• 更新日 : 2025年8月28日

一人社長のお金はどう管理する?給料(役員報酬)や経費について解説

一人社長として会社を設立する際、多くの方が「会社のお金は自由に使えるのか」「個人のお金と会社のお金はどう分けるべきか」といった疑問を抱きます。結論から言うと、一人社長であっても会社のお金を私的に使うことは法的に問題があり、適切な管理が必要です。

本記事では、一人社長が知っておくべき会社のお金の扱い方についてわかりやすく解説します。

一人社長は会社のお金を自由に使える?

一人社長の会社のお金の使用について、法的な制限と実際の運用ルールを解説します。

法的には会社のお金を私的利用できない

一人社長であっても、会社のお金を個人的な用途で使用することは法的に制限されています。会社は法人格を持つ独立した存在であり、代表取締役である一人社長とは別の人格として扱われるためです。

会社法では、取締役が会社の資金を私的に流用することを禁止しており、これは一人社長の場合も例外ではありません。仮に会社のお金を私的に使用した場合、以下のような問題が発生する可能性があります。

まず、税務上の問題として、私的使用分が役員賞与として認定され、所得税の対象となる場合があります。また、会社側では損金算入が認められず、法人税の負担が増加する可能性もあります。

さらに深刻な問題として、継続的な私的流用は背任行為とみなされ、故意かつ会社に損害を与えた場合は刑事罰の対象となる可能性も存在します。たとえ一人社長であっても、会社のお金を私的に自由利用できるわけではない点を理解しておきましょう。

適切な手続きを踏めば使用可能

ただし、適切な手続きを踏むことで、会社のお金を役員報酬や役員賞与として受け取ることは可能です。重要なのは、個人的な支出と会社の支出を明確に分離し、適切な会計処理を行うことです。

役員報酬として受け取る場合は、定期同額給与として毎月一定額を設定し、株主総会で決議することが必要です。また、臨時的な支出については、役員賞与として適切な手続きを経て支給する方法があります。ただし、届出と支給額・時期の厳密な一致が必要となります。

一人社長の会社のお金の仕分け方

会社のお金と個人のお金を適切に分離するための具体的な方法を説明します。

銀行口座の完全分離

最も基本的で重要なのは、会社用と個人用の銀行口座を完全に分離することです。会社設立後は、必ず法人名義の銀行口座を開設し、すべての会社の取引をこの口座で行います。

個人の口座と会社の口座を混在させることは、税務調査の際に大きな問題となる可能性があります。また、会計処理も複雑になり、経理業務の負担が増加します。

法人口座では、売上金の入金から経費の支払い、税金の納付まで、すべての会社関連の取引を行います。一方、個人口座では役員報酬の受け取りや個人的な支出のみを扱います。

支出の明確な区分

会社の支出と個人の支出を明確に区分することも重要です。会社の経費として認められるのは、事業に直接関連する支出のみです。

たとえば、事務用品や通信費会議費などは会社の経費として処理できますが、家族との食事代や個人的な買い物は個人の支出として扱う必要があります。

判断に迷う支出については、事業との関連性を客観的に説明できるかどうかを基準に判断します。また、領収書やレシートは必ず保管し、支出の目的を明確に記録しておくことが重要です。

会計ソフトの活用

現代では多くの会計ソフトが提供されており、これらを活用することで適切な仕分けが可能になります。クラウド型の会計ソフトを使用すると、銀行口座やクレジットカードと連携し、自動的に取引を取り込むことができます。

取り込まれた取引は、勘定科目を設定して適切に仕分けします。定期的に発生する取引については、仕分けルールを設定することで、手作業を減らすことができます。

また、会計ソフトには税務申告書の作成機能も付いているものが多く、決算業務の効率化にも役立ちます。

一人社長の給料(役員報酬)ルール

一人社長が自分に給料を支払う際の法的要件と実務上の注意点について解説します。

定期同額給与の原則

一人社長が自分に支払う給料(役員報酬)は、税法上「定期同額給与」として扱われます。これは毎月一定額を支給する給与のことで、以下の条件を満たす必要があります。

まず、支給額は毎月同額である必要があります。業績に応じて変動させることはできません。ただし、事業年度の開始から3か月以内であれば、金額の変更は可能です。

次に、支給日も毎月一定日に設定する必要があります。たとえば毎月25日と決めた場合、必ずその日に支給しなければなりません。

さらに、金額と支給日は株主総会で決議し、議事録に記載する必要があります。一人社長の場合であっても、適切な手続きを踏むことが重要です。

社会保険と労働保険の取り扱い

一人社長の場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入は義務となります。役員報酬が発生する場合は、必ず社会保険に加入し、保険料を納付する必要があります。

