- 更新日 : 2025年10月24日
民泊の経営で節税するには?青色申告・減価償却・法人化について解説
副業として民泊を始めた方、本業として本格的に運営している方、いずれにとっても「節税」は収益を守る重要なテーマです。民泊には所得税・住民税・消費税に加え、物件の所有状況や運営地域により固定資産税・宿泊税も関係してきます。
本記事では、民泊経営に役立つ節税対策を解説します。
目次
民泊の収入にかかる税金は?
民泊の収入には、主に所得税・住民税・消費税がかかり、物件の所有状況や地域によっては固定資産税や宿泊税も発生します。運営スタイルや収益規模に応じて課税対象や税率が異なるため、税の種類と特徴を正確に把握することが節税の第一歩となります。
【所得税・住民税】収入から経費を引いた所得に課税
民泊による利益には所得税が課され、確定申告が必要です。所得税は「収入-経費」で算出された金額に応じて段階的に税率がかかります。住民税は原則10%に均等割を加えて課税され、所得区分により控除の適用や損益通算の可否が異なります。副業レベルなら「雑所得」、本格的な運営なら「事業所得」に区分され、後者なら青色申告が可能です。また事業所得として認められて旅館業等の法定業種に当たる場合、一定額を超えると個人事業税(宿泊業は5%)も課税されます。
【消費税】売上が年間1,000万円を超えると課税対象に
短期宿泊としての民泊収入は、原則として消費税の課税対象です。ただし「基準期間」(2年前)の売上が1,000万円以下であれば免税事業者となります。なお、30日以上の貸し出しは「住宅の貸付け」と見なされ非課税となる点も重要です。課税事業者になる可能性がある場合は、将来的なインボイス制度への備えも必要です。
【固定資産税・宿泊税】所有物件や地域ごとに変動
民泊として使用する建物は、「住宅用地」の特例から除外される可能性があり、固定資産税が大幅に増額されることもあります。運営前には自治体に確認し、必要があれば住宅部分との併用などで対応するのが望ましいです。また、東京など一部自治体では、宿泊客から宿泊税を徴収し納付する義務もあります。これらも価格設定やゲスト対応に影響するため、考慮が必要です。
民泊の所得区分は?節税に有利な扱いを選ぶ方法
民泊の収入は、規模やサービス内容によって「雑所得」「事業所得」「不動産所得」のいずれかに区分されます。区分次第で控除や損益通算、青色申告の可否が異なり、節税効果に差が出ます。
副業・小規模運営なら「雑所得」に該当する場合が多い
空き部屋を時々貸す程度の民泊は、基本的に雑所得です。「月数回の短期貸し」「年間収入が数十万円程度」「届け出や許可がない個人運営」など、規模が小さく事業性が薄いケースが該当します。収入から必要経費を引いて申告する点は他の所得と同じですが、青色申告や特別控除が使えず、赤字を他の所得と相殺できないため、節税メリットは限定的です。
継続性・複数物件・届出ありなら「事業所得」が有利
複数の物件を運営している、年間を通じて予約を受けている、旅館業の許可や住宅宿泊事業の届出をしている、といった場合は「事業所得」に区分される可能性が高いです。この場合、青色申告が可能になり、最大65万円の特別控除や赤字の繰越控除(3年)、家族への給与の経費算入など、多くの節税策が利用できます。副業レベルから本格的な事業に移行したタイミングで、開業届や青色申告承認申請書を提出して事業所得として申告することがポイントです。
長期貸しや付帯サービスがほぼない場合は「不動産所得」
家具付きの部屋を30日以上の契約で貸す、清掃や備品提供などのサービスを伴わない、といったケースは「不動産所得」に該当する場合があります。普段は賃貸として貸している物件を一時的に民泊として使うような場合が典型です。不動産所得も青色申告特別控除が使え、損失の繰越も可能ですが、事業専従者給与は認められないため、家族への人件費による節税はできません。実際の民泊はサービス提供を伴うことが多く、不動産所得に該当する例は限定的です。
参考:住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業により生じる所得の課税関係等について|国税庁
個人が行う民泊に関する所得税法上の諸問題|国税庁
民泊の経費や減価償却を使った節税方法は?
