• 作成日 : 2024年11月21日

事業承継時は消費税の納税義務がある?生前贈与・相続の違いや節税方法も

事業承継時における消費税の納税義務は、法人と個人事業主で異なります。法人の場合は、後継者に事業承継されても納税義務は変わりません。個人事業主の場合は個人に納税義務があり、承継後の期間で発生した消費税は後継者が納税します。

本記事では、事業承継における消費税の取り扱いや、課税資産・非課税資産などを解説します。

事業承継時は消費税の納税義務がある?

事業承継では、事業に関する資産を取得した人が納税義務者となります。ただし、義務の内容は法人と個人事業主で異なります。

事業承継時における消費税の納税義務について、詳しくみていきましょう。

法人の場合

法人とは法律によって権利・義務が認められた団体であり、事業承継で経営者が変わっても、納税義務があるのは法人である点に変わりありません。事業承継する法人の課税売上高が1,000万円超の場合は、引き続き課税事業者として納税義務者となります。そのため、法人が消費税を納付しなければなりません。

消費税の納付期限は法人と個人で異なり、法人の場合は課税期間終了日です。事業年度の終了日の翌日から、2ヶ月以内に納める必要があります。

個人事業主の場合

個人事業主の場合は、個人に納税義務があります。事業承継前と事業内容は同一でも、旧経営者から後継者に事業が承継されれば、引き継いだ後継者が納税義務者となります。

旧経営者が事業を運営していた期間に発生した消費税は旧経営者に納税義務があり、事業承継後の期間は後継者が納税義務者です。

個人事業主の消費税の申告期限は、原則として課税期間の翌年の3月31日までとなっています。

事業承継時に消費税の課税対象となる資産は?

事業承継で消費税を考慮する必要があるのは、事業譲渡や現物出資の場合です。株式譲渡も資産の譲渡であるため、消費税が発生すると考えるかもしれません。しかし、国債や株式などの有価証券の譲渡は、原則として消費税の非課税取引とされています。そのため、株式譲渡による事業承継は課税されません。

一方、事業譲渡や現物出資は個々の資産が譲渡されたものと捉えられるため、消費税が課されます。

ただし、事業譲渡ではすべての資産に課税されるのではなく、課税対象となるものとならないものがあります。

消費税の課税資産

課税対象となる課税資産は、次のとおりです。

  • 土地を除く有形固定資産:建物や車両運搬具、機械装置など
  • 無形固定資産:特許権や意匠権、商標権など
  • 棚卸資産:販売活動や営業活動のための資産、商品在庫など
  • 営業権(のれん代):ブランド力や技術力、ノウハウなど

のれん代は貸借対照表の資産の部(無形固定資産)に計上され、損益計算書上では販売費および一般管理費として計上されます。計算は、買収金額から買収先企業の純資産をマイナスして算出します。

消費税の非課税資産

非課税資産となるのは、次のとおりです。

  • 土地
  • 有価証券:株式、債券、手形、小切手など
  • 債権:法律上、他人に請求することができる請求権。売掛債権など

有形固定資産のなかで、土地だけが非課税資産になる点に注意が必要です。

消費税を計算する際は、これら非課税資産の分を除き、課税資産の部分だけで税額を計算してください。

事業承継の方法による消費税の違いは?

事業承継には、主に「生前贈与」「相続」「売買」の3つの手法があり、それぞれ消費税の取り扱いは異なります。

生前贈与による事業承継の場合

消費税の扱いは、経営者が生存中に事業承継したかどうかにより変わります。生前贈与により事業承継すると、譲渡する側が事業を廃止し、後継者が事業を開始したという扱いになります。後継者が開業した時点は、過去2年間の売上高が1,000万円以上という要件にあてはまらないため、開業時に消費税の納税義務はありません。なお、事業承継に不動産が含まれる

基本的に2年間は免税事業者となりますが、インボイス制度において適格請求書発行事業者の登録を受ける場合は、免税とされる期間でも課税事業者となり、消費税の支払いが必要です。

