- 更新日 : 2025年8月19日
会社設立時は一人社長でも社会保険加入が必須!手続きの流れ・必要書類を解説!
会社の役割は、価値のある商品やサービスを取引先に提供し、儲けを出すことで社長自らの生活向上を図るだけではありません。社長自身はもちろん、従業員の生活基盤を守ることも重要な役割です。雇用保険や労災保険などの社会保険への加入も会社の重要な役割のひとつと言えるでしょう。
そこでこの記事では、社会保険の加入方法についての手続きや必要書類について、健康保険の被扶養者届など具体的な例を挙げながら、加入する場合や、加入しない場合にどうなるのかについて解説します。また、助成金の受給資格などについても触れていきます。
目次
会社設立時は一人社長でも社会保険の加入義務がある
起業したばかりの会社の事業主の方の中には、自分のビジネスのことで頭がいっぱいになり、なかなか社会保険までは気が回らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、会社(法人)を起業したばかりで従業員を雇っていない場合、「社会保険の加入義務はない」と勘違いされている方もいるかもしれません。
実は、健康保険法第3条において、「適用事業所に使用される者」は「被保険者」であるとされており、この「使用される者」には法人の代表者も含まれると解釈されています*。さらに厚生年金保険法第9条においては、「適用事業所に使用される70歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする」とされています。
引用:厚生年金保険法(第9条被保険者ご参照) | e-Gov
つまり、社長一人だけの会社であっても社会保険に加入する義務があるのです。
*上記の条文上に、代表者が含まれるという表現はありませんが、過去の判例で「事業所に使用される者とは、その法人の代表者を含むと理解すべき」とされたものがあります。
会社設立時に一人社長が社会保険に加入できないケース
会社を設立した場合、基本的には社会保険(健康保険、厚生年金保険)への加入が義務付けられていますが、以下のケースでは社会保険に加入できませんので注意しましょう。
会社設立時に一人社長が社会保険に加入する方法
社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、労働保険(労災保険と雇用保険)などの総称です。ここで「など」としたのは、例えば介護保険などこれら以外の保険も含まれるからです。会社設立時に、まず考える社会保険として、健康保険、厚生年金保険、労働保険の加入方法について考えてみましょう。
健康保険・厚生年金保険の加入手続き・必要書類
会社を設立し、登記が完了したら、健康保険と厚生年金保険はまとめて手続きをすることになっています。健康保険、厚生年金保険では、会社という単位で適用事業所となります。
法律により厚生年金保険や健康保険の強制適用を求められる事業所とは次の事業所です。
- 法人の事業所
- 常時5人以上の従業員がいる一定の事業所、工場、商店等の個人事業所
したがって一人社長であっても、法人は国籍や性別、賃金の額等に関係なく、すべて健康保険、厚生年金保険の被保険者となります(原則70歳以上の人は健康保険のみの加入となります)。
健康保険・厚生年金保険新規適用届
健康保険、厚生年金保険を適用すべき事業を開設した場合は、その事実発生より5日以内に、事業主が「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を年金事務所に届けなければなりません。この届は、事業所が新たに、健康保険及び厚生年金適用の事業所になることを届け出るものです。
この届提出にあたっては、次の添付書類が必要となります。
- 法人(商業)登記簿謄本
- 法人番号指定通知書のコピー
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
その事業所の健康保険及び厚生年金保険に新たに加入すべき者が生じた場合は、その事実発生より5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を同様に届け出ます。この届により、その会社の社長を含め従業員が健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。なお、一定の要件に該当する場合には、添付書類が求められます。
健康保険被扶養者(異動)届
被保険者の家族を社会保険の被扶養者にするときには、その事実発生から5日以内に、「健康保険被扶養者(異動)届 」を被保険者が事業主を経由して届け出ます。
被扶養者の範囲は、次のうち日本国内に住所を有している者となります。(外国に留学している学生などの特例があります。)
- 配偶者
- 子、孫および兄弟姉妹
- 父母、祖父母など直系尊属
- 上記以外の三親等以内の親族(同居要件要)
健康保険についてさらに詳しく知りたい方は、社会保険における健康保険とはもご確認ください。
雇用保険の加入手続き・必要書類
会社を設立しても従業員がいない場合には、労働保険(労災保険及び雇用保険)には加入しません。なぜなら、労働保険は「労働者のための」保険であり、経営者には適用されないためです。労働保険は、原則としてアルバイトも含め従業員を一人でも雇用した場合は適用事業となります。まずは、雇用保険から見ていきましょう。
雇用保険とは、労働者の雇用安定や就職の促進のために、失業者や教育訓練を受けられる人に対し、失業等給付を支給する制度です。また、失業の予防や雇用状態の是正や労働者の能力向上などの事業も行っています。
