- 作成日 : 2025年10月24日
賃貸経営で節税する方法とは?税金の種類や節税術を解説
賃貸経営を始めたものの、家賃収入にどのような税金がかかるのか、節税の方法がわからないという方は少なくありません。賃貸経営では所得税や固定資産税をはじめ、さまざまな税負担が発生します。
本記事では、賃貸経営に関わる税金の種類から節税のポイントをわかりやすく解説します。
目次
賃貸経営にかかる税金は?
賃貸経営では、家賃収入に対して所得税(または法人税)だけでなく、固定資産税や不動産取得税など多様な税金が課税されます。
所得税・法人税:収入規模と形態で課税内容が異なる
賃貸収入には所得税または法人税が課されます。個人オーナーが得た家賃収入は「不動産所得」として扱われ、総合課税により所得税は5%〜45%の累進税率が適用され、住民税(所得割)は標準で一律10%(都道府県4%、市区町村6%)です。均等割等により実効負担は自治体で異なります。
所得が増えると累進課税により税率も上昇します。
一方、法人化して賃貸経営を行う場合、所得は法人税として課税されます。法人税率は、年800万円以下の所得に対しては15%、それを超える部分には23.2%が適用されます。さらに法人住民税・法人事業税を含めても、課税総額は所得税に比べて抑えられるケースが多く、一定以上の利益が見込まれる場合には法人化による節税効果が期待できます。
固定資産税・都市計画税:保有するだけで毎年かかる税
所有している土地や建物には毎年固定資産税(標準税率1.4%)と都市計画税(標準0.3%、市区町村により異なる)が課税されます。評価額に応じて算出され、賃貸住宅であっても原則課税対象です。
ただし、床面積や新築要件を満たした場合には軽減措置があります。加えて税制改正により、耐震改修や省エネ改修を行った賃貸住宅には、長寿命化大規模修繕に対する固定資産税の減額特例が2027年3月末まで延長され、減額割合は自治体条例で1/6〜1/2(参酌基準1/3)です。
申請手続きの簡素化も進み、管理組合による一括申請が可能になっています。
不動産取得税・消費税:取得・貸付時に関わる税金
物件購入時には、不動産取得税が課税されます。原則として評価額の4%ですが、住宅用物件に該当する場合は軽減措置があり、税負担を減らすことができます。
また、住宅の貸付については消費税が非課税扱いです。つまり、居住用賃貸物件の家賃には消費税がかかりません。ただし、オフィスや店舗などの事業用物件を貸し出す場合には、消費税が課税される点に注意が必要です。
賃貸経営で経費計上や減価償却は節税にどう役立つ?
賃貸経営においては、経費や減価償却を適切に活用することで、課税所得を減らし節税効果を得ることが可能です。現金支出の有無にかかわらず、会計上で費用として認められる支出を把握することがポイントとなります。
経費計上により課税所得を圧縮できる
家賃収入から必要経費を差し引くことで、課税対象となる不動産所得を減らすことができます。対象となる経費には、物件の修繕費、管理費、火災保険料、広告宣伝費、税金(固定資産税など)、賃貸ローンの支払利息などがあります。
月10万円のローン返済のうち利息が3万円であれば、その3万円のみを経費として計上可能です(元本は対象外)。これら経費の正確な計上が節税の基本であり、支出の裏付けとなる領収書や明細の保管も重要です。
減価償却は現金支出なしで節税効果が得られる
減価償却とは、建物や設備の取得費用を耐用年数に応じて分割し、毎年費用化する仕組みです。5,000万円の建物を取得した場合、法定耐用年数に基づき毎年数百万円を減価償却費として計上できます。
この減価償却費は、実際の支出を伴わないため、キャッシュフローには影響せず帳簿上の利益を圧縮することができます。高額所得者が高価格帯の賃貸物件を購入し、減価償却により赤字を計上することで給与所得との損益通算が可能となり、大きな節税効果を得るケースもあります。
ただし、土地取得にかかるローン利息は損益通算の対象外とされています。そのため、減価償却で生じた赤字のなかにローン利息がある場合、ローン利息分は他の所得とは通算できず、注意が必要です。
賃貸経営者が青色申告を活用すると節税効果がある?
