• 作成日 : 2025年10月21日

法人化をやめるとは?休眠、個人成り、解散の選択肢や資産移転を解説

「せっかく法人化したけれど、やめたい…」そんな時はどうすればよいでしょう。事業の変化により、法人を維持することが負担になるケースは少なくありません。法人化をやめる方法には、個人事業主に戻る「個人成り」、会社を完全になくす「解散・清算」、活動を一時的に止める「休眠」の3つの選択肢があります。

この記事では、それぞれの違いから、最も一般的な「個人成り」の詳しい手続き、メリット・デメリット、そして後悔しないための注意点まで、わかりやすく解説します。あなたの状況に合った選択を見つけるために、ぜひご活用ください。

法人化をやめるとはどういうこと?

法人化をやめたいと考えたとき、主な選択肢として「個人成り」「解散・清算」「休眠」の3つが挙げられます。事業を今後どうしたいのか、将来の展望によってとるべき道は変わってきます。それぞれの特徴を正しく理解し、ご自身の状況に合った方法を選ぶことが、後悔しないための第一歩となるでしょう。まずは、この3つの選択肢がどのようなものか、一つずつ見ていきましょう。

個人成り:法人から個人事業主へ戻る

個人成りとは、設立した法人を解散・清算し、事業そのものは個人事業主として引き継ぎ、継続していく方法です。会社という器はなくなりますが、事業活動は続く点が大きな特徴といえるでしょう。

たとえば、事業規模が縮小し、法人を維持する税金や社会保険料の負担が重くなったものの、事業自体は続けたい、といった場合に選ばれることが多い方法ではないでしょうか。法人の資産や負債、許認可などを個人として引き継ぐための手続きが必要になります。

解散・清算:法人格を消滅させる

解散・清算とは、事業そのものを完全に終了させ、法人格を消滅させる手続きのことです。個人成りが事業の継続を前提としているのに対し、こちらは事業からの完全な撤退を意味します。

会社の財産をすべて現金化して債務の支払いに充て、残った財産を株主に分配したのち、法務局で清算結了の登記を行うことで、会社は法律上なくなります。後継者がいない場合や、事業の継続が困難になった場合などに選ばれる最終的な手段です。

休眠:一時的に会社を休ませる

休眠とは、法人格は存続させたまま、事業活動のみを一時的に停止させる状態を指します。会社を廃業するわけではないため、将来的に事業を再開する可能性がある場合に有効な選択肢です。

休眠にする際は、税務署(異動届出書)に加え、都道府県税・市町村税の各窓口にも異動届出書の提出が必要です。社会保険・労働保険の適用事業所廃止手続きも別途行います(年金事務所・労基署/ハローワーク)。

事業活動がなく所得がゼロでも、原則として法人税や地方税の申告義務(ゼロ申告)が残ります。また、法人住民税の均等割の支払いは自治体ごとに取扱いは異なります。役員変更の登記も定期的に行わなくてはなりません。

【個人成り】法人化をやめて個人事業主に戻る手続きは?

法人化をやめて個人事業主として事業を継続する「個人成り」は、「法人の解散・清算に関する手続き」と、それと並行して「個人事業主として事業を始めるための手続き」の2つが主な柱です。

法務局や税務署、自治体など、複数の機関への届出が求められ、手続きは複雑になりがちです。あらかじめ全体の流れを把握しておくことで、スムーズに進めやすくなるでしょう。

① 法人の解散・清算手続き

法人格をなくすためには、会社法に定められた手順に従って解散と清算の手続きを進めます。

  1. 株主総会での解散決議
    法人が解散するには、まず株主総会で特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)を得る必要があります。
  2. 清算人の選任と登記
    解散後は、会社の財産整理などを行う「清算人」を選任します。通常は代表取締役がそのまま清算人になることが多いでしょう。解散の日から2週間以内に、法務局へ解散と清算人選任の登記を申請します。
  3. 解散公告と債権者への通知
    会社の債権者(取引先など)を保護するため、官報に解散公告を掲載し、会社が把握している債権者には個別に通知を送ります。
  4. 資産の現金化と債務の弁済
    清算人は、会社の売掛金を回収し、不動産や備品などの資産を売却して現金化します。そして、その資金で買掛金借入金などの債務を支払います。
  5. 残余財産の分配と確定申告
    すべての債務を支払ったあとに残った財産(残余財産)を、株主の持株比率に応じて分配します。また、解散時と清算時に法人税の確定申告が必要です。
  6. 清算結了の登記
    残余財産の分配が終わったら、株主総会で決算報告書の承認を受けます。承認後、2週間以内に法務局へ清算結了の登記を申請し、この登記が完了すると法人格が完全に消滅します。

