- 更新日 : 2025年11月25日
一人社長の法人化は得?メリット・デメリットや個人事業主との違いを解説
一人社長として法人化することは、所得が一定額を超えると税負担の軽減や社会的信用の向上といったメリットが見込めます。そのため、法人税率が所得税率より低くなるタイミングや、経費にできる範囲が広がることで、手元に残る資金を増やせる可能性があります。
しかし、会社設立の費用や社会保険料の負担が増えるといったデメリットもあり、個人事業主のままでいるべきか、一人で会社を作るべきか、タイミングに悩む方も多いのではないでしょうか。
本記事では、一人社長の法人化について、メリット・デメリットから設立手順、適切なタイミングまでをわかりやすく解説します。
目次
一人社長の法人化と個人事業主との違いは?
一人社長として法人化することは、事業の主体を個人から法律上の別人格である「法人(会社)」へ切り替えることを意味します。これにより、税金の種類、社会的信用、事業に対する責任の範囲などが、個人事業主とは大きく異なってきます。
法人化は「個人とは別人格の会社」を設立すること
一人社長の法人化とは、個人事業主が事業を行う主体を個人から法人(会社)へ切り替える手続き、いわゆる「法人成り」を指します。法律上、会社は設立登記をすることで個人とは別人格の「法人格」を持つことになり、事業に関する権利や義務はすべて会社に帰属します。
たとえ社長が一人であっても、法律上は会社と社長(個人)は別人格として扱われる点が大きな特徴です。
法人化と個人事業主との主な違いを比較
法人化すると、税金、社会的信用、責任の範囲など、個人事業主とは多くの点で違いがあります。どちらの形態が自身の事業に適しているか判断するために、以下の比較表で主な違いを確認しましょう。
| 項目 | 一人社長(法人) | 個人事業主 |
|---|---|---|
| 税金 | 法人税、法人住民税、法人事業税など | 所得税、住民税、個人事業税など |
| 社会的信用 | 高い傾向にあり、融資や取引で有利 | 法人と比較すると低い傾向 |
| 責任の範囲 | 有限責任(原則、出資額の範囲内) | 無限責任(事業上の全責任を負う) |
| 経費の範囲 | 広い(役員報酬、退職金、生命保険料など) | 狭い(事業に関連する費用のみ) |
| 事務負担 | 複雑で多い(決算申告、社会保険手続きなど) | 比較的少ない(確定申告など) |
一人社長が法人化するメリットは?
一人社長が法人化(法人成り)することで、税金面や信用面、経費の範囲、経営リスクの限定など、さまざまなメリットがあります。
税負担を軽減できる可能性がある
法人化による最大のメリットの一つが節税効果です。個人の所得に課される所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税(最大45%)ですが、法人税は所得金額にかかわらず税率がほぼ一定という特徴があります。資本金1億円以下の中小法人の法人税には、所得800万円以下の部分に15%の軽減税率が適用されます。
一般的に、個人の事業所得が一定額(おおむね800万円前後)を超えると、法人税率の方が所得税率よりも低くなる場合があり、法人化した方が税負担を抑えられるといわれています。
また、法人化すると、自分自身への給料を「役員報酬」として経費に計上できます。役員報酬は給与所得となり、収入から一定額を差し引ける「給与所得控除」が適用されるため、課税対象額を圧縮する効果が期待できます。
社会的信用が向上しビジネスが拡大しやすくなる
法人格を持つことで、個人事業主よりも社会的な信用度が高まります。これにより、事業拡大のチャンスが広がります。
法人登記されている会社は、個人事業主に比べて事業の継続性や透明性が高いと判断されやすく、大企業との取引や金融機関からの融資審査で有利に働くことがあります。ウェブサイトや名刺に「株式会社」と記載できるだけでも、顧客からの信頼や安心感が高まるケースもあります。
経費として認められる範囲が広がる
法人化すると、個人事業主では経費にできなかった支出も、経費として計上できるようになります。
- 役員報酬:社長自身への給与を経費として計上できる。
- 退職金:将来、自身に退職金を支払うことで、退職所得控除などの大きな控除を受けられる。
- 生命保険料:一定の条件を満たせば、会社契約の生命保険料を経費として計上できる。
- 社宅:自宅を社宅扱いにすることで、家賃の一部を経費に算入できる。
責任の範囲が限定される(有限責任)
株式会社や合同会社を設立した場合、会社の責任は「有限責任」となります。これは、会社が倒産した場合でも、代表者個人は出資した金額以上の責任を負う必要がないという原則です(代表者が会社の連帯保証人になっている場合などを除く)。
個人事業主の「無限責任」に比べ、リスクを限定できる点は大きな安心材料ではないでしょうか。
事業承継がスムーズになる
将来、事業を親族や第三者に引き継ぐ際、法人であれば株式の譲渡によってスムーズに事業承継を進められます。個人事業主の場合は、資産や契約を個別に引き継ぐ必要があり、手続きが煩雑になりがちです。
一人社長の法人化におけるデメリットやリスクは?
