- 作成日 : 2025年6月20日
法人化で経費にできるものは?会社設立前の経費や家事按分の仕訳なども解説
「法人化すると経費にできる範囲が広がるって本当?」「個人事業主と比べて、どんなメリットがあるの?」
個人事業主として事業が軌道に乗り、次のステップとして「法人化」を検討し始めると、このような経費に関する疑問が次々と湧いてくるのではないでしょうか。確かに、法人化は経費の取り扱いにおいて個人事業主とは異なる点が多く、高い節税効果も期待できる一方で、知っておくべきルールや注意点も存在します。
この記事では、法人化によって経費の取り扱いがどのように変わるのか、経費にできるものの具体例、設立前の経費の扱い、そして「法人化して後悔した…」とならないための重要なポイントまで分かりやすく解説します。
目次
法人化で経費にできる範囲は広がる?
法人化を検討する大きな理由の一つに、「経費として認められる範囲が広がる」という点が挙げられます。しかし、具体的にどのように変わるのか、正しく理解しておくことが重要です。
個人事業主の経費の範囲
個人事業主の場合、経費として認められるのは「事業を行う上で直接的に必要な費用」に限られます。例えば、仕入れ費用、消耗品費、旅費交通費、通信費、広告宣伝費などが該当します。
しかし、個人事業主には経費として計上できない費用も存在します。代表的なものが、事業主自身への給与や退職金、生命保険料、福利厚生費などです。また、自宅兼事務所の場合の家賃や水道光熱費などは、事業で使用している割合を合理的に按分(家事按分)して経費に計上する必要があり、その線引きが難しいケースもあります。
法人化による経費の範囲
法人化すると、法律上、会社と経営者個人は別人格として扱われます。これにより、個人事業主では経費にできなかった費用が、法人では経費として認められるようになるのです。
具体的には、経営者自身への給与(役員報酬)、役員や従業員の退職金、会社が契約者となる生命保険料(一定の条件あり)、社宅の家賃補助、社員旅行などの福利厚生費などが経費として計上可能になります。これらは、法人という組織を運営し、従業員の労働環境を整備するために必要な費用と考えられるためです。
法人化すると経費にできるもの
ここでは、法人化によって経費として計上しやすくなるもの、あるいは新たに経費として認められるものの具体例を、注意点と合わせて解説します。
役員報酬・従業員給与
法人が経営者本人や家族従業員、その他の従業員へ支払う給与は、全額経費として計上できます。ただし、役員報酬は定款または株主総会の決議で金額を決定し、原則として事業年度中は毎月同額を支給する必要があります(定期同額給与)。役員報酬が不相当に高額な場合は否認されるリスクがあります。
社会保険料
役員や従業員に対する、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などの社会保険料の会社負担分も全額経費となります。個人事業主の場合は国民健康保険料や国民年金保険料は事業主個人の社会保険料控除であり、事業の経費にはなりません。
オフィスの家賃・水道光熱費・通信費
事務所や店舗の家賃、電気代、水道代、ガス代、インターネット料金、電話代などは、事業に必要なものとして全額経費にできます。
車両費
業務で使用する社用車の購入費用(減価償却)、自動車税、保険料、ガソリン代、駐車場代、修理費なども経費として計上できます。ただし、役員が個人的にも使用する場合は、その分を按分するなど、公私混同を避ける必要があります。
接待交際費
取引先との会食、贈答品、慶弔費などが該当します。個人事業主の場合は必要経費に計上する際の上限額はありません。一方、法人の場合は損金算入(税法上の経費として認められること)できる金額に上限が設けられています(資本金1億円以下の中小企業の場合、年間800万円まで、または接待飲食費の50%相当額まで)。上限を超えた分は経費として認められません。
旅費交通費
業務のための出張にかかる交通費、宿泊費は経費となります。さらに、法人では「出張手当(日当)」を支給することができます。これは出張中の食事代や諸雑費の実費弁償的なもので、旅費規程を整備し、社会通念上妥当な金額であれば、受け取る側は非課税所得となり、支払う法人側は経費として計上できます。
福利厚生費
従業員の労働環境改善やモチベーション向上のための費用です。
- 社宅:会社が借り上げた物件を役員や従業員に貸し出す場合、家賃の一部を会社が負担し、経費にできます(役員や従業員からも一定の家賃を徴収する必要あり)。
