- 作成日 : 2025年8月19日
旅費規程で節税する方法は?規程の作成方法や注意点を解説
会社設立や個人事業を始めるにあたって、節税対策は経営課題の一つです。なかでも「旅費規程」は、正しく活用すれば所得税・法人税・消費税・社会保険料の軽減につながる効果的な仕組みとして注目されています。
本記事では、旅費規程の基本的な考え方から節税につながる理由、作成・運用時の注意点などを解説します。
目次
旅費規程とは
旅費規程は、出張にかかる費用をどのように扱うかを定める社内のルールです。業務に伴う出張時の支出に明確な基準を設けることで、税務面での有利な取り扱いも可能になります。
対象となる経費の種類
旅費規程で対象となる経費には、主に交通費・宿泊費・日当があります。交通費や宿泊費は実際に支払った金額を領収書などの証拠書類に基づいて精算するのが一般的です。一方で、日当は出張中の食事代や雑費などをカバーする目的で支給されるもので、あらかじめ社内で定めた金額を定額で支払う形式が多く採用されています。これにより、事務負担を軽減しつつ、従業員に対しても実費の補償が可能になります。
目的・税務上の利点
旅費規程を導入すると、社員の出張に関する申請や承認のプロセスが明確になり、社内の誰に対しても公平なルールで経費処理が行えるようになります。また、税法上、旅費規程に基づいて支給された旅費については「通常必要な範囲」であれば所得税や法人税において非課税として認められます。この非課税扱いにより、会社はその費用を必要経費または損金として計上でき、受け取る従業員側にも所得税の課税が発生しないという、双方にとって有利な仕組みが構築できます。
旅費規程で節税が可能になる仕組み
旅費規程を活用した節税の中核には、出張手当である「日当」が非課税として認められる仕組みがあります。適切な水準と手続きに基づけば、会社と従業員の双方に税負担の軽減が見込めます。
日当が非課税となる
旅費規程における節税効果のポイントは、日当の取り扱いにあります。所得税法第9条第4項では、職務上の旅行に必要な支出に充てる目的で支給される金品のうち、「その旅行について通常必要であると認められるもの」は非課税とすることが明記されています。この「通常必要」かどうかは、役職や出張の目的・期間などを考慮して社会通念上妥当な範囲で判断されます。また、法人においても旅費や日当は原則として費用として認められ、結果として損金算入が可能です。
これにより、会社が出張日当を支給しても、上記の条件を満たす限り、給与とはみなされず、受け取った役員や従業員の課税所得に加算されることはありません。結果として、日当分の所得税および住民税がかからず、会社側も支給額を法人税においては損金として、所得税においては必要経費として処理できるため、両者にとって節税効果が生まれます。
非課税が認められるための条件と基準
所得税法において旅費や日当が非課税の取り扱いが認められるのは、「通常必要と認められる範囲内」に限られます。税法上、非課税となる日当の金額に具体的な上限はありませんが、所得税法基本通達9-3に基づき、常識的な金額でなければ非課税とされません。判断基準としては、第一に社内での役職間で支給額に著しい偏りがないか、第二に同業他社と比較して妥当な水準かが重視されます。これらを満たしている場合、日当は給与として課税されることなく、非課税収入として扱われ、結果的に節税につながるのです。旅費規程を策定・運用する際は、この範囲を逸脱しないよう留意することが重要です。
旅費規程を使った節税のメリット
旅費規程は、会社が出張旅費や日当を合理的かつ非課税で支給できる仕組みとして、税負担の軽減につながります。中小企業では「ダブル節税」と呼ばれるほど、法人と従業員双方に恩恵がある制度です。
会社にとっての節税メリット
旅費規程を導入して適正に運用すれば、例えば法人の場合は出張旅費や日当を経費として損金算入できます。これにより課税所得が減少し、法人税や地方法人税などの負担が軽くなります。逆に、旅費規程が整備されていない状態で日当を支給すると、税務上それが給与または役員報酬と判断され、その役員への給与課税がなされる可能性があります。個人事業主の場合も同様に、旅費規程が整備されていなければ、従業員の日当について同様の扱いになります。いずれの場合においても、課税所得が本来よりも高くなり、税金を多く支払う結果となってしまいます。
