- 作成日 : 2025年10月24日
プライベートカンパニーで節税するには?法人化のメリットや注意点を解説
副業収入や不動産収益が増えたことで、個人の税負担に悩んでいる方が増えています。そこで注目されているのが、プライベートカンパニー(資産管理会社)を活用した節税です。
本記事では設立のメリット・デメリットやタイミング、手続きなどを解説します。
目次
プライベートカンパニーで節税できる理由は?
個人事業や副業などで一定以上の収入を得ている場合、プライベートカンパニー(資産管理会社)を設立することで、課税上の優遇を得る選択肢があります。以下ではその仕組みを解説します。
所得税と法人税の税率差による節税
法人税の方が個人よりも低い税率で課税されるため、一定の所得を超えると法人化によって税負担が軽減される可能性があります。
個人の所得税は累進課税制度が採用されており、課税所得が695万円を超えると税率が23%、900万円を超えると33%、1,800万円を超えると40%と、段階的に上昇します。さらに住民税も一律10%が加算されるため、実効税率はより高くなります。
これに対し、2025年12月からの税制では、中小企業に対する法人税の軽減税率が一部見直されつつも継続されており、課税所得800万円までの部分には17%(従来15%)が適用されます。800万円超の部分は23.2%の税率です。課税所得が同程度でも、法人(中小法人の軽減税率等)と個人(累進税率+住民税)では税額が大きく異なる場合があります。
また、「中小法人の軽減税率年800万円以下については15%」は2年延長され、令和9年(2027年)3月31日まで開始事業年度に適用されます。ただし『所得10億円超の事業年度』は800万円以下部分を17%に引上げ。800万円超は23.2%のままとなります。
このように、所得が大きいほど法人化による税率面での節税効果が現れやすくなります。
経費計上の幅が広がることによる節税
法人にすることで、個人事業主のときには認められなかった支出を経費として計上でき、課税所得を抑えることができます。
大きなポイントは、法人が自分自身(役員)に支払う給与を損金として処理できる点です。法人の損金となった役員報酬は、個人の所得では「給与所得」として扱われます。2025年改正で給与所得控除の最低保障額は55万円から65万円に引き上げられました(収入に応じた上限は別途規定)。その結果、給与所得者の控除枠が拡大します。
これは個人事業主にはない税務上のメリットです。
また、健康診断費用や福利厚生費、事業に関連する旅費交通費や研修費など、業務に必要な支出であれば幅広く法人の経費にできる点も大きな利点です。会社が負担する社会保険料の事業主負担分も損金扱いとなるため、これらを通じて課税所得を引き下げ、結果的に税額を抑えることが可能となります。
プライベートカンパニーは相続税対策に活用できる?
プライベートカンパニー(資産管理会社)は、相続時の財産評価を引き下げたり、生前の資産移転を促進する手段として活用されています。高額資産を保有している場合、その評価方法と分散手法によって相続税の軽減が期待されます。以下では、その効果を解説します。
自社株の評価で相続財産を圧縮できる
資産を法人に移しておけば、相続時の対象は資産そのものではなく「自社株」となり、評価額を抑えることが可能です。
個人が資産を直接保有している場合、相続税評価額は現金や不動産などの時価がベースとなります。一方で、プライベートカンパニーを設立し、その会社に資産を移管しておけば、相続時に課税対象となるのは非上場株式、つまりその会社の株式です。非上場株式の評価は、「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」などで計算され、含み損のある資産や未払退職金などの負債要素を反映できるため、実際の資産価値よりも低い評価になるケースが多くなります。これにより、相続税の課税ベースを圧縮し、税負担を軽減する効果が得られます。
場合によっては個人保有と同等かそれ以上の評価となることもあります。従って、評価通達・負債計上・含み損益等の影響を精査する必要があり、実施の場合には専門家の関与を推奨いたします。
生前に家族へ給与を支給し資産を移転できる
プライベートカンパニーを通じて家族に役員報酬を支払えば、相続前に計画的に資産を移すことができます。
会社を設立し、配偶者や子を役員に任命して給与を支給することで、会社の損金として経費処理が可能になり、かつ給与を受け取った家族の手元にも資金が移転します。2025年の税制改正により、給与所得控除の下限が65万円、基礎控除が58万円に引き上げられたため、給与収入のみの場合は年収123万円までは非課税となるケースもあり、非常に効率的な所得分散が可能です。結果として、高率な相続税での一括課税を避け、時間をかけて資産を移す節税効果が期待できます。
プライベートカンパニーのデメリット・注意点は?
