- 作成日 : 2025年10月21日
電気管理技術者の法人化はできる?電気保安法人設立の要件と手続きを解説
電気管理技術者として個人事業主で活動している方が法人化するには、電気保安法人を設立することで可能になります。ただし、実務経験5年以上(講習受講で3年)と複数の有資格者が必要など、設立要件は厳しく設定されています。
法人化により受託可能な案件数の増加や信頼性向上などのメリットがある一方、設立・運営コストの負担も発生します。この記事では、電気管理技術者の法人化における設立要件、必要な手続き、実務経験の積み方、そして成功のポイントまでわかりやすく解説します。
目次
電気管理技術者の法人化はできる?
電気管理技術者として個人事業主で活動している方は、電気保安法人を設立することで法人化できます。ただし、個人から法人への単純な切り替えではなく、電気保安法人としての人員・体制・設備要件を満たすことが必要です。
電気保安法人と個人の電気管理技術者の違い
個人の電気管理技術者には、管理できる電気設備の数に上限があります。一方、電気保安法人では、保安業務担当者を複数配置することで、管理できる範囲を段階的に拡大できます。
- 個人:換算係数33点まで(中小規模の建物30~40件程度)
- 法人:担当者1人あたり33点 × 担当者数分(体制に応じて拡大)
換算係数とは、管理する電気設備の規模や種類を点数化したもので、例としては「64kVA未満=0.4点」「150〜350kVA未満=0.8点」「350〜550kVA未満=1.0点」といった容量帯別基準に基づきます。個人では合計33点を超えると新たな案件を受託できなくなりますが、法人なら担当者が2人いれば66点分、3人いれば99点分というように拡大できます。
法人化を検討すべきタイミング
管理している電気設備の換算係数が30点を超え、受託余力が少なくなってきた段階が、法人化を検討すべきタイミングです。案件を断る機会が増えたり、従業員を雇いたいと感じ始めたら、事業を法人化して体制を整えることが選択肢になります。
- 換算係数が30点を超えている
- 新規案件を断ることが増えた
- 従業員を雇用したい
- 大規模施設を受託したい
- 事業承継を考えている
個人事業主と法人化との比較
法人化による変化を具体的に比較してみましょう。
比較項目 | 個人事業主 | 電気保安法人 |
---|---|---|
管理可能規模 | 約30~40件(33点まで) | 1人あたり33点 × 担当者数分(拡大可能) |
平均年収(想定) | 約800〜1,200万円 | 約1,200〜2,000万円 |
必要な技術者数 | 1人 | 最低2人以上 |
初期投資 | 数百万円(車両・機器含む) | 約800〜1,200万円(測定器・保険料・設備含む) |
月間固定費 | 20〜40万円程度 | 50〜80万円程度(人件費・保険料含む) |
税金 | 所得税(最高45%) | 法人税等(実効税率約30〜34%) |
社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 厚生年金・健康保険 |
事務負担 | 軽い(単式簿記) | 重い(複式簿記・決算・労務手続) |
事業承継 | 困難 | 容易 |
売上は法人化によって大きく増える可能性がありますが、設備投資・社会保険料・人件費といった固定費も同時に増えます。そのため、手取り利益は直ちに倍増するわけではありません。
しかし、事業の継続性・安定性、社会的信用の向上という観点から見ると、電気管理技術者にとって法人化は長期的に大きなリターンをもたらす選択といえるでしょう。
電気管理技術者が法人化するための要件は?
電気保安法人を設立するには、2名以上の有資格者(保安業務担当者)と、各人の実務経験を証明する書類が必要です。電気保安法人は、電気事業法施行規則(第52条の2の3)に基づき登録・届出が行われるため、個人の保安管理技術者よりも厳格な体制要件が定められています。
必要な人員と資格要件
電気保安法人として登録を受けるには、保安業務担当者を2名以上配置することが義務付けられています。1人で会社を設立することは可能ですが、保安法人としての認定を受けることはできません。
- 保安業務担当者:2名以上(第三種電気主任技術者以上+必要な実務経験)
- 保安業務従事者:業務補助・巡回点検などを担当(必要に応じて配置)
- 事務担当者:申請書類・契約書・報告書の作成を担当
なお、過疎地域や離島などでは、例外的に1名での登録を認めるケースもありますが、非常に限定的な運用であるため、必ず事前に管轄の産業保安監督部へ相談しましょう。
実務経験の要件と証明方法
電験の種別ごとに、必要な実務経験年数が定められています。また、経済産業大臣登録講習機関が実施する「保安管理業務講習」を修了すれば、必要年数が短縮されます。
電験種別 | 通常の実務経験 | 講習修了後の実務経験 |
---|---|---|
第1種 | 3年以上 | 2年以上 |
第2種 | 4年以上 | 3年以上 |
第3種 | 5年以上 | 3年以上 |
実務経験を証明するには、「実務経歴証明書」の提出が必要です。勤務していた会社や委託元の代表者または管理責任者の署名・押印が必要で、管理委託契約書や点検記録などの写しを添付します。
個人で業務を行っていた場合でも、委託契約書・報告書などにより実績を証明できます。証明書の発行には時間がかかることが多いため、法人化を見据えて早期に依頼・準備しておくことが重要です。
出典:保安管理業務を行いたい方へ|経済産業省 関東東北産業保安監督部
電気管理技術者の法人化に必要な手続きは?
