• 作成日 : 2025年9月16日

医師のための節税法は?勤務医・開業医別に最新の対策を解説

医師は収入が高い分、所得税・住民税社会保険料といった税負担が大きく、対策を講じなければ手元に残る資金は意外と限られます。勤務医であっても活用できる控除制度や積立制度、開業医ならではの経費計上や青色申告、さらに医療法人化による節税など、選択肢は多岐にわたります。

本記事では、医師の属性ごとに実践できる節税方法を整理し、将来の資産形成や経済的安定に役立つ制度の活用法を解説します。

医師に節税が必要な理由

医師は一般的に高収入である一方で、所得税や住民税の負担も大きくなりがちです。ここでは、医師がなぜ節税を意識すべきなのか、その背景を収入や税率の面から確認していきます。

医師の高収入と税負担の実態

医師は日本の職業の中でも収入が高い職種であり、厚生労働省の「第24回医療経済実態調査(令和5年実施)」によれば、病院勤務医(常勤)の平均給与年額は約1,455万円です。

このように収入が高いため、当然ながら税負担も重くなります。日本の所得税は累進課税制度を採用しており、課税所得が4,000万円を超えると税率は45%に達します。さらに、住民税は一律で10%が加算されるため、実質的な税率は最大で55%に及びます。これに加えて、社会保険料も差し引かれることを考慮すると、例えば扶養家族がおらず特別な控除がない年収1,500万円の勤務医の場合、社会保険料や税金を差し引いた手取り額は総収入の7割を下回る約1,035万円程度になることもあります。

つまり、表面上は高収入に見えても、実際に自由に使えるお金は限られているのが現実です。こうした税制の中で、何の対策も講じなければ、収入に見合わない可処分所得しか手元に残らないという課題が生じます。

そのため、税法の範囲内で適切に税負担を軽減する節税策の導入は、医師にとって避けては通れない重要な対策となります。節税によって圧縮された支出は、将来の備えとしての資産形成や、老後資金の積み立て、クリニックの設備投資などに充てることができ、結果として長期的な経済的安定を得ることにつながります。

勤務医におすすめな節税方法

勤務医は給与所得者として源泉徴収の対象であり、自由に経費を計上することはできません。しかし、利用可能な所得控除や公的制度を活用することで、税負担を軽減することは可能です。ここでは勤務医が実践しやすい節税手段を紹介します。

iDeCoによる老後資金準備

勤務医がまず検討したいのは、iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用です。これは自分で掛金を積み立てる年金制度で、拠出した金額の全額が所得控除の対象になります。

拠出限度額は勤務先の企業年金制度によって異なり、企業年金がない場合は月額23,000円、企業型DC(企業型確定拠出年金)のみに加入している場合は月額20,000円、DB(確定給付企業年金)等に加入している場合は月額12,000円が上限となります。拠出分は課税所得から差し引かれるため、税額が直接軽減されます。

さらに、iDeCoは運用益が非課税で、受け取るときにも退職所得控除などの優遇が受けられるため、節税と資産形成を同時に実現できます。勤務医の場合、年末調整で控除が適用されるため、手間なく毎年節税効果が得られるのも利点です。

ふるさと納税(寄附金控除)の活用

ふるさと納税も勤務医にとって有効な節税策です。自身が選んだ自治体に寄附すると、自己負担2,000円を除いた金額が所得税・住民税から控除されます。高収入である勤務医は控除上限が高く、例えば年収1,000万円以上であれば、数十万円までの寄附が実質的に負担なく行えます。

返礼品も受け取れるため、実質2,000円の支出で地域特産品を得られる点が魅力です。また、「ワンストップ特例制度」を利用すれば、寄付先が5自治体以内で、かつ他に確定申告をする必要がない場合に限り、確定申告なしで控除が受けられます。ただし、医療費控除などで確定申告を行う医師は、この特例を利用できず、すべての寄付を確定申告で申請する必要があります。

