• 作成日 : 2025年5月1日

法人化のリスクとは?後悔しないための対策、タイミングを徹底解説

個人事業主の中には、節税などのメリットを享受するために法人成りを検討している人もいるでしょう。ただし、法人化にもデメリットがあり、必ずしも得するとは限りません。

本記事では、法人化のリスクについて解説します。法人化して後悔しないための対策や会社設立のタイミングも紹介しますので、自社にとって最適な選択肢を検討しましょう。

目次

法人化のメリットとは?個人事業主より得するポイント

個人事業主が法人化する主なメリットや得するポイントは次の通りです。

  • 経費の幅が広がる
  • 節税効果が期待できる
  • 社会的信用が向上し、融資や取引がスムーズに
  • 事業承継がしやすくなる

各ポイントやメリットについて解説します。

経費の幅が広がる

個人事業主と比較して、法人の方が経費で落とせる範囲が広くなります。個人事業主が経費にできるのは「事業にかかった費用」ですが、法人では次の費用も経費にできます。

  • 経営者や家族の役員報酬や退職金
  • 法人契約の生命保険料
  • 出張時の日当
  • 社宅の家賃

また、福利厚生費や健康診断の費用、社会保険料も経費で落とせます。従業員だけでなく、経営者自身にもメリットがあります。

節税効果が期待できる

経費の幅が広がること以外にも、法人の方が節税効果が期待できます。節税できる理由の1つは、個人事業主にかかる所得税と法人税の税率の違いです。所得税率は5.0%~45.0%ですが、法人税率は15.0%~23.2%です。所得が多くなれば所得税より法人税の方が安く済みます。

税率以外で税制上、法人には次のメリットがあります。

  • 赤字を10年間繰り越せる(個人事業主は3年)
  • 消費税の納税義務が最大2年間免除される(資本金1,000万円以上などの場合は対象外)

参考:国税庁 所得税の税率
参考:国税庁 法人税の税率

社会的信用が向上し、融資や取引がスムーズに

法人化することで、企業としての社会的信用や企業イメージが向上することもメリットです。法人として法務局に登記し、代表者や事業目的などを公開しているため、顧客からの信頼感が高まり新規取引や取引の拡大などが期待できます。

また、金融機関から事業資金を調達するときにも、個人事業主より審査がスムーズに進むでしょう。一般的に、個人よりも企業の方が事業の安定性や継続性が高いと評価されるためです。

事業承継がしやすくなる

事業継承という点で見ても、個人事業主より法人にメリットがあります。

個人事業主が死亡した場合、事業は廃業です。事業の継承者がいた場合でも、取引先は新しい事業主と新規に契約を締結して取引を再開することになるため、事業継承には支障が出ます。

一方、法人の場合、経営者が死亡しても会社自体は存続するため、取引先は従来通りの関係が維持され安心です。許認可が必要な事業に関しては、個人事業主と異なり法人なら再取得の必要がありません。

また、資産の継承についても法人の方が簡単にできる可能性があります。個人事業主の場合、事業用の資産ごとに相続や贈与が必要ですが、法人なら株式譲渡により資産を一括して継承できます。

法人化のリスクやデメリット、後悔する人が多いポイント

法人化のリスクやデメリット、後悔する人が多いポイントは次の通りです。

  • 法人設立や運営にお金がかかる
  • 社会保険の負担が増える
  • 法人は赤字でも税金が発生する
  • 消費税の納税が2年目から発生
  • 経理・税務が複雑になり、税理士がほぼ必須
  • 役員報酬(社長の給料)は簡単に変更できない
  • 銀行融資を受けやすくなるが、個人保証が必要なことも
  • 経営方針を自由に決められない
  • 廃業・解散が簡単にできない

それぞれについて解説します。

法人設立や運営にお金がかかる

法人化のデメリットの1つは、法人設立や運営にお金がかかることです。株式会社の場合、法人設立にかかる主な費用は次の通りです。資本金を除いて20万円以上かかります。

  • 登録免許税:株式会社は資本金の1,000分の7(最低15万円)
  • 定款認証手数料:1万5,000円(資本金100万円未満、一定要件あり)〜5万円(資本金300万円以上)
  • 定款用の収入印紙代:4万円(電子定款は不要) など