民泊経営では、必要な支出を正しく「経費」や「減価償却費」として計上することが、節税のポイントです。以下では、どのような支出が経費にできるのか、また、初期投資が大きい民泊だからこそ重要な減価償却の活用方法について解説します。
民泊で経費にできる支出は?
民泊の収入を得るために必要な支出は、所得区分に応じて必要経費に算入できます。次のような費用が該当します。
- 清掃費・リネン費・備品費
ゲストの入れ替えごとに発生する清掃業者への報酬や、シーツ・タオルのクリーニング代、消耗品(アメニティ・日用品など)は全て経費になります。照明や小型家具なども原則経費として扱えます。 - 光熱水費・通信費
水道光熱費やWi-Fi通信費は民泊運営上不可欠なコストであり、経費算入可能です。自宅と兼用している場合は、面積や使用割合に応じた「按分計算」が必要です。 - プラットフォーム手数料・決済手数料
Airbnbや楽天LIFULL STAYなどへの仲介手数料や、クレジットカードの決済手数料もすべて経費に含められます。 - 損害保険料・広告宣伝費
民泊保険への加入費や、Web広告、ホームページ制作、写真撮影などの宣伝費も節税対象です。/li> - 地代家賃・固定資産税
物件を借りて運営する場合の賃料や地代、所有物件の場合の固定資産税や都市計画税も、使用面積や用途に応じて経費計上が可能です。 - 旅費交通費・車両費・交際費
ゲスト送迎、業者との打ち合わせに要した交通費、車の燃料代や保険料なども条件を満たせば経費になります。打ち合わせの飲食代などは「交際費」として処理します。
これらの支出を正確に記録し、領収書や請求書を保存しておくことで、税務署への説明もスムーズになります。なお、家事と共用する支出(車・携帯・パソコンなど)は合理的な按分が必要です。経費計上の漏れを防ぐだけでも、課税所得を減らせる可能性があります。
減価償却で高額な初期費用も段階的に経費化できる
民泊では、建物や設備、家具など初期費用が大きくなりやすく、それらは「減価償却」により複数年にわたって経費化します。
減価償却とは、耐用年数に応じて毎年一定額を費用として認識する会計処理です。次のような対象があります。
- 建物(民泊用住宅)
- 高額な内装工事(リフォーム)
- 家具・家電(ベッド、冷蔵庫、洗濯機など)
- 設備(エアコン、給湯器など)
築30年の木造住宅を取得した場合、法定耐用年数(22年)を超過しているため、4年などの短期間での償却が認められることもあります。これにより、購入費を数年で経費化し、所得を圧縮できるという仕組みです。
さらに、少額の資産(10万円未満)は購入時に全額を経費とすることが可能です。また、30万円未満の備品を年間300万円まで一括償却できる特例(中小企業の少額資産の特例)もあり、活用することで柔軟な節税が可能です。
ただし、損益通算などの税制優遇を受けるためには、「事業所得」または「不動産所得」での申告が必要です。「雑所得」扱いだと減価償却による赤字も他の所得と相殺できず、効果が限定されるため注意しましょう。
民泊事業を法人化すると節税になる?
民泊の収益が増えたタイミングで「法人化」を検討する方も多いでしょう。ここでは、民泊を法人化することで得られる節税効果と、注意点を解説します。
所得税より法人税の方が税率が低くなる場合がある
所得が一定以上になると、法人化によって節税効果が期待できます。個人事業主の所得税は累進課税制度により、最大税率は45%(住民税と合わせると最大55%)に達します。一方、法人税は中小企業であれば所得800万円まで15%、超過部分も約23%と低く抑えられます。そのため、事業所得が大きくなるほど、法人の方が有利な税率となる傾向があります。
経費計上や所得分散の幅が広がる
法人化により、節税できる経費の種類や所得分散の手段が増えるというメリットもあります。法人であれば自分に支払う役員報酬も損金(=経費)にでき、その分だけ法人の課税所得を減らせます。さらに、配偶者や家族を役員や従業員にして給与を支払うことで、所得を分散して課税を軽減することも可能です。
また、福利厚生費(例:従業員の交通費、出張手当など)や交際費の扱いも法人の方が柔軟で、法定の範囲内であれば全額損金として認められます。車両の購入や保険の活用なども、個人より法人の方が経費として通りやすい場合があります。
法人化によるデメリットにも注意
節税効果があるとはいえ、法人化にはコストや手間も伴います。法人を設立するには、登録免許税や定款認証などで初期費用が20万円前後かかり、税理士や司法書士に依頼する場合はさらに費用が発生します。設立後は、毎年必ず法人住民税(均等割、最低でも7万円)を納める必要があり、たとえ赤字でも免除されません。
また、法人で利益が出て、それを個人に移す場合には「配当」という形になり、法人税を支払った後に再び所得税がかかる「二重課税」の問題も発生します。つまり、利益をすべて個人に取り出したい場合には、節税効果が打ち消されることもあるという点には注意が必要です。
法人化の判断は「利益規模」と「再投資余地」が基準
民泊を法人化すべきかどうかは、節税だけでなく事業の将来像も踏まえて判断すべきです。
たとえば、年間の利益が500万円を超え、今後も複数の物件を拡大する予定がある場合は、法人化によって税率面・資金繰り面でのメリットが見込まれます。一方で、年100~200万円の小規模運営であれば、個人事業のままで青色申告による控除を活用した方が合理的なケースもあります。
民泊経営者には青色申告がおすすめ?
