• 作成日 : 2025年3月21日

年収2,000万円で個人から法人化すると何が変わる?違いを解説

個人事業主法人化を検討する目安は、年収2,000万円を超えたときです。法人化により計上できる経費が増え、節税できるなどのメリットがあります。ただし、社会保険への加入で負担が増えるといったデメリットもあることは把握しておきましょう。

本記事では、年収2,000万円で法人化したときのメリットや手続きなどを解説します。

年収2,000万円で個人から法人化すると何が変わる?

年収2,000万円になって個人事業主から法人に変わった場合、税金と社会保険、および社会的信用が次のように変わります。

税金社会保険社会的信用
個人事業主法人と比較して高くない
法人
  • 法人税
  • 法人住民税
  • 法人事業税
  • 特別法人事業税
  • 消費税・地方消費税
社会的な信用が高い

それぞれの内容をみていきましょう。

税金

個人事業主は所得に対して所得税と特別復興所得税、住民税を負担します。個人事業税は特定の業種で所得が290万円以上の個人事業主が、事業所の所在する都道府県に納付する地方税です。また、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合は、消費税・地方消費税が課税されます。

所得税は累進課税のため、利益が少ないうちは税負担が少ないものの、利益が多くなるほど税率が高くなります。一定の所得を超えると法人のほうが税負担は少なくなるため、法人化を検討することになるでしょう。

法人は法人税と法人住民税、法人事業税を負担します。法人事業税は、事業所の所在する都道府県が課す地方税です。法人の種類や資本金額、年所得額などで税率が変わります。

特別法人事業税は法人の事業税の税率が引き下げられたことから、2019年10月1日以後に開始する事業年度から課せられることになった税金です。法人事業税(所得割・収入割)の納税義務のある法人が対象となります。

消費税・地方消費税は、個人事業主と同じく、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合に課税されます。

社会保険

個人事業主は一般的に国民年金と国民健康保険に加入し、法人の経営者は厚生年金・健康保険に加入します。厚生年金の保険料は国民年金より高く、法人化により保険料の負担は増えることになるでしょう。

健康保険の保険料はあまり変わりありませんが、給付内容は基本的に健康保険のほうが優れています。

従業員への保険料の負担も変わります。個人事業主の場合は雇用する従業員が常時5人に満たないうちは、厚生年金や健康保険の加入が義務付けられていません。

一方、法人はすべての役員と正社員、一部のパートタイマーは厚生年金と健康保険に加入が義務付けられており、給料の約15%の保険料を法人が負担しなければなりません。

社会的信用

社会的信用は、一般的に個人事業主よりも法人のほうが高い傾向にあります。個人事業主は個人としての信用であるのに対し、法人は組織として認識され、登記簿謄本で会社の存在も確認できます。また、会社法などの法律に基づいて運営されているため、安心感を持たれやすいでしょう。

法人化により、取引先との契約や販路拡大、人材採用、金融機関からの融資など、さまざまな場面で有利に働きます。特に顧客が企業である場合、取引相手として法人を希望するケースも少なくありません。

年収2,000万円の個人と法人の手取りの違い

所得税は年収から経費を差し引いた所得に課税されますが、累進課税では課税所得額が1,800万円を超えると所得税率が40%(控除額279万6,000円)になります。住民税と合わせると、利益のほぼ半分を税金で納めることになります。

