- 更新日 : 2025年11月25日
法人化したら口座の変更は必要?個人口座からの手続きの流れを解説
法人化(法人成り)の際、個人事業主時代の事業用口座を法人名義へ名義変更することはできません。銀行実務では、個人と法人は別人格・別名義の顧客として取り扱われ、新規に法人名義の口座を開設するのが前提です。
また、法人口座の開設には、設立登記の完了と、犯収法に基づく本人確認に対応した定款写し等の提示が一般に求められます。まずは設立登記を終え、必要書類を整えてから申込みましょう。
会社設立時には、資金移動や口座管理でつまずきがちですが、正しい手順をふまえればスムーズに移行できます。この記事では、法人化に伴う口座変更の具体的な手続き、資金移動の際の仕訳方法、そして注意すべき点までを詳しく解説します。
目次
法人化したら個人口座は法人口座に変更できる?
個人名義の事業用口座を法人名義へ名義変更することはできません。個人事業主と、設立して登記を終えた法人は法的に別人格として扱われ、銀行実務でも別顧客として審査・管理されるためです。したがって、法人口座は新規に開設するのが前提になります。
個人と法人は別人格のため変更できない
銀行は犯罪による収益の移転防止法に基づき、口座開設時に法人の名称・本店、取引目的、事業内容、実質的支配者等を確認します。これらは個人名義の口座情報とは別建てでの確認・審査が必要なため、個人から法人の名義差し替えという取扱いは行われません。
法人成りは新規で法人名義の口座を開設する
法人口座を開設する際には、設立登記を完了し、登記事項証明書や印鑑証明書、定款の写しなどを準備したうえで、各金融機関の要件に従って申し込みを行います。
次に、個人事業主時代に使用していた口座に残っている事業用資金を法人口座へすべて移動します。
その後は、旧口座を解約するか、あるいは完全に私用口座として使い分けるかを選択します。事業取引に旧口座を使い続けると、資金の流れが曖昧になり、公私混同とみなされるリスクがあるため、法人口座に一本化するのが望ましいといえます。
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法人化に伴う銀行口座の切り替えは?
個人事業主から法人化に伴う口座の切り替えは、段取りが肝心です。おおまかに分けて4つのステップで進めていきましょう。各ステップで必要なことや注意点を解説します。
STEP1:法人設立手続きの完了
法人口座を開設するための大前提として、会社の設立登記が完了している必要があります。登記が完了すると、法人の存在を公的に証明する「登記事項証明書」や「印鑑証明書」が取得できるようになります。これらの書類は口座開設の審査で必ず求められます。
- 会社の基本事項(商号、本店所在地、事業目的など)を決定
- 定款の作成・認証
- 資本金の払込み
- 法務局への設立登記申請
- 登記完了(登記事項証明書・印鑑証明書の取得)
STEP2:必要書類を準備し新規法人口座を開設
設立完了後、金融機関に新規で法人口座を申し込みます。審査は個人口座より厳格で、犯収法に基づく取引時確認として、概ね以下が一般に求められます。必要書類も多岐にわたるため、事前にしっかりと準備しておきましょう。
主な必要書類リスト
金融機関によって多少異なりますが、一般的に以下の書類が求められます。
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 法人の登記事項証明書 | 発行後3ヶ月以内のもの |
| 法人の印鑑証明書 | 発行後3ヶ月以内のもの |
| 法人番号指定通知書など | 法人番号が確認できる書類 |
| 定款の写し | 事業内容の確認に使われる |
| 代表者の本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなど |
| 法人の銀行届出印(実印) | 登記申請で使った実印 |
STEP3:個人事業の口座から法人口座へ事業用資金を移動
無事に法人口座が開設できたら、個人事業主時代に使っていた事業用口座に残っている資金を、新しく作った法人口座へ移動させます。この資金移動は、会計上「資本金」または「役員からの借入金」として適切に処理する必要があります。詳しい仕訳方法については後ほど解説します。
STEP4:旧事業用口座の取り扱いを決定
法人口座での入出金が安定し、個人事業時代の取引が完了したら、旧口座を解約するか、完全に私用口座として使い分けるかを選びます。公私混同を避けるため、事業取引は法人口座へ一本化するのが安全です。
法人化により新規口座を開設する手順とポイント
法人口座の開設は、会社の信用や今後の事業運営を左右する手続きです。金融機関の選び方から、申し込み、審査のポイントまで具体的に見ていきましょう。
金融機関の選定ポイント
どの金融機関で口座を開設するかは、今後の事業の利便性に関わります。以下の点を比較検討して選びましょう。
各種手数料はどのくらいかかるか
振込手数料やATM利用手数料は、取引が増えるほど会社の負担になります。特にネット銀行は手数料を低く設定していることが多く、コスト削減につながるでしょう。
事業所からのアクセスや利便性はどうか
従業員が経理処理を行う場合、事業所の近くに支店やATMがあると便利です。また、24時間いつでも取引が可能なインターネットバンキングの機能性も、業務効率に直結する大切な要素ではないでしょうか。
将来的な融資の相談はしやすいか
事業拡大を視野に入れるなら、将来の融資相談のしやすさも選定基準になり得ます。金融機関ごとに特徴があるため、自社の事業規模や方針に合わせて検討しましょう。
自社の事業規模や取引先に合わせて検討するとよいでしょう。
法人口座の申し込みから開設までの流れ
法人口座の開設は以下の流れです。開設までにかかる期間は、銀行や申込方法で大きく幅があり、最短当日で開設される例から、書類郵送・繁忙期などで数週間要する例まであります。事業開始に間に合うよう、余裕をもって手続きを進めましょう。
