• 作成日 : 2025年10月24日

一人法人でできる節税対策は?実践すべきテクニックや注意点を解説

一人で法人を設立して事業を運営する「一人法人」は、事業の自由度が高いだけでなく、税制面でも個人事業主にはない大きなメリットを持っています。法人税率の優遇、役員報酬の調整、家族への給与支給、退職金制度の活用など、適切に制度を使えば節税効果は高くなります。

本記事では、一人法人が実践できる節税方法と注意点を解説します。

一人法人とは?

一人法人とは、経営者ひとりで設立・運営する法人形態です。株式会社や合同会社などの形式を取り、法的には法人格を持ちながらも、実質的には個人で事業を行う小規模企業がこれに該当します。

法人には法人格があり、法律上、個人とは別の存在として認められます。法人名義で契約や資産の所有が可能であり、取引先からの信用力が高まる傾向があります。代表者は「代表取締役」や「代表社員」となり、自らの意思で経営を行いますが、法的には「会社」という枠組みの中で事業が展開されます。

一人法人が節税に有利な理由は?

一人法人が節税に強いと言われる理由は、法人ならではの税制度をフル活用できる点にあります。以下に、その代表的な仕組みや制度を解説します。

法人税率は個人の高所得税率より低い

法人の課税は、利益に対して法人税が課されます。中小法人では所得800万円以下の部分に15%の軽減税率が適用され、それを超える部分には国税の法人税率23.2%が適用されます。

一方、個人事業主の高所得層では所得税45%に住民税10%を加え、合計で税率が50%前後に達することがあり、一定収益を超えると法人化による税率差が大きくなる可能性があります。

給与所得控除と基礎控除で課税所得を圧縮できる

一人法人では、法人から受け取る役員報酬に対して給与所得控除基礎控除を適用できます。2025年12月施行の改正により、給与所得控除は65万円、基礎控除は58万円に引き上げられました。合計123万円までは所得税が非課税となるため、役員報酬を適切に設定することで、個人の税負担を抑えながら法人の損金として経費処理することが可能です。

家族に給与を支給して所得分散ができる

一人法人では、配偶者や子どもに給与を支給することで、所得の分散が可能です。家族で事業に従事している場合、それぞれに適正額の給与を支給し、給与所得控除と基礎控除を活用すれば、同じ収入でも世帯全体の税負担を軽減できます。2025年の改正により、配偶者控除の対象となる年収上限は103万円から123万円に引き上げられ、さらに有利になっています。

経費にできる支出の幅が広い

法人では、個人事業主よりも経費として計上できる範囲が拡大します。役員退職金、生命保険料の一部、出張日当、社宅制度など、法人ならではの仕組みを活用することで、課税所得を効果的に削減可能です。社宅制度では、法人が家賃を負担し、個人は定められた賃料相当額を支払えば、家賃の多くを法人経費にできるため、個人の住居費負担を軽減できる場合があります。

欠損金の繰越期間が10年間と長い

一人法人では、赤字(欠損金)が出た場合、その損失を10年間繰り越して将来の黒字と相殺できます。個人事業主の青色申告でも繰越期間は最長3年に過ぎず、この点でも法人の方が長期的に有利です。創業直後などで一時的な赤字が発生した場合、法人であればその後の収益と相殺しやすく、安定した税務戦略が立てられます。

消費税や共済制度などの特例を使いやすい

年間売上が1,000万円以下の新設法人は、要件を満たせば設立から最長2期分の消費税が免除されるケースがあります。また、小規模企業共済経営セーフティ共済などの制度に加入することで、掛金を損金として計上しつつ、将来の資金準備にも活用できます。倒産防止共済では、月額20万円まで、年間240万円を全額経費として処理でき、節税と資金繰りの両立が可能です。

一人法人で活用できる節税方法は?

一人法人には、法人ならではの制度や仕組みを利用した節税手段があります。以下に、節税方法を解説します。

役員報酬を最適に設定して所得配分を調整する

役員報酬の金額設定は、節税効果に直結する重要なポイントです。法人に残す利益と、代表者に支給する役員報酬のバランスを取ることで、法人税と所得税のトータル負担を最小限にできます。2025年12月の改正により、給与所得控除65万円+基礎控除58万円=123万円までは所得税が非課税となります。また、年収160万円程度までであれば控除の加算により非課税が維持されるケースもあります。

例えば、役員報酬を月10~13万円(年120~160万円)に設定すれば、法人側は経費計上でき、個人側も非課税枠を活かせます。注意点として、報酬は毎月同額で支給する「定期同額給与」である必要があります。不定期な支給や期中の変更は損金算入できなくなるため、設定時は慎重に検討しましょう。

家族に給与を支給して所得を分散する

家族に給与を支給することで、所得を複数人に分け、累進課税の圧縮が可能です。配偶者の給与収入が123万円以下であれば、所得税はかからず、配偶者控除(最大38万円)や配偶者特別控除(最大48万円)も活用できます。また、2025年の改正により、大学生など19~22歳の子には特定親族特別控除が創設され、年収150万円まで扶養控除(63万円)が適用されるようになりました。

給与の支払いは業務内容に見合った「適正額」であることが前提で、実態のない給与や過大な金額は経費として否認される恐れがあるため、業務内容・労働時間の記録を残すことが大切です。

役員退職金を活用して将来の税負担を軽減する

法人は、代表者に対して退職金を支給できます。この退職金は法人の損金となる一方、受け取る個人側では退職所得扱いとなり、大幅な税制優遇があります。勤続30年の場合、退職所得控除は1,900万円となり、それを超えた部分についても課税対象額は1/2に圧縮されます。