一方、労働保険(雇用保険・労災保険)については、代表取締役は労働者ではないため、原則として加入することはできません。

社会保険料は会社負担分と個人負担分があり、給与支払い時に個人負担分を控除し、会社負担分と合わせて納付します。

源泉徴収と年末調整

一人社長の給料についても、通常の従業員と同様に源泉徴収を行う必要があります。毎月の給与支払い時に所得税と住民税を控除し、税務署に納付します。

年末調整についても、一人社長であっても対象となります。生命保険料控除住宅ローン控除などの各種控除を適用し、1年間の所得税額を精算します。

ただし、年末調整は会社が行う公的手続きであり、一人社長でも自社(法人)として手続きを実施する必要があります。

一人社長の給料(役員報酬)を経費にする条件

役員報酬を会社の経費として計上するための要件と注意点について詳しく説明します。

適正な金額設定

役員報酬を経費として認めてもらうためには、金額が適正である必要があります。税務署は、同規模・同業種の会社の役員報酬と比較して、著しく高額でないかを判断します。

適正な金額を設定するためには、以下の要素を考慮する必要があります。まず、会社の業績や規模に見合った水準であること。次に、代表取締役としての職務内容と責任の重さに応じた金額であること。さらに、同業他社の役員報酬水準を参考にすることも重要です。

金額設定の際は、税理士などの専門家に相談し、適切な水準を確認することをお勧めします。

業務実態の証明

役員報酬を経費として認めてもらうためには、実際に業務を行っている実態が必要です。名目だけの役員に対する報酬は経費として認められません。

業務実態を証明するためには、以下のような資料を整備しておくことが重要です。業務日誌や出勤簿により、実際に業務を行っている記録を残します。また、取引先との契約書や議事録などにより、代表取締役としての職務を果たしている証拠を保管します。

さらに、会社の重要な意思決定への関与や、対外的な業務の実績なども記録しておくと良いでしょう。

適切な会計処理

役員報酬を経費として計上する際は、適切な会計処理を行う必要があります。給与として計上する場合は、社会保険料の会社負担分も含めて経費として処理します。

また、源泉徴収税額や住民税の特別徴収額については、預り金として計上し、納付時に取り崩します。

会計処理については、会計ソフトの給与計算機能を活用すると、自動的に適切な仕訳が作成され、計算ミスを防ぐことができます。

一人社長がお金の管理で失敗しないためには?

一人社長として会社のお金を適切に管理し、税務上の問題を避けるための具体的なアドバイスをまとめます。

定期的な資金繰り管理

一人社長の場合、資金繰りの管理は経営の生命線となります。毎月の収支を予測し、キャッシュフローを把握することが重要です。

資金繰り表を作成し、3か月から6か月先までの資金の流れを予測します。売上の入金時期と経費の支払い時期を正確に把握し、資金不足が予想される場合は事前に対策を講じます。

また、個人の生活費についても月次で予算を立て、役員報酬で賄えるかどうかを確認します。会社の資金に頼ることなく、計画的な資金管理を行いましょう。

税務申告の準備

一人社長の場合、法人税の申告と個人の所得税の申告の両方を行う必要があります。日頃から適切な帳簿を作成し、申告に必要な資料を整備しておくことが重要です。

月次で試算表を作成し、会社の業績を把握します。また、領収書やレシートは整理して保管し、必要に応じて説明資料を作成します。

税務申告については、税理士に依頼することも検討しましょう。専門家のアドバイスを受けることで、税務リスクを最小限に抑えることができます。

内部統制の構築

一人社長であっても、適切な内部統制を構築することが重要です。お金の管理について明確なルールを定め、それに従って業務を行います。

たとえば、月次で銀行残高と帳簿残高を照合し、差異があれば原因を調査します。

さらに、重要な取引については第三者(税理士や会計士)にチェックしてもらう仕組みを作ることも効果的です。

一人社長として成功するためには、会社のお金を適切に管理し、法的な要件を満たすことが不可欠です。個人のお金と会社のお金を明確に分離し、適切な給与制度を構築することで、安定した経営基盤を築くことができるでしょう。

適切なお金の管理が一人社長成功の鍵

一人社長にとって会社のお金の管理は、事業成功の根幹を成す重要な要素です。たとえ一人で会社を運営していても、法人格を持つ会社のお金を個人的に使用することは法的に制限されており、適切なルールに従った運用が求められます。

会社の口座と個人の口座を完全に分離し、役員報酬として定期同額給与を設定することで、税務上の問題を回避できます。また、すべての支出について事業関連性を明確にし、適切な会計処理を行うことが重要です。

さらに、定期的な資金繰り管理と税務申告の準備を怠らず、必要に応じて専門家のサポートを受けることで、健全な財務基盤を構築することができます。これらの基本的なルールを守ることで、一人社長として安心して事業に集中し、持続的な成長を実現することが可能になるでしょう。


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