• 作成日 : 2025年9月16日

生命保険で節税するには?個人・法人向けの仕組みと活用法を解説

生命保険は、万一への備えとなる保障機能を持つだけでなく、節税にも活用できる金融商品です。個人の場合は生命保険料控除を活用することで所得税や住民税の軽減が期待でき、法人では保険料を損金として処理することで法人税の負担を抑えることが可能です。

本記事では控除制度の基本や法人契約による活用方法、相続税対策としての効果、注意すべきリスクなどを解説します。

生命保険で節税できる基本的な仕組み

生命保険は保障だけでなく、節税手段としても広く活用されています。制度上、個人と法人では活用の仕方が異なりますが、それぞれの仕組みを正しく理解することで、税負担の軽減に役立てることが可能です。ここでは、個人と法人に分けて、生命保険を利用した節税の基本的な仕組みを解説します。

個人が利用できる生命保険料控除

個人(会社員や個人事業主)が生命保険で節税する代表的な方法が「生命保険料控除」です。これは、年間に支払った生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料に応じて、所得税や住民税の課税所得から一定額を差し引ける制度です。

控除対象は、契約の種類ごとに3区分に分かれており、一般生命保険・個人年金保険・介護医療保険それぞれについて、所得税では最大4万円、住民税では最大2万8千円の控除が適用されます。すべての区分を活用すれば、所得税で最大12万円、住民税で最大7万円までの控除を受けることができます。

たとえば、平成24年以降の契約で年間保険料が8万円以上の契約があると、その区分では一律の上限控除額が適用されます。控除の手続きは、会社員であれば年末調整、自営業者やフリーランスの場合は確定申告で行います。正しく申告することで、年間の節税効果が期待できます。たとえば、控除額の上限をすべて利用した場合、所得税・住民税の合計税率が20%の人なら年間3万1000円、税率30%の人なら年間4万3000円の税負担が軽減される計算になります。

法人が活用できる法人保険の損金計上

一方、法人(合同会社や株式会社)では、役員や従業員を被保険者とする生命保険に加入し、その保険料の全部または一部を「損金」として経費計上することで節税を図る方法があります。法人契約の生命保険は「事業保障」「退職金準備」「福利厚生」などを目的として利用されることが多く、保険料を損金算入することで法人税の課税所得を圧縮する効果が得られます。

法人が契約者・保険料負担者であり、被保険者が役員や社員、死亡保険金の受取人も法人にしておけば、その支払いは事業上の支出とみなされ、一定の条件下で損金処理が可能です。特に、将来的に解約返戻金が発生する貯蓄型の保険を用いることで、解約時に資金を受け取れるため、節税と資産の一時退避を兼ねる活用がされています。

ただし、法人保険による節税は「課税を繰り延べる」効果であるという見方が一般的です。つまり、現在の法人税を減らせても、将来的に解約返戻金を受け取った際には雑収入として課税対象となるため、トータルでの税負担が完全になくなるわけではありません。経済的には一時的な利益調整が目的となる点を理解し、資金繰りや解約タイミングを含めた計画的な運用が求められます。

個人事業主が生命保険で節税するためのポイント

個人事業主にとって生命保険は、保障の確保とあわせて節税の手段としても有効です。事業の成長段階に応じて、保険制度の活用と法人化による節税の広がりを理解しておくことが大切です。ここでは、個人事業主が生命保険を使って節税する際に押さえておきたいポイントを紹介します。

生命保険料控除を活用する

個人事業主がまず取り組みやすいのは「生命保険料控除」の活用です。一般生命保険・個人年金保険・介護医療保険の3区分で、それぞれ所得税で最大4万円、住民税で最大2万8千円、合計で最大12万円(所得税)と7万2千円(住民税)の控除が可能です。

控除は確定申告で申請し、保険会社の証明書を添付することで適用されます。たとえば、家族を扶養している場合などは、保障目的も兼ねて必要な保険に加入し、この控除枠を活用することで実質的な税負担を軽減できます。制度としても基本的であり、所得が安定している個人事業主にとっては確実な節税手段といえます。

法人化で節税の幅を広げる

事業の利益が増えてくると、累進課税の影響で個人の税率は上昇し、最大55%に達することもあります。この段階で節税効果をさらに広げたい場合は、法人化を検討する価値があります。

