• 作成日 : 2025年10月21日

法人化で後悔する11の理由とは?知らないと損する税金と費用の話

法人化で後悔する主な原因は、社会保険料や税金といった「想定外のコスト」と「手続きの煩雑さ」にあることが多いようです。法人化は節税や信用力向上など大きなメリットがある一方、準備不足だと、かえって手元資金を圧迫し、事業の足かせになりかねません。

「もっと調べておけばよかった」と後悔しないために、法人化を検討している個人事業主の方がつまずきやすいポイントを事前に知っておくことが大切です。この記事では、法人化して後悔しがちな11のポイントと、それを回避するための具体的な対策を詳しく解説します。

目次

法人化で後悔する理由 ①社会保険料の負担が想像以上に重い

法人化で最もよく聞く後悔が、社会保険料の負担です。個人事業主時代の国民健康保険料などとは金額も会社の負担義務も異なり、資金繰りを圧迫するケースが少なくありません。

法人は原則として社会保険の強制適用事業所となり、健康保険と厚生年金に加入(役員を含むのが原則)します。保険料は標準報酬月額に基づき会社と本人で概ね折半となるため、個人事業主時代より負担が増えやすい点をあらかじめ試算しておきましょう。

役員報酬を決める前に社会保険料を試算する

対策として、役員報酬を決める前に、必ず社会保険料がいくらになるかシミュレーションを行いましょう。税理士や社会保険労務士に相談すれば、税金と社会保険料のトータルコストをふまえた最適な役員報酬額を算出してもらえます。

法人化で後悔する理由 ②赤字なのに住民税の請求が来る

個人事業主の感覚で「利益が出ていないから税金はゼロだろう」と考えていると、決算後に納税通知書が届いて慌てることになります。

法人の住民税には、利益(所得)に関係なく、資本金の額や従業員数に応じて課される「均等割(きんとうわり)」という仕組みがあります。例として、資本金1,000万円以下・従業員数50人以下の場合は年間約7万円の均等割が発生します。実際の金額は自治体・資本金・従業員数で異なるため、所在地の税額表で確認してください。

住民税などを固定費として事業計画に織り込む

対策は、法人住民税の均等割を、法人の家賃のような固定費と捉えることです。法人を設立した段階で毎年必ず発生するコストとして、あらかじめ事業計画や資金繰りの計画に織り込んでおきましょう。

法人化で後悔する理由 ③自分のお金を自由に使えない

個人事業主のときは事業用口座から「事業主貸」として生活費を引き出すこともできましたが、法人になると「会社の財布」と「個人の財布」を明確に分ける必要があります。

法人の資産と個人の資産は、法律上明確に区別されます。社長であっても、会社の資金を自由に引き出して使うことはできません。個人が使えるお金は、会社から支払われる毎月定額の「役員報酬」のみになります。

適切な役員報酬額を事業計画の段階で設定する

対策として、法人から生活費として受け取れるのは役員報酬だけであることを理解し、事業計画の段階で無理のない金額を設定することが重要です。一度決めた役員報酬は、原則として期中に変更できない点にも注意しましょう。

法人化で後悔する理由 ④経理や税務申告が複雑で手に負えない

個人事業主の確定申告とは比較にならないほど、法人の経理業務と税務申告は複雑です。会計の知識がないまま一人でやろうとすると、本業に支障をきたす可能性があります。

法人は、個人事業主の簡易な帳簿とは違い、複式簿記による厳密な会計処理が求められます。決算時には、貸借対照表損益計算書といった複雑な決算書の作成と、法人税消費税、地方税の申告が必要です。

会計ソフトの導入と税理士への依頼を検討する

対策として、まずはクラウド会計ソフトを導入しましょう。銀行口座やクレジットカードと連携し、日々の取引を自動で記帳できるため、複式簿記の知識が少なくても効率的に経理作業を進められます。その上で、複雑な法人税の申告は税理士に依頼するのが最も確実です。会計ソフトで整理されたデータがあれば、税理士費用を抑えられる可能性もあります。

法人化で後悔する理由 ⑤契約や法律に関する責任が重くなる

法人になると、個人事業主のときには意識しなかったような、契約や法律に関する知識がさまざまな場面で求められます。安易な口約束はトラブルの元になり、法律に則った厳密な対応が必要です。