電気保安法人として活動するには、会社法に基づく法人設立と、電気事業法に基づく届出の2段階が必要です。通常の法人登記に加えて、産業保安監督部への「電気保安法人届出書」の提出・確認が求められます。書類審査や照会に時間がかかるため、2〜3か月程度のスケジュールを想定して準備を進めるのが現実的です。
法人設立から承認までの流れ
法人設立から電気保安法人としての承認まで、最短でも3か月程度は必要です。
- 定款作成(事業目的に「電気工作物の保安管理業務」を明記)
- 法人設立登記(2~3週間)
- 必要書類の準備(保安規程、保安業務担当者一覧、実務経歴証明書 等)
- 産業保安監督部への申請(「電気保安法人届出書」を提出)
- 審査・承認(1~2か月)
株式会社の設立費用は約20~30万円、合同会社なら約6~10万円が必要になります。
必要書類の準備における注意点
電気保安法人の届出では、実務経歴証明書や保安規程などの正式書類が必要となります。特に実務経歴証明書は、過去の勤務先や委託元から代表者・管理責任者の署名と押印を得る必要があり、発行まで1か月以上かかる場合もあります。
- 実務経歴証明書は早めに依頼(発行に時間を要する)
- 管轄の産業保安監督部へ事前相談(地域ごとに要件が異なる)
- 書類チェックリストを活用して不備を防ぐ
- 証明書が取得できない場合は、委託契約書・点検報告書等を添付し個別相談
前職の会社や取引先と良好な関係を保ち、退職や契約終了時に証明書発行の合意を得ておくことが、法人化準備を円滑に進めるコツです。
電気管理技術者の実務経験はどう積む?
電気保安法人を設立したり、保安業務担当者として登録されるには、一定期間の実務経験が求められます。一般的には、電気主任技術者(電験)資格を有したうえで保安管理業務に通算5年以上従事していることが条件です。ただし、経済産業大臣登録の保安管理業務講習を修了すれば、必要な実務年数を3年以上に短縮できます。
実務経験として認められる業務
実務経験として認められるのは、電気工作物の維持・運用・保守に直接関わる業務です。単なる電気工事や設計業務ではなく、「保安管理」としての継続的な管理・監視・報告の業務が該当します。
- 電気工作物の点検・測定・監視業務
- 異常・事故時の対応や復旧作業
- 保安規程に基づく保安業務(報告・記録・改善措置等)
- 管理委託契約に基づく設備の保安管理
- おおむね月20日以上の継続従事が確認できるもの
- 電気工事業務のみ(配線・施工等)
- 設計・積算業務のみ
- 営業活動や一般事務のみ(保安管理に該当しない)
保安管理業務講習の活用
実務経験を効率的に積みたい場合は、保安管理業務講習の受講が有効です。この講習は、経済産業大臣登録の講習機関が実施しており、修了すれば必要な実務年数が短縮されます。
- 通常:第3種で5年以上の実務経験
- 講習修了者:3年以上で要件充足
- 費用目安:10万〜20万円前後
講習修了により、通常よりも短期間で保安業務担当者としての登録要件を満たすことができます。 単に資格を取るだけでなく、実務と講習を組み合わせることで、効率的かつ確実に法人化・独立の基盤を築くことが可能です。
電気管理技術者の法人化のメリット・デメリットは?