法人設立後は、登記内容変更の手続き費用や事業の継続に運転資金も必要です。個人事業より規模が大きくなるため事務所や設備の賃貸費用、人件費などの支出が高額になるとともに、社会保険料など後述する法人ならではの費用もかかります。

社会保険の負担が増える

法人の場合、経営者や従業員の社会保険料(厚生年金保険料や健康保険料、介護保険料)の半分は会社負担です。個人事業主の場合、常時働いている従業員数が4人以下ならば社会保険の加入義務はありません。

厚生年金保険料と健康保険料の会社負担額は、従業員の報酬の約15%です。従業員が増えると、社会保険料は大きな負担となります。

法人は赤字でも税金が発生する

事業が赤字の場合、法人では税金が発生する点もデメリットといえるでしょう。個人事業主は赤字なら所得税や住民税は支払う必要がありませんが、法人は「法人住民税」や「法人事業税」を支払わなければなりません。

法人地方税の税額は地方自治体によって異なりますが、「均等割」は所得に関係なく資本金額や従業員数に応じて課税(「法人税割」は課税なし)されます。赤字でも法人事業税が発生するのは資本金1億円超の法人です。資本金1億円以下ならば、赤字なら課税されません。

消費税の納税が2年目から発生

法人化のメリットである節税効果に関して「消費税の納税義務が最大2年間免除される」ことを前述しましたが、事業開始から2年目に消費税の納付が必要になるケースもあるため注意しましょう。

2年目から納税が必要となるのは、事業開始の日から6ヶ月の課税売上高が1,000万円を超えた場合です。翌事業年度から課税事業者(消費税の納税義務がある事業者)となるため、インボイス制度に対応した帳簿を整備しましょう。

なお、前々事業年度(基準期間)の課税売上高が1,000万円未満かつ前事業年度の上期(特定期間)の課税売上高が1,000万円未満ならば、免税事業者のままです。

経理・税務が複雑になり、税理士がほぼ必須

法人化すると決算書の作成や法人税の確定申告・納税など、個人事業主と比べて経理・税務手続きが複雑になります。本業に加えてこれらの事務処理を行うのは負担が大きいため、税理士など専門家のサポートが必要です。

税理士と顧問契約を結んだ場合、毎月報酬の支払いなどコストはかかりますが、経理処理ルールの変更や法改正への対応なども任せられるため安心です。

役員報酬(社長の給料)は簡単に変更できない

法人の役員報酬(社長の給料)を経費計上するには税法上の要件を満たす必要があるため、経営者が自由に変更できるわけではありません。経費計上の要件である「定期同額給与(一定期間ごとに定額に支給される給与)」は、事業年度開始日から3ヶ月以内に決定し原則1年間変更できません。企業が利益調整のために役員報酬を変更することを防ぐためです。

また、変更には株主総会での決議などが必要であるため、経営者以外の同意が必要になることもあります。個人事業主なら事業資金を私的に使用することも可能ですが、会社のお金を勝手に使えません。

銀行融資を受けやすくなるが、個人保証が必要なことも

前述の通り金融機関からの融資は、一般的に個人事業主より法人の方が受けやすいといえます。ただし、金融機関が会社の信用力が不十分だと判断すれば、経営者に「連帯保証」や「個人資産の担保提供」を求めることもあります。

会社の信用力を補完し融資は受けやすくなりますが、会社が返済できない場合は経営者個人による返済や担保物件の譲渡が必要です。「株式会社は有限責任」と言われますが、個人保証で融資を受ける企業も少なくありません。

経営方針を自由に決められない

取締役会を設ける企業では、経営方針など企業経営に関する重要事項は取締役会の決議によって決まります。そのため、経営者が単独で経営方針を決められません。また、経営者以外に株主がいれば、株主総会の決議が優先です。