個人事業主時代は口約束や簡単な覚書で済んでいた取引も、法人になると取引先との間で正式な契約書を交わすのが基本です。また、従業員を雇用すれば労働基準法、業務委託をすれば下請法など、事業に関わるさまざまな法律を遵守する責任が生じます。

弁護士など専門家への相談体制を整える

対策として、契約書のリーガルチェックや労務問題などについて気軽に相談できる弁護士や司法書士、社会保険労務士といった専門家とのつながりを持っておくことが重要です。最近では、月額数千円から利用できるオンラインの法務相談サービスもあります。トラブルが起きてから慌てるのではなく、事前に相談できる体制を整えましょう。

法人化で後悔する理由 ⑥思ったより税金が安くならない

「法人化=節税」というイメージが先行しがちですが、利益が少ない段階で法人化すると、かえって税負担が増えてしまうことがあります。

個人の所得税は所得が増えるほど税率も高くなる累進課税ですが、個人事業の利益が少ないうちは税率が低く抑えられています。法人税はある程度一定の税率であることや、赤字でも発生する法人住民税の均等割があるため、利益が少ないと個人事業主のほうが納税額が少なくなる「税率の逆転現象」が起こります。

課税所得800万円超えを目安に検討する

一般的に、節税メリットが大きくなるといわれる課税所得800万円~900万円を法人化の一つの目安にしましょう。このラインを超えると、個人の所得税・住民税・事業税の合計税率が、法人の実効税率を上回る可能性が高くなります。

法人化で後悔する理由 ⑦会社設立・運営の手続きが面倒

法人を設立する際の手続きはもちろん、設立後も個人事業主のときにはなかったさまざまな法務手続きが発生します。

会社の設立には、定款の作成・認証や法務局への登記申請が必要です。設立後も、役員の任期ごとに役員変更の登記(たとえ同じ人が続投する場合でも)や、重要な決定事項に関する株主総会の議事録作成などが法律で義務付けられています。

専門家の活用で時間と手間を削減する

対策として、設立手続きは司法書士に、運営中の会計・税務は税理士に依頼するなど、専門家の力を借りることを検討しましょう。専門家への報酬はかかりますが、本業に集中するための時間と手間を大幅に削減できます。

法人化で後悔する理由 ⑧交際費が全額経費にならない

個人事業主のときは事業に関連する飲食代などを100%経費として計上できましたが、法人になると交際費の扱いに制限がかかります。

法人の場合、交際費として経費計上(損金算入)できる金額には上限が設けられています。上限額は企業の規模によっても異なりますが、年間800万円まで、または接待飲食費の50%までとなっており、個人事業主のように上限なしで経費にすることはできません。

交際費の上限額とルールを把握しておく

対策は、自社の資本金に応じた交際費の損金算入ルールを正しく理解し、上限額を意識した経費の使い方を心がけることです。会議費など、交際費に該当しない勘定科目との区別を明確にすることも大切です。

法人化で後悔する理由 ⑨融資の個人保証から逃れられない

「法人になれば会社の借入は個人と無関係になる」と考えがちですが、とくに創業期の小規模な会社では、代表者個人の連帯保証(経営者保証)を求められることが多いです。

設立して間もない法人は信用力が低いため、金融機関は融資の際に代表者個人の資産や信用を担保として求めます。結果的に、会社が倒産した場合は代表者個人が借金を背負うことになり、個人事業主のときとリスクは変わりません。

無担保・無保証人の融資制度の活用を検討する

対策として、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」のように、一定の要件を満たせば無担保・無保証人で融資を受けられる制度があります。すべての融資で個人保証が必須というわけではないため、これらの制度の活用を検討したり、融資の際に金融機関とよく相談したりすることが重要です。

出典:創業融資のご案内|日本政策金融公庫

法人化で後悔する理由 ⑩失業保険(雇用保険)の対象外になる

個人事業主はそもそも雇用保険に加入できませんが、法人化して従業員を雇用した場合、自分(社長)も従業員と同じように失業時のセーフティネットがあると考えがちです。

法人の代表取締役や役員は、原則として雇用保険に加入できません。そのため、万が一会社が倒産したり、事業をたたんだりした場合でも、従業員のように失業手当(基本手当)を受け取ることはできません。