一方、資本金1億円以下の普通法人の場合、課税所得額が800万円以下の部分は15%、800万円を超えた部分の税率は23.2%です。

年収2,000万円の場合、個人事業主と法人で手取り額がどのように違うのか、シミュレーションしてみましょう。

個人事業主の場合

個人事業主のシミュレーションでは、以下の条件を設定します。

事業所得:2,000万円−経費200万円=1,800万円

所得税:(事業所得1,800万円−青色申告特別控除65万円-基礎控除48万円)×税率40%-控除額279万6,000円=395万2,000円

住民税は所得割と均等割があり、所得割の税率は一律で10%、基礎控除は43万円、均等割は5,000円です。

住民税(所得割):(事業所得1,800万円−青色申告特別控除65万円-基礎控除43万円)×税率10%=169万2,000円

住民税(均等割):5,000円

住民税:169万2,000円+5,000円=169万7,000円

所得税:395万2,000円+住民税169万7,000円=564万9,000円

計算の結果、年収2,000万円の個人事業主の手取り額は、2,000万円−564万9,000円=1,435万1,000円になります。

法人の場合

法人のシミュレーションでは、以下の条件を設定します。

  • 資本金1,000万円以下、従業員50人以下
  • 必要経費:200万円
  • 控除は考慮せず

事業所得:2,000万円−経費200万円=1,800万円

法人税=

年800万円以下の部分:800万円×15%=120万円

年800万円超の部分:1,000万円×23.2%=232万円

法人税額の合計:120万円+232万円=352万円

法人住民税の法人税割の税率は一律7%で、均等割の税額は、資本金1,000万円以下、従業員50人以下の場合は7万円です。

法人住民税(法人税割):事業所得1,800万円×7%=126万円

法人住民税(均等割):7万円

法人税:352万円+法人住民税133万円=485万円

年収2,000万円の法人の手取り額は、2,000万円−485万円=1,515万円になり、個人事業主の1,435万1,000円よりも79万9,000円多い結果となりました。

参考:国税庁 所得税の税率
参考:国税庁  法人税の税率

年収2,000万円で法人化する税務上のメリット

年収2,000万円の個人事業主が法人化することで、計上できる経費が増える、給与所得控除が適用できるなど、さまざまなメリットがあります。

ここでは、法人化する税務上のメリットをみていきましょう。

計上できる経費が増える

法人化することで、計上できる経費が増えることがメリットです。

個人事業主では認められず、法人にのみ認められる主な経費は、以下のとおりです。

  • 社長個人の退職金
  • 家族専従者への退職金
  • 出張手当
  • 福利厚生にかかる費用
  • 健康診断にかかる費用
  • 慶弔金
  • 生命保険の保険料(従業員を被保険者、受取人を法人とした法人契約)
  • 自宅の家賃(法人契約で役員の社宅とした場合)

経費計上により課税所得が減り、個人事業主よりも税の負担を抑えることが可能です。

給与所得控除が適用でき所得税を軽減する

個人事業主の場合、売上から経費を引いた金額に対して所得税が課税されます。一方、法人化した場合、利益の一部を経営者個人の役員報酬にすることで、「給与所得控除」を適用できます。

給与所得控除とは、会社員などの給与所得者が給与所得を計算する際に、給与収入額に応じて差し引かれる控除のことです。経営者の役員報酬から控除できるため、その分だけ節税ができるのがメリットです。

家族への役員報酬で所得を分散できる

法人化すると、経営に従事する家族に役員報酬を支払うことができます。その結果、所得を分散し、所得税を節税できることがメリットです。

所得税は累進課税のため、経営者一人にまとめて支払うと所得税の税率が上がり、高額な税金が課税されてしまいます。

家族に役員報酬を支払えば、所得分散効果により所得税の税率を下げ、節税ができるでしょう。

配偶者控除や扶養控除が適用できる

経営に従事する家族に支払った報酬は経費にでき、さらに所得限度内であれば、配偶者控除配偶者特別控除扶養控除を適用できます。

青色申告をする個人事業主の場合、家族を専従者として給与を支払い、経費にすることができます。しかし、配偶者控除や扶養控除などを適用することはできません。

法人化により、控除の対象にもできることがメリットです。

赤字を最大10年間繰り越せる

青色申告をしている個人事業主は、その年に生じた赤字を翌年以後3年間繰り越しできます。繰り越しにより、翌期以降の黒字と相殺して税金の負担を減らせます。

法人化により、この繰越期間が最大10年間になることがメリットです。適用されるには、青色申告をしている法人であること、各事業年度において連続して確定申告を提出していることが条件となります。

年収2,000万円で法人化するデメリット

法人化を検討する際は、デメリットについても把握しておくことが大切です。

ここでは、法人化により想定されるデメリットを解説します。

赤字でも法人住民税がかかる

事業が赤字になった場合、個人事業主であれば所得税・住民税がかかりません。しかし、法人の場合は赤字の場合でも、最低で年間約7万円の法人住民税が課税されます。

法人税や法人住民税の法人割は課税されませんが、法人住民税の均等割は所得ではなく法人の規模によって税額が定められています。そのため、事業が赤字でも税金の支払いが必要です。

社会保険への加入が必要

法人化により厚生年金・健康保険の加入が必要になり、保険料の負担が増えます。従業員の雇用人数や雇用の有無にかかわらず社会保険への加入が必須となり、従業員の社会保険料は、折半して支払わなければなりません。