参考:商業・法人登記の申請書様式|法務局

②税務署・自治体への届出

法人の解散にともない、税務署、都道府県税事務所、市町村役場へ「異動届出書」を提出し、法人が解散したことを届け出ます。あわせて、給与の支払いをやめるための「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」や、消費税の課税事業者であった場合は「事業廃止届出書」なども提出しなくてはなりません。社会保険や労働保険に加入していた場合は、年金事務所や労働基準監督署などで、それぞれ適用事業所を廃止する手続きも行います。

③ 個人事業主としての開業手続き

法人の手続きと並行して、個人事業主として事業を開始するための準備を進めます。新たに事業を始める場所の所轄税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を提出することが基本です。節税効果の高い青色申告を選択したい場合は、「所得税の青色申告承認申請書」もあわせて提出しましょう。これらの書類は、事業を開始した日から一定期間内に提出する必要があるため、計画的に準備を進めることが大切です。

法人化をやめるメリットとデメリットは?後悔しないために

個人成りには、経営の身軽さや固定コストの低下といった利点があります。一方で、法人と比べると信用力や取引条件が劣る可能性や、所得によっては税負担が増えるといった注意点もあります。これらのメリット・デメリットの両方を客観的に比較し、ご自身の事業にとって本当にプラスになるのかを慎重に見極めるべきでしょう。目先のメリットだけにとらわれず、中長期的な視点で判断することが、後悔しない選択につながります。

法人化をやめるメリット

個人成りを選ぶことで、主にコスト面や経営の自由度において、以下のようなメリットが期待できます。

  • 役員報酬の縛りがなくなる
    法人の場合、役員報酬は事業年度の開始から3か月以内に決めると、原則としてその期中は変更できません。個人事業主になれば、事業で得た利益はすべて事業主個人のものとなり、「事業主貸」として生活費などに自由に使うことができます。
  • 社会保険料の負担が軽減される場合がある
    法人は従業員の人数にかかわらず社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務づけられ、保険料の半額を会社が負担します。個人事業主(従業員5人未満の場合)は国民健康保険と国民年金に加入するのが一般的で、所得や家族構成によっては社会保険料の負担が軽くなるケースもあります。
  • 交際費の自由度が高まる
    法人の場合、交際費として経費にできる金額には上限が設けられています。一方、個人事業主にはこの上限がなく、事業に必要だと合理的に説明できる範囲であれば、交際費として計上できます。
  • 事務手続きや税務申告が簡素化される
    法人決算や登記手続きといった、法人特有の複雑な事務作業がなくなります。確定申告も、法人税申告に比べると個人事業主の所得税申告の方が簡素なため、管理コストの削減につながるでしょう。なお、青色申告を選ぶ場合は帳簿付けが必要ですが、法人決算ほどの負担にはなりません。

法人化をやめるデメリット

一方で個人成りには、とくに信用面や税制面で不利になるケースが考えられます。

  • 対外的な信用力が低下する可能性がある
    一般的に、法人格を持っている会社の方が個人事業主よりも社会的信用は高いと見なされる傾向にあります。金融機関からの融資審査や、大企業との取引において、個人事業主であることが不利に働く場面も考えられます。
  • 赤字の繰越期間が短くなる
    事業で生じた赤字(欠損金)を翌年以降の黒字と相殺できる繰越控除の期間が、法人の青色申告では原則10年間なのに対し、個人事業主の青色申告では3年間と短くなります。
  • 所得によっては税負担が増加する
    法人税は中小企業であれば一定の税率が適用されますが、個人の所得税は利益が大きくなるほど税率が高くなる累進課税です。そのため、事業の利益がある一定額を超えると、法人よりも個人事業主の方が税負担は重くなる可能性があります。
  • 許認可の再取得が必要になる場合がある
    建設業や飲食業など、事業を行うために許認可が必要な業種の場合、法人として取得した許認可は個人には引き継げません。そのため、個人事業主として新たに許認可を取り直す必要が生じ、事業が一時的に中断するおそれがあります。
  • 退職金が使えない
    法人の役員は、自分自身に退職金を支払うことで、大きな節税効果を得られます。個人事業主にはこの退職金の仕組みがないため、老後の資金形成における選択肢が一つ減ることになります。

法人化をやめるのと休眠させるのはどちらがいい?