長期的な節税スキームとして、利益を留保し、将来の退任時に退職金として支給することで、法人税を大きく削減することが可能です。ただし、規定の整備と合理的な支給額の設定が必要です。

社宅制度や福利厚生費を経費に振り替える

自宅を社宅扱いにし、法人名義で契約・家賃を支払うことで、家賃の一部を法人経費として処理できます。社長は税法上定められた「賃料相当額」を自己負担し、それ以外を法人が負担することで節税が可能です。

また、出張旅費規程を整備し、合理的な日当額を定めれば、支給される日当の一部が非課税として認められます。実費以上の日当を支給することで、個人の所得税を発生させずに法人経費として処理できます。

欠損金の繰越で利益変動に備える

一人法人では、赤字(欠損金)が出た場合、その損失を最長10年間繰り越すことができます。個人事業主は3年までの繰越しか認められておらず、この差は非常に大きなメリットです。創業初期や景気変動によって生じた赤字を、将来の黒字と相殺して法人税を抑えることが可能です。

共済や保険を活用して利益を繰延べ・圧縮する

経営セーフティ共済(倒産防止共済)では、掛金月額20万円(年間最大240万円)までを損金として算入可能です。ただし、2024年10月以降は、解約から2年以内の再加入分については損金算入が認められない改正があるため、注意が必要です。

また、生命保険や小規模企業共済も有効です。小規模企業共済は最大月額7万円までの掛金を所得控除でき、退職金準備と節税を同時に叶える制度です。これらの制度は長期的な視点で活用することが望ましく、資金繰りとバランスを取りながら導入するのが効果的です。

一人法人が節税対策を行う際の注意点

一人法人は多様な節税策を活用できる反面、制度の理解不足や過度な節税志向により、思わぬ落とし穴にはまるケースもあります。ここでは、節税を行う上で見落としがちな注意点を整理します。

節税しても手元資金が増えるとは限らない

節税とは「税額を減らす手段」であり、「可処分所得を増やすこと」とは必ずしも一致しません。法人に利益を残して税率を低く抑えても、役員報酬を抑えた結果、経営者自身の生活資金が足りなくなるケースもあります。また、法人に利益を溜め込んでも、いずれ配当や清算時に課税されるため、完全な節税とはなりません。税負担の軽減と手元資金の確保の両面を意識し、収支バランスを見ながら節税額を最適化する必要があります。

法人化によって発生するコストと義務を把握する

法人化により節税が可能となっても、新たに発生する固定費や法的義務が増える点に注意が必要です。会社設立には登録免許税や定款認証料などで約20万円の初期費用がかかり、維持には法人住民税の均等割も毎年発生します。さらに、決算や申告も複雑になるため、税理士への顧問料が必要になることが多いです。

また、社会保険への加入義務も見落とされがちです。たとえ従業員がいない一人法人であっても、役員報酬を支給している場合は厚生年金・健康保険の加入が求められます。法人化によるメリットだけでなく、コストと義務を含めた総合的な判断が求められます。

節税を目的化せず、本業とのバランスを重視する

節税は経営の中の手段であり、目的になってはなりません。税負担を減らすことに固執しすぎると、必要な投資や支出を先延ばしにしてしまい、事業成長の機会を失う可能性があります。節税を優先するあまり、採用や広告費を削るようでは本末転倒です。また、実態のない取引や家族への架空給与などは脱税と見なされ、重大な法的リスクを招きます。節税はあくまで法律の範囲内で、事業の健全な発展と両立する形で行うことが重要です。

節税しながら資産を法人に残す方法は?

一人法人で節税を実現しつつ、資産を法人に残すためには、経費処理や名義管理、税制上のルールを正しく理解する必要があります。ここでは、法人に資産を残す代表的な方法を解説します。

法人名義で資産を取得し経費計上する

法人名義で業務用資産を購入すると、購入費用を経費として処理できるケースが多く、節税につながります。たとえば、業務用のPCやスマートフォン、車両、什器備品などは、使用目的が明確であれば法人の減価償却資産として計上可能です。10万円以上の資産は原則として耐用年数に応じて減価償却されますが、中小企業者の特例で30万円未満なら全額即時償却も認められます(年間300万円まで)。

保険や不動産で将来の法人資産形成を図る

節税と資産形成を両立する手段として、法人契約の生命保険や法人名義での不動産取得も検討に値します。生命保険では、一定条件を満たす商品に限り保険料の一部を損金算入できます。解約返戻金のあるタイプを選べば、退職金や非常時の資金としても機能します。不動産を法人名義で取得した場合、減価償却や修繕費の損金処理が可能となり、長期的な資産形成と節税効果を同時に得られます。

法人資産と個人資産の混同を避ける

資産を法人に残す際は、名義と実態の一致が重要です。たとえば法人名義で取得した車を私用中心に使うと、経費として否認されるリスクがあります。また、法人資産を個人で自由に使うと「役員賞与」と見なされ課税対象となる場合もあります。帳簿・証憑の管理を徹底し、使用目的・費用負担を明確に区分することが不可欠です。

一人法人の節税は計画的に設計しよう

一人法人は、税率の低さや控除の活用、経費計上の幅広さなど、個人事業主にはない多くの節税メリットを持っています。役員報酬の最適化や家族給与、退職金・共済制度の活用など、戦略的な工夫によって税負担を抑えることが可能です。ただし、制度にはルールとリスクも伴うため、やりすぎや誤用には注意が必要です。節税を手段として捉え、最新の制度に基づき、無理のない範囲で継続的に見直し・実行していきましょう。


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