• 更新日 : 2025年11月25日

赤字でも法人化は得?税金の免除やデメリット、タイミングをわかりやすく解説

事業が赤字でも、青色申告繰越欠損金や社会的信用の向上を目的に法人化を選ぶケースはあります。適切に設計すれば、将来の税負担軽減や資金調達のしやすさといったメリットを活かせます。

一方で、赤字でも発生する地方税(均等割)や社会保険の強制適用など、コスト増の側面も無視できません。本記事では、赤字の状況で法人化を検討する際のメリット・デメリット、判断すべきタイミング、そして注意点をわかりやすく解説します。

赤字でも法人化するメリットとは?

事業が赤字の状態であっても、法人化には税務上および事業戦略上のメリットが複数あります。特に、将来的な黒字化を見すえている場合、これらの利点を最大限に活用できます。

1. 繰越欠損金の利用期間が10年に延長される

青色申告をしている法人は、事業年度で生じた赤字(欠損金)を翌年度以降の黒字と相殺できる繰越欠損金制度を利用できます。

この繰越期間は、個人事業主(青色申告)の場合は3年間ですが、法人は10年間です。事業の準備期間が長い、あるいは初期投資が大きく、黒字化までに時間がかかる事業モデルの場合、この長い繰越期間は将来の法人税負担を大きく軽減する要素となるでしょう。

参照:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁

2. 役員報酬で所得を分散し節税につなげられる

法人化すると、事業主自身や家族を役員とし、役員報酬を支払うことが可能です。家族を役員や従業員にする場合は、実態のある職務と相当な水準の報酬であることが前提です。

役員報酬は、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれかに該当し、不相当に高額な部分を除き、損金算入できるため、法人の所得を圧縮し、法人税の課税対象額を減らす効果があります。

個人側では役員報酬は給与所得となり、給与所得控除が適用されるため、個人の所得税・住民税の負担を軽減できる場合があります。家族を役員や従業員にして給与を支払うことで、世帯全体での所得分散が実現し、トータルでの節税につながるでしょう。

3. 社会的信用が高まり資金調達が有利になる

法人は個人事業主と比較して、社会的な信用度が高いと評価される傾向にあります。登記事項証明書(登記簿謄本)により商号・本店・目的・資本金・役員等が公示され、取引の透明性を示しやすい点が、金融機関の融資審査で有利に働くことがあります。

事業拡大に向けて大規模な資金調達を計画している場合、法人格の有無が実行可否を左右する一因になり得ます。

参照:法人の登記事項証明書等の請求について|法務局

赤字での法人化に潜むデメリットと注意点

メリットがある一方で、赤字でも法人化することには看過できないデメリットもあります。特に、コスト面の負担増は事業の継続に直接影響を及ぼすため、慎重な検討が求められます。

1. 赤字でも法人住民税の均等割が発生する

法人化すると、たとえ事業が赤字であっても納税義務が生じる税金があります。

その代表が「法人住民税の均等割」です。法人住民税は、法人の所得に応じて課税される「法人税割」と、所得にかかわらず資本金や従業者数に応じて定額課税される「均等割」で構成されます。

法人は赤字で法人税割がゼロでも、均等割の納税義務はなくなりません。例えば、東京23区の小規模法人の目安は年7万円ですが、自治体・資本金区分・従業者数で金額は異なります。

2. 会社の設立と維持にコストがかかる

例えば、株式会社を設立する場合、費用として登録免許税(資本金×0.7%、最低15万円)や定款認証手数料(資本金規模により3万〜5万円)などが必要で、一般的に合計で20万円から25万円程度がかかります。

また、設立後も、決算・申告、役員変更登記等でランニングコストが発生します。これらのコストは赤字であっても支払わなければなりません。

3. 社会保険への加入が義務づけられる

法人を設立すると、たとえ社長一人だけの会社であっても、健康保険や厚生年金保険といった社会保険への加入が法律で義務づけられています。

個人事業主の場合は、常時使用する従業員が5人未満であれば社会保険への加入は任意です。しかし、法人化すると強制加入となり、保険料は会社と役員・従業員が折半で負担します。この会社負担分の社会保険料が、新たなコストとしてのしかかってきます。

役員報酬の額によっては、国民健康保険料や国民年金保険料を支払っていた個人事業主時代よりも、負担が大幅に増加するケースも少なくありません。

参照:適用事業所と被保険者|日本年金機構

4. 経理や税務申告などの事務負担が増える

法人の会計処理や税務申告は、個人事業主のそれと比較して格段に複雑になります。

個人事業主の確定申告(青色申告)も一定の簿記知識を要しますが、法人では決算書に加え、勘定科目内訳明細書や法人事業概況説明書などの作成・提出が必要になり、実務対応のため税理士報酬等の外部コストが発生することも一般的です。

赤字なのに会社が存続できるのはなぜ?

