• 更新日 : 2025年3月31日

法人化すると節税できる?メリットや税金が安くなる年収(所得)を解説

事業の規模が大きくなり、法人化を検討している個人事業主の方もいらっしゃるかもしれません。法人化すれば法人税を支払うことになりますが、これによって節税できる場合があります。

一般的に所得が800万円を超えるタイミングで法人化するといいと言われています。今回の記事では法人化の節税メリットや、概算税額シミュレ-ションなど詳しく紹介していきます。

個人事業主が法人化すると節税できるケスも

個人事業主の法人化は課税される税金の種類や、計上できる経費の範囲が違うため節税につながる可能性があります。法人化が節税となる理由について、解説します。

個人と法人の税金の違い

まずは税金に関してわかりやすいよう、個人事業主と法人の違いを一覧表にまとめました。

個人事業主法人
支払うべき税金所得税法人税
税率累進課税ほぼ一定
欠損金3年間繰越控除可(青色申告の場合)10年間繰越可
給与経費にできない経費にできる
退職金経費にできない経費にできる
住居費や出張の日当経費にできない経費にできる
給与控除利用できない利用できる
厚生年金雇用保険などの社会保険の加入義務なしあり

一番大きな点としては支払うべき税金が挙げられます。個人事業主として事業を行っている場合は収入から必要経費を差し引いた事業所得(=利益)に対して所得税が課せられますが、法人の場合は法人税を支払います。

所得税と法人税はどちらも所得に対して課税されるという点では同じですが、税率に違いがあります。所得税の場合は、所得額によって税率が変わる累進課税が採用されています。

【個人事業主の所得税】

課税される所得金額税率控除額
1,000円から1,949,000円まで5%0円
1,950,000円から3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円か17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000から39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円以上45%4,796,000円

参考:国税庁 No.2260 所得税の税率

上記に加えて個人の場合は住民税が約10%課税されるため、最大で55%もの税率になります。一方で法人税の場合、一律です。

【法人の法人税】

区分適用関係(開始事業年度)
2016年4月1日以降2018年4月1日以降2019年4月1日以降2022年4月1日以降
普通法人資本金

1億円以下の法人など

年800万円以下の部分下記以外の法人15%15%15%15%
適用除外事業者19%19%
年800万円超の部分23.4%23.2%23.2%23.2%
上記以外の普通法人23.4%23.2%23/2%23.2%

参照:国税庁 No.5759 法人税の税率

資本金1億円以下の法人は800万円以下と800万円超で税率が違いますが、それ以外は一律の税率です。そのため所得の金額が大きくなるほど、法人税の方が税金を抑えることができます。例えば、事業の所得が800万円を超えると、法人税の方が税の負担は軽くなると言われています。

個人と法人の経費の違い

個人事業主に比べると、法人の方が経費として計上できる範囲が広いことも節税につながる要因です。経費が多く計上できれば所得の金額を抑えられるため、税金の金額を減らせます。

代表的な経費が代表者への報酬です。法人であれば代表者への給与を経費として計上できますが、個人事業主には代表者への給与という概念はなく経費計上できません。

法人化することによって法人と代表者個人は別人格になるため、給与という概念が生まれます。給与を支払う法人側は経費として計上できるだけでなく、受けとる代表者個人としても給与所得控除を差し引くことが可能です。

一方個人事業主は事業も代表者も個人も同一人格なため、単純に事業の所得に対して課税されます。

また、退職金についても経費扱いです。そもそも個人事業主には退職金という概念はありません。法人の場合は従業員に支払う退職金はもちろん、家族従業員や経営者の従業員も経費として計上可能です。他にも出張の日当や住宅費(社宅の場合)に関しても経費扱いとなり、計上すれば節税につながります。

このような法人化による税務上のメリットについては、このあと詳しく紹介します。

個人事業主が法人化する税務上のメリット4選

法人化による税務上の主なメリットには、次の4つがあります。

  • 代表者への給与を経費に計上できる。
  • 家族への給与も経費にでき、配偶者控除扶養控除を活用できる
  • 2年間の消費税の免税期間が設けられている
  • 赤字を10年繰り越せる