ただし、厚生年金は国民年金よりも将来の支給額が増え、健康保険も傷病手当金の支給など、国民保険よりも手厚い保護を受けられます。

負担は増えるものの、メリットもあることは認識しておきましょう。

個人で使えるお金が制限される

法人化により、個人で使えるお金が制限されるのもデメリットです。経営者のプライベートの費用は法人の経費にできず、プライベートで使用するためには、役員報酬として経営者個人に給与として支払う必要があります。

また、法人税法上、経営者に支払われる役員報酬には制限があることも把握しておきましょう。1回決めた役員報酬の金額は原則として1年間変えられず、会社設立から3ヶ月以内に当期の報酬金額を決定しないと、役員報酬を経費に計上できません。

さらに、役員に賞与を支給する場合、会社設立から2ヶ月以内に税務署に届け出る必要があります。

経理や事務の手間が増える

法人になると経理業務の負担が増えることにも注意が必要です。個人事業よりも経理や決算が複雑になり、税務署や法務局への届出も増えるでしょう。税制優遇制度を受けるためには、適切な会計帳簿の作成も必要です。

1人で対応するには難しいことも多く、税理士や公認会計士への依頼や経理担当者の雇用を検討する必要も出てくるでしょう。

年収2,000万円で法人化した方が節税になる?

年収が2,000万円になると、所得税よりも法人税のほうが税率は低くなり、節税できる可能性があります。経費に計上できる項目が増え、役員報酬の支給で給与所得控除を適用できるのも有利な要素です。

ただし、法人化にはデメリットもあります。節税はできても、経理業務の負担が増えて別のコストが発生することもあるでしょう。

メリット・デメリットを比較し、総合的に考える必要があります。

年収2,000万円で法人化した方が良いケース

年収2,000万円で法人化した方が良い場合として、以下のようなケースがあげられます。

  • 事業拡大を検討しているとき
  • 前々年度の課税売上高が1,000万円を超えているとき
  • 事業承継を検討しているとき

事業拡大を検討しているのであれば、法人化がおすすめです。法人でなければ契約ができない案件などがあり、資金調達もしやすくなります。

前々年度の課税売上高が1,000万円を超えている場合も、法人化のタイミングです。売上が1,000万円を超えると、翌々年に課税事業者となり消費税を納税しなければなりません。しかし、法人化することで基準となる売上がリセットされます。課税事業者になるタイミングで法人化すれば、2年間は消費税の納税を免れ、節税が可能です。

事業承継を検討しているときも、法人化した方が良いケースといえます。個人事業主の事業承継は相続の手続きが必要ですが、法人(株式会社)であれば、会社の株式を後継者に引き渡すだけで承継が成立し、事業をそのまま遂行できます。

年収2,000万円で法人化しない方が良いケース

年収2,000万円でも、法人化しない方が良いケースがあります。例えば、以下のようなケースです。

  • 法人化したことで計上できる経費はあまり変わらない
  • 事業を拡大する予定がない
  • 業務の負担を増やしたくない

事業内容によっても、法人化により節税メリットを感じられるかどうかは異なります。法人化することによって得られるメリットが負担するコストに見合わないと考えられる場合は、法人化をしないという選択肢もあるでしょう。

年収2,000万円で法人化する流れや手続き

個人事業主が法人を設立する手続きの大きな流れは、以下のとおりです。

  1. 会社概要を決める
  2. 法人用の実印を作成する
  3. 定款を作成し、認証を受ける
  4. 出資金(資本金)を払い込む
  5. 登記申請書類を作成し、法務局で申請する

会社設立にかかる期間は、一般的に2〜3週間程度です。

会社設立の具体的な手続きや必要書類については、以下の記事をご覧ください。

法人化に役立つひな形・テンプレート

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年収2,000万円を超えたら法人化を検討しよう

個人事業主の売上が年収2,000万円を超えたときは、法人化を検討する時期です。所得税の税率が法人税よりも高くなるため、法人化により節税できる可能性があります。

ただし、法人化が適切かどうかは、事業内容や今後の事業方針によって異なります。法人化によりさまざまなメリットはありますが、業務の負担が増えるなどのデメリットも把握し、事業にとって最適な選択を行いましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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