• 更新日 : 2024年4月24日

労働基準法とは?実務で気をつけたいポイントをわかりやすく紹介

労働基準法とは?実務で気をつけたいポイントをわかりやすく紹介

従業員を雇うなら、必ず「労働基準法」に従わなければなりません。正社員のみならず、従業員を雇用するときは広く労働基準法が適用されます。同法では労働に関するルールが細かく定められていますが、実務で特に重要な点に絞ってわかりやすく紹介します。

労働基準法とは?

労働基準法は「労働条件に関して最低の基準を定めた法律」といえます。

本来、労働契約の条件は当事者間で自由に定めるべきものです。条件に納得できないなら、契約をしなければよいだけです。しかし、労働となると、生活費を稼ぐ必要があるため、条件が納得できないから労働をしないというわけにはいかず、企業と従業員の関係においては雇われる従業員の立場が弱くなりがちです。

すると、悪い条件でも働かざるを得ない人が出てきます。そうした事態を防ぐため、労働基準法では最低限守るべきルールが定められています。

労働基準法の概要

賃金や労働時間、残業、休日出勤、解雇など、労働基準法では労働に関わるさまざまなルールが定められています。

多くの企業に関係する基本的なルールは、以下のとおりです。

  • 賃金の支払方法について
    直接払い、通貨払い、全額払い、毎月払い、一定期日払いの厳守
  • 労働時間について
    1週40時間、1日8時間以内を基本とする
  • 時間外労働・休日労働について
    労使協定によること
  • 割増賃金について
    時間外や深夜は25%以上、休日の労働は35%以上の割増賃金とする
  • 解雇について
    解雇するには30日以上前に予告する、または30日分以上の賃金を支払う
  • 有期労働契約について
    原則3年以内、専門的労働者は5年以内とする

近年は時間外労働の上限が設けられました。また、労働基準法の内容もしばしば変わるため、注意が必要です。

労働基準法の対象

労働基準法は、従業員を雇用するすべての事業主および従業員に適用されます。

※なお、同法では事業主を「使用者」、従業員を「労働者」と呼ぶ。

従業員にはいわゆる「正社員」、有期雇用労働者である「契約社員」、短時間労働者である「アルバイト」や「パートタイマー」、また「派遣社員」などの分類がありますが、どの労働者に対しても労働基準法が適用されます。

契約社員だから、アルバイトだから、といった理由では、労働基準法に従わなくてよいことにはなりません。正社員同様、同法に準拠する必要があります。

労働基準法における雇用契約のルール

ここからは、実務上知っておきたい労働基準法上のルールを紹介します。まずは企業と従業員の関係が始まる「雇用契約」の締結時や、契約内容の検討時に注意しておきたいポイントを示します。

雇用契約時に留意すべきポイント
採用時に明示する労働条件使用者である企業は、労働契約締結時に一定の労働条件を明示する義務がある。例えば、次のような条件。

  • 労働契約の期間
  • 勤務地、仕事内容
  • 仕事の開始時刻と終了時刻、残業の有無、休憩時間、休日など
  • 給料の計算や支払い方法など(※退職金等は除く)
  • 退職について(解雇事由を含む)

その他、労働基準法施行規則第5条第1項所定の事項を明示しなければならない。

有期労働における契約期間期間の定めを設けて従業員(契約社員等)を雇うとき、その期間は3年を超えてはならない。
※専門的労働者等一部例外あり。
違約金や罰金などのルール禁止業務上のミスなどを理由に、違約金や罰金などを課すルールを定めてはいけない。
そのため「クレーム1件につき損害賠償として1,000円を支払う」といった規定を置くことはできない。

労働基準法における労働時間・休憩のルール

次に、「労働時間」や「休憩」に関するポイントを以下に示します。

労働時間や休憩時間のポイント
勤務時間の上限原則、勤務時間は1週間あたり40時間、1日あたり8時間と決められている。ただし、一定の条件を満たしたときは「1ヶ月を平均して40時間/週とすればよい」「1年を平均して40時間/週とすればよい」という変形労働制を採用することも可能。
この時間を超える労働は法定時間外労働、いわゆる「残業」となる。
残業時間の上限残業時間は「時間外労働の限度に関する基準」に従い、基本的に1ヶ月あたり45時間、1年あたり360時間以下に収める必要がある。
また、従業員に時間外労働や休日労働をさせるには、(事業場の過半数の労働者から組織される)労働組合または労働者の過半数代表と、「36協定」を交わさなければならない。
締結した36協定は、労働基準監督署への届出が必要。
休憩時間のルール労働時間に対応する休憩時間が必要。

  • 6時間超8時間以下の場合:45分以上
  • 8時間超の場合:1時間以上

労働基準法における有給のルール

次に、「有給休暇」の取得について押さえておくべきポイントを以下に示します。

有給休暇に関するルールのポイント
有給休暇の日数のルール「雇用した日からの期間」に1年あたりの休暇日数は対応する。

  • 6ヶ月の場合:10日
  • 1年6ヶ月の場合:11日
  • 2年6ヶ月の場合:12日
  • 3年6ヶ月の場合:14日
  • 4年6ヶ月の場合:16日
  • 5年6ヶ月の場合:18日
  • 6年6ヶ月以上の場合:20日
アルバイト等に対する有給休暇付与有給休暇は一定期間働いた従業員に付与される休暇であり、短時間労働者などにも同様に付与する必要がある。ただし、次の2つの要件を満たさない従業員には付与が義務とならない。