賃貸経営における申告方法には「白色申告」と「青色申告」がありますが、可能であれば青色申告を選択することで節税効果を高められます。
最大65万円の特別控除と赤字繰越が可能になる
青色申告では、一定の条件を満たすことで最大65万円の特別控除を受けることができます。この控除を適用するには、「複式簿記による帳簿記帳」と「期限内申告」に加えて、「e-Taxによる申告」または「電子帳簿保存」のいずれかを実施している必要があります。これらの要件をすべて満たさない場合でも、複式簿記と期限内申告を行っていれば55万円、簡易簿記であれば10万円の控除が認められます。それでも白色申告と比較すれば、節税面で大きなメリットがあります。
また、青色申告者は不動産所得で赤字が出た場合、その損失を3年間繰り越して将来の所得と相殺できます。たとえば大規模修繕によって一時的に赤字になっても、後年の黒字と合算することで税負担を平準化することが可能です。これにより、突発的な支出にも柔軟に対応でき、資金繰りの安定につながります。
家族への給与も経費にできる
青色申告のもう一つの大きな利点は、家族に支払う給与を「青色事業専従者給与」として経費にできる点です。生計を一にする親族への給与は、青色事業専従者給与の届出・専従要件等を満たし、かつ事業的規模と認められる場合に、対価相当額を経費算入できます。
これにより、家族を業務に従事させることで所得の分散が図れ、全体の税負担を軽減できます。対して白色申告では、たとえ家族が業務に従事しても、配偶者で最大86万円、その他親族で最大50万円までしか経費として認められません。
ただし、この制度を活用するには「事業的規模」が必要で、目安としては独立した賃貸住宅が10室以上、または戸建て5棟以上の貸付が求められます。規模が小さい場合は専従者給与が経費にできないため、段階的な拡大とともに青色申告の制度を本格活用するのが効果的です。
賃貸経営は法人化すると税金面で有利になる?
賃貸収入が一定以上になると、個人より法人化した方が節税効果が高まるケースがあります。
高所得になるほど法人税率の方が低くなる
個人オーナーの場合、不動産所得は他の所得と合算して所得税と住民税が課税され、最高55%(所得税45%+住民税10%)に達します。これに対し、中小法人(資本金1億円以下)の法人税は、年800万円以下の所得に15%、超過分には23.2%が適用される一律税率です。
年間不動産所得が1,000万円ある場合、個人では約33%-153万6千円の税率で課税されるのに対し、法人では約23%で済む試算になります。また、個人事業には年290万円を超える不動産所得に対し個人事業税(5%)がかかりますが、法人化すれば法人事業税として扱われ、所得に応じて段階的に課税されます。。
法人化にはコストと税務の複雑さも伴う
ただし、法人化が常に有利というわけではありません。法人設立後は、毎年7万円以上の法人住民税(均等割)の負担があり、加えて決算申告や税務処理の複雑化に伴い、税理士報酬などの事務コストが発生します。
また、法人利益を個人に還元する際には、役員報酬や配当を通じて受け取る必要があり、その部分には再度個人の所得税がかかります。法人からの利益分配方法には戦略が必要です。
節税以外の法人化メリットも存在する
法人化には税務以外の利点もあります。家族を役員にして報酬を支払うことで所得を分散でき、将来的に退職金制度を活用することで大きな控除枠を確保することも可能です。また、不動産を法人所有にしておけば、相続時には法人株式の承継で済むため、物件分割の手間や相続税の評価対策としても有効です。
このように、法人化は所得規模・保有資産・事業承継の有無などを踏まえたうえで判断すべきであり、複数物件を保有する段階で検討すると節税効果を最大化しやすくなります。
賃貸物件の修繕や設備投資で受けられる税優遇は?
