- 作成日 : 2025年9月16日
個人年金で節税する方法は?控除の仕組みや保険選びのポイントを解説
将来の生活に備えて老後資金を積み立てたいと考える方にとって、個人年金保険は有効な手段の一つです。なかでも、税制上の優遇措置である「個人年金保険料控除」を活用すれば、所得税や住民税の負担を軽減しながら効率よく資産形成を進めることができます。ただし、すべての保険が控除の対象になるわけではなく、適用条件や控除の仕組みを理解して選ぶことが大切です。
本記事では、節税に活かせる個人年金保険の基本や注意点を解説します。
目次
個人保険の基本
将来に備えて保険を検討する際、「個人保険」や「個人年金」という言葉を耳にすることがあります。ここでは、個人保険とは何か、そして個人年金保険が適している人について解説します。
個人保険とは
個人保険とは、民間の保険会社が提供する個人向けの保険商品を指します。主に死亡保障・医療保障・がん保険などの「保障型保険」と、老後資金や学資金を準備するための「貯蓄型保険」に分けられます。契約者が毎月保険料を支払い、万が一のリスクが発生したときや、一定の条件を満たしたときに保険金や給付金を受け取る仕組みです。保障内容や受取条件は保険商品ごとに異なり、ライフステージや家族構成、収入などに応じて必要な保障内容を選ぶことができます。
個人年金に入るべきケース
個人年金保険は、老後の生活資金を計画的に準備したい人に向いています。特に自営業者やフリーランスのように厚生年金に加入しておらず、公的年金が国民年金のみの人にとっては、老後の年金額が少なくなる可能性があるため、個人年金での上乗せが有効です。また、会社員であっても退職金制度が整っていない場合や、将来の生活にゆとりを持ちたい人にも適しています。さらに、個人年金保険料控除を活用して節税したいと考える人や、長期的に安定した積立を望む人にも相性の良い制度です。保険商品によっては税制優遇の対象外となるものもあるため、加入時には税制適格要件を確認し、自分に合ったプランを選ぶことが大切です。
個人年金保険で節税できる仕組み
個人年金保険は老後資金を積み立てる手段であると同時に、所得控除を通じた節税にも役立つ制度です。適切な商品を選び、控除申告を行えば、所得税・住民税の負担を軽減することが可能です。ここでは仕組みと注意点について解説します。
個人年金保険料控除とは
個人年金保険料控除は、生命保険料控除の一つで、その年に支払った保険料額に応じて所得から差し引ける制度です。会社員は年末調整、自営業者やフリーランスは確定申告で申請します。控除を受けることで課税所得が下がり、翌年の所得税・住民税が軽減されます。なお、個人年金保険料控除は「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」と並ぶ3区分の一つです。年末調整や確定申告時には、保険会社から届く控除証明書を添付して提出する必要があります。
控除額の上限と節税効果
2012年1月1日以降に契約した個人年金保険については、所得税の控除上限が年間4万円、住民税は2万8,000円です。たとえば年間で8万円以上の保険料を支払えば、最大額の控除を受けられる仕組みです。3つの生命保険料控除枠をすべて活用すると、所得税では最大12万円、住民税では最大7万円までの控除が可能になります。
たとえば、課税所得が高く税率が20%の人であれば、4万円の所得控除で所得税が8,000円軽減されます。住民税(10%)では、2万8,000円の控除で約2,800円の節税です。額としては小さく感じられるかもしれませんが、毎年継続して適用されるため、長期的には無視できない効果をもたらします。
控除を受けるための適用条件
個人年金保険料控除を受けるには、契約している保険が税制適格条件を満たしている必要があります。多くの保険では「個人年金保険料税制適格特約」が付加されており、以下の要件を満たすことが求められます。
- 年金の受取人が契約者本人またはその配偶者であること
- 年金受取人が被保険者本人であること
- 保険料の払込期間が10年以上であること
- 年金の受取開始年齢が60歳以上、かつ受取期間が10年以上であること
つまり、長期にわたる老後の資金準備として機能する契約であることが前提となります。一括払い(払込期間1年未満)の商品や、短期の年金受取設計の場合は適用されないため、契約内容の確認が欠かせません。万一、適格特約が付いていない場合でも、一般生命保険料控除として申請は可能ですが、個人年金保険料控除の枠は使えません。
控除の申請と証明書の提出を忘れずに
