• 更新日 : 2025年11月25日

法人化(法人成り)できない理由とは?法律や資金面の条件を解説

法人化できない主な理由は、法律上の要件を満たせないことや、設立・維持のための資金が不足していること、事務負担が過大になることなどが挙げられます。会社役員としての欠格事由に該当していたり、資本金や最低でも20万円以上かかる設立費用を準備できなかったりするため、法人成りを見送るケースは少なくありません。

法人化を検討する個人事業主やフリーランスにとって、これらの条件や費用、手続きの複雑さは大きな障壁となり得ます。

本記事では、法人化できない具体的な理由と、あえて法人化しないという選択肢について、専門家の視点からわかりやすく解説します。

法律上の要件で法人化できないケースとは?

法人化を考えたとき、まずクリアしなければならないのが法律で定められた要件です。特定の条件に該当する場合、会社の役員になることができず、結果として法人を設立できません。

1. 役員の欠格事由に該当している

会社法で定められた「取締役の欠格事由」に該当する場合、法人化はできません。これは、会社の健全な運営と社会的信頼を確保するために設けられたルールです。

具体的には、次のようなケースが該当します(会社法第331条)。

  • 法人
  • 成年被後見人または被保佐人(ただし、家庭裁判所の許可を得て就任できる場合がある)
  • 会社法や金融商品取引法などの法律に違反して刑に処せられ、その執行を終えてから2年を経過しない者
  • 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終えるまでの者(執行猶予中の者を除く)

設立予定の会社の取締役に就任する人が、これらの欠格事由に該当する場合は、その人を役員から外すか、または一定期間が経過するのを待ってから登記手続きを行う必要があります。

参照:会社法 取締役の資格等 第三百三十一条|e-Gov法令検索

2. 未成年者で法定代理人の同意がない

未成年者であっても、法定代理人(通常は親権者)の同意があれば法人を設立することは可能です。ただし、同意がない場合には設立手続きを進められません。

未成年者は法律上、単独で契約などの法律行為を完結させることができないためです。法人設立には、定款の作成・認証や登記申請など、多くの法律行為がともないます。そのため、登記申請時には親権者の同意書や印鑑証明書などを添付して、手続きの正当性を示す必要があります。

法人化できなさそうでも条件次第でできる人は?

「自分は法人化できないかもしれない」と思われがちなケースでも、実際には条件を満たせば法人を設立できる場合があります。諦める前に、ご自身の状況が本当に設立の障壁となるのか確認しましょう。

前科がある場合

前科があっても、会社法などで定められた特定の罪に該当しない限り、法人化できる可能性は十分にあります。

役員の欠格事由として定められているのは、主に会社法、金融商品取引法、破産法といった経済関連の法律に違反し、刑の執行が終わってから2年が経過していない場合です。これらの法律に関わらない一般的な犯罪歴については、法人設立そのものを妨げる直接的な欠格事由にはなりません。ただし、事業内容によっては許認可の取得に影響があるため、注意が必要です。

自己破産している場合

自己破産の手続きが完了し、免責許可決定が確定していれば、役員に就任することができ法人化も可能です。

破産手続き中で「破産者」である間は、会社法第331条に定める役員の欠格事由に該当するため、取締役などには就任できません。しかし、免責許可が確定すると同時に「復権」が得られ、欠格事由は解消されます。そのため、手続き完了後であれば、法人設立自体に制限はありません。

ただし、注意すべきは信用情報上の影響です。破産歴は信用情報機関に一定期間その情報が記録されるため、法人設立後の資金調達、特に金融機関からの融資審査において不利に働く可能性は考慮しておきましょう。

外国籍の場合

日本に住む外国籍の方でも、一定の条件を満たせば日本で法人を設立できます。

重要なのは、日本で事業活動を行うための在留資格です。一般的には「経営・管理」の在留資格を取得する必要があります。この資格を得るには、原則として資本金500万円以上の事業規模であることや、日本国内に独立した事業所を確保していることなどの要件を満たさなければなりません。なお、すでに別の在留資格で日本に滞在している場合は、「経営・管理」への在留資格変更が必要となるため、入管庁や行政書士への事前相談を行うと安心です。