賃貸経営における修繕工事や設備投資は、資産価値を維持しつつ、税制上の優遇措置を活用できる重要なポイントです。
大規模修繕で固定資産税の軽減が受けられる
2025年度の税制措置により、耐震補強や省エネ改修などを行った賃貸住宅に対する固定資産税の減額特例が2027年3月末まで延長されました。この特例はもともと導入済みの制度であり、今回の改正で適用期限が延びたものです。
外壁塗装や給排水管の更新といった大規模修繕を実施し、自治体の認定を受けることで、翌年度の固定資産税が最大で1/2まで軽減される可能性があります。都市計画税についても、自治体によっては同様の減免措置が講じられることがあります。
設備投資には即時償却や税額控除の継続制度あり
法人オーナーを対象とした「中小企業経営強化税制」も、2025年度以降も引き続き利用できます。この制度では、一定の要件を満たす設備投資について、取得額の全額の特別償却(即時償却)または最大10%を法人税額からの控除として適用できます。
生産性向上や収益力強化設備の導入に1,000万円を投資した場合、即時償却、あるいは税額控除として処理できる可能性があります。ただし、「経営力向上計画の策定」などの条件を満たす必要があります。
その他の補助制度・控除制度も活用可能
国の税制に加えて、自治体が独自に実施する補助制度も存在します。太陽光発電設備の設置、バリアフリー改修、省エネ改修などに対して補助金が支給されることがあり、こうした費用の一部が助成されます。
また、バリアフリー改修や省エネ改修については、所得税から最大25万円が控除される「住宅特定改修特別税額控除」などの制度も、個人オーナーが対象となります。
賃貸物件は相続税対策にも有効?
賃貸用不動産は相続税評価額が低くなりやすく、現金や自宅よりも有利な資産といえます。特例制度を活用すれば、評価額を大きく圧縮し、相続税の負担軽減につなげることが可能です。
評価減の仕組みは「貸家建付地」と小規模宅地の特例
賃貸中の土地は「貸家建付地」として評価され、自用地よりも低い評価額が適用されます。さらに「小規模宅地等の特例」を併用することで、賃貸事業用の土地は200㎡まで50%評価減が認められます。
たとえば評価額1億円の土地(200㎡)であれば、特例適用により5,000万円まで圧縮可能です。建物についても「貸家」として評価され、借家権相当分(多くの地域で30%)を控除できるため、土地・建物ともに評価額を下げられます。
特例の適用には継続的な賃貸経営が前提
これらの特例を適用するには、相続人が土地を引き続き賃貸事業に使用することが条件です。相続後すぐに物件を売却してしまうと特例が取り消される可能性があるため、事前に事業継続の計画を立てておく必要があります。
生前贈与と組み合わせることで効果が高まる
相続対策には、生前贈与も有効です。家賃収入の多い物件を子どもに早めに贈与すれば、相続財産の圧縮と同時に所得税の分散効果も得られます。ただし、不動産の贈与には贈与税や登録免許税がかかるため注意が必要です。
最近の税制改正で、相続時精算課税制度の要件緩和や生前贈与加算期間の見直しが行われ、より柔軟な資産移転が可能になっています。
税制を味方につけて賃貸経営を最適化しよう
賃貸経営にはさまざまな税金が関わりますが、制度を正しく理解し、適切な対策を講じることで税負担を大きく軽減できます。青色申告による控除や損失繰越、経費や減価償却の活用、法人化による税率の低減効果など、多様な節税策があります。さらに、修繕や設備投資、相続対策を通じても税制優遇を受けられる可能性があるため、早めの計画が重要です。今後の税制改正にも注意を払いながら、節税と安定収益の両立を目指す経営を実践していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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