節税効果が期待されるプライベートカンパニーですが、メリットばかりではありません。ここでは注意点を整理します。
赤字でも毎年一定の税負担が発生する
法人は赤字でも「法人住民税の均等割」を支払う必要があります。個人事業では赤字であれば税負担は基本的にゼロですが、法人の場合、たとえ利益が出ていなくても最低年7万円前後(資本金1,000万円以下かつ従業員50人以下の場合)の住民税がかかります。副業や不動産管理で設立した会社が一時的に赤字となっても、この固定費用は免除されません。収益が安定するまでの期間も含め、キャッシュの備えが必要不可欠です。
設立・維持・廃業にまとまった費用がかかる
会社の設立には初期費用が、維持には毎年の運営コストが、廃業時にも手数料が発生します。
株式会社では定款認証や登記で約20万円、合同会社でも約10万円が必要です。設立後は毎年の決算書作成や税務申告が義務となり、税理士報酬や会計ソフトなどの費用もかかります。また、社会保険の加入義務が生じ、会社負担分の保険料が固定費として加わります。さらに解散・清算の際には7〜8万円以上のコストが必要で、トータルでは数十万円以上の出費が前提となります。節税効果がこれに見合うかを事前に試算することが重要です。
会社と個人のお金は厳密に区別される
会社のお金はオーナー個人の財産とは異なり、自由に引き出すことはできません。
たとえ全株式を保有していても、法人名義の預金や利益は会社のものであり、私的利用は認められません。資金を得るには、あらかじめ定めた役員報酬や配当という形式が必要です。配当は法人税課税後にさらに個人で課税され、二重課税の負担も発生します。(総合課税の場合は「配当控除」等の軽減措置が適用されることがあります。)
このように、法人と個人の財布を明確に分けた上で資金管理を行わなければ、税務上問題になるリスクがあります。
実態のない会社設立には法的リスクがある
形式だけの会社設立は税務上のリスクが大きく、重加算税や罰則の対象になることもあります。
収益や業務実態のないペーパーカンパニーでも、法人税・消費税の申告義務はあり、申告漏れには加算税・延滞税が課されます。さらに、税務署は登記情報を把握しており、無申告や形式的な節税スキームは租税回避行為と認定されるおそれがあります。例えば、実体のない役務提供による支出計上や、資産の不自然な評価操作などは税務調査で否認される可能性が高く、結果として追徴課税や重加算税が科されるリスクがあります。
節税のためのプライベートカンパニーはいつ設立するのが効果的?
プライベートカンパニーの設立タイミングは、節税効果を最大化する上で重要です。以下で最適な設立の判断基準を整理します。
所得が増えたタイミングは法人化の節目となる
年間の課税所得が800万~1,000万円を超えるあたりから、法人化による節税効果が現れやすくなります。
個人の所得税は累進課税で、課税所得が900万円を超えると33%、1,800万円を超えると40%の税率が適用されます。これに住民税10%が加わるため、実効税率は40〜50%に達するケースもあります。
一方で、法人の税率は中小企業であれば所得800万円までが17%(2025年12月改正後)、800万円超も23.2%と一定です。この差により、所得規模が大きくなるほど法人税の方が有利になります。特に年収1,800万円〜2,000万円超の層では、社会保険料の負担増を加味しても、法人化によるトータルの税負担が軽減される傾向があります。
ただし、単年の収入増に反応して早期に法人化するのは避け、継続的な高収入が見込めるかどうかを慎重に判断することが重要です。
消費税免税の特例を活用するなら早めの法人化が有利
売上が1,000万円に近づく前に法人を設立すれば、2年間の消費税免税を受けられる可能性があります。
日本では、個人事業主が前々年に売上1,000万円を超えると課税事業者になりますが、新設法人(資本金1,000万円未満)は、1期目と2期目に限り原則として消費税の納税義務がありません。これにより、標準税率10%(軽減対象は8%)の納付負担を一定期間回避でき、資金繰り上有利になることがあります。
たとえば、急成長中の副業や独立起業のタイミングで法人化すれば、初期投資や設備費用に充てる余力を確保できます。ただし、インボイス制度により、B2B取引では適格請求書発行事業者でないと取引先が仕入税額控除を受けられず、課税事業者登録を求められるケースも増えています。この場合、法人化しても免税措置は適用されません。
また、資本金が1,000万円以上の場合や、1期目の事業年度を長く設定しすぎた場合も免税の適用除外となるため、設立時の資本金と決算期の設定には細心の注意が必要です。
プライベートカンパニーを設立する流れは?