ただし、取締役会の設置が義務付けられているのは株式公開会社や監査役会設置会社などに限定されます。該当しなければ、取締役1人でも会社経営は可能です。

廃業・解散が簡単にできない

廃業して法人を解散する場合、さまざまな手続きが必要となるため、簡単には法人解散できないことを覚えておきましょう。主な手続きは次の通りです。

  • 株主総会の特別決議(株主の過半数の出席と2/3以上の賛成が必要)で解散を決める
  • 解散と清算人の登記(解散から2週間以内)
  • 行政機関への解散の届出(税務署や年金事務所、ハローワークなど)
  • 財産目録と貸借対照表の作成(清算人)
  • 債権者保護手続き(官報公告や個別催告による債権者への解散連絡)
  • 税務署への解散確定申告書提出(解散から2ヶ月以内)
  • 会社資産の売却や債務返済、残余財産の株主への分配
  • 税務署への清算確定申告書提出(残余財産確定から1ヶ月以内)
  • 決算報告書の作成と株主総会の承認
  • 清算結了の登記(株主総会の承認から2週間以内)
  • 行政機関への清算決了の届出 など

解散まで2ヶ月以上の期間がかかり、解散と清算人の登記や官報公告、専門家への手続き依頼など、多額の費用が必要です。

法人化するタイミングはいつがいい?

個人事業主が法人化するのに適したタイミングは次の通りです。

  • 安定して年間売上が1,000万円以上になったとき
  • 人手が必要になったとき
  • 事業を拡大し、融資を受ける予定があるとき
  • 取引の幅を広げたいとき

各タイミングについて解説します。

安定して年間売上が1,000万円以上になったとき

個人事業主で安定して年間売上が1,000万円以上になった場合、法人化を検討してみましょう。年間売上が1,000万円を超えると翌々年度は課税事業者となり消費税の納付が必要ですが、法人化すると会社設立後の2事業年度は消費税の納付を免除できます。ただし、資本金1,000万円以上の法人は免除の対象となりません。

法人化によって課税事業者となるタイミングを最大2年延長できるため、納付を免れた分だけ節税できたといえるでしょう。

人手が必要になったとき

仕事が増えて人手が必要になったときも、法人化を検討するタイミングです。少子高齢化で人手不足が深刻化する中、個人事業主が新規採用するのは難しいためです。

求職者によって異なりますが、多くの人が安定した企業や福利厚生の整った企業、働きやすい環境を求めています。法人化すればすべての条件が整うわけではありませんが、求職者から見ると個人事業主より法人の方が安心感があります。また、社会保険に加入できる法人を選択する人も多いでしょう。

事業を拡大し、融資を受ける予定があるとき

事業を拡大し金融機関から融資を受ける予定があるときも、法人化するタイミングといえるでしょう。法人化で事業の信用力を高めることによって、融資が受けやすくなるためです。

また、会計処理が厳格化され事業の透明性が高まったり、コンプライアンス体制の強化が必要になったりすることで、事業が健全に成長することも期待できます。

取引の幅を広げたいとき

新規の取引先獲得や既存顧客との取引拡大など、取引の幅を広げたいときも、法人化を検討してみましょう。法人化によって社会的信用力が高まり、取引先からの評価もよくなるでしょう。信用力がないと判断して、個人事業主とは取引しない企業もあります。

また、法人化によって人材確保や資金調達、財務内容の透明化がしやすくなることも、取引の拡大に寄与します。

法人化のリスクを避けるためにすべきこと

法人化にはデメリットもありますが、適切な対策をすることで法人化のリスクを避けることも可能です。リスクを回避するための主な対策は次の通りです。

  • 会社設立は「自分で手続き」か「オンライン」を活用する
  • 会計ソフトで経理の負担を軽減する
  • 役員報酬を慎重に決める
  • 廃業リスクを考慮し、撤退コストなどを事前に把握する
  • 税理士への依頼やオンラインサービスを活用する