民泊を個人で営む場合、「青色申告」を活用することで大きな節税効果を得られます。設備投資や家族の協力が必要な民泊運営において、青色申告は相性の良い制度です。
初期投資が多い民泊に65万円控除は有利
民泊では、家具・家電、内装などの初期費用がかさむため、開業初期は所得が圧縮されやすくなります。青色申告を選んで要件を満たすことで、最大65万円の「青色申告特別控除」が適用され、利益が少ない年でも課税所得をほぼゼロに近づけられる可能性があります。
この控除を受けるためには、民泊の収支の複式簿記による記録やe-Taxを使った電子申告または電子帳簿保存制度の利用が求められますが、民泊経営を継続するなら十分に見合う効果があります。
家族の協力を経費にできる専従者給与
民泊では、家族が清掃やゲスト対応を手伝うことがよくあります。青色申告なら、配偶者や親族への給与を「専従者給与」として必要経費にでき、所得を圧縮できます。たとえば月5万円支給すれば、年60万円を経費にできる計算です。
これは「雑所得」で申告していると認められないため、青色申告かつ「事業所得」または「不動産所得」としての申告が前提となります。
赤字の繰越ができるのも民泊と好相性
開業初年度に赤字が出ても、青色申告ならその損失を3年間繰り越して黒字と相殺できます。家具やリフォームで赤字になっても、将来の税金を減らすことができるため、初期投資が大きい民泊には大きなメリットです。
民泊物件の購入・建築時に使える税制優遇は?
民泊の開業には多くの初期投資がかかりますが、税制の優遇措置を活用することで、これらのコストを効率よく経費に計上し、課税所得を大幅に圧縮することが可能です。
少額減価償却資産の特例で設備や備品を即時償却
民泊開業時に購入する家具・家電・内装設備などは通常「減価償却」により数年に分けて費用化しますが、一定の条件を満たせば初年度に一括して経費処理が可能です。1つ30万円未満の資産であれば年間300万円までを即時償却できる「少額減価償却資産の特例」が利用できます(青色申告+中小企業要件を満たす必要があります)。10万円未満であれば、申告区分にかかわらず全額即時経費化が認められます。これにより開業初年度の利益を大きく抑えることができ、節税に直結します。
中古住宅なら「簡便法」で短期償却が可能
築古の物件を取得して民泊に活用する場合、建物の減価償却は「法定耐用年数」ではなく、簡便法による短期償却が認められます。
たとえば、耐用年数22年の木造住宅を築25年で購入した場合、残存耐用年数ゼロとされ、購入額を4年で償却できる可能性があります。これにより、初期数年で大きな経費を計上でき、利益の圧縮につながります。
民泊経営と税対策を正しく理解し賢く節税しよう
民泊運営には、所得税・住民税・消費税・固定資産税など複数の税金が関わりますが、所得の区分や経費の扱い方によって節税の余地は大きく変わります。青色申告や減価償却の活用、法人化の判断など、運営規模やスタイルに応じた対策を講じることで、実質的な利益を確保しやすくなります。初期費用が大きくなりがちな民泊では、制度や控除を正しく理解することが、長期的な収益安定と税務リスク回避のポイントです。継続的な運営を目指す方は、開業初期から税務面にも十分な準備を行うことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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