- 作成日 : 2025年5月1日
法人化したら経営者の給与はどう設定する?支給方法や決め方のポイントを解説
法人化したら、経営者の給与設定が必要です。給与は役員報酬として受け取ることになり、経費にするためには決められた支給方法を選ばなければなりません。毎月給与として支払う場合、法人化から3ヶ月以内の決定が必要です。
本記事では、法人化したあとの経営者の給与を決める方法や、従業員を雇用した際の給与の決め方などを解説します。
目次
法人化したら経営者の給与はどのように受け取る?
個人事業主が法人化すると、給与は役員報酬として受け取ります。個人事業主のときは利益を事業所得として受け取っていましたが、法人化すると会社から役員報酬を受け取るため、給与所得となります。
ここでは、法人化によって経営者が受け取る給与についてみていきましょう。
経営者の給与は役員報酬として会社から支給する
法人化すると経営者への給与は役員報酬として会社から支給されますが、金額は自由に決められるわけではありません。従業員への給与は全額を経費に計上できるのに対し、経営者に支給する役員報酬の決定には一定のルールが設けられています。
報酬を自由に決定できるとすると、税金を減らすために高額な報酬を設定してしまうこともあるためです。そのため、ルールに沿って決定した報酬だけが経費に計上できるとされています。
役員報酬を経費にするための支給方法
役員報酬を経費に計上するためには、次の3つの方法が定められています。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
それぞれの方法を紹介します。
定期同額給与
定期同額給与とは、毎月同額の給与として役員報酬を支払う方法です。役員報酬を経費に計上するためには、会社設立から3ヶ月以内に金額を決定しなければなりません。設立時に定款で定めるか、株主総会で決定します。
役員報酬の改定も期首から3ヶ月以内でなければならず、金額を変更できるのは1年後ということになります。金額の変更には、定時株主総会の決議が必要です。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、賞与として役員報酬を支払う際の方法です。役員への賞与は原則的に経費として認められませんが、期限内に税務署に届出書を届け、記載したとおりに支給が行われた場合に限り、経費として認められます。
届出は事業年度ごとに提出する必要があり、一度でも届出内容と異なる条件で支給した場合、その年度の支給分はすべて経費に計上できません。
業績連動給与
役員報酬を企業の業績と連動させて支給する方法です。非同族会社か、非同族会社の完全子会社となっている同族会社に認められます。同族会社とは、会社の株主をグループに分け、上位3株主グループが発行済株式数の50%超を保有している会社のことです。非同族会社は、同族会社以外の会社を指します。
支給した役員報酬を経費に計上するためには、報酬の算定方法が所定の指標を基礎とした客観的なものであり、有価証券報告書に記載・開示していることが必要です。
役員報酬の決め方と注意点
役員報酬を決める際には、毎月の収支を予測して金額を決めること、納税額のバランスを考えることが大切です。
ここでは、役員報酬の決め方と注意点を解説します。
収支を予測して金額を決める
役員報酬の金額を変更できるのは事業年度開始から3ヶ月以内であり、1度決めると基本的に1年間変更できず、毎月同額を支給しなければなりません。そのため、金額を決めるときは1年間の収支を予測して決めることが大切です。
1年間の売上金額と仕入金額、固定費などを予測して、無理のない設定をします。設定を誤ると資金繰りが悪くなる可能性があるため、注意が必要です。
納税額のバランスを考える
役員報酬の金額を決めるときは、会社と個人が負担する税金のバランスを考慮することも必要です。会社は法人税や地方法人税、法人住民税などの税金を納めます。納税額は会社の利益に応じて決まるため、経費に計上する役員報酬が多ければ多いほど、会社が納付する税金は減少するという仕組みです。
一方で、役員報酬が多ければ所得が増えるため、所得税や住民税、社会保険料の負担が大きくなります。
役員報酬を決めるときは、これら法人が負担する税金と個人にかかる税金のバランスも考えなければなりません。
法人化後の役員報酬の決定時期と支給時期
法人化後の役員報酬の決定時期は決められていますが、支給時期は任意で設定できます。
役員報酬の決定時期と支給時期のルールについて、詳しくみていきましょう。
役員報酬額の決定時期は法人化から3ヶ月以内
役員報酬の決定時期は、原則として会社設立後、3ヶ月以内です。それ以降になると、役員報酬を経費に計上できません。
