- 作成日 : 2025年10月24日
節税スキームで税負担を軽くするには?個人・自営業・法人別の対策を解説
節税は、正しい知識と計画に基づいて取り組めば、手元に残るお金を増やす強力な手段になります。
本記事では、個人・自営業者・法人・富裕層それぞれに最適な節税スキームや注意点を解説します。
目次
節税スキームとは?
税金の負担を減らす方法として注目されているのが「節税スキーム」です。これは、国が法的に認めている優遇制度や控除制度を活用し、支払う税金を合法的に抑える仕組みの総称です。正しい節税の知識を持つことで、個人・法人を問わず、資金を効率的に手元に残すことが可能となります。以下では、節税スキームの概要と脱税・租税回避との違いについて解説します。
法律に基づいた税負担の軽減手段
節税スキームとは、税制上合法とされている控除や非課税制度を組み合わせて、納税者の負担を合理的に減らすための仕組みです。所得控除や税額控除、NISAやiDeCoなどの非課税制度などが代表例として挙げられます。これらは税法に則って構築された制度であり、適切に適用すれば税金の負担を軽減することが可能です。
たとえば医療費控除を活用すれば、高額な医療費がかかった年に課税所得を減らすことができ、結果として支払う税額を抑えられます。節税スキームは税制の設計を理解した上で、最大限に制度を活用することが求められます。
脱税や租税回避との違いに注意する
節税と混同されがちなのが「脱税」や「租税回避」です。節税は、法律で定められた制度の範囲内で税金を減らす正当な手段であり、違法性は一切ありません。一方、脱税は意図的に所得を隠したり、虚偽の申告をして税金の支払いを免れる違法行為です。また、租税回避とは、法の抜け穴を使って形式的に税金を逃れる行為を指し、明確に違法とされていない場合でも、税務当局から否認されるリスクがあります。したがって、節税を行う際は制度の趣旨を正しく理解し、実質的な取引と整合性がある形で適用することが重要です。
個人が活用できる節税スキームは?
個人でも活用できる節税スキームは多く存在し、所得控除・税額控除・非課税制度の3つを組み合わせることで効果的に税負担を軽減できます。
所得控除で課税対象を減らす
課税所得を減らす最も基本的な方法が所得控除の活用です。2025年改正で基礎控除は58万円に引き上げられ、所得が132万円以下の人には最大95万円まで適用されます。また、配偶者控除や扶養控除の適用要件も、合計所得が58万円以下まで拡大され、従来よりも多くの家庭で控除を受けられるようになりました。
社会保険料控除では、支払った国民年金・健康保険・厚生年金などの全額が控除対象です。医療費控除は年間医療費が10万円または所得金額の5%のいずれか少ない額を超えた場合に適用できます。一方、セルフメディケーション税制は特定の市販薬の購入費用が年間12,000円を超えた場合に適用でき、医療費控除との併用はできず、いずれか一方を選択して適用します。
さらに、iDeCoや小規模企業共済の掛金は全額が控除対象です。令和7年度の税制改正により国民年金基金の上限は月7.5万円まで拡大され、より高い節税効果が見込めます。
税額控除で直接税金を差し引く
税額控除は、計算された税額から直接控除を受けられる制度です。住宅ローン減税は原則、年末時点の住宅ローン残高の控除率0.7%で、新築住宅では最大13年、既存住宅では10年間の控除期間が設けられています。子育て世帯などには借入限度額の上乗せなど優遇措置があります。
ふるさと納税も代表的な制度で、自己負担2,000円を除いた寄付額が所得税・住民税から控除されます。また、配当金については総合課税を選ぶことで配当控除が適用され、二重課税の調整が可能です。
非課税制度で運用益などを無税にする
非課税制度の活用も効果的です。2024年に刷新された新NISAは「つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=年間最大360万円」、生涯の非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠1,200万円)、非課税保有期間は無期限です。
これにより長期投資による資産形成と節税が同時に可能となりました。
iDeCoは、掛金が所得控除となる上、運用益も非課税です。60歳以降に受け取る際にも退職所得控除などが適用されるため、実質的にほぼ無税で資産を形成できます。
また、毎年110万円までの生前贈与は非課税で、相続税対策としても有効です。教育資金は最大1,500万円、結婚・子育て資金は最大1,000万円まで、専用口座を通じた一括贈与で非課税となる特例制度があります(条件・年齢制限あり)。
法人が活用できる節税スキームは?