また、消費税の面でも利点があります。旅費規程に基づいて支払われた国内出張の旅費(交通費・宿泊費・日当など)のうち、通常必要と認められる部分は「課税仕入れ」として扱われ、仕入税額控除の対象になります。さらに、令和5年10月に導入されたインボイス制度では、「出張旅費等特例」により、従業員に支給する日当や旅費のうち「その旅行に通常必要であると認められる部分」については、領収書(適格請求書)がなくとも、一定の事項を記載した帳簿を保存することで仕入税額控除が可能です。
つまり、旅費規程を活用すれば、国内であれば消費税についても節税の余地が広がります。
参考:出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件|国税庁、
インボイス制度に関するQ&A目次一覧(問104ご参照)|国税庁
従業員にとっての節税・コスト軽減効果
従業員や役員にとっても、旅費規程に基づく日当の支給は大きなメリットになります。日当は業務に必要な支出を補う性質のものであり、適正な金額であれば非課税所得として取り扱われます。これにより、通常の給与として受け取る場合に比べ、所得税や住民税が課されない分だけ、手取り額が増えることになります。
さらに、非課税扱いとなる日当は「給与」とはみなされないため、健康保険や厚生年金などの社会保険料の計算基礎には含まれません。社会保険料は給与額に比例して決定されるため、日当として支給する部分が増えれば、それに応じて保険料の負担も軽減されます。これは企業にとっても、従業員にとっても共通のメリットです。したがって、旅費規程を通じた非課税日当の支給は、所得税・住民税の節税だけでなく、社会保険料を含むトータルコストの最適化にもつながります。
旅費規程を節税に役立てるための作成と運用のポイント
旅費規程は、正しく作成し適切に運用することで、税務上の恩恵を得られます。一方で、その運用が形式的または不適切な場合には、節税効果が否認される恐れもあるため、実務上のポイントを理解しておきましょう。
旅費規程の作成方法
旅費規程を作成する際は、まず自社の業種・出張頻度・役職構成などの実態に即した内容とすることが求められます。旅費規程には、支給対象となる経費の種類(交通費・宿泊費・日当など)と、その精算方法(実費または定額)、加えて役職ごとの金額基準を明記する必要があります。たとえば、「社長:1日10,000円」「部長:1日8,000円」「一般社員:1日5,000円」といった具体的な金額を役職別や出張形態(国内・海外、日帰り・宿泊)ごとに設定する形式が一般的です。
日当や宿泊費の金額設定にあたっては、社内の公平性を保つと同時に、同業他社との水準比較も考慮しなければなりません。一般社員であれば1日3,000〜5,000円、役職者でも1万円未満に設定する企業が多く、これに宿泊手当を加算する形で調整します。高すぎる金額は税務署に疑念を持たれる原因となるため、相場を踏まえた「常識的」な設定が求められます。
作成した旅費規程は会社の規定の一つとして書面にまとめ、社内にて明文化しておきます。また、株主総会を開催し株主総会議事録に残す等、規定だけが一人歩きしないようにします。さらに、すべての従業員に適用されることを前提とし、偏りのない公平な制度であることが大切です。この点が満たされていなければ、税務上「特定の者にのみ優遇された制度」とみなされ、非課税の扱いが認められない可能性があります。就業規則に添付するか、別途「社内規程集」として整理し、労働基準監督署に提出する必要があります。(労働基準法第89条)
税務上の運用要件と注意点
旅費規程によって日当の非課税扱いが認められるためには、文書としての形式整備だけでなく、実際の運用実態も伴っていなければなりません。税務上での承認を得るには、次の3つの条件が重要です。