「事業の先行きが不透明で、今すぐ廃業を決断するのはためらわれる」といった状況であれば、個人成りや解散ではなく「休眠」という選択肢が有力になります。法人格を残したまま活動を停止できるため、事業再開のハードルが低いのが休眠の最大のメリットといえるでしょう。ただし、休眠中も法人税や地方税の申告義務は残ります。コストや手続きの手間、事業再開のしやすさを比較し、どちらがご自身の状況に合っているか検討してみましょう。

比較項目個人成り休眠
コスト法人をやめる際に登記や公告などで30万円以上の費用がかかる。事業をやめれば維持費はゼロになる。登記費用などはかからないが、法人住民税の均等割や登記費用が将来的に発生する。
手続きの手間法務局や税務署などへの複雑な手続きが必要。専門家への依頼が一般的。税務署などへ異動届出書を提出するだけで、比較的簡単。
事業再開のしやすさ再び法人化するには、新たに会社設立の手続きと費用が必要。届出一つで比較的簡単に事業を再開できる。許認可や銀行口座なども維持しやすい。

コスト面での比較

個人成りを選んで会社を解散・清算する場合、登録免許税や官報公告費用などで、最低でも30万円以上の実費がかかります。専門家に依頼すれば、さらに報酬が必要です。一方、休眠は届出自体に費用はかかりません。

ただし、休眠中も法人格は存続するため税務申告の義務が残り、自治体によっては法人住民税の均等割の支払い義務が続きます。

手続きの手間での比較

手続きの手間は、休眠の方が圧倒的に少ないといえます。税務署や自治体に「異動届出書」を提出するだけで基本的な手続きは完了します。これに対し、個人成りにともなう解散・清算手続きは、これまで見てきたとおり非常に複雑で、専門家のサポートなしで完遂するのは難しいでしょう。

事業再開のしやすさでの比較

将来、事業を再開する可能性が少しでもあるなら、休眠に軍配が上がります。休眠は法人格、銀行口座、許認可などを維持したまま活動を停止できるため、再開の届出をすれば比較的スムーズに元の状態で事業を始められます。一度個人成りをしてしまうと、再び法人で事業をしたくなった際には、一から会社設立の手続きと費用(約20~25万円)が必要になります。

法人から個人への資産移転はどうする?税務上の注意点

個人成りで、法的な手続きと同じくらい慎重に進めるべきなのが、法人名義の資産(不動産、車両、機械、パソコンなど)を個人事業主である自分へ移すときの手続きです。これは単なる名義変更ではなく、税務上は「法人から個人への資産の売買(譲渡)」として扱われます。もし、この資産の引き継ぎを適正な方法で行われていないと、法人側・個人側双方で予期せぬ税負担が発生するおそれがあります。慎重な対応と専門家のサポートが欠かせません。

資産の評価方法

法人から個人へ資産を移す際は、原則としてその資産の「時価」で取引する必要があります。時価とは、その時点で市場で一般的に取引される客観的な価格のことです。たとえば、中古車であれば中古車市場の相場、パソコンであれば同程度の中古品の市場価格などが目安になります。

もし、時価よりも著しく低い価格、あるいは無償で譲渡したと税務署に判断された場合、時価との差額分が、法人側では個人(役員)への利益供与(役員賞与)とみなされ、法人税の計算上、経費として認められなくなる可能性があります。

営業権(のれん)の引き継ぎ

長年の経営で築き上げたお店のブランド力、顧客リスト、独自のノウハウといった、目には見えない価値も「営業権(のれん)」という無形資産として評価の対象になることがあります。

とくに事業が好調で利益が出ている法人の場合、この営業権にも一定の価値があるとみなされ、個人へ引き継ぐ際には資産として計上しなくてはならないケースが考えられます。

営業権の価値をいくらと評価するかは非常に専門的な判断が求められるため、税理士などの専門家と相談しながら進めるのが賢明でしょう。

消費税の課税に注意

法人が消費税の課税事業者である場合、個人へ事業用の資産を売却(譲渡)する取引は、原則として消費税の課税対象となります。たとえば、時価50万円の機械を個人へ移す場合、法人は個人から50万円に消費税を加えた額を受け取り、その消費税分を国に納めなくてはなりません。

帳簿上の処理だけでなく、実際の資金移動や消費税の申告・納税までを正しく行う必要があります。

法人化をやめた後の税務申告はいつ・どうする?

