- 作成日 : 2025年2月20日
民泊を法人化すべきケースは?個人事業との違いやメリット・デメリットを解説
民泊において、事業規模が拡大してくると法人化が視野に入ってきます。法人化にはさまざまなメリットがあるものの、デメリットもあるため、慎重な判断が必要です。
本記事では、民泊事業の法人化を検討すべきケースやそのメリット・デメリット、また法人化の手順についても詳しく解説します。
目次
民泊の法人化を検討すべきケースとは
民泊とは、一般の住宅(戸建住宅やマンションなどの共同住宅等)の全部または一部を活用して、旅行者等に宿泊サービスを提供することを指します。2018年6月に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)により法的な枠組みが整備され、旅館業法の許可、国家戦略特区法の認定、住宅宿泊事業法の届出のいずれかの方法で運営が可能になりました。
一般の旅館業との大きな違いは、民泊が一般住宅を活用した宿泊サービスである点で、台所、浴室、トイレ、洗面設備といった生活に必要な設備を備えていることが要件です。
民泊事業を始める際、まずは個人事業主としてスタートするのが一般的です。しかし、事業規模が拡大するにつれて、法人化を検討する必要が出てくるケースが少なくありません。では、具体的にどのような場合に法人化を検討すべきなのでしょうか。
利益800万円超えが法人化を検討するタイミング
民泊事業の法人化を検討する一般的なタイミングは、年間の利益が800万円を超えた場合です。これは、個人事業主と法人で適用される税率の違いに起因します。
個人事業主の場合、所得税は累進課税制度が適用されます。課税所得が330万円を超えると20%、695万円を超えると23%、900万円を超えると33%と、所得が増えるにつれて税率が上がっていきます。一方、法人の場合、資本金1億円以下の中小企業であれば、年800万円以下の利益に対しては15%、800万円を超える部分に対しては23.2%の法人税率が適用されます。
つまり、年間利益が800万円を超えると、個人事業主として事業を続けるよりも、法人化したほうが税負担は軽くなる可能性が高くなるでしょう。ただし、これはあくまで目安であり、個々の事業状況や将来の展望によっては、800万円以下でも法人化を検討する価値があるケースもあります。
民泊を法人化するメリット
民泊事業を法人化することには、いくつかのメリットがあります。ここでは、主要なメリットについて詳しく解説します。
経費にできる幅が広がる
法人化することで、個人事業主の時よりも経費として計上できる項目が増えます。これは、法人税法上の「損金」の範囲が、所得税法上の「必要経費」よりも広いためです。
例えば、役員報酬や従業員の給与、福利厚生費、交際費などが経費として認められやすくなります。また、民泊用の物件を購入した場合、建物部分の減価償却費を全額経費として計上できるようになる点もメリットです。
社会的信用を得られやすい
法人化することで、個人事業主よりも社会的信用を得やすくなります。これは、法人設立には一定の手続きと費用が必要であり、事業継続の意思が明確に示されるためです。
特に民泊事業では、物件の所有者や管理会社、清掃業者など多くの関係者との取引が発生するため、法人化による信用力のアップは大きなメリットといえるでしょう。
また、宿泊者に対しても、法人が運営する民泊施設という印象を与えることで、安心感や信頼感を醸成しやすくなるかもしれません。
事業を大きくしやすい
法人化することで、個人の資産と事業の資産が分離され、より大規模な投資や事業展開が可能になります。法人名義で新たな物件の取得や設備投資、従業員の雇用契約を行えるため、個人の信用力に頼らず、法人としての事業実績や計画を基に評価される点がメリットです。ただし、設立初期には法人の信用が十分でない場合、個人保証を求められるケースもあります。
さらに、法人であれば、将来的に事業を譲渡したり、他の事業者と合併したりする際も、株式譲渡や合併契約などの手続きを利用することで比較的スムーズに進められます。
一方、個人事業では、譲渡や合併に複雑な手続きが必要となる場合が多く、時間やコストがかかりがちです。
融資を受けやすい
法人化することで、金融機関からの融資を受けやすくなる可能性があります。これは、法人として事業計画や財務状況を明確に示すことができ、金融機関にとっても融資の判断がしやすくなるためです。
金融機関は法人名義の不動産であれば、その不動産自体を担保にできるため融資のハードルが下がります。
民泊を法人化するデメリットやリスク
民泊事業を法人化することには多くのメリットがありますが、同時にデメリットやリスクも存在します。ここでは、法人化に伴う主なデメリットやリスクについて詳しく解説します。
会社設立の手続きが複雑
法人を設立する際には定款の作成、公証人役場での定款認証、法務局での登記申請などの手続きが必要となり、時間も手間もかかります。
また、定款認証や登記申請の際には、それぞれ手数料が発生します。これらの手続きを自分で行うことは難しいため、多くの場合、行政書士や司法書士などの専門家に依頼することになり、その分の費用も必要です。
赤字でも法人税がかかる
法人化のデメリットのひとつとして、赤字経営であっても法人住民税の均等割が毎年課税されます。
法人住民税の均等割は、自治体によって金額が異なりますが、概ね7万円程度となっています。これは、事業の収益の有無にかかわらず、法人格を有していることで課される税金です。
一方、個人事業主の場合は、赤字経営であれば基本的に所得税や住民税は発生しません。そのため、事業が軌道に乗るまでの期間や、一時的に業績が悪化した場合など、赤字経営が続く可能性がある場合は、法人化によるデメリットが大きくなる可能性があります。
会計処理の手間が多い
法人の場合、複式簿記による帳簿作成が必要となり、より詳細な会計記録が求められます。
日々の取引を仕訳帳に記録し、総勘定元帳に転記する作業が必要になります。また、決算時には貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を作成しなければなりません。これらの作業は、会計ソフトを使用する場合でもある程度の専門知識が求められます。
さらに、法人税法に基づく税務申告では、所得金額の計算においてさまざまな調整が必要です。交際費や寄附金の損金算入限度額の計算、減価償却費の計算、役員給与の損金算入の可否の判断など、個人事業主の確定申告では不要だった複雑な計算もあります。
複雑な会計処理を適切に行うためには、税理士などの専門家に依頼するのが一般的です。会計処理にかかる費用が増加することも、法人化のデメリットのひとつといえるでしょう。
社会保険への加入が必要
法人を設立すると、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する義務が生じます。法人は、従業員だけでなく代表者自身についても社会保険料を負担する必要があり、トータルの額は個人事業主として国民健康保険や国民年金に加入していた場合と比較して高額になる傾向があります。
特に、法人側が負担する保険料は労使折半となるため、従業員を雇う場合は事業主として会社が負担するコストが増加するケースがほとんどです。
社会保険料はずっと発生する固定費なので、事業の収益状況によっては社会保険料によるコストの増大がキャッシュ・フローに影響を与える可能性も否定できません。
民泊を法人化するには?