1つ目は、日当の支給金額が社会通念上適正であることです。社内でのバランス(たとえば役員だけが極端に高額になっていないか)や、同規模・同業種との比較で逸脱していないかが評価対象になります。
2つ目は、出張旅費の支給条件や金額が旅費規程として明確に定められていることです。日当や宿泊費の根拠が不明確な場合、給与とみなされ課税対象となる恐れがあります。
3つ目は、旅費規程に沿って手当が支給され、実際の出張記録や出張命令書、精算書類などがきちんと保存・管理されていることです。形式的に旅費規程を整備していても、出張の実態がなく、架空の旅費支給が行われていた場合は、税務調査により否認され、追徴課税のリスクが高まります。税務調査での否認を避けるためには、慎重な制度設計と継続的な見直しによる規定運用が不可欠です。
個人事業主における旅費規程と節税の関係
旅費規程は法人向けの節税策として広く知られていますが、個人事業主にとっても関係がないわけではありません。ただし、適用範囲や税務上の取り扱いには明確な違いがあるため、注意が必要です。
個人事業主本人には旅費規程による非課税手当は使えない
まず押さえておくべき重要な点は、個人事業主本人には旅費規程による非課税手当(いわゆる日当)を適用できないということです。法人においては、社長自身が会社から給与や手当を受け取る「役員」として扱われるため、旅費規程に基づく日当支給が制度的に可能です。しかし、個人事業主の場合、事業主自身がすなわち「経営体そのもの」であるため、自分で自分に対して手当を支給するという構造は成立しません。
たとえば、個人事業主が出張の際に自分で設定した日当を支給したとしても、それは事業から事業主本人への内部移動にすぎず、経費計上は認められません。そのため、個人事業主が自らのために旅費規程を設けたとしても、日当を非課税所得として処理することは税務上不可能となります。これは、国税庁の通達や実務慣行に基づく明確な扱いです。
従業員には旅費規程を活用できる
個人事業主が従業員を雇用している場合には、旅費規程を整備し、その従業員に対して日当を支給することが可能です。ただし、従業員が常時10人以上の場合については、就業規則同様、旅費規程についても労働基準監督署に届出する等のルールがあります。
個人事業主の場合でも旅費規程を文書化して事業内で明確にルール化していれば、従業員に支給した日当は税法上「通常必要な範囲内」とされ、非課税所得として取り扱われます。もちろん、旅費規程の内容について同業他社との比較で妥当性がなければなりません。その上で事業主側も、その支出を適切に帳簿に記載していれば、経費として計上できます。
個人事業主が青色事業専従者である家族従業員に出張を命じ、旅費規程に基づいて日当を支給する場合、その日当は「旅費交通費」として経費計上されます。これは「専従者給与」とは別の経費項目であり、両者を混同してはなりません。適正な金額の日当は、受け取った専従者側で非課税所得として扱われます。
加えて、事業の性質上、出張が多く発生するような場合には、個人事業主から法人への「法人成り」を検討する価値もあります。法人化すれば、事業主(=社長)が会社から日当を非課税で受け取ることが可能となるため、これまで経費として処理できなかった自らの出張手当が、税務上の経費として認められるようになります。結果として、所得税・法人税・社会保険料を含めたトータルの節税効果が高まりやすくなります。
旅費規程を活用して節税を実現しよう
旅費規程は、制度としてきちんと整備し、適正に運用することで、会社と従業員の双方に節税という大きな恩恵をもたらします。日当の非課税扱いや経費計上、消費税の仕入税額控除など、多面的な税務上のメリットが期待できるからです。ただし、内容が不適切であったり、実態に合っていなかったりすると、税務上否認される可能性もあります。社内ルールとして信頼性を高めつつ、実情に合った旅費規程を活用し、正しく運用しつつ、持続的な節税を実現しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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