順番は前後しますが、雇用保険関係の届を提出する前に、先の労災保険の項目で説明する「保険関係成立届」を労働基準監督署に提出する必要があります。雇用保険に係る届の提出には、この「保険関係成立届」受理印の押された控えが必要となります。
雇用保険適用事務所設置届
会社設立後、常用の労働者を雇用すると、「雇用保険適用事業所」となり、雇用する労働者を雇用保険に加入させる義務が生じます。その際、提出が義務づけられている書類が「雇用保険適用事務所設置届」です。
以下の条件を満たした従業員がいる場合、パートやアルバイトに関係なく、雇用保険に加入する必要があります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込があること
この届は、労働者を雇用した日の翌日から10日以内に公共職業安定所に提出することとされており、その事務所が雇用保険の適用事務所であることを届けるものになります。
雇用保険被保険者資格取得届
会社で従業員を雇用し、雇用保険に加入すべき従業員がいる場合には、「雇用保険被保険者資格取得届」を、資格取得日の翌月の10日までに公共職業安定所へ提出します。保険加入時以外にも従業員の異動時に届の提出が必要となります。
労災保険の加入手続き・必要書類
労災保険は、正式名称を「労働者災害補償保険」といい、雇用している従業員が業務上や通勤途上にケガをしたり、病気になったりや死亡したりした場合に、その従業員や残された家族を守るために保険給付を行うものです。上記で、一人社長であれば労働保険に加入する必要はないと述べましたが、業種により業務災害が心配される場合には、労災保険に特別加入することもできます。
一人親方とは、建設業などの特定業種等で従業員を雇用せずに自分と家族などだけで事業を行う事業主等を言い、基本的に個人事業主です。労災保険の特別加入は、実際に業務に従事し、業務災害に遭うリスクがある一人親方等が対象となります。
保険関係成立届
労働保険(雇用保険及び労災保険)の適用事業に該当することとなった場合、まず最初に「労働保険の保険関係成立届」を労働基準監督署または公共職業安定所に提出します。この届は、保険関係が成立した日の翌日から10日以内に提出します。
労働保険概算保険料申告書
上記、保険関係成立届を提出した場合は、提出年度分の労働保険料を概算保険料として申告納付することになり、その申告書にあたるものが「労働保険概算保険料申告書」です。提出先は、保険関係成立届と同じです。この申告書は保険関係が成立した日の翌日から50日以内に提出し、労働保険の概算保険料を納付します。
一人社長の社会保険料はいくら?計算シミュレーション
会社として支払う手続きを見てきましたが、ここで一人社長の負担する社会保険料について個人事業主の負担する社会保険料と比較しながら見ていきましょう。
この比較においては、40歳未満と仮定し、介護保険の負担はないものと考え、労働保険や法人に負担のある子ども・子育て拠出金についても省略します。
モデルとなる一人社長は独身者で、東京都世田谷区(東京都内で住民数最大の区)在住と仮定します。法人のケースでは協会けんぽに加入していることとします。
【一人社長の場合】
年間の報酬を(賞与なし)680万円とし、給与所得控除を差し引いた総所得を500万円とします。この総所得500万円を、個人の場合との比較の基準値とします。
一人社長の場合、報酬がゼロの場合を除き、健康保険と厚生年金保険に加入します。毎月の報酬を566,000円とすると、令和7年の健康保険料は月額55,496円です。厚生年金保険料の個人負担月額も同様に考え、102,480円となります。
実際の支払いは会社と個人で折半し、一人社長の場合は会社と個人で半分ずつ支払うことになります。(報酬からは上記の2分の1ずつが控除されます。)
年間保険料試算 | 個人負担月額 | 月額(会社+個人) | 年間(会社+個人) |
---|---|---|---|
健康保険料 | 27,748円 | 55,496円 | 665,952円 |
厚生年金保険料 | 51,240円 | 102,480円 | 1,229,760円 |
合計 | 78,988円 | 157,976円 | 1,895,712円 |
したがって、個人負担と会社負担を合計した年間の支出額は1,895,712円(個人負担はその半額)となります。
参考:令和7年度保険料額表(令和7年3月分から) | 協会けんぽ、「令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表・健康保険料率」
【個人事業主の場合】
前年度の総所得を500万円(事業収入1,000万円 - 事業費用及び青色特別控除額の合計500万円)とします。
国民健康保険料は、前年度の総所得金額から市民税の基礎控除額を差し引いて求めます。
- 国民健康保険料(令和7年度分)
総所得金額 - 市民税基礎控除額 = 500万円 - 43万円 = 457万円
国民健康保険料は40歳未満の場合、①基礎医療分と②後期高齢者支援金分の2つの合計額となり、さらに住民税のように所得割分と均等割分に分かれます。
年間保険料試算 | 所得割分 | 均等割分 | 合計 | 所得割料率 |
---|---|---|---|---|
基礎医療分 | 352,347円 | 47,300円 | 399,647円 | 所得割7.71% |
後期高齢者支援分 | 122,933円 | 16,800円 | 139,733円 | 所得割2.69% |
合計 | 475,280円 | 64,100円 | 539,380円 |