成年被後見人・被保佐人の場合

成年被後見人や被保佐人であっても、必要な手続きをふめば会社の役員になれます。

かつては、成年被後見人・被保佐人であることが会社法上の役員の欠格事由とされていましたが、2019年12月に施行された改正会社法により、この規定は削除されました。現在では、成年被後見人が取締役などの役員に就任する場合、成年後見人が本人の同意を得たうえで就任を承諾すれば可能となります。また、被保佐人についても、家庭裁判所の許可を得ることで就任が認められるケースがあります。

資金や費用が足りずに法人化できない場合

法律上の要件をクリアしても、次に立ちはだかるのが資金面の壁です。会社の設立には資本金など初期費用がかかるだけでなく、設立後も継続的にコストが発生します。

会社設立に必要な初期費用が準備できない

法人設立には、実費だけで20万円以上の初期費用がかかるのが一般的です。

この費用は、会社の形態(株式会社か合同会社かなど)によって異なりますが、主に以下の法定費用で構成されます。

費用の種類株式会社の目安合同会社の目安概要
定款用収入印紙代40,000円
電子定款は0円)
40,000円
(電子定款は0円)
会社の基本ルールである定款に貼付する印紙代
定款認証手数料30,000円~50,000円
(一定条件を満たす場合は15,000円)
不要公証役場で定款を認証してもらうための手数料
登録免許税資本金の0.7%
(最低150,000円)
資本金の0.7%
(最低60,000円)
法務局へ設立登記を申請する際に課される税金

これらの費用に加えて、会社設立の手続きを司法書士や行政書士に依頼する場合は、別途報酬が発生します。資金が不足している場合は、法人化を急がず、自己資金を計画的に準備するか、創業融資などの公的制度を活用する方法も検討しましょう。

参照:登記手数料について|法務局

赤字でも発生する維持費用(ランニングコスト)が負担になる

法人化すると、たとえ事業が赤字でも支払い義務が生じる税金や費用があります。

個人事業主であれば、赤字の場合は所得税や住民税の負担は発生しません。一方、法人の場合は、たとえ利益が出ていなくても、法人住民税の「均等割」を納める必要があります。

これは、法人が自治体から受ける行政サービスに対して課されるもので、資本金の額や従業員数に応じて金額が決まります。最低でも年間7万円程度かかります。

さらに、後述する社会保険料の負担も加わり、これらの維持費用が経営を圧迫する可能性があります。

あえて法人化しないケースとは?

法律や資金の問題をクリアできるとしても、法人化にともなう事務負担の増加や経営上の制約を理由に、「あえて法人化しない」という選択をする事業主もいます。

経理や税務申告が複雑になりすぎる

法人の会計処理や税務申告は、個人事業主の確定申告とは比較にならないほど複雑化します。

個人事業主の青色申告でも、複式簿記により貸借対照表損益計算書勘定科目内訳明細書などを作成・保存する必要があります。ただし、これらは申告書に一部を転記するのみで、原則として書類そのものを提出する義務はありません。

一方、法人の場合は、これらに加えて法人税や地方税の申告書、法人事業概況説明書などを作成・提出しなければならず、会計処理もより厳格です。そのため、多くの法人が税理士と顧問契約を結んで申告業務を専門家に委託し、そのための月額顧問料や決算申告料が新たなコストとして発生します。

会社の資金を自由に使えなくなる

会社の資産と個人の資産は、法律上、明確に区別されます。そのため、たとえ社長一人だけの会社であっても、会社の預金を自由に引き出して生活費などに充てることはできません。