「赤字経営」と聞くと倒産を連想しがちですが、赤字だからといって直ちに会社が潰れるわけではありません。会社が継続できるかは、損益計算書上の「利益」だけでなく、手元の「資金(キャッシュ)」の増減、すなわちキャッシュ・フローが確保できているかが鍵です。

キャッシュ・フロー計算書は、損益計算書と並ぶ財務諸表として現金収支を活動区分別に示すもので、この視点に立つと「赤字でも続けられる」ケースを合理的に説明できます。

キャッシュ・フローが黒字であるケース

会計上の利益が赤字でも、現金・預金が増える=キャッシュ・フローが黒字なら事業は継続可能です。代表例は次のとおりです。

  • 減価償却費の計上
    建物や機械等の取得費用は、耐用年数にわたり費用配分します。減価償却費の計上は現金の支出を伴わないため、費用で利益が圧迫されてもキャッシュは減りません。償却額が大きいほど、「損益は赤字だが資金は残る」局面が生じます。
  • 借入による資金調達
    金融機関からの借入は負債の増加であり売上ではないため、損益計算書の利益には直結しません。一方で現金は増えるため、運転資金や投資資金として活用できます。返済や利息は将来の資金流出となるため、資金繰り計画とセットで管理します。
  • 運転資本の改善
    売上債権の早期回収や在庫圧縮で運転資金需要が縮小すれば、利益が出ていなくても手許資金が増えることがあります。

繰越欠損金で将来の税負担を軽減できるケース

過去の赤字(繰越欠損金)が多額にある場合、当期が黒字でも過去の欠損金と相殺することで法人税の課税所得を圧縮できます。

法人は青色申告により生じた欠損金を各事業年度開始前10年以内まで繰り越し控除できるため、納税を抑えて内部資金を事業投資や借入金返済に回し、体力を維持・強化することが可能です。

法人化を検討すべきタイミングは?

赤字の状況で法人化を検討する場合、一般的な「所得800万円超」といった経験則だけでなく、より長期の視点で判断することが大切です。

1. 長期的な赤字が見込まれる事業計画がある場合

研究開発や大規模な設備投資など、黒字化まで数年を要する計画なら、法人化が有力な選択肢です。法人の青色申告では、赤字(欠損金)を各事業年度開始前10年以内まで繰り越して黒字と相殺でき、将来の法人税負担を抑えられます。

個人事業主の繰越期間は原則3年のため、回収期間が長い投資では法人化が合理的になり得ます。

2. 大規模な資金調達を計画している場合

金融機関融資や外部出資を見据えるなら、登記事項(商号・本店・目的・資本金・役員等)が公示される法人格の透明性は有利に働きます。信用力の基盤を整え、資金調達の実現性を高める狙いです。

3. 課税売上高が1,000万円を超えそうな場合

個人事業主として売上が1,000万円を超えそうなタイミングで法人化(法人成り)すると、消費税の免税事業者でいられる期間を最大限活用できることがあります。

消費税は、前々年(または前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超えると、その年から消費税を納める義務が生じます。 また、前年の前半(1月〜6月)や、法人の場合は事業年度の最初の6か月に売上が1,000万円を超えた場合も、条件によっては免税ではなくなるケースがあります。

一方で、資本金が1,000万円未満の新しい会社(新設法人)は、原則として設立から1期目と2期目の2年間は消費税が免除されます。

ただし、次のような場合は免税になりません。

  • 資本金が1,000万円以上で設立した会社
  • 他の会社の出資を多く受けるなど、「特定新規設立法人」に該当する会社

また、インボイス(適格請求書)を発行するためには、課税事業者であることが必要です。インボイス登録を行うと、たとえ新設法人でも消費税を納める義務が発生します。

したがって、消費税の免税期間を活かしたい場合は、売上見込みや資本金の額、インボイス登録のタイミングを考慮して、法人化の時期を計画的に決めることが大切です。

参照:No.6501 納税義務の免除|国税庁

一人親方やフリーランスが赤字で法人化を考える際のポイント

一人親方やフリーランスといった個人で事業を営む方が、節税や信用力向上を目的に法人化を検討する場合はどうでしょうか。赤字の状況であっても、その判断基準は同じですが、特有の注意点があります。

インボイス制度導入による影響をふまえる

2023年10月から始まったインボイス制度は、法人化の判断に新たな視点をもたらしました。免税事業者である個人事業主が、取引先の意向で適格請求書発行事業者(課税事業者)になることを選択するケースが増えています。

課税事業者となった場合、売上が1,000万円以下でも消費税の納税義務が生じます。このタイミングで法人化を検討し、設立後2年間の免税メリットを享受するという戦略も考えられます。ただし、取引先との関係や事業の継続性を最優先に考えるべきでしょう。

マイクロ法人設立の検討

社会保険料の負担を軽減する目的で、個人事業主としての事業は継続しつつ、一部の事業を法人化して「マイクロ法人」を設立する手法があります。

マイクロ法人から役員報酬を低く設定することで、社会保険料を最小限に抑え、個人事業の所得とあわせて全体の手取りを増やすことを目指します。ただし、事業実態のない法人設立は税務署から否認されるリスクがあります。

また、2つの事業の経理処理が必要になるなど、事務負担は確実に増加するため、専門家と相談のうえで慎重に進めるべき手法です。

赤字での法人化は慎重な事業計画のもと判断を

事業が赤字でも法人化を検討すること自体は妥当な選択肢です。将来の黒字化を見据えて、法人は欠損金を最長10年繰り越して黒字と相殺でき、資金調達面でも登記事項が公示される法人の透明性はプラスに働きます。

一方で、赤字でも法人住民税の均等割は発生し得ますし、法人は社会保険の原則強制適用のため会社負担分の保険料が固定費としてかかります。決算・申告などの事務も個人より複雑になりやすく、資金繰りに与える影響を過小評価しないことが重要です。

法人化に踏み切るかは、目先の損得ではなく、長期の事業計画、資金調達の必要性、そして消費税の納税義務が発生するタイミングを含めた制度面の影響を総合して判断しましょう。

専門家と試算し、最適な開始時期・報酬設計・税務/労務の体制まで見通して意思決定することをおすすめします。


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