法人化すると、生命保険料の一部または全部を損金に算入できるほか、法人税は中小法人なら年800万円以下の所得に15%の軽減税率が適用されます。たとえば、個人の課税所得が900万円を超えるような場合、法人化して所得を法人所得と役員報酬に分散させることで、個人にかかる累進課税を避け、全体の税率を最適化できる可能性があります。

ただし、法人には登記や会計処理、税理士費用といったコストがかかります。節税効果がその負担を上回るか、長期的視点で判断することが重要です。利益が継続して出ている場合や今後の事業拡大を見込む場合は、法人化による保険活用とあわせた節税対策が有効です。

会社員が生命保険料控除を年末調整で適用する手順

会社員が生命保険を活用して節税する際、もっとも身近で実行しやすいのが「年末調整での生命保険料控除の適用」です。ここでは年末調整で控除を受ける手順と注意点を解説します。

(1) 控除証明書を保険会社から受け取る

年末調整で生命保険料控除を適用するには、まず「生命保険料控除証明書」が必要です。これは、保険会社が毎年10月ごろに契約者へ郵送する書類で、対象となる保険の保険料や契約内容が記載されています。電子データ(e証明書)で発行されることもあり、希望すれば紙の送付を省略することも可能です。

(2) 年末調整書類に正しく記入・提出する

控除証明書を受け取ったら、勤務先に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」の該当欄に、保険会社名、契約日、支払保険料の額などを記入します。そのうえで、控除証明書の原本も添付して提出します。年末調整ではこれに基づいて自動的に税額が計算され、還付金がある場合には12月の給与と一緒に振り込まれる仕組みです。

生命保険を活用した節税のメリット

生命保険を活用した節税には、税負担の軽減にとどまらず、保障の確保や資産形成、相続対策といった多面的な利点があります。ここでは、生命保険による節税のメリットを紹介します。

所得税・法人税の節税効果

生命保険に加入することで、まず得られるのは直接的な節税効果です。個人であれば、生命保険料控除を活用することで所得控除を受けることができ、その分だけ所得税・住民税の課税所得を減らせます。保険料の区分に応じた上限がありますが、最大で所得税12万円、住民税7万2,000円の控除が認められる制度です。

法人の場合は、保険料の全額または一部を損金として経費処理することで、法人税の課税対象額を圧縮できます。例えば、経営者の退職金準備として保険契約を行い、支払保険料を当期の費用として処理すれば、その分法人税の負担が減少します。ただし、こうした法人保険による節税は「課税の繰り延べ」である点には注意が必要です。将来的に解約返戻金や満期保険金を受け取る際には、それが収入として計上され、課税対象になるからです。節税額がゼロになるわけではないという前提で活用する必要があります。

保険による保障と資産形成

生命保険のもう一つの大きな特徴は、保障と資産形成を兼ね備えている点です。死亡保険金により、万が一の際には家族や遺族に対して経済的な支援を残すことができ、将来の安心を確保できます。また、終身保険や養老保険などの貯蓄型商品を選べば、保険料の一部が積み立てられ、将来的に解約返戻金や満期保険金として受け取ることが可能です。

法人が経営者の退職金準備を目的に生命保険を契約するケースもよく見られます。在職中に保険料を損金処理し、退職時に解約して返戻金を退職金原資とすることで、法人・個人の双方にとって合理的な資金計画が立てられます。このように、保障を確保しつつ、将来的な備えを積み立てていける点でも、生命保険は大きなメリットを持つ資産管理手段と言えます。

相続税対策になる

生命保険は相続税対策にも効果的な手段です。死亡保険金には「相続税の非課税枠」が適用され、法定相続人1人あたり500万円までは課税されないルールがあります。相続人が2人いれば、合計1,000万円までの保険金が非課税で受け取れることになります。

この制度を利用することで、現預金をそのまま相続するよりも、保険という形で資産を移しておく方が相続税の負担を軽減できる可能性があります。さらに、死亡保険金は遺産分割協議を待たずに迅速に支払われるため、遺族が納税資金や当面の生活費をすぐに確保できるという点でも優れています。

相続発生後の手続きがスムーズに進むだけでなく、財産分与でトラブルが生じやすい現預金と異なり、生命保険金は「受取人固有の財産」として扱われるため、遺産争いを防ぐ効果も期待できます。万一に備えつつ、相続税の節税を図るうえでも、生命保険は実用性の高い手段です。

