法人では役員報酬として計上でき、利益圧縮につながります。また、赤字の繰越控除が個人の3年から法人は最長10年に延長され、将来の損益調整がしやすくなります。加えて、所得を家族に分散するなど柔軟な報酬設計も可能です。

法人化にはコストと義務もある

法人化には設立時の登記費用や、毎年の法人住民税(最低でも約7万円)などの固定費が発生します。また、法人になると社会保険への加入が義務づけられ、会社と個人の双方で保険料を負担する必要があります。ただし、その分将来の年金受給額も増えるなど長期的なメリットもあるため、総合的な視点で判断することが重要です。

法人化は専門家に相談しながら判断を

個人事業の所得(利益)が800万〜900万円を超えたタイミングが一つの目安とされますが、事業の収益性や今後の成長見込みによっては法人化しない方がよい場合もあります。一時的な売上増だけで判断せず、税理士など専門家に相談のうえ、節税だけでなく事業継続や資金繰りも含めた視点で総合的に検討するのがおすすめです。

年収1000万円にふさわしい節税戦略を選ぼう

年収1000万円を超えると、会社員・個人事業主を問わず、税率や社会保険料の負担が大きくのしかかります。だからこそ、自身の立場に合った節税策を早めに把握し、計画的に活用することが重要です。控除制度や共済、iDeCo・NISAの活用に加え、個人事業主であれば経費計上や青色申告、法人化の検討も視野に入れると、長期的な資産形成にもつながります。正しい知識と行動が、手取り収入を守る第一歩となります。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事