法人が活用できる節税スキームは、個人とは異なり「損金算入」「所得分散」「税額控除」の3つが主な柱となります。
役員報酬の最適化と所得分散
法人では役員報酬を損金(経費)として計上できるため、会社の利益を圧縮しつつ、個人課税への移行による税率の最適化が可能です。ただし、報酬は「定期同額」である必要があり、期中の変更は原則認められません。利益が出た年に臨時ボーナスで処理するのではなく、事業年度開始から3か月以内に決定することが求められます。
中小企業投資促進税制・経営強化税制
一定の設備投資を行った場合、即時償却または税額控除(最大10%)が認められる制度です。たとえば新たな機械・ソフトウェア・器具備品を取得した際、通常の減価償却ではなく一括で費用化できるため、利益を大きく圧縮できます。カーボンニュートラルやデジタル投資に関する税額控除措置がさらに強化され、対象設備の範囲が拡大されました。
参考:中小企業投資促進税制|中小企業庁、中小企業経営強化税制|中小企業庁
生命保険を活用した利益調整
法人契約の生命保険(解約返戻率50%以下等の一定条件を満たす定期保険など要件あり)を利用し、支払保険料の一部または全額を損金算入することで、利益の繰り延べが可能です。逓増定期保険(保険料が数年後に返戻される)では、支払当初に全額を損金処理し、退職金支払い時に返戻金を原資とする活用法があります。ただし、2024年度以降、保険商品に対する損金算入要件は厳格化されており、適用可否の確認が必須です。
退職金制度の活用
法人では、役員・従業員への退職金を損金算入できます。退職所得は個人側でも優遇されており、「退職所得控除」や「1/2課税」が適用されるため、法人・個人の双方で節税効果があります。退職金の支給額は「功績倍率」などに基づく合理的な算定が求められ、過大な金額は損金として認められません。
中小企業倒産防止共済(セーフティ共済)
取引先倒産時に備えて積み立てを行う制度で、掛金は年間最大240万円まで全額損金処理可能です。節税効果に加え、解約時に資金を取り戻せるため、資金繰り対策としても有効です。利益が多い年度に集中して掛金を拠出すれば、課税所得の平準化にもつながります。
なお、中小企業倒産防止共済の注意点として、解約時に受け取る資金については、益金算入として課税される点を認識しておく必要があります。
富裕層が活用できる節税スキームは?
一定以上の資産を持つ富裕層では、一般的な所得控除やNISA・iDeCoなどに加えて、より大規模かつ戦略的な節税スキームを活用することが可能です。
一族内での資産管理会社の設立
資産管理会社とは、不動産・株式・事業などを法人名義で一元管理する目的で設立される会社です。個人所有では課税対象となる不動産所得や配当などを法人に移すことで、法人税の低税率(中小法人で最大23.2%程度)を活用しつつ、役員報酬によって所得分散を図ることができます。さらに、会社経費として認められる範囲が広く、役員給与、事務所費用、車両代なども合法的に損金算入できます。
資産管理会社の活用は節税だけでなく、相続対策にも効果を発揮します。自社株の評価額をコントロールしながら、後継者へ段階的に株式を贈与することで、将来の相続税評価額を抑えることが可能です。ただし、法人と個人の支出を明確に分離しなければ、税務リスクが高まるため注意が必要です。
相続時精算課税制度を利用した低評価株式の早期移転
相続時精算課税制度を利用することで、2,500万円までの贈与を一括で行い、その贈与時点では贈与税をかけず、相続時に一括で精算課税を行う仕組みです。これにより、将来的に価値が上がる可能性のある未上場株式や不動産を、評価が低いうちに子や孫へ移転することで、結果的に相続税額を圧縮することができます。
自社株などの評価額が年々上昇しているような資産は、早期に相続時精算課税制度を活用して移転しておくことで、トータルでの税負担を大きく抑えることが可能です。2024年度の改正では、適用対象者の年齢要件が65歳から60歳に引き下げられ、より柔軟な設計が可能になっています。
不動産による相続税評価の圧縮
富裕層の相続対策では、不動産の保有・活用が定番です。不動産は現金や有価証券と異なり、相続税評価額(相続税法上の課税対象価額)を時価よりも大幅に低く抑えることができるため、課税ベースを大きく圧縮できます。
特に有効なのが賃貸物件の建築・保有です。貸家建付地の評価減(更地に比べ約20~30%減)、貸家の評価減(建物の固定資産税評価額の30%程度減)を組み合わせることで、現金で相続するよりも実質的な資産を残しながら相続税負担を抑えることができます。
オペレーティングリースによる損金計上と所得繰延べ
オペレーティングリースとは、航空機や船舶など高額な資産をリース会社を通じて共同出資し、初年度に大きな損金(減価償却費)を計上して節税効果を得る手法です。将来のリース収益を見越しつつ、初年度に大幅な赤字を出して他の所得と相殺し、課税所得を減らします。
高収入の一時金(不動産売却益・役員退職金など)がある年に活用することで、一時的な税負担を大幅に繰り延べることが可能です。ただし、リスクとして元本割れや元利回収の遅延があり、投資としての安全性や税務上の適正性(租税回避とみなされないか)も十分に考慮する必要があります。
自営業者が活用できる節税スキームは?