- 事前準備
登記事項証明書・印鑑証明書、定款写し、法人番号確認書類、代表者の本人確認書類など、一般に求められる書類を揃えます。 - 金融機関に申し込み
金融機関の窓口、またはウェブサイトから申し込みます。近年はオンラインで完結するネット銀行も増えています。 - 金融機関による審査
事業実態・取引目的・反社会的勢力との関係有無等を中心に審査します。これらは犯収法の取引時確認に基づくもので、法人の名称・本店や事業内容は定款・登記事項証明書等で確認されます。 - 口座開設の完了
審査に通ると、キャッシュカードや通帳、ネットバンキングのIDなどが郵送され、口座が利用可能になります。
個人口座から法人口座への資金移動と仕訳方法
個人事業主口座から法人口座へ資金を移動する際、そのお金が「資本金」なのか「役員からの借入金」なのかによって、会計上の処理(仕訳)が変わります。これは税務上も非常に大切な区別です。
資本金として入金する場合の仕訳
会社設立時に定款で定めた資本金を法人口座に入金する場合は、以下のように仕訳します。会社設立時は法人口座が未開設のため、発起人個人口座に払込→通帳コピー等で払込証明→登記という順で手続きを進め、法人口座開設後に法人口座へ資金を移すのが一般的です。
(例)資本金として100万円を法人口座に入金した
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 普通預金 1,000,000円 | 資本金 1,000,000円 |
役員借入金として入金する場合の仕訳
運転資金を社長個人から一時的に立て替えた場合は、会社側では負債(役員借入金)として処理します。
(例)運転資金として社長個人の口座から50万円を法人口座に入金した
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 普通預金 500,000円 | 役員借入金 500,000円 |
この役員借入金は資金繰りに余裕が出た時点で会社から返済可能です。法人税申告では勘定科目内訳明細書(借入金内訳)で役員・株主からの借入金として区別記載する運用になっているため、期末残高の管理と根拠資料(入金記録・契約メモ等)の整備が必要です。
資産・負債の引き継ぎに関する注意点
売掛金・在庫・借入金などを法人に引き継ぐ方法としては、売買(譲渡)のほか、現物出資も選択肢です。現物出資は会社法上の手続き(価額算定・必要に応じ検査役関与等)が予定されるため、スキーム選定は専門家と設計しましょう。
法人化後も個人口座を事業用に使い続けるリスクは?
「手続きが面倒だから」「少額の取引しかないから」といった理由で、法人化後も個人名義の口座を事業用として使い続けることは、多くのリスクを伴います。絶対に避けるべき理由を3つ解説します。
1. 税務調査で指摘を受けるリスク
個人口座で事業資金を混在させると、取引の区分が不明瞭になり、経費(損金)としての妥当性の説明が難しくなります。結果として、更正・決定により本税が増額され、加算税や延滞税が賦課され得ます。帳簿の備付・保存は法人に課された法定義務であり、混在は適正な帳簿管理を阻害します。
2. 社会的信用の低下につながるリスク
新規取引や金融機関の審査では、「名義と実体の一致」「資金の流れの透明性」が重視されます。取引先からの入金や支払い先として個人名義の口座を指定すると、「この会社はきちんと管理されていないのでは?」と不信感を与えかねません。社会的信用を損なわないためにも、法人口座は必須といえるでしょう。
3. 経理処理が煩雑化しミスを招くリスク
会計帳簿の作成・適正保存は会社の義務で、法人税法でも帳簿書類保存が求められます。混在口座は仕訳の特定・証憑突合・インボイス保存を著しく煩雑化させ、計上漏れや区分誤りの温床になります。ひとたび誤りが見つかると、修正申告+加算税・延滞税の対応が必要となる場合があります。
口座変更とあわせて行いたい法人化の諸手続き
法人化の際には、銀行口座の手続き以外にも、税務・社会保険・労働保険・各種許認可の行政手続きが必要です。期限のあるものが多いため、設立登記と並行して漏れなく進めましょう。
| 手続きの種類 | 主な届出先 | 主な提出書類 |
|---|---|---|
| 税務関連 | 税務署、都道府県、市町村 | 法人設立届出書、青色申告の承認申請書など |
| 社会保険関連 | 年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届、被保険者資格取得届など |
| 労働保険関連 | 労働基準監督署、ハローワーク | 保険関係成立届、雇用保険適用事業所設置届など |
このほか、個人の許認可はそのまま法人に自動移行できない場合が多く、手続きが必要です。飲食店等の食品衛生関係も変更内容によっては新規許可が必要になり得ます。管轄の行政機関に必ず確認しましょう。
法人化には速やかに法人口座を開設し公私の別を明確に
法人は個人と別人格であり、資金の分別管理は会計・税務上の大前提です。法人口座の開設は法定義務ではありませんが、税務調査対応・会計の正確性・与信・犯罪収益移転防止法(AML/CFT)に基づく本人確認(KYC)の観点から、実務上は強く推奨されます。
手続きは、まず会社の設立登記を完了させ、登記事項証明書などの必要書類を揃えて金融機関に申し込みます。開設後は、個人事業の口座から資本金や運転資金を移動し、適切な会計処理を行いましょう。個人口座を使い続けることは、税務リスクや信用の低下を招くため、絶対に避けるべきです。
法人成りは、会社の信用と適切な資産管理の第一歩として、速やかに法人口座を開設することから始まります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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