それぞれの内容を、詳しく見ていきましょう。

代表者への給与を経費に計上できる

前述のように法人化することで、代表者への給与(役員報酬)を経費として計上が可能です。給与を受けとった代表者は給与に対して所得税を支払う必要がありますが、給与所得控除が使えます。給与所得控除とは、給与収入を受けとる会社員が計上できる経費のようなもので、下記のように収入金額によって控除額も変わります。

給与等の収入金額

(給与所得の源泉徴収票の支払金額)

給与所得控除額
1,625,000円まで550,000円
1,625,001円から1,800,000円まで収入金額×40%100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで収入金額×30%80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで収入金額×20%440,000円
6,600,001円から8,500,000円まで収入金額×10%1,100,000円
8,500,001円以上1,950,000円(上限)

参考:国税庁 No.1410 給与所得控除

例えば、役員報酬を600万円に設定した場合、600万円×20%+8万円=128万円の給与所得控除を受けられることになります。したがって、課税所得は600万円-128万円=472万円ということになるのです。個人事業主であればこのような控除は使えないため、法人化することのメリットの一つです。

家族への給与も経費にでき、配偶者控除・扶養控除を活用できる

法人化することで代表者の役員報酬だけでなく、家族への給与も経費として計上できます。さらに家族の収入次第では、配偶者控除(配偶者特別控除)や扶養控除も利用可能です。このような各種控除が利用できることで、個人としての所得税の節税ができます。配偶者控除の詳細は、下記の通りです。

控除を受ける納税者本人の合計所得金額控除額
一般の控除対象配偶者老人控除対象配偶者
900万円以下38万円48万円
900万円超950万円以下26万円32万円
950万円超1,000万円以下13万円16万円

参考:国税庁 No.1191 配偶者控除

 例えば、本人の所得が600万円、配偶者の給与所得が80万円の場合、38万円の控除が受けられることになります。

また配偶者が上記の所得を超えた場合でも、一定の金額以内であれば配偶者特別控除を利用できます。

控除を受ける納税者本人の合計所得金額
900万円以下900万円超

950万円以下

950万円超

1,000万円以下

配偶者の合計所得金額48万円超 95万円以下38万円26万円13万円
95万円超 100万円以下36万円24万円12万円
100万円超 105万円以下31万円21万円11万円
105万円超 110万円以下26万円18万円9万円
110万円超 115万円以下21万円14万円7万円
115万円超 120万円以下16万円11万円6万円
120万円超 125万円以下11万円8万円4万円
125万円超 130万円以下6万円4万円2万円
130万円超 133万円以下3万円2万円1万円

参考:国税庁 No.1195 配偶者特別控除

例えば、納税者本人の所得が600万円、配偶者の給与が130万円の場合、納税者本人は11万円の配偶者特別控除を受けることが可能です。

他にも扶養控除の対象となる親族がいる場合は、扶養控除の適用も可能です。

区分控除額
一般の控除対象扶養親族38万円
特定扶養親族63万円
老人扶養親族同居老親等以外の者48万円
同居老親等58万円

参考:国税庁 No.1180 扶養控除

例えば、19歳の大学生の子どもがいて、アルバイトで100万円を稼いでいる場合、特定扶養親族に該当し、納税者本人は63万円の扶養控除が受けられます。法人化することで事業主体の法人だけでなく、給料を受けとる代表者・親族個人の所得税も節税することが可能になります。

2年間の消費税の免税期間が設けられている

法人化することで所得に対する税金だけでなく、消費税を節税できる場合もあります。消費税は課税売上が1,000万円を超えると納税義務が生じます。ただし、新設法人の場合は基準期間が存在しないため、設立から最初の2年間は消費税納付義務が免除されます(資本金1,000万円未満の場合)。