一方、譲渡側は対価を受け取らずに事業を譲渡するため、基本的に税金の支払義務はありません。

なお、個人が法人に対して事業を無償で譲渡する場合、「みなし譲渡所得」が発生する可能性があるため注意が必要です。みなし譲渡とは、無償あるいは著しく低い価額で資産を譲渡した場合、時価で譲渡したとみなして課税されることです。

相続による事業承継の場合

相続の場合も、生前贈与と同じく経営者の「事業の廃止」と後継者の「事業の開業」という扱いになります。

ただし、相続では後継者が旧経営者の課税売上高を引き継ぐため、相続があった年は、旧経営者の基準期間における課税売上高と、後継者が事業承継した後の課税売上高を合算した金額に対して消費税が課税されます。

なお、被相続人である旧経営者が提出した「消費税課税事業者選択届出書」など消費税に関する届出書の効力は、後継者に引き継がれません。適用を受けるためには、あらためて書類の提出が必要です。

売買による事業承継の場合

事業を売買で譲渡する場合、譲受企業は価格に消費税を加算して代金を支払います。

支払いを受けた譲渡企業が課税事業者の場合、後日、消費税申告をして納税しなければなりません。非課税事業者で適格請求書発行事業者の登録を受けている場合も同様です。

事業譲渡で譲渡した資産には課税資産と非課税資産が混在しているため、消費税の計算では分類して計算する必要があります。

事業承継時の消費税を節税するなら生前贈与がおすすめ?

事業承継で消費税の節税を考える場合、相続よりも生前贈与の方が節税効果は高いといえます。相続による場合、譲渡者の課税売上高も後継者が譲り受ける形になり、旧経営者が事業を行った期間の課税売上高にも納税義務が発生するためです。

節約を考えるのであれば、経営者が存命中に生前贈与による事業承継を検討してみるとよいでしょう。

事業承継時に納めるべき消費税以外の税金は?

事業承継では、消費税のほかに、事業承継の手法に応じて贈与税や相続税がかかります。

非上場会社の場合、これらの税金について負担を軽減する事業承継税制が設けられています。事業承継税制を活用すれば、贈与税・相続税の納税猶予を受けることが可能です。

個人事業主の場合は個人版事業承継税制が設けられ、同じような支援を受けることができます。

ここでは、事業承継時に納める贈与税や相続税をみていきましょう。

贈与税

贈与税とは、個人から財産を贈与された人(受贈者)にかかる税金です。事業承継では、受贈者である後継者が納めます。

贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額から、基礎控除110万円を差し引いた金額をもとに計算します。

計算式は、次のとおりです。

(受け取った財産 – 基礎控除110万円)× 贈与税率 – 控除額 = 贈与税額

贈与税率と控除額は、受け取った金額により定められ、金額が大きいほど税率も高くなります。

事業承継における贈与税は、事業承継税制による猶予を受けることが可能です。一定の要件を満たして事業承継を実施すると、贈与税の支払いが猶予されます。その後、一定期間要件を満たすことで、猶予された税額が免除されるという仕組みです。

相続税

相続税とは、被相続人から相続等で財産を受け取った人にかかる税金です。相続により事業を引き継いだ相続人が納めます。

次の計算式で基礎控除を計算し、事業承継で相続した財産が基礎控除を下回っていた場合、相続税の申告・納税は必要ありません。

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

相続税も、事業承継税制による猶予の対象です。

事業承継では承継の手法により消費税の取り扱いが異なる

事業承継を事業譲渡の手法で行う場合、消費税の納税義務が発生します。課税財産と非課税財産があり、生前贈与や相続などの手法により取り扱いも異なるため、確認しておきましょう。節税できるのは、生前贈与による事業承継です。

事業承継では贈与税や相続税も発生しますが、非上場会社や個人事業主は事業承継税制により税の負担を軽減できるため、活用するとよいでしょう。


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