個人年金保険料控除を利用するには、保険会社が発行する「保険料控除証明書」をもとに申告手続きを行う必要があります。会社員の方は年末調整時に勤務先へ、個人事業主やフリーランスは確定申告書に添付することで控除が反映されます。証明書は毎年秋頃に届くことが多いため、誤って廃棄したり、提出を忘れたりしないよう管理しておくことが大切です。
節税につながる個人年金の選び方のポイント
個人年金保険は老後資金の備えとしてだけでなく、税制上の優遇措置を活用した節税にもつながります。ただし、どの保険でも控除の対象になるわけではなく、選び方を誤ると期待した節税効果が得られないこともあります。ここでは、節税目的で個人年金を選ぶ際のポイントを解説します。
税制適格特約があるかを確認する
節税効果を得るには、「個人年金保険料控除」の対象となる契約である必要があります。その条件のひとつが、「税制適格特約」が付いていることです。この特約がある保険は、受取人が契約者本人または配偶者、受取開始年齢が60歳以上、受取期間が10年以上、払い込み期間も10年以上といった条件を満たしている必要があります。税制適格でない契約では、個人年金保険料控除が受けられないため、契約前に必ず確認しましょう。
支払う保険料と控除の上限を把握する
個人年金保険料控除には、所得税で年間4万円、住民税で2万8,000円の上限があります。年間8万円以上の保険料を支払うことでこの上限に達する計算ですが、支払額が控除限度額を大きく超えても節税効果はそれ以上にはなりません。そのため、節税目的での加入であれば、無理のない範囲で上限に近い金額を目安にするのが効率的です。老後資金の目的とあわせて、支払総額と節税効果のバランスを意識することが重要です。
長期の資金拘束リスクを考慮する
個人年金保険は、原則として長期間にわたり保険料を支払い、年金として一定期間受け取る仕組みです。途中で解約すると元本割れのリスクがある商品も多いため、資金の流動性に余裕があるかどうかを事前に確認する必要があります。無理なく続けられる保険料設定で加入し、節税効果と将来の備えを両立できるプランを選ぶことが、後悔のない保険選びにつながります。
個人事業主が個人年金保険料控除を利用する流れ
個人事業主が個人年金保険料控除を利用するには、確定申告の際に適切な手続きを行う必要があります。まず、対象となる保険契約であるかを確認し、契約している保険会社から「保険料控除証明書」が届いていることを確認します。これは毎年10月~11月頃に郵送されるのが一般的です。
次に、確定申告書の「生命保険料控除」の欄に、個人年金保険料の支払額と証明書に記載された内容を記入します。控除額は支払保険料に応じて自動計算され、所得税・住民税の負担を軽減します。控除証明書は、確定申告書とともに提出、または電子申告(e-Tax)時にデータ添付が必要です。申告の際には、証明書を紛失しないよう保管し、正確に記入することが大切です。
会社員が個人年金保険料控除を利用する流れ
会社員が個人年金保険料控除を利用するには、通常「年末調整」で手続きを行います。まず、保険会社から送付される「保険料控除証明書」を10月〜11月頃に受け取り、大切に保管しておきましょう。年末調整の時期に、勤務先から配布される「給与所得者の保険料控除申告書」に、証明書の内容に従って個人年金保険料の支払額を記入します。
その後、証明書を申告書に添付して会社へ提出すれば、年末調整時に所得控除が反映され、源泉徴収税額が調整されます。控除額は所得税で最大4万円、住民税で最大2万8,000円です。年末調整に間に合わなかった場合でも、翌年の確定申告で控除を受けることは可能です。控除証明書は提出時に必須なので、紛失しないよう保管し、記入ミスがないよう注意しましょう。
個人年金より節税効果大?小規模企業共済も活用しよう
自営業者やフリーランスが節税と老後資金準備を両立させたいと考えるなら、「小規模企業共済」は有力な選択肢です。ここでは、仕組みとメリット、加入条件について解説します。
小規模企業共済の仕組みと税制メリット
小規模企業共済では、加入者が毎月掛金を積み立て、将来廃業や退職したときに共済金を受け取る仕組みです。掛金は月1,000円から7万円まで設定可能で、事業の状況に応じて増減できます。最大の節税メリットは、掛金が「小規模企業共済等掛金控除」としてその年の所得から全額控除される点にあります。