※所得割の料率については、地域ごとまた年度ごとに異なります。
参考:保険料の計算方法|世田谷区、「令和7年度国民健康保険料早見表」
- 国民年金保険料(令和7年度分)
国民年金保険料は、所得等に関係なく全国一律であり、令和7年度の国民年金保険料は月額17,510円であり、年額は210,120円(=17,510円×12カ月)です。
よって、個人事業主の国民健康保険料と国民年金保険料年間合計は、749,500円となります。
この結果より、同じ「総所得」で比較した場合には、一人社長の会社負担も合計した社会保険負担額は、個人事業主の場合の約2.5倍となります。
特に、国民年金保険料の負担(210,120円)に対して、厚生年金保険料の全負担(1,229,760円)は大きく異なりますが、将来受給できる年金の額は大きく異なりますので、生涯を見据えると変わらないかもしれません。
また、総所得額を同額にして比較する場合には、事業規模が大きく異なる(法人>個人)となるので、逆に同じ社会保険料を支払う場合の法人と個人の収入額を比較するのもよいでしょう。
一人社長の社会保険料を抑えるためのポイント
上記で見てきたように、一人社長の場合の社会保険料は個人事業主と比べると非常に高額になります。将来の年金額に差が生じるもののできるだけ社会保険料を抑えたいものです。
そのためのポイントをいくつかご紹介します。
- 役員報酬を低く設定する
- 役員報酬と役員賞与を調整する
- 非課税手当や福利厚生を活用する
社会保険料は「役員報酬(月額)」が基準となるため、役員報酬を極力低く設定すると、健康保険・厚生年金の保険料負担も低く抑えられます。しかし、生活資金が不足する場合は、個人事業収入や他の所得で補う必要があります。また、あまり報酬が低すぎると将来の年金額が減るため、検討が必要でしょう。
毎月の役員報酬を低く抑え、かつ、年に1回などで高額の賞与(ボーナス)を支給する方法です。社会保険料には標準賞与額の上限があるため、上限を超えた部分には保険料がかからず、年間の総報酬が同じでも、社会保険料の負担を下げることが可能となります。
ただしこの方法は、税務リスク(定額給与要件違反など)や法的な制約(事前確定届出給与の要件厳守など)があるため、事前に専門家へ相談することが重要です。
出張が多い場合には、出張手当制度を導入して実費弁償として支給する出張手当を支払うこととします。実費弁償の場合には給与扱いとはならないので、社会保険の対象とはなりません。
しかし、税務上の要件を満たす(旅費規程の整備や証憑管理等)必要がありますので、専門家に相談することをおすすめします。
会社設立時に社会保険に未加入の場合はどうなる?
上で述べた通り、法人であれば社会保険への加入が義務となりますが、なんらかの理由により「未加入」であった場合にはどうなるのでしょうか?
年金事務所から指導が入る
まず年金事務所が未加入の状況を把握し、電話や書面などで社会保険への加入を指導します。年金事務所では国税庁の情報や給与支払いの実態から未加入事業所を特定することが可能であり、未加入のままだと必ず連絡があります。
まだこの段階では、自主的な加入を促すものであり、速やかに手続きを行えば、大きな問題にはなりません。社会保険加入は法人の義務であるため、この指導を無視し続けると、より厳しい対応に進みます。
訪問や文書で加入を求められる
年金事務所からの初期の指導に応じないままでいると、次の段階では警告文書が届いたり、担当者が会社を訪問して直接加入を求められたりすることになります。
文書では「社会保険加入のお願い」や警告等が記載され、訪問時には会社の就業状況や従業員数などの詳細なヒアリングが行われます。
ただし、この段階で自主的に加入すれば基本的には大事に至りませんが、無視し続けると、さらに厳しい措置が取られます。
職員による立入検査で後、強制加入手続きへ
さらに社会保険未加入を続けた場合、最終的には年金事務所の職員が立入検査を実施します。立入検査では賃金台帳や労働者名簿、領収書などの書類提出が求められ、従業員の被保険者資格の有無が厳しく確認されます。
立入検査は「受忍義務」があり、法人は検査を拒否することができません。職員の認定によって強制的に社会保険加入手続きが進められ、最大2年間遡って保険料の納付が命じられます。
この負担は非常に大きい上、未加入が続くと企業信用の低下にもつながるため、早期の対応が重要です。
未加入のままでは助成金等の受給もできない
事業主に対し、雇用関係の助成金は数多くあります。雇用調整助成金や産業雇用安定助成金、労働移動支援助成金などがあり、それぞれの支給要件にあてはまれば、従業員のための費用が支援されます。助成金は基本的に返済不要です。
しかし、受給要件は雇用保険適用事業所であることなので、雇用保険に未加入のままだと助成金は受けられません。このように、社会保険に加入しないことによるデメリットは事業主にも従業員にもあります。
会社設立後は必ず社会保険に加入しましょう
一人社長であっても、会社設立後は法律により社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入が義務付けられています。従業員がいない場合でも例外ではありません。
加入手続きを怠ると、遡って保険料の支払いが求められるだけでなく、将来の年金受給額や医療保険の給付にも影響します。
会社設立後は期限内に年金事務所での手続きを完了させ、適切な社会保険制度のもとで事業運営を行いましょう。会社設立と社会保険の加入はセットで考えましょう。
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