各対策について解説します。

会社設立は「自分で手続き」か「オンライン」を活用する

会社設立にはお金と時間がかかるというデメリットもありますが、自分で手続きしたりオンラインを活用したりすることでお金と時間を節約できます。

たとえば、法人設立における登記や社会保険の加入手続きなどを専門家に依頼せず、自分でやれば費用を抑えられます。専門的な知識が必要になるため、知識習得にかかる時間や手続きの手間と、節約できる費用とを比較して、どちらを選択するかを検討しましょう。

自分で手続きするときに役立つのが、ビジネスソフトのオンラインサービスです。定款や行政機関(税務署や年金事務所、ハローワークなど)への届書などを作成できます。また、電子定款を利用すれば定款用の収入印紙代(4万円)も節約できます。

会計ソフトで経理の負担を軽減する

法人化して事業を始めるとき、会計ソフトを導入して経理の負担を軽減することがおすすめです。法人の経理処理は個人事業主のときと比較して複雑になるため、従来通りだと負担が大きくなるためです。また、会計ソフトを導入すれば、会計ルールの変更などにもしっかりと対応できます。

役員報酬を慎重に決める

法人化するとき、役員報酬の決め方には注意が必要です。役員報酬を経費計上するには所定の要件を満たさなければならないためです。役員報酬は、定款または株主総会の決議で決定します。役員報酬を柔軟に変更するには、株主総会の決議を選択した方がよいでしょう。

事前に役員報酬に関する基本的なルールを確認する、または税理士に相談するなどして、役員報酬は慎重に決めましょう。

廃業リスクを考慮し、撤退コストなどを事前に把握する

法人化する前に廃業リスクを考慮し、撤退コストなどを把握することも重要です。廃業には相当の期間とコストがかかり、金融機関からの融資を連帯保証した場合は返済義務が生じるためです。

廃業による損失を抑えるために、事業がうまくいかなかった場合の撤退タイミングも事前に検討しておきましょう。

税理士への依頼やオンラインサービスを活用する

法人の設立や運営には、法人税法会社法、社会保険などさまざまな法律知識が必要になります。知識が不十分なまま法人化した場合、知らないうちに法律に違反するリスクもあるでしょう。必要に応じて税理士などの専門家に依頼したり、ビジネスソフトのオンラインサービスを利用したりすることも検討してみましょう。

税理士を探す場合、オンラインの専門家無料紹介サービスなどを活用するのも選択肢です。マネーフォワードでは完全無料で厳選した税理士を紹介しています。

法人化しない方がいい人とは?

法人化しない方がよいと思われるのは、次に該当する人です。

  • 売上が不安定で、毎年の収益が読めない
  • 会社設立や維持費が負担になりそう
  • 税理士などの専門家に頼るのが難しい

各タイプについて解説します。

売上が不安定で、毎年の収益が読めない

売上が不安定で、毎年の収益が読めない個人事業主は、法人化をしない方がよいでしょう。法人化のメリットである節税効果が期待できないためです。法人化によるコストアップや経費処理の煩雑化などのデメリットばかりが目立つようになり、事業への悪影響が懸念されます。

会社設立や維持費が負担になりそう

会社設立費用や維持費が経営に負担になりそうな場合、法人化は見送った方がよいでしょう。法人化するのは、一定の利益が見込まれ法人化による費用を賄えることが前提です。法人化によって利益が圧迫されたり経営が不安定になったりすると、法人化したことを後悔することになるでしょう。

税理士などの専門家に頼るのが難しい

売上が少ないなどの理由で税理士などの専門家に頼るのが難しい人も、法人化はおすすめできません。法律や税金などの専門知識がないと会社の設立や運営は難しいためです。また、経営者が経理や税務処理に時間を取られると、本業がおろそかになる可能性もあります。

売上が不安定な人には法人化はリスクが高い

法人化には、節税効果や:社会的信用力の向上などのメリットがあります。売上が安定し一定以上になったり事業の拡大を図ったりするタイミングで、法人化を検討してもよいでしょう。

ただし、法人化の設立や運営にともなうコストや事務負担に考慮が必要です。売上が不安定な場合、コスト負担が大きくアウトソーシングしなければ業務に支障をきたすリスクもあることを理解したうえで、法人化を検討しましょう。


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