例えば、2025年に法人化した場合、2025年と2026年は免税され、2027年から消費税が課税されます。

赤字を10年繰り越せる

法人化することにより、事業で赤字が出た場合の損失を最長で10年繰り越せます。損失を繰り越すということは、翌期の利益から損失を相殺することを指します。つまり、赤字を出した事業年度以降の納税額を、節税することが可能です。個人事業主の場合でも損失の繰越は可能ですが、最長で3年間しか繰り越せません。10年間繰り越すためには設備投資など大きな赤字を計上する必要があるとも言えますが、長期間にわたって所得を減らせることは大きなメリットと言えるでしょう。

法人化で節税するには所得いくらが目安?税金シュミレーション

個人事業主から法人化することで節税が可能になりますが、所得はどれくらいあれば節税になるのでしょうか。法人化する目安や、法人化するべき判断基準を見ていきましょう。

法人化は所得800万円が一つの基準

法人化して節税になる目安は、所得が800万円を超えるかどうかです。所得が800万円だった場合の所得税と、法人税の税率は下記の通りです。

所得税法人税
23%15%(※)

※資本金1億円以下の法人で、適用除外事業者に該当しない場合

上記の通り所得税よりも、法人税のほうが税率は低いことがわかります。注意しておきたいのが判断の目安となるのは、売上ではなく所得であることです。売上から各種経費を差し引いた額が所得となるため、間違えないようにしましょう。

所得800万円で法人化するケ-ス

実際に所得が800万円で法人化した場合の概算税額について、シミュレーションしてみましょう。

【前提条件】

  • 資本金1,000万円以下
  • 各種控除は120万円とする
  • 住民税10%、個人事業税5%とする
  • 復興特別所得税、消費税、社会保険料は考慮せず

 

【事業利益800万円の場合】

〇個人事業主の場合

  • 所得税800-120=680×20%42.75=93.25万円
  • 住民税800-120=680×10%=68万円
  • 個人事業税800-290=510×5%=25.5万円

〇法人の場合

  • 法人税800×15%=120万円
  • 法人住民税均等割=7万円
  • 法人住民税法人税割120×7%=8.4万円

個人事業主が186.75万円かかるのに対し、法人の場合は概算税額で135.4万円(法人事業税を考慮せず)になります。法人化することで約51.3万円納税額を抑えることが可能です。

また法人の場合は、事業の利益をすべて役員報酬として支払ったケスでは法人住民税均等割のみの課税となり、さらに節税できる可能性もあります。ただし役員報酬の変更ができるのは、原則として事業年度開始から3カ月以内のため注意が必要です。今回のシミュレションでは考慮していませんが、法人の場合は法人事業税の確認も必要です。

法人事業税の税率は、株式会社や公益法人などの種類や、課税所得の金額などによって違います。また税率は各都道府県によって異なるため、事前に確認しておきましょう。

所得900万円で法人化するケ-ス

次に所得が900万円で法人化するケ-スを考えてみましょう。前提条件は上記の800万円の場合の試算と同一とします。

〇個人事業主の場合

  • 所得税900万円-120万円=780万円×23%-63.60万円=115.8万円
  • 住民税900万円-120万円=780万円×10%=78万円
  • 個人事業税900万円-290万円=610万円×5%=30.5万円
  • 合計=224.3万円

〇法人の場合

  • 法人税800万円×15%+100×23.4%=143.4万円
  • 法人住民税均等割=7万円
  • 法人住民税法人税割120万円×7%=10万円
  • 合計=160.4万円

法人化することで約63.8万円節税できることになります。

所得1,000万円で法人化するケ-ス

最後に所得が1,000万円で法人化するケ-スを考えてみましょう。

〇個人事業主の場合

  • 所得税1,000万円-120万円=880万円×23%-63.60=138.8万円
  • 住民税1,000万円-120万円=880万円×10%=88万円
  • 個人事業税1,000万円-290万円=710万円×5%=35.5万円
  • 合計=262.3万円

〇法人の場合

  • 法人税800万円×15%+200万円×23.4%=166.8万円
  • 法人住民税均等割=7万円
  • 法人住民税法人税割166万円×7%=11.6万円
  • 合計=185.4万円

