- 作成日 : 2025年10月24日
倒産防止共済で節税するには?活用方法や注意点を解説
中小企業や個人事業主にとって、節税と資金繰りの安定は経営の大きな課題です。その中で「倒産防止共済(経営セーフティ共済)」は、掛金を全額経費にできるうえ、万一の取引先倒産時には無担保・無保証で資金の貸付を受けられる制度として注目されています。
本記事では、倒産防止共済の節税効果や注意点、他制度との比較などを解説します。
目次
倒産防止共済とは?節税になる理由は?
倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、万が一の連鎖倒産に備える中小企業向けの共済制度でありながら、節税効果も期待できる仕組みです。制度の概要と節税効果の理由を解説します。
倒産防止共済は中小企業の「経営保険」
倒産防止共済とは、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する公的な共済制度です。正式名称は「中小企業倒産防止共済制度」といい、取引先企業の突然の倒産によって売掛金が回収できなくなったとき、自社が連鎖倒産するのを防ぐために設けられています。この制度に加入していると、積み立てた掛金総額の10倍(上限8,000万円)または回収困難額のいずれか少ない金額までを、無担保・無保証で借り入れることができ、資金繰りの急変に備えることができます。
加入対象は中小企業や個人事業主に限られ、原則として1年以上継続して事業を行っていることが条件です。なお、医療法人やNPO法人など一部の法人は加入対象外となります。
掛金全額が損金算入できることによる節税効果
倒産防止共済の大きな特徴は、掛金が損金(または必要経費)として認められる点にあります。これは法人税や所得税の課税所得を圧縮できることを意味し、実質的な税負担を軽減できる節税効果を生み出します。
掛金の支払いによって今期の利益を圧縮し納税額を減らす一方、将来共済を解約した際にはその受取額が課税対象となるため、倒産防止共済による節税はあくまでも「課税の繰り延べ」としての性格を持ちます。とはいえ、事業の収支をコントロールする上で非常に有効な手段であり、決算対策として活用されることが多い制度です。
倒産防止共済の掛金は全額経費にできる?
倒産防止共済は、掛金が税務上の経費として全額認められるため、利益が出た年の税負担を軽減することができます。ここでは、掛金の取り扱いや上限、前納制度を含めた活用方法について解説します。
掛金は全額損金または必要経費に算入できる
倒産防止共済の最大の魅力は、支払った掛金がそのまま法人税や所得税の計算上の経費となる点です。法人の場合は「損金」、個人事業主の場合は「必要経費」として全額を計上できます。これにより、その年の課税所得が圧縮され、納税額を効果的に減らすことが可能です。
たとえば年間240万円の掛金を支払った場合、実効税率30%の法人であれば約72万円の節税につながります。ただし、解約時には返戻金に対して課税されるため、これは「課税の繰り延べ」であることも理解しておく必要があります。
掛金額は柔軟に設定可能で上限は800万円
掛金は月額5,000円から20万円まで自由に設定でき、事業の資金状況に応じて増減も可能です。積立の上限は800万円で、月額20万円を継続した場合、およそ40か月で上限に達します。この上限は、そのまま損金として認められる金額の最大値でもあるため、計画的に積み立てることで高い節税効果を得られます。
上限到達後は掛金の追加はできませんが、共済契約自体は継続され、倒産時の共済金貸付などの機能は引き続き利用できます。
前納制度で一括経費計上も可能
倒産防止共済には「前納制度」があり、最大で12か月分の掛金を一括して支払うことができます。前納掛金は1年以内の期間であれば全額をその支払年度の経費に算入できるため、利益が集中する年度の決算対策として特に有効です。1年を超える場合は期間に応じて按分されます。
たとえば決算前に翌年度分の掛金240万円を一括前納すれば、当期の課税所得を大きく圧縮でき、即時的な節税効果が得られます。さらに、前納にはわずかですが割引制度もあるため、実質負担を抑えつつ節税できるのも利点です。
どれくらい税金が安くなる節税効果がある?
