- 更新日 : 2025年10月24日
勤務医の節税対策とは?賢い手取りの守り方を解説
高収入である勤務医は、その分税金や社会保険料の負担も大きく、可処分所得の目減りに悩まされることが少なくありません。経費計上が難しい給与所得者という立場上、節税対策は限られているように見えますが、制度を正しく理解すれば、十分な対策が可能です。
本記事では、勤務医が活用できる節税策を解説します。
目次
勤務医はなぜ節税が必要?
勤務医は高収入な分、所得税や住民税などの税負担も重く、そのままでは手取り収入が大きく減ってしまいます。日本の所得税率は累進課税で、課税所得が4,000万円を超えると所得税の最高税率45%(加えて復興特別所得税)となり、住民税は原則10%に均等割等が加わるため、実効税率はおおむね55%前後になる場合があります。
さらに社会保険料も差し引かれるため、表面的には高収入でも自由に使えるお金は意外と限られており、対策なしでは収入に見合った可処分所得が得られないのが現実です。だからこそ税法の範囲内で適切に税負担を軽減する節税対策は、勤務医にとって避けて通れないテーマとなっています。
勤務医と開業医の節税方法の違いは?
勤務医と開業医では税法上の立場が異なるため、活用できる節税策にも差があります。勤務医は給与所得者であるため経費計上が制限される一方、開業医は個人事業主として多様な経費を申告できます。以下では、両者の節税手法の相違を解説します。
勤務医は経費計上が制限されている
勤務医は給与所得者であるため、勤務に必要な支出を自由に経費として差し引くことはできません。原則として、給与所得控除という定型的な控除のみが適用され、それ以外の費用は控除対象となりません。たとえば、医学書の購入や学会参加費用などが発生しても、これらは通常の年末調整や確定申告で経費として申告することができません。ただし、「特定支出控除」と呼ばれる例外的な制度を使えば、一定の条件下で一部の支出を追加控除できる可能性がありますが、要件は厳しく、適用される例は限られます。
開業医は多様な節税策を活用できる
開業医は個人事業主としての立場で確定申告を行い、事業に必要な支出を「必要経費」として幅広く計上できます。医療機器や設備投資はもちろん、事務所家賃や車両費、スタッフへの給与なども経費として控除でき、結果として課税所得を大幅に圧縮することが可能です。さらに、青色申告を選択すれば65万円の特別控除が受けられ、家族への給与支給によって所得を分散することもできます。これにより、高い節税効果が期待できるのです。
所得控除と制度活用が勤務医の主な節税手段
勤務医が節税を図るには、経費計上ではなく、iDeCoやふるさと納税、各種保険料控除などの所得控除や公的制度を積極的に活用する必要があります。経費で節税できない分、制度を最大限利用し課税所得そのものを圧縮することが、勤務医にとっての現実的な節税アプローチです。開業医のような柔軟な経費計上は望めませんが、合法的な控除制度を理解し適切に使うことで、確実な税負担の軽減が可能です。
勤務医におすすめの節税方法は?
勤務医は開業医と異なり経費計上が制限されるため、主に所得控除や優遇制度の活用を通じて節税を行います。以下では、勤務医が活用しやすく、かつ節税効果が高い方法を紹介します。
iDeCoで老後資金と節税を両立させる
勤務医にとって最も基本かつ効果的な節税策の一つが「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の活用です。iDeCoは拠出した掛金が全額、所得控除の対象となり、所得税・住民税の軽減に直結します。
2025年現在、勤務医が加入する企業年金の種類に応じて iDeCo の掛金上限は以下のとおりです。
- 企業年金なし:月額23,000円(年276,000円)
- 企業年金あり(企業型DCや確定給付企業年金等に加入している場合を含む):月額20,000円(年240,000円)
たとえば年収1,200万円の勤務医が年間24万円を拠出した場合、所得税率33%・住民税10%と仮定すると約8万円の節税効果があります。
さらに運用益が非課税となり、60歳以降に受け取る際も退職所得控除等の優遇措置が受けられるため、長期的に大きなメリットがあります。ただし、原則として60歳まで引き出すことができない点には注意が必要です。
ふるさと納税で地方貢献と節税を実現
ふるさと納税は、勤務医のような高所得層にとって大きな節税効果をもたらす制度です。自己負担2,000円を除いた寄附金が、所得税および翌年度の住民税から控除されます。ふるさと納税の控除上限は年収や家族構成、社会保険料などにより変動します。
たとえば年収1,500万円で配偶者と子1人を扶養している勤務医の場合、約35万〜40万円程度までの寄附が控除対象となります。これにより実質2,000円の負担で、地域の特産品や高級食材などの返礼品を受け取ることができ、生活費の節約にもつながります。
また、5自治体以内であればワンストップ特例制度を使って確定申告不要とできますが、勤務医は医療費控除やiDeCoなどで確定申告を行うケースが多いため、その際に寄附分もまとめて確定申告することで確実に控除を受けられます。
生命保険料控除と住宅ローン控除を有効活用
勤務医が意外と見落としがちなのが「生命保険料控除」です。以下の3区分ごとに最大4万円、合計で最大12万円までが所得控除の対象になります。
- 一般生命保険料
- 介護医療保険料
- 個人年金保険料
