• 作成日 : 2025年9月16日

合同会社で節税は可能?法人化で得られるメリットや注意点を解説

個人事業主として活動している中で、「節税のために法人化すべきか?」と考える場面は少なくありません。中でも合同会社は、設立費用が安く、運営も柔軟であることから、節税を目的とした法人化の選択肢として注目されています。

本記事では、合同会社の設立によって得られる節税メリットと注意点について、最新制度をふまえて解説します。

合同会社設立(法人化)の節税メリットとは

合同会社を設立することで、個人事業と比べて多くの税務上の優遇が受けられます。税率の違いだけでなく、経費の範囲や控除の扱いにも違いがあるため、一定の所得がある場合には法人化によって大きな節税効果が得られる可能性があります。ここでは合同会社による節税メリットを3つの観点から解説します。

個人の所得税より法人税率の方が低い

個人事業主の所得には累進課税が適用され、所得が増えると税率も上がっていきます。たとえば所得が330万円以上〜6,949,000円以下で20%、695万円以上8,999,000円以下で23%、900万円超〜17,999,000円以下で33%、1,800万円以上39,999,000円以下で40%、そして4,000万円以上になると最高税率45%に達します。加えて、住民税が一律約10%かかるため、所得が高くなるほど負担は重くなります。

一方で、合同会社などの中小法人では、所得800万円以下の部分に対しては法人税率が15%(軽減税率の適用時)と低く抑えられています。800万円超の部分も23.2%で、個人の高所得者層に比べると大幅に軽減される仕組みです。収益が大きくなるほど、法人化による税率差の恩恵を受けやすくなります。

経費にできる範囲が広がる

法人化すると、経費として認められる項目が増え、課税所得をより柔軟に抑えることが可能になります。個人事業では経費にしづらい支出も、法人として事業に関係する支出であれば損金(法人の経費)として処理しやすくなります。

たとえば、代表社員への役員報酬、法人契約の保険料、親族に業務委託した場合の報酬なども、適切に処理すれば法人の経費に計上できます。また、事業用の社宅や車両を法人名義で保有することで、家賃や自動車関連費用も経費に含めやすくなります。

給与所得控除を活用できる

合同会社を設立すると、事業主である代表社員は法人から「給与」として役員報酬を受け取ることになります。この給与所得には、労務対価に対する経費として「給与所得控除」が適用されます。たとえば年収850万円超の場合、195万円の控除が自動的に差し引かれます。

一方、個人事業主の事業所得にはこのような給与所得控除はありません。つまり法人化することで、同じ収入額でも所得控除を通じて課税対象額を下げられる点が、節税上の大きな差となります。結果として、手元に残る金額を増やすことができるのです。

合同会社は株式会社よりも節税しやすい?

合同会社と株式会社は、税法上はほぼ同じ扱いを受けるため、制度上の節税効果に大きな差はありません。ただし、合同会社は設立や運営において柔軟性が高く、小規模事業者にとっては節税を実行しやすい環境が整っています。ここでは、合同会社が節税に有利とされる理由を見ていきます。

税率や控除の制度は共通

法人税や消費税社会保険料の制度は、合同会社も株式会社も共通です。法人税率は資本金1億円以下の中小法人であればどちらも15%(年800万円以下の所得)や23.2%(超過部分)が適用され、経費の計上範囲も同一です。そのため、税制そのものに優劣はありません。

小規模経営では運用の柔軟さが節税に有利

合同会社は役員報酬の決定や会社運営における意思決定がシンプルで、節税対策を迅速かつ柔軟に行える点が特徴です。たとえば、役員報酬の見直しや事業構造の変更なども、登記や議事録の手間が少ないため、株式会社に比べてコストも抑えやすく、節税の実行コストが小さく済みます。

このように、合同会社は特に一人法人や家族経営などにおいて、株式会社よりも現実的に節税効果を得やすい形態と言えるでしょう。

個人事業主が合同会社を設立したほうが節税になる目安

個人事業主が合同会社を設立することで節税効果が見込めるかどうかは、年間の所得額が一つの目安になります。法人化を検討する一つの目安として、事業所得が800万~900万円を超えるタイミングが挙げられます。これは、個人の所得税率が法人税率を大きく上回り始め、税率差によるメリットが出やすくなるためです。ただし、これはあくまで目安であり、社会保険料の負担増なども考慮して総合的に判断する必要があります。

また、家族に給与を支払って所得分散を図りたい場合や、経費にできる範囲を広げたい場合にも法人化は有効です。ただし、社会保険料の負担や法人住民税の均等割(最低7万円程度)など、固定的な支出が増える点も加味する必要があります。収益が安定しており、今後も継続的に事業を行う見込みがある場合は、合同会社への移行を前向きに検討する価値があります。

合同会社設立(法人化)のその他の節税メリット

合同会社の節税効果は、法人税率や経費処理の違いにとどまらず、将来的な税負担の軽減や家族内での所得分散にもつながるさまざまな制度が利用できます。ここでは、法人化によって得られる代表的な節税メリットを4つご紹介します。