- 健康診断費用:役員や従業員の健康診断費用は経費となります。
- 社員旅行:全従業員を対象とし、社会通念上妥当な金額・期間であれば福利厚生費として認められる場合があります。
広告宣伝費
会社の製品やサービスを宣伝するための費用(ウェブサイト制作費、パンフレット作成費、広告掲載料など)は経費となります。
研修費・新聞図書費
役員や従業員のスキルアップのための研修費用や、業務に必要な書籍・新聞の購入費用も経費となります。
消耗品費
文房具、コピー用紙、トナーカートリッジなど、短期間で使用する物品の購入費用です。10万円未満の備品であれば、一括で経費計上できます。
支払利息
事業資金の借入金にかかる利息は経費となります。
減価償却費
パソコン、機械装置、車両運搬具などの高額な固定資産(通常10万円以上)は、購入時に全額を経費とするのではなく、資産計上してから耐用年数に応じて複数年で分割して経費計上します。これを減価償却といいます。
生命保険料
会社が契約者・保険料負担者となり、役員や従業員を被保険者とする生命保険の保険料は、保険の種類や契約形態によって、全額または一部を経費にできます。法人が加入する保険は万が一の備えになりますが、保険金や解約返戻金を受け取った際は、法人税の課税対象となる点に注意が必要です。
損害保険料
火災保険、自動車保険、賠償責任保険など、事業活動にかかわる損害保険料は経費となります。
会社設立前に発生した経費の扱い
会社設立前に、設立のために支出した費用を「創立費」、設立後から事業を開始するまでの準備期間に支出した費用を「開業費」といいます。
- 創立費:定款認証手数料、設立登記の印紙代、設立前の社員給料、設立前の事務所賃借料など
- 開業費:事務所契約時の仲介手数料、名刺・会社案内の作成費用、広告宣伝費、市場調査費、従業員の採用費、研修費、事業開始に必要な備品(例:パソコン、事務机など)の購入費用など
これらの費用は、会社設立後の最初の事業年度に経費として計上できます。「いつから」という明確な日付の規定はありませんが、設立の意思決定がなされてから、実際に設立準備のために支出した合理的な費用が対象となります。
設立前の経費を計上するためには、以下の点に注意が必要です。
- 領収書や契約書などの証憑書類を必ず保管する:支払いの事実と内容を証明するために不可欠です。宛名は個人名ではなく、設立予定の会社名(または発起人代表など)で発行してもらうのが理想ですが、個人名でも事情を説明できれば認められることもあります。
- 支出の内容を記録しておく:何のために、いつ、いくら支払ったのかを明確にしておきましょう。
- 個人のお金で立て替えた場合は精算処理を行う:会社設立後に、会社から個人へ立て替えた経費を精算します。
創立費・開業費は、会計上「繰延資産」として計上し、任意の期間で償却(費用化)することができます(任意償却)。早期に費用化して利益を圧縮することも、数年かけて償却することも可能です。
法人の家事按分と仕訳のポイント
家事按分とは、一つの支出の中に事業用と私用の両方の部分が含まれている場合に、事業用部分のみを経費として計上するための計算方法です。法人においても、この考え方は基本的に個人事業主と同様ですが、法人には家事按分という概念が存在せず、基本的には事業に関連した支出のみを経費計上します。
家事按分の対象となる費用の例
- 家賃
- 水道光熱費(電気代、水道代、ガス代)
- 通信費(インターネット料金、固定電話料金)
- 自動車関連
- 固定資産税(持ち家の場合)
按分割合の決め方の例
- 家賃:事業で使用している部屋の面積割合(例:総床面積100平方メートルのうち、20平方メートルを事務所として使用 → 事業割合20%)で按分します。
- 水道光熱費・通信費:使用時間やコンセントの数など、実態に即した合理的な基準で按分します。明確な区分が難しい場合は、面積割合などを参考にすることもあります。
家事按分で注意すべき税務調査のリスク
家事按分は税務調査でチェックされやすいポイントの一つです。按分割合が客観的に見て不合理であったり、根拠が曖昧であったりすると、経費の一部が否認されるリスクがあります。
- 事業実態と乖離した過大な按分割合
- 按分根拠の資料(図面、使用記録など)の不備
これらを避けるためにも、専門家である税理士に相談し、適切な処理を行うことが賢明です。
法人化の経費計上のメリットを最大限に活かすポイント