自営業者は収入や支出を自己管理できるため、税制上の柔軟な選択肢が多く、制度を理解し適切に使うことで効果的な節税が可能です。
青色申告特別控除を最大限に活用する
青色申告を選択し、複式簿記による記帳とe-Tax等での申告を行えば、最大65万円の「青色申告特別控除」が受けられます(簡易簿記なら10万円)。この控除により、所得税・住民税を合わせて年間数万円〜十数万円の節税効果が見込めます。青色申告は税務署への届出が必要ですが、会計ソフトを活用することで運用のハードルは大きく下がります。
自宅の家事関連費を合理的に按分する
自宅を仕事場として使用している場合、家賃や光熱費、通信費の一部を「家事関連費」として経費にすることが可能です。たとえば、自宅の20%を事務所として使っている場合、電気代やWi-Fi費用の20%を必要経費として計上できます。この「按分」は合理的な基準(面積比や時間比など)で行い、証拠となる記録を保管しておくことが重要です。
家族に給与を払い所得分散する
自営業者は、生計を一にする家族を「青色事業専従者」として雇用し、労務の対価として給与を支払うことができます。給与として支払った金額は全額必要経費となり、所得の一部を家族に分散することで、世帯全体での税率を引き下げることができます。対象者は15歳以上の配偶者や親族で、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要です。
少額減価償却資産の即時償却で利益を抑える
10万円未満の事業用資産は即時償却(全額を購入年に経費化)できます。さらに、30万円未満の資産であれば、「中小企業者等の特例」を活用して年間300万円まで即時償却が可能です。業務用PCやカメラ、ソフトウェアなどが対象となり、収入が多い年に導入すれば、大きな節税につながります。
開業費・創業費を繰延資産にして柔軟に償却
開業前に使った費用(HP作成費、広告費、開業準備の旅費など)は「開業費」として繰延資産に計上できます。これらは任意のタイミングで償却可能であり、利益が出始めたタイミングに合わせて費用化することで、課税所得をコントロールできます。初年度が赤字の場合には、繰延によって節税効果を翌期以降にずらすことができます。
事業用車両の維持費も経費にできる
仕事で使用する自動車の維持費(ガソリン代、保険料、自動車税、リース料など)はすべて事業経費として計上できます。プライベート利用と兼用している場合は、走行距離や使用時間に応じて按分し、事業分のみを経費化します。リース契約の場合は、初期費用が抑えられ、定額で処理しやすいため便利です。
節税スキームを利用する際の注意点は?
節税は合法的に税負担を軽減できる有効な手段ですが、やり方を誤ると効果が得られないどころか、リスクを招くこともあります。以下では、節税対策を行ううえでの注意点を解説します。
必要以上の支出は避ける
節税のための支出が、結果として手元資金を減らす原因になることがあります。100万円の経費で30万円の節税ができても、実際には70万円の出費です。保険や設備投資を「節税目的」だけで行うのではなく、本当に必要な支出かどうかを見極めることが大切です。
違法な「節税」は脱税とみなされる
架空の経費や水増しは脱税に該当し、重加算税や罰則の対象になります。税務当局は申告内容をデータで精査しており、不正は高確率で見抜かれます。節税はあくまで法律の範囲内で行うべきもので、「節税と脱税の線引き」を正確に理解しておくことが重要です。
税制の最新情報を常に確認する
節税制度は毎年見直されるため、今年使えた制度が来年には使えない可能性もあります。住宅ローン減税やNISA、扶養控除などは改正の対象になりやすいため、国税庁や信頼できる専門家から最新情報を得る習慣を持ちましょう。
節税スキームを賢く活用して税負担を減らそう
節税は公に認められた制度を上手に利用すれば、誰でも取り組めます。見逃しがちな控除や特例も活用することで合法的に税金を最小限に抑え、手元に残るお金を増やすことが可能です。適切な節税策を組み合わせれば、無理のない範囲で確実に税負担を軽減し、浮いた資金を将来の投資や貯蓄に回すことができます。最新情報にアンテナを張りつつ、長期的な資産形成や家計の安定につなげていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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