これにより、所得税・住民税合わせて数万円の軽減効果が見込めます。保険会社から毎年送付される控除証明書を年末調整時に提出することで、自動的に控除が反映されます。
さらに、住宅を購入して住宅ローンを利用している勤務医であれば「住宅ローン控除」も見逃せません。年末のローン残高の0.7%が控除対象となり、新築住宅等の場合は13年間継続されます。たとえば残高が3,000万円ある場合、年間21万円の所得税が軽減されます。ただし、控除を受けるには「合計所得金額が2,000万円以下」であることが条件となっているため、高年収の勤務医は上限超過に注意が必要です。
なお、上述したように新築住宅の場合には13年間の控除を受けることが出来ますが、中古住宅やその他の条件では控除期間が異なるので、その点についても認識しておく必要があります。
医療費控除と扶養控除で家族の支出もカバー
医療費控除は、勤務医やその家族の年間医療費が「10万円または合計所得金額の5%のいずれか少ない方」を超える部分について適用され、上限は200万円です。
たとえば、年間医療費が30万円かかった場合、20万円が所得控除となり、税負担が大きく減少します。対象となる費用は診察費や治療費だけでなく、市販薬や通院交通費も含まれます。
また、2025年12月施行の改正により、「扶養控除」「配偶者控除」の所得要件が従来の合計所得48万円以下から58万円以下に緩和されました。配偶者の合計所得金額が58万円以下であれば配偶者控除の対象となります。給与所得のみの場合、この条件に相当する年収は130万6,000円以下です。
これにより、パートやアルバイトをしている配偶者や大学生の子どもがいても、一定の範囲内であれば控除が可能となります。特に、「特定親族特別控除」が導入されているため、子の所得が扶養の範囲ギリギリの場合にも節税余地があります。
勤務医が資産運用や法人活用で節税するのは有効?
基本的な節税対策に加えて、ある程度の収入や資産余力がある勤務医は、不動産投資や法人設立といった高度な手法を取り入れることで、さらなる節税効果を得ることが可能です。これらの方法は一定の知識とリスク管理が求められますが、正しく活用すれば節税メリットと将来的な資産形成につながります。
不動産投資による損益通算で課税所得を減らす
不動産投資は、勤務医の中でも年収1,000万円を超える層に支持されている節税手段です。賃貸用不動産を購入して家賃収入を得ると、物件の減価償却費やローン利息、固定資産税、管理費などの支出を「必要経費」として計上できます。
これらの経費が家賃収入を上回った場合、不動産所得は赤字となり、その損失は勤務医の給与所得と「損益通算」することが可能です。たとえば木造アパートを購入した初年度は、耐用年数22年に基づく減価償却費が大きくなり、年収1,500万円の勤務医であっても、年間50万~100万円程度の課税所得を圧縮できる場合があります。
ただし不自然な赤字の損益通算については税務署の監視が強化される方向にあり、節税を主目的とした投資には慎重さが求められます。空室リスクや物件の老朽化などによる損失も現実的に考慮する必要があり、「節税目的だけ」で不動産に手を出すのは危険です。
太陽光発電などの設備投資で減価償却を活用
不動産以外の選択肢として、太陽光発電などの設備投資も節税に有効です。ソーラーパネルなどの設備を自己資金またはローンで導入し、固定価格買取制度(FIT)を利用して電力を売却することで収益化が可能です。
太陽光発電設備の取得費用は、税法で定められた耐用年数に基づき減価償却を行うことができます。定率法などを選択すると初年度の償却額が大きくなるため、売電収入を上回る経費が計上され、数年間は赤字になりやすいケースもあります。
また、太陽光発電による売電収入は、多くの場合「雑所得」として扱われ、赤字が出ても給与所得などと損益通算することはできません。一方で、設備容量が大きく事業としての継続性や営利性が認められる場合には「事業所得」と判定され、その場合に限り損益通算が可能となり、所得税や住民税の軽減につながります。
仮に設備費用が1,000万円で、初年度に200万円の償却が認められれば、同額分だけ給与所得を圧縮することが可能になります。とはいえ、制度変更のリスクや天候に左右される収益性、設備のメンテナンス費用なども考慮が必要で、事前に採算性の試算を行うことが不可欠です。
MS法人の設立による副業収入の分散と税率の最適化
勤務医が本業に加えて講演、執筆、医療コンサルティングなどの副業収入を得ている場合、それを個人で受け取ると高い所得税率(最大45%)が課されます。これを回避する手段として有効なのが、「MS法人(メディカル・サービス法人)」の設立です。
MS法人を設立し、副業収入を法人に計上することで、法人税の低い税率が適用されます。2025年時点の法人税率は、年800万円以下の所得に対して15%、800万円超の部分に対して23.2%であり、地方法人税や事業税も含めた実効税率はより高くなるものの、個人所得税と比較して大きな節税効果があります。
さらに、家族を法人の役員として登記し、一定の報酬を支給することで所得を分散させ、世帯全体での税負担を抑えることも可能です。
ただし、法人化には設立費用や登記手続き、会計処理、顧問税理士費用などのランニングコストも伴います。形だけの法人設立は税務署から否認されるリスクがあり、実体のある活動内容と合理的な経済実態が求められます。
勤務医が節税対策を行う上で注意すべき点は?