個人事業主であれば「事業主貸」として処理できますが、法人の場合、自分への給与は「役員報酬」として毎月定額で支払うのが原則です。役員報酬の額を期中に変更するには税務上の制約があり、会社の資金を個人的に利用すると、会社から役員への「貸付金」として扱われ、利息を計上する必要が生じるなど、経理処理が煩雑になります。この資金の自由度の低さが、個人での事業運営に慣れた人にとっては大きなデメリットと感じられるでしょう。

法人化せず個人事業主のままでいるメリット

すべての個人事業主にとって、法人化が最適な選択とは限りません。事業の規模や利益水準、働き方によっては、個人事業主のままでいる方がメリットが大きい場合があります。

所得がそれほど多くない、あるいは自由な事業運営をしたいと考える場合には、個人事業主の方が税負担や事務コストを抑えられるためです。

法人化すると、役員報酬や家族への給与、退職金制度、生命保険の損金算入、経費計上の範囲など、個人事業主にはない税務上の選択肢が広がります。一方で、法人では社会保険料の事業主負担や均等割(法人住民税)、税理士費用などが発生します。

特に、一人親方やフリーランスのように、事業規模を大きく拡大するよりも、自身の裁量で柔軟に働くことを優先するスタイルの方には、あえて法人化しない選択が合理的であるケースが少なくありません。

個人事業主のままでいるメリット

個人事業主には、法人にはない手軽さや自由度といったメリットがあります。

  • 手続きの簡便さ:
    開業・廃業の手続きが税務署への書類提出のみで完了し、登記などの手間や費用がかかりません。
  • コストの低さ:
    赤字であれば所得税・住民税の負担はなく、法人住民税の均等割のような固定費も発生しません。
  • 資金の自由度:
    事業で得た利益は、事業用と個人用を区別しながらも、比較的自由に使うことができます。

法人化していない会社で従業員を雇う際の注意点

個人事業主であっても、常時5人以上の従業員を雇用する場合には、一部の業種(農林水産業、サービス業など)を除き、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。

「法人ではないから社会保険に入らなくてよい」というわけではない点に注意が必要です。また、従業員を1人でも雇用すれば、業種や人数にかかわらず労働保険(労災保険・雇用保険)への加入は必須です。従業員を雇用する際は、法人か個人かを問わず、これらの公的保険に関する手続きと保険料負担が発生することを理解しておきましょう。

参照:適用事業所と被保険者|日本年金機構

会社員でも法人化はできる?できない?

副業が一般的になるなか、会社員として働きながら法人を設立したいと考える人も増えています。法律上、これは可能なのでしょうか。

結論として、公務員を除き、会社員が法人を設立すること自体は法律で禁止されていません。

ただし、勤務先によっては就業規則で従業員の副業や兼業を制限、あるいは禁止しているところもあります。法人を設立する前に、まずは勤務先の就業規則を必ず確認しましょう。規則に違反した場合、懲戒処分の対象となるおそれがあります。

副業が許可されている場合でも、以下には注意しましょう。

  • 本業の業務時間外に行う
  • 本業の会社の信用や利益を損なわない
  • 競合する事業を行わない

これらを守らなければ、法的には問題がなくても信頼関係のトラブルに発展する可能性があるため、慎重な対応が求められます。

法人化できない・しない理由は多岐にわたるため総合的な判断を

法人化ができない、あるいはしない理由は、役員の欠格事由といった法律上の制約から、設立・維持コストの資金不足、さらには事務負担の増加や経営の自由度の低下といった実務的な問題まで、実にさまざまです。

特に、個人事業主やフリーランスの方にとっては、法人化によるメリットが、これらのデメリットやコスト増を上回るかどうかを慎重に見極める必要があります。ご自身の事業規模、将来の展望、そして許容できるコストや手間を総合的にふまえ、本当に今が法人化すべきタイミングなのかを判断しましょう。

迷った際には、税理士などの専門家に相談し、客観的なアドバイスを求めることも有効な手段です。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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