法人化によって経費にできる範囲が広がることを活かし、賢く節税につなげる方法がいくつかあります。
役員報酬の最適化
役員報酬は法人の経費として計上できるため、所得分散効果でトータルの税負担を軽減できる可能性があります。個人の所得税は所得が多いほど税率が上がる累進課税制度に対し、法人税は所得の大きさにかかわらず税率:23.20%(中小企業の年800万円以下の所得部分については15%に減額)が適用され、所得金額によっては法人税率の方が低い税率が適用されるためです。ただし、役員報酬を高額に設定すると、会社の社会保険料の負担も増えるため、慎重に決定する必要があります。
出張手当(日当)の活用
旅費規程に基づいて適切な範囲で支給される出張手当は、法人にとっては経費となり、受け取る役員や従業員にとっては非課税所得となります。実費精算の手間を省きつつ、節税効果も期待できるため、積極的に活用したい制度です。
社宅制度の導入
会社が物件を借り上げ、役員や従業員に社宅として貸し出すことで、家賃の一部を法人の経費にできます。役員や従業員は相場よりも安い家賃で住むことができ、会社は福利厚生の充実と節税の両立が図れます。ただし、役員や従業員から一定額以上の家賃(賃料相当額)を徴収する必要があります。
生命保険の活用
会社が契約者となる生命保険の中には、保険料の一部または全額を経費に計上できるものがあります。これにより、役員の万が一の際の保障を確保しつつ、同時に節税効果も期待できます。ただし、保険金や解約返戻金を受け取った際は、法人税の課税対象になります。
赤字の繰越控除(最大10年間)
法人は、事業年度で発生した赤字(欠損金)を、翌年度以降最大10年間(2018年4月1日以降開始事業年度の場合)にわたって繰り越し、将来の黒字と相殺することができます。これにより、将来の法人税負担を軽減できます。個人事業主の場合は青色申告で3年間です。
「法人化して後悔した…」とならないための注意点
法人化による経費面のメリットは大きいですが、ルールを無視した安易な経費計上は、後に大きな問題を引き起こす可能性があります。「法人化して後悔した」とならないために、以下の点に十分注意しましょう。
経費計上のルールと証憑書類の保管義務
法人の経費計上には、税法や会社法で定められたルールがあります。これらのルールを遵守し、全ての取引について領収書、請求書、契約書などの証憑書類を整理・保管する義務があります。証憑書類がなければ、たとえ実際に支出があったとしても経費として認められない可能性があります。
交際費の上限と損金不算入のリスク
前述の通り、法人の交際費には損金算入できる上限があります。上限を超えた部分は経費として認められず、法人税の負担が増えることになります。また、私的な飲食費などを交際費として計上することも問題です。
私的利用とみなされる経費の否認リスク
社長や役員の個人的な支出を会社の経費として計上することは、最も税務調査で指摘されやすいポイントです。例えば、家族旅行の費用、個人的な趣味の物品購入、生活費の肩代わりなどは、事業との関連性が認められず、経費として否認されます。場合によっては、役員賞与とみなされ、法人税や個人の所得税で追加負担が発生することもあります。
税務調査で指摘されやすいポイント
- 実態のない経費の計上:架空の経費や水増し請求など
- 公私混同:社長のプライベートな支出を経費に含めている
- 交際費の内容:私的な飲食や贈答が疑われるもの
- 役員報酬の妥当性:会社の業績や同業他社と比較して不相当に高額な場合
賢い経費計上で法人化のメリットを享受しよう
法人化は、経費にできる範囲が広がり、様々な節税の選択肢が増えるという大きなメリットがあります。役員報酬の活用、社宅制度の導入、出張手当の支給など、個人事業主では難しかった経費戦略も可能になります。
しかし、なんでも経費にできるわけではなく、あくまで事業に関連する費用であることが大前提です。ルールを無視した不適切な経費計上は、税務調査で指摘を受け、かえって大きな損失を被る可能性もあります。
法人化のメリットを最大限に享受するためには、経費に関する正しい知識を身につけ、証憑書類の管理を徹底し、公私混同を避けることが不可欠です。そして何よりも、信頼できる税理士をパートナーとして、適切なアドバイスを受けながら経理・税務処理を行うことを強くおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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