たとえば、年間60万円を積み立てれば、その分課税所得が圧縮され、所得税率20%、住民税率10%の方であれば合計18万円程度の税負担が軽減されます。さらに、共済金を一括で受け取る場合は税法上の「退職所得」となり、勤続年数に応じた「退職所得控除」が適用されるため、税負担が大きく軽減されます。加入期間が20年なら800万円、30年なら1,500万円までが非課税枠となります。このため、掛金総額が控除額の範囲内であれば、結果的に全額が非課税となるケースもあります。
分割受取を選んだ場合でも「公的年金等控除」が適用されるため、受け取り時の税金も抑えられます。
また、積み立てた掛金の範囲内で低金利の事業資金貸付けを利用できるなど、資金繰りの面でも柔軟な支援を受けられるのが特徴です。
加入条件と活用上の注意点
小規模企業共済に加入できるのは、常時使用する従業員が商業・サービス業で5人以下、製造業などで20人以下の個人事業主または法人役員です。開業届を提出し、事業所得で確定申告しているフリーランスも加入可能です。法人化しても役員として要件を満たしていれば継続加入できます。
注意点としては、途中解約や任意の引き出しには制限があり、原則として廃業や退職時、または65歳以上になって退任したときに受け取るのが基本です。それ以前に解約した場合は、解約手当金が元本を下回る可能性があるため、短期での利用には不向きです。掛金の減額や休止も可能ですが、継続期間が短いと共済金の受取額が不利になることもあります。
ただし、計画的に積み立てる前提であれば、確実な資金形成と大きな節税効果を同時に実現できる有利な制度です。安定した収入があり、将来の退職金や老後資金を見据える個人事業主や小規模経営者には、積極的に活用を検討する価値があります。
個人年金以外の節税策として法人化も検討しよう
個人年金やiDeCo、小規模企業共済などの制度を活用すれば、効果的に老後資金を準備しながら節税も実現できます。しかし、所得が増えてくると、さらなる節税策として「法人化(会社設立)」を検討する段階に入ります。年間の事業所得が800万円〜1,000万円を超えるようなフリーランスや個人事業主にとって、法人化は大きな節税効果をもたらす可能性があります。
法人化による税率メリット
個人の所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が高くなり、最高税率は45%(住民税を含めると約55%)にも達します。一方、法人税率は企業の規模によって異なります。資本金1億円以下の中小法人の場合、所得のうち年800万円以下の部分には15%の軽減税率が適用され、800万円を超える部分の税率は23.2%です。このため、所得規模によっては個人事業より税負担を抑えられる可能性があります。
たとえば、個人事業で所得税率が33%になるようなケースでも、法人税率が23%で済めば10%の差が生まれます。
経費計上と所得分散の幅が広がる
法人化すると、個人事業では経費にしづらかった支出も、会社の経費として計上できるケースが増えます。代表例として「役員報酬」があり、自分に対して支払う報酬を法人の損金(経費)として落とせるようになります。さらに、その役員報酬を受け取る側では「給与所得控除」が使えるため、実質的に二重で節税効果を得られる仕組みです。
加えて、家族を役員や従業員として雇用し、適正な給与を支払うことで所得を家族内に分散できます。高額所得を分散すれば、それぞれに適用される税率が低くなるため、世帯全体での税負担が抑えられます。
法人化のタイミングと注意点
法人化の適切なタイミングは、課税所得が毎年1,000万円を超えるようになった頃が目安とされています。ただし、法人化すれば決算書の作成や法人税申告、社会保険加入義務など新たな事務負担が生じ、税理士報酬や法人維持費もかかります。また、法人化した場合、赤字であっても地方税(法人住民税均等割)7万円が必ず発生します。そのため、節税効果がこれらのコストを上回ることを見極めてから判断することが重要です。
個人年金を活用した節税は、賢く選んで長く続けよう
個人年金保険は、老後資金の備えとともに所得控除による節税効果が期待できる制度です。税制適格特約が付いた契約を選び、毎年の控除申請をきちんと行うことで、所得税や住民税の負担を軽減できます。ただし、すべての保険が控除対象ではないため、加入時には条件をよく確認することが重要です。支払額と節税効果のバランス、資金拘束期間も考慮し、自分の収支状況に合った無理のない計画で、将来の安心と節税を同時に実現していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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