法人化により事業規模の拡大や社会的信用の向上が期待できますが、コスト増加や管理負担の増大というデメリットも理解しておく必要があります。
法人化の主なメリット
法人化すれば保安業務担当者の人数に応じて管理範囲を拡大できます。
事業規模の拡大
個人の電気管理技術者では換算係数33点(中小規模の建物30~40件程度)が上限ですが、法人化すれば、例えば、保安業務担当者を2人配置すれば66点分、3人なら99点分と、人数に応じて管理規模を拡大できます。
社会的信用度の向上
法人格を持つことで、官公庁や大企業からの信頼性が高まり、取引機会が拡大します。個人では契約できなかった公共施設や大規模工場の保安業務を受託できる可能性もあります。
また、法人化により入札資格の取得が可能になり、金融機関からの融資も受けやすくもなるでしょう。設備投資や事業拡大に必要な資金調達が容易になり、成長スピードを加速できます。
組織的な対応体制の構築
法人化によって、複数の技術者による分業・相互補完体制を整備できます。24時間365日の緊急対応や夜間待機なども、シフト制で無理なく対応可能です。また、自身が病気や休養中でも他の従業員が対応でき、顧客へのサービス継続性が確保されます。
専門分野ごとの分業(高圧設備、太陽光、特高対応など)によって、より高度な保安体制を提供できるのも大きな強みです。
税制面での優遇
所得が一定水準(おおむね800万円超)を超えると、個人の所得税よりも、中小法人の実効税率の方が有利になるケースが増えます。
事業承継の容易さ
個人事業主が死亡または引退した場合、電気管理技術者の資格失効により契約も終了します。一方で、法人は代表者が交代しても事業継続が可能です。子どもや有資格社員への承継もスムーズで、築き上げた顧客基盤を次世代に引き継ぐことができます。
法人化の主なデメリット
設立・運営コストの増加により、純利益は売上ほど増えない場合があります。
初期投資と固定費の増加
法人設立には以下のような費用がかかります。
とくに社会保険料の負担は大きく、月給30万円の従業員を1人雇用すると、会社負担分を含めて月40万円程度の人件費がかかります。
経理・税務の複雑化
法人は複式簿記での記帳が必須で、決算書の作成も個人より煩雑です。税理士への依頼が必要となり、年間30~50万円程度の顧問料がかかります。また、以下のような業務も発生します。
これらの事務作業に時間を取られ、本来の技術者としての仕事に専念できなくなることもあるでしょう。
経営責任とリスクの増大
従業員を雇用すれば、給与や雇用継続、労働環境整備などの経営責任が発生します。加えて、労働基準法・安全衛生法・個人情報保護法などの遵守も求められます。
また、事業がうまくいかなかった場合、法人の債務や借入に対して代表者保証を求められるケースもあります。ただし、経営者保証ガイドラインに基づき、一定の財務要件を満たせば免除される可能性もあります。
電気管理技術者から法人化への移行で失敗しないためには?
法人化の手続きをスムーズに進め、既存顧客を失わないための対策が成功のカギとなります。
法人化の手続きは早めに進める
法人設立から電気保安法人としての承認まで、最短でも3か月程度の期間が必要です。
定款の事業目的には「電気工作物の保安管理業務」など、電気保安業務を明記します。この記載が漏れると、後から定款変更で3万円の登録免許税と2~3週間の時間が余計にかかります。
実務経歴証明書は法人設立の半年前から準備を始めましょう。前職の会社への依頼から押印まで、大企業では1~2か月かかることもあります。産業保安監督部への申請前には必ず事前相談を行い、書類の不備を防ぎます。
既存顧客に丁寧に説明する
法人化の案内は目途が立った段階から段階的に行い、重要顧客には個別訪問で説明します。
お客様には担当者や料金について説明します。料金改定が必要な場合は、値上げ以上の価値を提供するサービスを行うことで理解を得やすくなるでしょう。
積極的に営業や宣伝活動をする
法人化を機に、新規顧客獲得のための積極的な広報活動を展開しましょう。
ホームページの開設は必須です。会社概要、サービス内容、実績紹介などを掲載し、スマートフォン対応も忘れずに行います。名刺の肩書きが「代表取締役」に変わることで、相手に与える印象も大きく向上します。
商工会議所への加入により経営者ネットワークが広がり、地域イベントへの協賛も企業イメージ向上につながります。既存顧客からの紹介キャンペーンも効果的で、紹介者と新規顧客の両方に特典を提供することで、紹介を促進できるでしょう。
電気管理技術者の法人化は事業拡大への重要なステップ
電気管理技術者の法人化は、管理できる電気設備の数を大幅に増やし、事業を拡大できる重要な選択肢です。個人では約30〜40件程度が限界だった規模も、法人化により、2名体制で約66点分、3名で約99点分と段階的に広げられます。
法人化により社会的信用度も向上します。一方で、設立費用や運営コストの増加、事務負担の増大など、デメリットも理解しておく必要があります。
成功のカギは、綿密な事業計画と段階的な移行です。実務経験の証明書取得、複数の有資格者確保、既存顧客への丁寧な説明など、一つ一つの課題をクリアしながら進めることが大切です。法人化を機に積極的な広報活動を展開し、電気保安法人として、より大きな社会貢献を目指してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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