一人社長の法人化における主なデメリットは、設立や維持にコストがかかること、社会保険への加入が義務化されること、そして経理をはじめとする事務負担が増えることです。これらの負担を十分に理解せずに法人化を進めると、かえって経営を圧迫することになりかねません。
会社設立に費用と手間がかかる
法人を設立するには、定款の認証や登記申請といった手続きが必要で、法定費用や専門家への報酬が発生します。
株式会社と合同会社の設立費用の比較
設立する会社の形態によって、必要な費用は異なります。社会的信用を重視するなら株式会社を、コストを抑えたいなら合同会社を選ぶケースが多い傾向にあります。
| 費用項目 | 株式会社(電子定款の場合) | 合同会社(電子定款の場合) |
|---|---|---|
| 定款用収入印紙代 | 0円 | 0円 |
| 定款認証手数料 | 3万~5万円(一定の条件を満たせば1.5万円) | 不要 |
| 登録免許税 | 最低15万円(資本金の額 × 0.7%) | 最低6万円(資本金の額 × 0.7%) |
| 合計 | 約20万円~ | 約6万円~ |
※紙の定款で作成する場合、別途4万円の収入印紙代が必要です。
社会保険への加入が義務になる
一人社長であっても、法人化すれば社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が法律で義務づけられています。
たとえ従業員がおらず社長一人だけであっても、法人から役員報酬を受け取る場合は社会保険の被保険者となります。
保険料は会社と個人でそれぞれ折半して負担します。負担額は役員報酬(標準報酬月額)に応じて変動します。そのため、金額によっては、個人事業主時代に支払っていた国民健康保険料や国民年金保険料よりも高くなる場合があります。
赤字でも税金の支払い義務が生じる
たとえ事業が赤字であったとしても、法人には納税義務が発生します。法人住民税の「均等割」は、資本金の額や従業員数に応じて課される税金で、利益が出ていなくても最低でも年間約7万円の支払いが必要です。個人事業主の場合、赤字であれば所得税や住民税はかからないため、この点は大きな違いといえるでしょう。
経理・事務作業が複雑になる
法人は個人事業主と比べて、経理処理や税務申告がより複雑になります。個人の青色申告でも貸借対照表や損益計算書の作成は必要ですが、法人では会社法に基づく決算書類として、より厳密な形式と正確性が求められます。そのため、多くの法人では税理士と顧問契約を結んでサポートを受けており、その分の顧問料も経費として考慮する必要があります。
一人社長として法人化を検討すべきタイミングは?
どのタイミングで法人化(法人成り)すべきかは、事業所得の規模や今後の事業計画によって異なります。一般的には、事業所得が年間800万円を超える頃から法人化による節税効果が期待できるといわれています。また、前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が発生するため、その前後も検討の目安になります。さらに、事業拡大のために金融機関から融資を受けたい場合や、大手企業との取引を検討している場合も、法人化することで信用力が高まり、有利に働くケースがあります。
所得が800万円を超えたとき
前述のとおり、個人事業の所得(売上から経費を引いた金額)が800万円を超える頃から、所得税率よりも法人税率の方が低くなる可能性が高まります。節税を主な目的とする場合、この水準が法人化を検討する一つの目安となるでしょう。
売上が1,000万円を超え、消費税の課税事業者になったとき
原則として、前々年の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者となり納税義務が発生します。ただし、法人を新規設立した場合、1期目と2期目については、消費税の納税が免除される場合があります(資本金1,000万円未満など一定の要件あり)。
この免税期間を活用するために、売上1,000万円を超えるタイミングで法人化を検討するケースも少なくありません。ただし、インボイス制度のもとでは、免税事業者のままでは取引先が仕入税額控除を受けられなくなるため、取引上の不利が生じる場合があります。
事業拡大や資金調達を見据えているとき
建設業など許認可が必要な事業への参入や、大規模な資金調達、大手企業との取引を検討している場合には、法人格が必須条件となることがあります。このようなケースでは、節税メリットの有無にかかわらず、事業の将来像や取引先の要件を踏まえて法人化が必要になるタイミングです。
一人社長が法人化するまでの手順は?