勤務医が節税を実践する際には、税法に準拠した正しい方法で対策を講じることが重要です。以下に、勤務医が注意すべきポイントを整理します。
税法の範囲内での節税を徹底する
節税と脱税の違いは、その手法が法律に則っているかどうかにあります。形式的な「所得分散」や、実態の伴わない「経費計上」は、税務署の調査により否認される可能性があり、悪質と見なされれば追徴課税やペナルティの対象となることもあります。
勤務医は、開業医に比べて経費として認められる範囲が限定されているため、特にこの点に注意が必要です。たとえば、「仕事に必要だったから」と自己判断で私的な支出(スーツ、パソコン、交際費など)を経費にしてしまうと、後に否認されるリスクがあります。
節税をする際は、「この支出は明確に業務上必要か」「証拠となる書類が残っているか」といった観点から慎重に検討する必要があります。
特定支出控除の利用要件は厳しい
勤務医が業務に関連する支出を経費化する例外的な手段として「特定支出控除」があります。これは、一定の支出(研修費、通勤費、転居費など)が給与所得控除額の半額を超えた場合、その超過部分について所得控除が認められる制度です。
たとえば、年収1,200万円の勤務医の給与所得控除は約195万円ですので、その半分にあたる約97万円を超える特定支出がある場合にのみ控除対象となります。つまり、高額な支出がない限り、利用は現実的ではありません。
また、特定支出控除を適用するには、勤務先の証明や領収書などの提出が必要となり、事務的なハードルも高いのが実情です。このような制度は知識として把握しておくべきですが、積極的に活用できるケースは限られています。
誤った節税策は医師の信用を損なうリスクがある
医師は患者からの信頼だけでなく、社会的にも高い倫理性を求められる職業です。万が一、節税目的での不正申告や過度な節税スキームが発覚すると、税務署からの処分だけでなく、医療機関や取引先からの信用失墜にもつながります。
法人化による節税を狙った「名ばかりMS法人」や、「実体のない家族への給与支払い」などは、実態が伴わない限りリスクが高く、安易な導入は避けるべきです。税務署はこうした節税スキームに敏感であり、実地調査の対象にもなりやすくなります。
専門家への相談でリスクを最小限に
税制は毎年のように改正され、複雑化する傾向があるため、自分だけの判断で処理を進めると見落としや誤認のリスクが高まります。
勤務医として安心して節税を実行するためには、医師の税務に詳しい税理士やファイナンシャルプランナーに定期的に相談することが望ましいです。高収入であるほど税額が大きくなりがちなため、正しい節税策を適用できるかどうかで最終的な手取り額に大きな差が出ます。
賢い税金対策で勤務医の手取り収入を最大化しよう
勤務医は高所得ゆえに税負担も重いため、合法的な税金対策によって手取り収入を最大化することが重要です。iDeCoやふるさと納税、各種控除のフル活用によって所得税・住民税を減らし、その分を資産形成や将来の備えに回せます。2025年の税制改正で基礎控除や給与所得控除が拡充されたことも追い風と言えるでしょう。ただし、節税とはいえ法を逸脱する行為や行き過ぎたスキームは厳禁です。税務コンプライアンスを遵守しつつ、勤務医ならではの節税策を賢く実践して収入アップと将来の安定に役立てていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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