プライベートカンパニー(資産管理会社)は、通常の法人と同様の設立手続きを経て設立します。登記先は法務局であり、必要書類や費用も一般の会社設立と同様です。ここでは、スムーズに会社設立を進めるためのステップを紹介します。
ステップ1:会社形態の選択
まず、会社の形態を「株式会社」か「合同会社(LLC)」のどちらにするか決定します。
株式会社は信頼性が高く、将来的に投資を受ける可能性がある場合にも適しています。ただし、設立費用は定款認証や登録免許税などを含めておよそ20万円前後かかります。一方、合同会社は登記費用が約10万円と安く、書類も少ないため設立手続きが簡便です。家族経営のプライベートカンパニーであれば、柔軟性の高い合同会社を選ぶケースも増えています。
ステップ2:基本事項の設定と印鑑の準備
会社名(商号)、事業目的、本店所在地、役員・株主の構成、決算期(事業年度)などの基本情報を決定します。
商号は同一所在地で重複していなければ自由に命名できます。事業目的は将来展開する可能性のある事業まで幅広く記載しておくと良いでしょう。また、登記に使用する「法人実印」の作成もこの段階で行います。
ステップ3:資本金と事業年度を設定する
出資する資本金は1円からでも設立可能ですが、金融機関との取引や対外的信用を意識して適切な額を設定しましょう。
また、初年度の決算期も自由に決められますが、消費税の免税を受けるには注意が必要です。資本金が1,000万円以上、かつ初年度の期間が7ヶ月を超えると、1期目から課税事業者とみなされます。これを回避するには、資本金を1,000万円未満に抑え、事業年度を設立日から12ヶ月以内に設定するのが一般的です。
ステップ4:定款の作成と認証(株式会社のみ)
定款とは、会社の基本ルールを定める書類です。会社名、目的、所在地、資本金、機関構成などを記載します。
株式会社の場合、この定款を公証役場で認証してもらう必要があります。費用は約5万円の認証手数料と、通常4万円の収入印紙代がかかります(電子定款なら印紙代は不要)。合同会社の場合は認証手続きが不要なため、コストと手間を削減できます。
ステップ5:法務局で設立登記を申請する
必要書類(登記申請書、発起人決定書、資本金払込証明書、就任承諾書など)を揃えて、管轄の法務局へ提出します。
登録免許税は株式会社で資本金の0.7%(最低15万円)、合同会社は一律6万円です。書類が問題なければ、登記完了までにおおよそ1〜2週間程度かかります。
ステップ6:登記後の手続きも忘れずに
登記が完了したら、税務署・都道府県税事務所・市区町村への開業届や法人設立届出書の提出、社会保険・労働保険の手続きも必要です。
初めて設立する場合は、司法書士や行政書士、会社設立代行サービスを利用するとスムーズです。設立には時間と確認事項が多いため、スケジュールに余裕を持って準備を進めることが成功のポイントです。
節税目的のプライベートカンパニー設立は、仕組みとタイミングを正しく理解してから
プライベートカンパニーの設立は、所得税・相続税・消費税といった複数の税目において効果的な節税手段となります。一定以上の所得がある場合には、法人税率の優遇や経費計上の柔軟さを活かすことで、実効税率を抑えることが可能です。また、資産を法人名義で保有し、自社株という形で相続させることで、相続税評価額を圧縮できるという効果もあります。
ただし、節税だけを目的とした形式的な会社設立はリスクが高く、設立・維持・廃業には相応のコストや手間もかかります。制度の仕組みを理解し、税務面・実務面の両方から適切に判断しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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