一人社長が法人化する手順は、まず会社の基本事項を決定し、定款の作成・認証、資本金の払い込み、法務局への登記申請、そして設立後の各種届出という流れで進みます。
ここでは、株式会社の設立を例に、大まかな流れを解説します。
STEP1:会社の基本事項を決定する
まず、会社の骨格となる基本事項を決めます。
- 商号(会社名)
- 事業目的
- 本店所在地
- 資本金の額
- 発起人(出資者)
- 事業年度
STEP2:定款を作成・認証する
基本事項が決まったら、会社のルールブックである「定款(ていかん)」を作成します。株式会社の場合は、作成した定款を公証役場で認証してもらう必要があります。
STEP3:資本金を払い込む
定款の認証後、発起人個人の銀行口座に、定めた資本金を払い込みます。その通帳の写し(表紙・振込明細ページなど)が、資本金が確かに払い込まれたことを証明する書類となります。
STEP4:登記申請書類を作成・提出する
法務局へ提出する登記申請書や、役員の就任承諾書などの必要書類を作成します。すべての書類が揃ったら、本店所在地を管轄する法務局に提出します。この登記申請日が、会社の設立日となります。
STEP5:設立後の手続きを行う
登記が完了すれば会社設立は完了ですが、事業を開始するためには各種の届け出が必要です。
一人社長の業務を効率化するには?
一人社長は、営業から実務、経理まで全ての業務を一人でこなす必要があります。法人化により事務作業が増えるため、会計ソフトを導入して経理負担の軽減や、税理士などの専門家にサポートを依頼することが効果的です。
法人化によって増える事務作業をいかに効率化するかが、事業を継続的に成長させる鍵となるでしょう。
会計ソフトを導入して経理負担を軽減する
日々の取引入力から決算書の作成まで、会計ソフトを活用することで経理業務の負担を大幅に軽減できます。銀行口座やクレジットカードと連携すれば、取引データが自動で取り込まれ、入力の手間が省けます。また、クラウド型の会計ソフトであれば、場所を選ばずに作業ができ、税理士とのデータ共有もスムーズです。
専門家(税理士など)のサポートを活用する
複雑な税務申告や社会保険の手続きは、専門家である税理士や社会保険労務士に依頼するのが賢明です。コストはかかりますが、正確な手続きによる安心感と、本業に集中できる時間を確保できるメリットは大きいでしょう。節税対策や経営に関するアドバイスを受けられる点も、事業の成長につながります。
一人社長の会社が「マイクロ法人」と呼ばれることも
一人社長の会社の中でも、特に社会保険料の負担軽減などを目的として戦略的に設立・運営される会社は「マイクロ法人」と呼ばれることがあります。
事業のすべてを法人に移す一般的な「法人成り」とは異なり、個人事業と法人を並行して運営するケースが多いのが特徴です。
マイクロ法人とは何か?
マイクロ法人とは、社長一人、もしくは家族だけで運営する小規模な会社を指す俗称です。明確な法的定義はありません。個人事業としての収入は維持しつつ、別にマイクロ法人を設立し、その法人から役員報酬を低く設定して受け取ることで、社会保険料の負担を抑えるという仕組みで活用されます。
マイクロ法人設立による社会保険料最適化の仕組み
社会保険料は、役員報酬の金額(標準報酬月額)を基準に決定されます。そのため、マイクロ法人では役員報酬を社会保険料が最も低くなる等級に設定することで、負担を抑えるケースがあります。一方で、事業の主な収益は個人事業主として得ることで、個人事業で得た所得には社会保険料がかからず、トータルの社会保険料負担を大幅に軽減できるというわけです。
マイクロ法人を設立する際の注意点
この手法は合法ですが、注意点もあります。個人事業と法人事業の事業内容を明確に区別する必要があります。例えば、ライター業を個人事業、ウェブサイト管理を法人事業とするなど、客観的に説明できる区分けが求められます。
また、法人の設立・維持コストと、削減できる社会保険料のバランスを慎重に検討しなければなりません。実態に即さない名目上の分け方や過度に低い役員報酬は否認リスクもあるため、安易な設立は避け、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
一人社長としての法人化は将来の展望をふまえて判断を
一人社長の法人化は、事業所得が一定額(おおむね800万円)を超える場合など、条件次第で節税や社会的信用の向上といった大きなメリットをもたらす可能性があります。一方で、設立・維持コストの増加や社会保険の加入義務、事務負担の増大といったデメリットも伴うため、ご自身の事業の状況と将来の展望をふまえた慎重な判断が求められます。
消費税の納税義務が発生する売上1,000万円超えも、法人成り(法人化)を検討する一つの目安といえるでしょう。ただし、インボイス制度が始まった現在では、免税事業者のままだと取引上の不利が生じる場合もあります。最終的な判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談し、個別のシミュレーションを行ったうえで最適な道を選択することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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