家族に役員給与を支払い、所得を分散できる

法人になると、家族を役員や従業員として雇い、給与を支払うことが可能になります。この給与は法人の経費として処理でき、会社の課税所得を抑える効果があります。一方で、家族が基礎控除や低い所得税率の範囲に収まることで、世帯全体の税負担を下げることができます。個人事業主でも青色事業専従者給与制度がありますが、金額や対象に制限があるため、法人のほうが柔軟な設計が可能です。

役員退職金を使って税負担を減らせる

法人では、役員退職金の支給が可能です。これは退職所得扱いとなり、所得控除に加え、課税対象が2分の1になる優遇があります。役員退職金は税制上優遇されており、課税所得は「(収入金額 – 退職所得控除額)× 1/2」で計算されます。勤続30年で2,000万円の退職金を受け取った場合、退職所得控除額は1,500万円となり、課税対象は250万円((2000万-1500万)×1/2)まで圧縮されます。

個人事業主にはない仕組みであり、老後の資金確保としても有効です。

赤字を10年間繰り越せる

合同会社など法人は、赤字を最長10年間繰り越し、将来の黒字と相殺することが可能です。個人事業主では青色申告でも3年間しか繰越ができないため、長期的に見た税負担の調整力は法人の方が大きくなります。創業期や景気変動に備え、損失を将来の利益と相殺できるのは大きなメリットです。

事業承継時の相続税・贈与税を抑えられる

法人化すると、事業用資産は会社の所有物となり、相続や贈与の際は「出資持分」が課税対象となります。これにより、資産が分散せず円滑な承継がしやすくなるほか、計画的な株価対策を行うことで、事業承継時の税負担を軽減できる可能性があります。

個人事業主の場合、設備や不動産もすべて個人資産とみなされ、相続税や贈与税が課されますが、法人化していればこれを回避できます。後継者に事業を引き継ぐ計画があるなら、法人化によって税金面で有利に進められる可能性があります。

合同会社に消費税の節税メリットはある?

合同会社を設立することで、消費税の負担を軽減できる可能性があります。日本の消費税制度では、前々年度の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除される仕組みです。これにより、新たに設立された法人は「基準期間がない」ため、原則として設立1期目と2期目は消費税が免除されます。

たとえば、個人事業で売上が1,000万円を超えて消費税の納税義務が発生しそうな場合、資本金1,000万円未満で合同会社を設立すれば、最初の2年間は免税事業者としてスタートできる可能性があります。ただし、設立1期目の前半6か月間に売上や人件費がそれぞれ1,000万円を超えると、2期目から課税対象になる点には注意が必要です。

また、2023年に導入されたインボイス制度により、免税事業者は適格請求書の発行ができず、取引先にとって仕入税額控除ができないというデメリットもあります。この適格請求書を発行することができる適格請求書発行事業者へ登録をした場合には、前々年度の課税売上高や前年の課税売上高などが1,000万円以下であっても消費税の納税義務者になる点には注意が必要です。消費税の節税を検討する際には、制度の条件や事業環境への影響を総合的に考慮することが大切です。

節税目的で合同会社を設立する際の注意点

合同会社は節税に効果的な制度を多数活用できる法人形態ですが、法人化によって新たに発生するコストや義務もあります。節税メリットばかりに目を向けるのではなく、社会保険料の負担や赤字でも発生する法人住民税均等割などの固定的な税金についても正しく理解し、総合的な視点で検討することが重要です。

社会保険加入による負担増

合同会社を設立すると、原則として健康保険と厚生年金への加入が義務化されます。これは、代表社員自身にも適用されるため、会社と個人の両方で保険料を負担することになります。たとえば、月額30万円の役員報酬を支払うと、会社側だけでも年間50万円以上の社会保険料が発生します。個人事業主時代と比べ、支出が増える点には注意が必要です。

また、一部の経営者は社会保険料を抑える工夫として、配偶者を無報酬の非常勤役員にとどめて扶養の範囲内に置いたり、自分の役員報酬を最低限に設定して保険料負担を減らす「マイクロ法人」のような運用を行うこともあります。ただし、これらの方法は法的な整合性が問われる可能性もあり、実行には慎重な判断が必要です。

赤字でも発生する税負担

合同会社を設立すると、たとえ赤字であっても毎年「法人住民税の均等割」など最低限の税金が発生します。多くの自治体では資本金1,000万円以下の法人に対して年間7万円の均等割を課しています。また、一定規模を超える法人には、利益に関係なく課される「外形標準課税」も適用される可能性があります。

一方、個人事業主であれば、所得がゼロの場合には所得税・住民税ともに発生しません。さらに、法人は決算申告や法人税の申告などの税務手続きが複雑で、税理士への報酬などの運営コストも考慮する必要があります。

合同会社の設立で節税効果を最大限に活かそう

合同会社は、小規模事業者や個人事業主にとって、柔軟な運営と高い節税効果を両立できる法人形態です。法人税率の低さや経費計上の拡大、給与所得控除の適用などの基本的な節税効果に加え、家族への所得分散や退職金制度、赤字の繰越といった制度も活用できます。また、消費税の免税期間や事業承継時の相続税対策といった中長期的な税負担の軽減も期待できます。ただし、社会保険料の負担や運営コストといった法人化に伴うデメリットも考慮する必要があります。合同会社を設立する際は、自身の事業規模や今後の見通しに応じて、総合的に判断し、制度を最大限に活かしていきましょう。


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