生命保険料控除・住宅ローン控除の利用

生命保険料控除も、勤務医にとって効果的な控除の一つです。保険の種類に応じて最大年間12万円までが所得控除の対象となり、数万円の税額軽減につながります。医師は将来への備えとして保険加入しているケースも多く、年末調整での申請は忘れずに行いましょう。

住宅ローン控除も大きな節税効果があります。2022年以降の入居では制度が改正され、年末の住宅ローン残高の0.7%が、新築住宅等の場合13年間にわたり所得税等から控除されます。ただし、この控除を受けるには「合計所得金額が2,000万円以下」である必要があります。

加えて、医療費控除や扶養控除なども条件に応じて活用することで、課税所得を減らすことができます。

開業医(個人事業主)の節税方法

開業医は自身が経営者であるため、勤務医よりも多様な節税手段を講じることができます。事業に関わる支出を経費に計上できるほか、特定の制度を活用することで、所得税や住民税の負担を効果的に抑えることが可能です。ここでは開業医にとって有効な節税策を紹介します。

青色申告による特別控除

開業医がまず取り組むべきなのは、青色申告の採用です。青色申告では、正規の簿記の原則に従って、複式簿記による帳簿付けを行い、貸借対照表などを提出すれば「青色申告特別控除」として最大65万円の所得控除を受けることができます。電子申告を行うことで控除額は55万円から65万円に増え、所得税・住民税の軽減効果が得られます。

例えば、年間事業所得が1,000万円ある場合、65万円の控除により課税所得は935万円に圧縮されます。最高税率適用者であれば、約13万円以上の節税となることもあります。さらに、赤字を3年間繰り越すことが可能で、開業初年度の設備投資で赤字が出ても翌年以降の利益と相殺できる点も魅力です。

必要経費を正確に計上する

節税の基本は、必要経費を漏れなく適切に計上することです。事業に関わる支出はすべて経費として認められ、課税所得を減らすことができます。主な経費としては、医療機器や消耗品、診療所の家賃・光熱費、スタッフの給与、学会参加費、車両関連費などが該当します。

また、業務に使用する自家用車のガソリン代や減価償却費も、使用割合に応じて経費に算入できます。ただし、私的な支出との混在は禁物です。プライベートな食事や旅行を経費に含めると、税務調査で否認される可能性があるため、帳簿の正確性を保つことが求められます。

小規模企業共済とiDeCoによる積立節税

開業医におすすめの積立型節税策が「小規模企業共済」と「iDeCo」です。小規模企業共済は個人事業主向けの退職金制度で、月額7万円(年84万円)まで拠出でき、全額が所得控除となります。将来の受取時には退職所得扱いとなり、税制上の優遇措置も受けられます。

iDeCoは開業医の場合、最大月額6万8,000円(年81.6万円)まで拠出可能で、掛金全額が所得控除の対象です。両制度を併用することで、年間最大165.6万円の所得控除が得られ、運用益も非課税です。老後資金の形成と節税を同時に実現できる制度として、積極的な活用が推奨されます。

家族への給与支給による所得分散

クリニックの業務を家族が手伝っている場合、「青色事業専従者給与」を活用することで所得分散が可能です。たとえば配偶者が常勤で勤務している場合、年240万円の給与を支払えば、その金額は事業所得から経費として控除されます。結果として開業医本人の課税所得が減り、世帯全体の税負担が軽くなります。

ただし、事前に税務署への届出が必要であり、実態のある労働に対する適正な報酬でなければなりません。不自然に高額な給与や実務が伴わない支給は否認リスクがあるため注意が必要です。それでも、家族に業務を委ねる形で所得を分散できれば、節税に加えて将来の年金額増加などの副次的メリットも見込めます。

医療法人化による節税のメリット

開業医が一定の収入規模に達した場合、個人事業から医療法人への移行を検討する価値があります。以下では、医療法人化による節税効果を紹介します。

法人税率による税負担の軽減

医療法人化の最大の節税効果は、税率の低下です。個人の事業所得は最高で所得税45%と住民税10%が課税され、税率が50%を超えることもあります。一方、医療法人の法人税率は原則23.2%、中小法人の年800万円以下の部分は15%と、はるかに低い水準です。