生命保険を活用した節税のデメリット・注意点

生命保険を活用した節税には多くの利点がある一方で、活用方法や目的を誤ると、かえって経済的負担を増やしたり、想定した効果が得られなくなったりするリスクがあります。ここでは、生命保険節税を検討する際に押さえておくべきリスクを解説します。

資金負担と運用効率のリスクがある

第一のリスクは、保険料の支出が資金繰りに影響を与える可能性がある点です。節税のために生命保険に加入する場合、保険料という形でまとまった資金を継続的に拠出しなければならず、その額が多ければ多いほど手元の資金が減ります。税金が多少減ったとしても、保険料の総額がそれを上回る場合には、経済的にはマイナスになる恐れがあります。

たとえば、法人が高額な保険に加入し、一定期間後に解約返戻金を受け取る計画だった場合でも、資金繰りの悪化により途中解約せざるを得なくなることがあります。その結果、返戻金が大幅に目減りしたうえ、予定していた節税効果も得られない可能性が出てきます。さらに、貯蓄型保険の利回りは、他の資産運用手段と比較して必ずしも高いとは限りません。

税制改正や解約時の課税リスクがある

第二の注意点は、税法の改正や保険契約に対する課税方法の変化によって、想定していた節税効果が大きく損なわれるリスクです。典型例が、2019年に行われた法人税基本通達の改正です。この改正では、解約返戻率が50%以上の高返戻型保険に対し、支払った保険料の全額を損金として認めず、一定割合を資産計上するルールに変更されました。

従来は「全損型」と呼ばれる保険であれば支払保険料の全額を損金処理でき、法人税を大きく圧縮できていましたが、現在ではこのような節税スキームは制限されています。返戻率の高い長期契約については、40〜60%程度しか経費計上できなくなる事例もあります。なお、保険料が年間30万円以下であるなどの小口契約や返戻率が低い商品については、一定の条件下で全額損金処理が認められる例外も残っています。

さらに、保険を解約して返戻金や満期金を受け取る際には、その金額に対して所得税が課税されます。契約者と受取人が同一の場合は「一時所得」として扱われ、受取額から払込保険料と50万円の特別控除を差し引いた金額の2分の1が課税対象となります。たとえ節税目的で契約していたとしても、最終的には一定の課税が発生するため、契約時だけでなく解約や受取時の税務も含めて計画を立てる必要があります。

節税のための生命保険を選ぶポイント

生命保険は保障の確保だけでなく、節税効果も期待できる金融商品です。ただし、選び方を誤ると十分な効果が得られなかったり、将来の課税リスクを招いたりする可能性もあります。ここでは、節税を目的とした保険選びのポイントを、個人向けと法人向けに分けて解説します。

【個人向け】控除対象となる保険を選ぶ

個人が生命保険で節税を図る際には、「生命保険料控除」の適用対象となる保険を選ぶことが基本です。一般生命保険、介護医療保険、個人年金保険のいずれかの区分に該当する商品であることが必要です。たとえば、個人年金保険であれば、受取人が契約者本人であること、保険期間が10年以上であることなどの要件を満たさなければ控除の対象になりません。控除額は最大で年間12万円(所得税)、7万2千円(住民税)となっており、これらを意識して商品を選ぶことがポイントです。

【法人向け】損金処理のルールと返戻率を確認する

法人が節税目的で生命保険に加入する場合には、保険料の損金算入の可否が最大の判断基準となります。とくに、2019年の通達改正以降は、返戻率が高い保険については一部資産計上が義務づけられ、全額損金算入ができなくなっています。そのため、契約前に解約返戻率の推移表や税務処理区分を必ず確認しましょう。また、保険期間中の解約や名義変更によって想定外の課税が発生するケースもあるため、契約時の目的(退職金準備、事業保障、福利厚生など)に応じて保険設計を明確にすることが大切です。節税だけに偏らず、資金繰りや保障とのバランスを見ながら選定するのが賢明です。

生命保険で節税するなら制度理解と計画的運用を意識しよう

生命保険は、個人・法人いずれにとっても節税の選択肢として有効ですが、制度の仕組みや税務上の扱いを正しく理解しておくことが大切です。生命保険料控除や法人保険の損金算入は、条件を満たせば所得税・法人税の負担を軽減できます。節税効果だけにとらわれず、本来の保障目的や資金計画とバランスを取りながら、自身や事業の状況に合った保険活用を検討しましょう。必要に応じて税理士や専門家と相談し、最適な制度利用を目指すことが重要です。


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