法人化することで約76.8万円の節税となります。所得800万円の場合の節税額は51.3万円、所得900万円の場合の節税額は63.8万円でした。所得が上がれば上がるほど、法人化による節税効果も大きくなります。

所得が800万円以下でも法人化した方がよいケース

法人化の目安は所得が800万円を超えるかどうかですが、800万円以下でも法人化した方がよい場合もあります。

  • 売上が1,000万円を超えている場合
  • 家族を従業員として雇う場合

売上が1,000万円を超えると、翌々年に課税事業者となり消費税を納税しなければなりません。しかし法人化することで基準となる売上がリセットされるため、資本金1,000万円未満の法人であれば免税事業者となります。

消費税の負担が予想される場合は、法人化を検討しましょう。家族を従業員として雇う場合も、法人化するタイミングです。法人化することで家族への給与が経費になるだけでなく、受けとる側も給与所得控除が使えるため節税ができます。個人事業主でも専従者給与として経費計上できますが、6カ月以上事業に専従しなければならないなどの細かい規定があります。

所得が800万円以上でも法人化すべきでないケ-ス

所得が800万円を超えていても法人化しないほうがよい場合もあります。社会保険の負担をしたくない場合です。法人の場合はすべての法人が社会保険に加入しなければなりませんが、個人事業主では原則5人以上従業員がいる場合とされています。個人事業主で社会保険を負担していない場合は、法人化することで負担が増えるでしょう。

また法人にすると、社長1人であっても給与から源泉徴収をしなければなりません。一方で個人事業主の場合は、1人の場合は源泉徴収の対象外です。このように法人化することで源泉徴収を行う手間が発生します。手続きや事務の負担を増やしたくない場合も、慎重に検討するようにしましょう。

法人化する際に気をつけておくべきポイント

法人化することで節税メリットを享受できますが、下記が気をつけておくべきポイントです。

  • 法人設立に費用がかかる
  • 赤字でも税金がかかる
  • 社会保険に加入しなければならない
  • 税理士費用がかかる
  • 契約料金が高くなる

法人を設立するためには定款を作成して、登録免許税を払って登記する必要があります。資本金も準備しなければならず、定款作成や登記費用などで数十万円の費用が必要です。さらに法人にすることで毎期の決算を締める必要があるため、税理士に依頼するケ-スも増えるでしょう。

個人事業主の場合、従業員が5人以上在籍いると社会保険への加入が義務付けられます。一方、法人化すると社長1人でも健康保険と厚生年金保険の加入が必須です。そのため、法人化により社会保険料の負担が増える点には注意しましょう。

銀行のネットバンキングなども、個人版は無料でも法人版は有料としているケ-スが多いです。このように法人の場合は各種手数料が高額になるほか、赤字でも法人住民税の均等割が課税されます。法人化することによって、費用負担が増えることは認識しておきましょう。

個人事業主は法人化で節税しよう

個人事業主が法人化することで、節税できる場合があります。個人事業主であれば所得税の課税対象になりますが、法人の場合は法人税です。所得税は所得が多くなるほど税率が段階的に高くなる累進課税制度ですが、法人の場合は一律です。

そのため事業規模が大きくなるほど、法人化の節税メリットは増していきます。一般的には所得が800万円を超えると、法人化する方が適切とされています。ただし、法人化に伴い、社会保険や源泉徴収などの負担が増えるため、注意しましょう。

よくある質問

法人化によって節税はできる?

個人事業をしていた際の所得が一定額を超えれば、法人化することで税金を大幅に減らすことができます。詳しくはこちらをご覧ください。

法人成りのメリットは?

家族への給与・配偶者控除・扶養者控除、2年の消費税免税期間の活用、赤字(損失)を10年繰越できることなどがあります。詳しくはこちらをご覧ください。

法人成りした方が有利な所得金額の目安は?

個人事業主としての利益が800万円~900万円くらいになった時が、法人化を検討するベストなタイミングでしょう。。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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