倒産防止共済は、掛金を支払うことでその分だけ課税所得を減らすことができるため、実質的な納税額の軽減につながります。どの程度の節税効果があるのかは、税率や掛金の金額によって変わりますが、高所得者ほど恩恵が大きくなります。ここではその仕組みと注意点を解説します。
税率に応じて節税効果は大きく変動する
倒産防止共済の最大の特徴は、支払った掛金が全額損金(法人)または必要経費(個人)として認められる点です。これにより、課税対象となる所得額が減少し、その分の税額を抑えることが可能になります。
たとえば、年間240万円の掛金を支払った場合、実効税率が30%の法人であれば約72万円、税率20%の個人事業主であれば約48万円の節税効果が見込まれます。これは課税所得が減ったことによる直接的な税額の減少であり、利益が出た年度に集中的に掛金を積み立てれば、その年の納税額を大幅に抑えることが可能です。
また、所得が高くなるほど適用される税率も上がるため、倒産防止共済のように課税所得を圧縮できる制度は、高収益の法人や事業主にとって有効な節税手段となります。
節税は「免除」ではなく「繰り延べ」である点に注意
ただし、この節税効果は恒久的なものではなく、あくまでも「一時的な課税の繰り延べ」にすぎないことを理解しておく必要があります。倒産防止共済では、共済を解約して掛金の返戻金(解約手当金)を受け取る際に、その受取額が収益として計上され、改めて課税対象になります。
つまり、掛金を支払っている間は税負担を減らすことができますが、将来的には必ずその分の税金を支払うことになります。このように、節税というよりも「税金を払うタイミングを後ろ倒しにする」という性質の制度です。
したがって、共済を解約する年に多額の返戻金を受け取ると、その年の課税所得が一気に増え、かえって税負担が大きくなる可能性もあります。倒産防止共済を活用する際は、節税効果だけでなく「いつ解約し、いつ課税が発生するか」という出口戦略をしっかりと考えることが重要です。
解約したときの税金はどうなる?
倒産防止共済は、掛金を支払っている間は節税効果がある一方、解約のタイミングによっては税負担が発生する制度でもあります。「解約手当金」に対する課税の仕組みを正しく理解しておくことが重要です。
解約手当金は全額課税対象になる
倒産防止共済を解約すると、積み立てた掛金に応じた「解約手当金(解約返戻金)」を受け取ることができますが、その金額は全額が課税対象となります。法人の場合は益金(雑収入)として法人税の課税所得に算入され、個人事業主の場合は事業所得などの収入として所得税・住民税の対象になります。
つまり、掛金の支払い時に損金算入して一時的に節税できた分は、解約時にまとめて課税される構造です。たとえば掛金総額800万円を一括で受け取ると、その年に800万円分の利益が加算されるのと同様の扱いとなり、税率が高ければ高いほど負担も大きくなります。
このため、業績が良い年に解約してしまうと「想定以上に税金が発生した」「節税どころか逆効果だった」といった事態になりかねません。倒産防止共済の節税効果はあくまでも「一時的な繰り延べ」であることを忘れてはいけません。
解約返戻金の返戻率とタイミングに注意
解約時に受け取れる返戻金の金額は、支払った掛金総額に対する「返戻率」によって決まります。一般的に、掛金を12か月以上納めていればおよそ8割以上が返ってきますが、40か月(3年4か月)以上支払うと、返戻率が100%となり、掛金全額が戻ってきます。
逆に言えば、加入後12か月未満で解約すると掛金は一切戻らず、掛け捨てになるため、短期解約は避けるべきです。また、40か月を超えて積み立てを続けても返戻率は100%のままです。つまり、それ以上積み立てても金額が増えるわけではありません(運用益などは発生しない制度です)。
この返戻率の仕組みを利用し、かつては「40か月積み立て→解約→再加入」を繰り返すことで、定期的に経費計上と資金回収を行う“節税ループ”的な使い方が広まっていました。しかし現在では、2024年10月施行の税制改正により、解約後すぐに再加入しても掛金が損金算入できない「2年間の制限期間」が導入され、このような使い方はできなくなっています。
節税目的で倒産防止共済を利用する際の注意点は?