民泊事業を法人化する際の、一般的な手順について解説します。
1. 法人の形態を決める(株式会社・合同会社)
最初に、どのような形態の法人を設立するかを決めましょう。民泊事業の法人化で一般的なのは、株式会社もしくは合同会社です。家族経営の小規模な民泊の場合は合同会社が適しているケースが多いですが、将来的に事業拡大や株式上場を視野に入れている場合は株式会社も視野に入ってくるでしょう。
法人形態の選択は事業の将来的な展望や運営方針によって異なるため、税理士や弁護士などの専門家に相談しながら慎重に決定することをおすすめします。
2. 定款を作成し認証を受ける
法人の設立には、定款の作成が必要です。定款は法人の基本的なルールを定めた文書で、会社の目的、商号、本店所在地、資本金の額、役員に関する事項などを記載します。
定款は、公証人役場で認証を受ける必要がありますが、合同会社として法人化する場合は定款の認証は不要です。
定款の認証手数料は、以下のとおりです。
- 資本金の額等が100万円未満の場合:3万円
- 資本金の額等が100万円以上300万円未満の場合:4万円
- その他の場合:5万円
ただし、資本金の額等が100万円未満の場合の手数料について、発起人の全員が自然人であり、かつ、その数が3人以下であることと、取締役を置かないケースにおいては15,000円になります。
定款の作成は法律的な知識が必要なため、多くの場合、行政書士や司法書士に依頼することになります。専門家に依頼する場合、定款作成から認証までの費用として、10万円から20万円程度かかることが一般的です。
3. 銀行口座を開設する
法人設立後、速やかに法人名義の銀行口座を開設します。法人口座は、個人口座と比べて開設手続きが複雑で時間がかかる場合があります。
一般的に必要な書類は、法人の登記簿謄本、印鑑証明書、定款の写し、実印、代表者の本人確認書類などです。また、銀行によっては事業計画書や収支計画書の提出を求められる場合もあります。
4. 法人登記を行う
定款の認証を受けた後、法務局で法人登記を行います。登記申請には、定款のほか、出資金の払込みを証明する書類、就任承諾書、印鑑証明書などが必要です。
登記申請の際には、登録免許税がかかります。金額は資本金の額によって異なり、以下の方法で算出します。
- 株式会社:資本金の金額×0.7%、15万円に満たない場合は申請1件につき15万円
- 合同会社:資本金の金額×0.7%、6万円に満たない場合は申請1件につき6万円
登記申請は、司法書士に依頼することが一般的です。司法書士に依頼する場合はその費用もかかります。
5. 個人事業の廃業手続き
既に個人事業主として民泊事業を行っている場合、法人登記と同時に個人事業の廃業手続きを行います。所轄の税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出しましょう。
また、個人事業で使用していた資産(不動産、備品など)を法人に移転する場合、適切な評価額で譲渡したものとして扱われます。この際、譲渡所得が発生する可能性があるため、税理士に相談しながら適切に手続きを進めることが重要です。
さらに、民泊事業に関連する各種許認可や契約についても、個人名義から法人名義への変更手続きが必要になります。例えば、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく届出や、物件のオーナーとの賃貸借契約などが該当します。
6. 法人設立届出書を提出する
法人登記完了後、税務署、都道府県税事務所、市区町村役場に「法人設立届出書」を提出します。この届出により、法人税、法人住民税、法人事業税などの納税義務が発生します。
従業員を雇用する予定がある場合は、労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続きも必要です。これは、労働基準監督署と公共職業安定所(ハローワーク)で行います。
また、年金事務所での社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入手続きも必要です。
民泊の法人化に役立つテンプレート
マネーフォワード クラウドでは、民泊業の会社設立に役立つひな形やテンプレートを提供しています。下記リンクから無料でダウンロードできますので、自社に合わせてカスタマイズしながらご活用ください。
民泊の法人化は慎重に判断しよう
民泊事業の法人化には、経費計上の幅が広がる、社会的信用が得られやすい、事業拡大や融資が受けやすくなるなどのメリットがある一方で、設立・運営の手続きが複雑になる、赤字でも一定の税金がかかる、会計処理の手間が増えるなどのデメリットもあります。
法人化するか否かは、現在の事業規模や将来の展望、税負担の変化、社会保険料の負担増加などを総合的に考慮する必要があるといえるでしょう。税理士や弁護士などの専門家に相談したうえで、法人化も含め自身の事業状況に応じた選択をしましょう。
民泊事業の確定申告や、民泊経営の許認可について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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