また、報酬額を変更できるのは事業年度開始(期首)から3ヶ月以内です。そのため、決定した役員報酬は、1年間は同じ金額で支給することになります。金額を変更すること自体はできますが、3ヶ月を超えてから役員報酬を増額した場合、増額分は経費にできません。
役員報酬の支給時期は任意で設定できる
役員報酬は、職務執行の対価として支払われます。役員は株主総会の決議に基づき選任されるため、職務の執行を開始する日は一般的に株主総会の開催日です。そのため、役員報酬の支給開始は、役員選任の株主総会日のあとになります。
毎月同額の役員報酬を役員に支給する場合には、役員選任に関する株主総会開催日を含む月から支給が開始されます。
決定した役員報酬は毎月同額で支給しなければなりませんが、支給するタイミングは任意で設定できます。例えば、毎月20日締めで25日払いに設定している場合、支給が月末にずれた場合でも定期同額給与のルールに反するわけではありません。
また、資金繰りなどでその月の支給ができなかった場合、その月は未払計上して翌月に精算するなどの処理をすることで対応できます。
役員報酬を高く設定しすぎた場合のリスク
役員報酬は高くしすぎないことが大切です。不相当に高額であると認定された場合は経費に計上できず、税負担が重くなるリスクがあります。
高額と認定される明確な基準はありません。税務署では役員の職務内容や事業収益、従業員の給与水準などから総合的に判断し、適正な金額かどうかを判断します。
税務調査で不当な高額だと認定された場合、過去の申告に遡って修正を求められる可能性もあります。追徴課税が課されるリスクもあるため、適正な金額設定が必要です。
法人化して従業員を雇用した場合の給与の決め方
法人化して従業員を雇用した場合、給与の決め方は基本的に個人事業主の場合と変わりありません。
主に次の手順で行います。
- 給与の業界水準を確認する
- 給与以外の支出を考慮する
- 残業代や有給休暇を想定する
従業員の給与を決める際のポイントをみていきましょう。
給与の業界水準を確認する
従業員の給与は、任せる業務の業界での水準を確認し、下回らないようにすることが大切です。同じ地域で同じ規模、職種の会社の給与相場をチェックして決めましょう。
相場以下にしても法に違反するわけではありませんが、相場を下回る場合、求人を募集しても応募が集まらない可能性があります。一方、相場よりかなり高い場合、人材の確保はしやすいかもしれませんが、人件費が高すぎて事業運営に支障をきたす可能性があるでしょう。そのため、適切な金額の設定が必要です。
当然ながら、最低賃金も下回らないようにしなければなりません。最低賃金には、都道府県ごとに定められている「地域別最低賃金」と、特定の産業ごとに定められている「特定最低賃金」の2種類があります。いずれにも該当する場合は、高い方の金額が基準になります。
給与以外の支出を考慮する
給与設定では、社会保険料など給与以外の支出も考慮しなければなりません。
従業員を雇用して要件を満たした場合、社会保険(厚生年金保険・健康保険・介護保険)や労働保険(雇用保険と労災保険)の加入が必要です。それぞれ会社が負担する割合が決められており、給与のほかに支払わなければなりません。
また、通勤手当や制服代、消耗品代など給与以外の支出があるケースもあるため、それらの金額も考慮する必要があります。
残業代や有給休暇を想定する
従業員の雇用により、残業代や有給休暇が発生することも想定しておきましょう。法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて残業を行った場合、通常賃金の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
また、6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した従業員には所定日数の有給休暇が付与されます。パートやアルバイトも対象です。従業員が有給休暇を取得すると、働かない日も給与支払いの義務が発生するため、人件費として想定しておかなければなりません。
法人化では経営者や従業員の給与設定に注意しよう
法人化すると経営者の給与は役員報酬として支給されます。役員報酬を経費に計上するためには3ヶ月以内に報酬額を決定しなければならず、次の事業年度まで変更はできません。賞与を支給するときは、事前の届け出が必要です。
従業員の給与は最低賃金や金額の相場を確認し、適切な金額を設定します。資金繰りに影響しないためにも、社会保険や残業代、有給休暇などの支払いが発生することを考慮して決めることが大切です。
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