たとえば課税所得3,000万円の開業医の場合、個人のままでは約50%の税率が適用されますが、法人化すれば約30%前後に抑えられ、年間600万円前後の節税効果が期待できます。また、法人では利益を配当できず、内部留保が原則となるため、必要以上に役員報酬を取らず法人内に利益を残すことで、個人の高税率を回避することができます。ただし、法人住民税や赤字でも発生する均等割などもあるため、全体的な税負担を試算したうえでの判断が重要です。

給与所得控除と所得分散の活用

法人化により院長は法人から役員報酬(給与)を受け取る立場となり、「給与所得控除」が適用されます。これは年収に応じて一定額が自動的に控除される制度で、最大で約200万円程度の控除が可能です。個人事業主には存在しないこの控除により、課税所得を実質的に減らすことができます。

また、家族を役員や従業員として雇用し、報酬を支給することで、法人の利益を経費として分散させることが可能です。たとえば夫婦でそれぞれ1,000万円の役員報酬を設定すれば、夫婦それぞれに給与所得控除が適用され、世帯全体の所得税を抑えることができます。ただし、役員報酬は定期同額でなければならず、実態のない高額報酬は税務上認められません。税理士と相談のうえ、適正な設定が求められます。

役員退職金の支給による節税

法人化の大きな利点の一つが、役員退職金制度の活用です。医療法人では、退職時に理事長や家族役員に対して退職金を支給でき、法人側ではその金額を全額損金(経費)として計上可能です。一方、受け取る側は「退職所得控除」が適用され、かつ課税対象は実質半分に軽減されるという二重の優遇措置があります。

たとえば30年勤続の理事長が1億円の退職金を受け取る場合、退職所得控除は1,500万円、課税対象はその超過額8,500万円の半分=4,250万円となります。仮に55%の税率が適用されても税額は約2,300万円ほどで済みます。一方、法人は1億円を損金算入できるため、法人税の軽減額はおよそ4,000万円に達し、差し引き1,600万円以上の節税が実現する計算です。

退職金は資金計画が必要であり、適正額でなければ経費として認められませんが、長年の功労に報いるとともに、強力な節税効果を発揮する手段です。

医師が節税対策を行う際の注意点

医師は高所得であることから節税の余地が大きい一方、税務上の誤解やリスクにも注意が必要です。医療業特有の制限や倫理的な観点を踏まえた対応が求められます。ここでは、医師が節税対策を実行する際に気を付けたいポイントを紹介します。

医療費の経費算入には注意が必要

医師の場合、医療行為に直接関係しない支出は経費として認められにくい傾向にあります。特に美容医療や自由診療に関する支出などは、事業性の有無を厳密に問われるケースがあります。たとえば学会参加費や研究費でも、明確に業務に直結していないと判断されれば経費否認の対象となることがあります。税務署は医療関係者の経費に対しても詳細な説明を求めるため、目的や内容の記録を残しておくことが重要です。

社会的信用と脱税リスクを意識する

医師は社会的責任の大きい職業であり、税務上のトラブルは信用に直結します。過度な節税や形式だけの所得分散、実体のない経費処理は、税務調査で否認されるだけでなく、脱税と見なされるおそれもあります。税制の範囲内で適切に対策を講じ、倫理観をもって対応することが求められます。税理士と連携し、制度を正しく理解したうえで取り組む姿勢が大切です。

医師に適した節税法を実践し、将来に備えよう

医師は高収入である一方、税負担も大きく、何もしなければ可処分所得は大きく目減りしてしまいます。勤務医・開業医それぞれに適した節税手段を正しく選び、制度を活用することで、資産形成や老後への備えにつなげることが可能です。税制の仕組みを理解し、税理士などの専門家の助言も得ながら、脱税リスクを避けた適正な節税を実践していきましょう。信頼と安定のある将来のために、今からできる対策を始めることが大切です。


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