役員退職金などで自身の退職後に備える

対策として、雇用保険に頼らないセーフティネットを自身で準備しておく必要があります。たとえば、小規模企業共済に加入し続けたり、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)を活用したり、将来の役員退職金の積立制度を導入したりすることが考えられます。

法人化で後悔する理由 ⑪廃業時の手続きが複雑で費用もかかる

個人事業主であれば「廃業届」を税務署に提出すれば比較的簡単に事業を終えられますが、法人は一度設立すると、たたむ(廃業する)のにも大きな手間と費用がかかります。

法人を廃業するには、株主総会での解散決議、解散・清算人の登記、官報への公告、財産の換価・分配、税務の確定申告など、法律に則った複雑な「清算手続き」が必要です。この手続きには数ヶ月の期間と、司法書士や税理士への報酬として数十万円の費用がかかります。

長期的な事業計画のもと慎重に判断する

対策として、法人化は後戻りが難しい大きな決断であることを設立前に認識しておくことが最も重要です。短期的な視点だけでなく、長期的な事業計画を立てたうえで、法人化に踏み切るか慎重に判断しましょう。

後悔しないために知るべき法人化のタイミングとは?

後悔を避けるには、事業の状況に合わせて適切なタイミングで法人化することが重要です。やみくもに法人化するのではなく、以下の目安を参考に検討しましょう。

課税所得が800万円を超えたとき

個人事業主の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる「累進課税」です。所得が800万円を超えたあたりから、所得税・住民税・事業税を合わせた税率が、法人税の実効税率よりも高くなる可能性があります。法人化による節税効果が期待できるため、最初の検討タイミングといえます。

消費税の課税事業者になったとき

売上が1,000万円を超えて消費税の課税事業者になったタイミングも、法人化を検討する好機です。資本金1,000万円未満で法人を設立すると、原則として設立から最大2年間、消費税の納税が免除される特例があります。ただし、インボイス制度の開始により、免税事業者でいることが取引上不利になるケースもあるため、自社の状況に合わせて慎重な判断が必要です。

大きな設備投資や融資を計画しているとき

多額の資金調達や投資を考えている場合、法人の方が有利に働くことがあります。

  • 融資:法人は会計基準が厳格で資産状況が明確なため、個人事業主よりも金融機関からの信用を得やすく、融資の選択肢が広がります。
  • 設備投資:事業の赤字(欠損金)を繰り越せる期間が、個人事業主の3年間に対し、法人は10年間です。大きな初期投資で初年度が赤字になっても、その損失を翌年以降の黒字と長く相殺できるため、税負担を抑えられます。

対外的な信用度や事業の拡大を目指すとき

事業のステージを上げたい場合、法人格は大きな力になります。

  • 信用度:企業によっては、取引相手を法人のみに限定している場合があります。法人化することで、大企業との取引の道が開ける可能性があります。
  • 事業拡大:求人活動において、法人であることは社会的信用の証となり、優秀な人材が集まりやすくなります。社会保険への加入も、従業員の安心につながります。

あえて法人化しない、という選択肢も

すべての事業主にとって法人化が最適解とは限りません。以下のような場合は、個人事業主のままでいる方がメリットが大きいこともあります。

  • 所得がまだ少ない、あるいは不安定
  • 経理や事務手続きの負担を増やさず、本業に集中したい
  • 事業用と個人用のお金を厳密に分けず、柔軟な資金繰りをしたい
  • 小規模企業共済など、個人事業主ならではの制度を最大限活用したい

自身の事業スタイルや価値観と照らし合わせ、法人化のメリットがデメリットを上回るか、冷静に見極めることが後悔しないための鍵でしょう。

法人化の後悔は入念な準備で防ごう

法人化で後悔するケースのほとんどは、メリットだけでなくデメリットやコストを事前に把握していなかったことに起因します。とくに社会保険料と法人住民税の均等割は、個人事業主のときにはなかった大きな負担です。また、失業保険の対象外になることや、事業を辞める際の廃業手続きの煩雑さも、見落としがちなポイントといえるでしょう。

この記事で挙げた11のポイントをチェックリストとして活用し、ご自身の事業規模や将来計画と照らし合わせ、税理士などの専門家にも相談しながら、後悔のない法人化を目指しましょう。


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