法人化をやめた後は、法人として最後の税務申告を行う義務があります。さらに個人成りした場合は税務署へ開業届を提出したうえで、個人事業主として新たに確定申告をしなくてはなりません。手続きのパターンによって申告のタイミングや種類が異なり、非常に複雑に感じられるかもしれません。

申告漏れは延滞税などのペナルティにつながるため、いつ、何をすべきかを正確に把握しておくことがとても大切です。

会社を廃業(解散・清算)した場合の税務申告

事業を完全にやめる解散・清算の場合は、法人として複数回の税務申告が必要になるのが一般的です。

  • 解散事業年度の確定申告
    事業年度の開始日から法人が解散した日までを「1つの事業年度」とみなし、その期間の所得に対する法人税などの申告を行います。この申告は、解散の日から2か月以内に行わなくてはなりません。
  • 清算事業年度の確定申告
    解散日の翌日から1年間の期間を「清算事業年度」といいます。清算手続きが1年以上にわたる場合は、この期間ごとに確定申告が必要です。申告期限は、各清算事業年度の終了から2か月以内です。
  • 残余財産確定事業年度の確定申告
    会社の財産整理がすべて完了し、株主に分配できる財産額が確定したら、最後の申告を行います。これは、残余財産が確定した日から1か月以内が申告期限となっており、通常の申告より期限が短いためとくに注意が必要でしょう。

出典:清算人等の第二次納税義務|国税庁

個人成り(個人開業)した場合の税務申告

個人成りの場合は、上記の「法人の解散・清算にともなう申告」をすべて行ったうえで、新たに「個人事業主としての所得税の確定申告」が発生します。

  • 法人としての最終申告
    手続きは、会社を廃業した場合と同様です。解散・清算の各段階で、定められた期限内に法人としての申告を完了させます。
  • 個人事業主としての最初の申告
    個人事業主としての税務申告の義務は、個人として事業を開始した年から発生します。個人の所得税の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までです。その1年間の事業所得などを計算し、翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行います。

たとえば、2025年10月1日から個人事業を開始したとします。この場合、最初の確定申告は、2025年10月1日から12月31日までの約3か月間の所得について、2026年の2月16日から3月15日までの申告期限内に行う、ということになります。

法人成りや個人成りを繰り返しても問題ない?

事業の利益の状況に応じて、法人成り(法人化)と個人成りを繰り返すことは、法律で直接禁止されているわけではありません。したがって、手続き上は可能といえます。しかし、その目的が事業上の合理的な理由にもとづくものではなく、単に税金の支払いを免れるためだと判断された場合、税務上のリスクをともなうことを理解しておくべきでしょう。

とくに、消費税の免税事業者となるためだけに設立と解散を繰り返すようなケースでは、税務署から「租税回避行為」とみなされ、本来納めるべきであった税金の追徴課税を受けるおそれがあります。事業戦略上の明確な理由がない限り、安易に繰り返すべきではありません。

法人化をやめる手続きは誰に相談すればいい?

法人化をやめる手続きと個人成りのプロセスは、会社法や税法が複雑に絡み合います。自分一人ですべての手続きを間違いなく進めるのは、かなりの困難をともなうでしょう。書類の不備で手続きが滞ったり、税務上の判断を誤って余計な税金を支払うことになったりする事態を避けるためにも、専門家の力を借りることを強くおすすめします。相談すべき専門家は、手続きの段階に応じて異なります。

司法書士:登記手続きの専門家

会社の解散や清算結了に関する登記は、司法書士の独占業務です。株主総会の議事録作成から、法務局への登記申請書類の作成、提出代行まで、一連の法的な手続きを任せることができます。どのタイミングでどのような登記が必要になるか、正確な知識にもとづいてサポートしてくれる、頼れる存在です。

税理士:税務申告・資産評価の専門家

解散事業年度や清算期間中の確定申告、資産を個人へ移す際の適正な時価の算定、消費税の取り扱いなど、税務に関するあらゆる相談に対応してくれます。とくに、法人から個人への資産移転は税務上のリスクをはらんでいるため、税理士に相談し、適切な処理方法についてアドバイスを受けることが、将来の税務調査などで問題を指摘されないために不可欠といえるでしょう。

後悔しないために知るべき法人化をやめる最善の方法

法人化をやめたいと考えたとき、最も大切なのは「個人成り」「解散」「休眠」の選択肢の中から、ご自身の事業の現状と将来の展望に合った最善の方法を慎重に選ぶことです。もし事業の継続を望むのであれば「個人成り」が有力な選択肢となりますが、その手続きは複雑で、とくに法人から個人への資産の引き継ぎには専門的な知識が求められます。

目先のコストや手続きの手間だけで判断するのではなく、本記事で解説したメリット・デメリットを十分にふまえ、中長期的な視点で検討することが後悔しないための鍵となります。どの方法を選ぶにしても、判断に迷う場合は、司法書士や税理士といった専門家に相談し、客観的なアドバイスを受けながら進めていきましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事