倒産防止共済は強力な節税制度ですが、利用にはいくつかの注意点があります。
解約時の課税で逆効果になる可能性
最大の注意点は、共済解約時に返戻される「解約手当金」が全額課税対象となる点です。法人であれば益金、個人事業主であれば事業所得として扱われ、掛金支払い時に繰り延べていた税金をまとめて支払う必要があります。
たとえば800万円の掛金を受け取れば、その年に800万円の課税所得が追加され、高所得層では重い税負担となることもあります。業績が好調な年に解約すると、税率が高くなるため、節税効果を帳消しにするおそれがあります。解約は、利益が少ない年や事業の終了時など、課税インパクトが少ないタイミングを見極めて行うべきです。
掛金による資金拘束リスク
掛金は原則として解約まで引き出せないため、積み立て中は資金が拘束されます。掛金の返戻率は高く、40か月以上の積み立てで100%になりますが、それまでの期間は事業資金として自由に使えません。資金に余裕がない事業者が無理に高額な掛金を設定すると、資金繰りを圧迫する危険もあります。
資金が必要な場合は「一時貸付金制度」を活用することで、掛金総額の範囲内で短期の融資を受けることが可能です。年利相当の手数料はかかりますが、解約を避けつつ資金調達ができる有効な手段です。
制度改正による再加入制限
2024年10月の制度改正により、一度解約した後の再加入では「2年間の損金不算入期間」が設けられました。これにより、以前のように「40か月積み立て→解約→再加入」を繰り返すことで節税を続ける使い方は不可能となりました。
共済は本来、非常時の資金繰り支援を目的とした制度です。節税だけを目的とせず、数年間以上の長期的な活用を前提に加入することが求められます。
他制度との併用も視野に入れる
倒産防止共済と並んで注目されるのが「小規模企業共済」です。これは廃業や退職時の生活資金を準備するための制度で、掛金は全額所得控除となり、将来の受取時にも退職所得控除などの優遇があります。
倒産防止共済は「連鎖倒産への備え+課税繰延べ」、小規模企業共済は「老後資金確保+課税軽減」と目的が異なるため、両者を併用することでバランスの良い節税・資金対策が可能となります。
倒産防止共済・小規模企業共済・iDeCoの違いは?
節税や資金準備を目的に活用される共済制度には複数ありますが、それぞれに対象や目的、節税効果が異なります。ここでは、中小企業経営者や個人事業主がよく利用する「倒産防止共済」「小規模企業共済」「iDeCo」の3制度を比較し、特徴と使い分けのポイントを解説します。
【倒産防止共済】万一の連鎖倒産に備えながら節税
倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、中小企業が取引先の倒産による売掛金回収不能に備える制度で、掛金を損金または必要経費に算入できるため、強力な節税効果があります。ただし、解約時には返戻金が課税対象となるため、節税効果は一時的です。目的は「経営リスクのヘッジ」と「課税の繰り延べ」であり、掛金の上限は800万円、貸付限度額は8,000万円です。
【小規模企業共済】廃業・退職時の資金確保と所得控除
小規模企業共済は、個人事業主や中小企業の役員が将来の退職金を自助努力で準備するための制度で、掛金は全額が所得控除となります。小規模企業共済の受取は、一括受取の場合は退職所得、分割受取の場合は公的年金等の雑所得として課税されます。
倒産防止共済と異なり、受取時に課税メリットがあり、将来の生活資金の備えに適しています。
参考:小規模企業共済とは
【iDeCo】老後資金形成と3段階の税制優遇
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、主に老後資金の形成を目的とした制度で、掛金が全額所得控除、運用益非課税、受取時の退職・年金控除が適用される「三重の節税効果」が特徴です。職業や立場によって掛金上限が異なり、60歳まで原則引き出しができないという制限がありますが、長期的な資産形成を前提とするには有効な手段です。
これら3制度はそれぞれ性質と目的が異なるため、単独で使うのではなく「併用」が有効です。倒産防止共済で経営リスクをカバーし、小規模企業共済で退職資金、iDeCoで老後資金を準備するという組み合わせが、節税効果と将来への備えの両立につながります。
倒産防止共済を賢く活用して節税と備えを両立しよう
倒産防止共済は掛金の全額を経費にできる有効な節税対策ですが、解約時に課税されるため実質的には税金の繰り延べに過ぎません。2024年の改正で短期利用による節税ループにも制限が設けられ、長期的な視点での活用が重要なポイントとなりました。経営セーフティ共済の仕組みとルールを正しく理解し、万一の備えと節税効果を上手に両立させましょう。今後も最新の税制変更に注意しつつ、賢い制度活用を心がけてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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