  1. 雇用の日から6ヶ月以上経過した
  2. その期間中8割以上出勤した
有給休暇取得者に対する評価有給休暇を取得した者に対する不利益な取扱いは禁止される。
例えば、有給休暇取得を賞与査定におけるマイナス要素とすることは違法である。
有給休暇の計画的な消化従業員が申し出た日に休暇を与えなければならないのが原則。しかし、労働組合や労働者の過半数代表との協定の定めにより、計画的な付与が可能となる。従業員が気を遣ってなかなか消化しない場合などに効果的。
※年次有給休暇のうち5日を超える部分に限る。

労働基準法における賃金のルール

「企業は労働力を得て、その対価として賃金を渡す」のが雇用契約の主な目的です。従業員にとって賃金は生活に関わるもののため、企業側は賃金に関するルールもしっかり押さえておかなければなりません。

賃金に関するルールのポイント
賃金の支払方法賃金の支払方法については①通貨で、②直接従業員に、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日に支払う、という5つの原則がある。
例えば、②の「直接払いの原則」は中間搾取を排除するのが目的。本人以外に賃金を支払ってはいけない。④の「毎月払いの原則」は、支払いの間隔が開くことによる従業員の生活上の不安を排除するのが目的。⑤の「一定期日払いの原則」も、計画的生活が困難になることを防ぐことが目的である。
給料の引き下げ給料の引き下げ自体は、労働基準法で禁止されていない。
ただし、「労働条件通知書」や「就業規則」に記載されている給料の額より少なくなると、給料の一部が不払いであると評価され、同法違反になるおそれがある。
割増賃金計算の基礎になる賃金割増賃金を計算するときは、「所定労働時間内で働いたときに支払われる賃金」を用いる。
※家族手当や通勤手当、住宅手当、臨時の賃金などは除外する。
夜10時以降の割増賃金深夜労働(午後10時~午前5時)に対しては、法定時間外労働の割増率とは別に割増率が定められている。
法定時間外労働が深夜に食い込むときは、①法定時間外労働に対する割増率25%以上+②深夜労働に対する割増率25%以上=50%以上の割増賃金の支払いが必要になる。
また休日出勤に対しては、①法定休日労働に対する割増率35%以上+②深夜労働に対する割増率25%以上=60%以上の割増賃金の支払いが必要になることもある。

労働基準法における解雇のルール

解雇は従業員が生活費を失うきっかけとなるものなので、企業側が簡単には解雇できないようにルールが設けられています。

解雇に関するルールのポイント
解雇の予告解雇するときは、30日以上前に予告することが義務付けられている。解雇予告をしない場合、前もって予告すべきであった日数に対応する平均賃金の支払いが必要。
65歳未満の従業員の定年退職定年を60歳と定めて、従業員に退職を強いることはできない。60歳に達した従業員が希望するときは、少なくとも65歳までは雇わなければならない。
退職勧奨の方法退職勧奨とは、従業員に対して「辞めてくれないか」などと伝えて退職を勧めること。従業員の自由な意思に基づいて退職するかどうかが重要であり、実質的に自由な意思決定ができないように追い込んだときは違法となる。
また、退職勧奨による退職は「自己都合による退職」ではない。

労働基準法における就業規則のルール

一定の場合は、就業規則を作成しなければなりません。その際は、以下のポイントを押さえておきましょう。

就業規則に関わるルールのポイント
就業規則の届出就業規則は「常時10人以上を雇用するとき」に作成し、労働基準監督署長に届出をする義務が生じる。
就業規則に必ず定める事項就業規則には「勤務時間」「休憩」「休日」「休暇」「賃金」「退職」に関する規定を必ず定めなければならない。
賃金台帳や労働者名簿の作成・保存企業には「労働者名簿」や「賃金台帳」など、労働関係の重要書類を3年間保存する義務がある。紙の書面とする必要はなく、パソコンで作成して電子データとして保存することもできるが、次の要件を満たす必要がある。

  • 法令で定められた要件を具備した上で、画面上への表示や印刷ができること
  • すぐにデータの確認、提出ができるシステムとなっていること
  • 誤消去がないこと
  • 長期間の保存ができること

労働基準法に違反したときの罰則

労働基準法に違反したときは従業員からの信用や社会的な信用を失うだけでなく、同法所定の罰則が適用されることもあります。

例えば、脅迫などにより無理やり働かせたときは「1~10年の懲役または20万~300万円の罰金」に処すことが同法で定められています。この例は滅多にあることではありませんが、同法の違反により最大10年もの懲役刑に処される可能性があることを覚えておきましょう。

また、残業時間の上限について定めたルールに反する場合や、男女間で差別的な取扱いをした場合、休日や休憩、有給休暇に関するルール違反があった場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処されることがあります。

就業規則の届出をしなかった、36協定を締結せずに残業させた、労働条件を明示しなかったといった場合にも「30万円以下の罰金」に処されることがあります。

労働基準法は最低限守るべき当たり前のルール

当記事では、労働基準法の要点を紹介しました。他にも事業者として守るべきルールがたくさんありますが、同法への準拠は特別なことではありません。従業員を雇うすべての企業が当たり前に守るべきルールであり、「他の企業もやっている」「これくらいはいいだろう」などと違法な状態を放置すべきではありません。

専門家に相談するなどして、労働基準法の遵守を徹底しましょう。


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