• 作成日 : 2025年10月24日

シンガポール移住で節税できる?手続きやリスクを解説

近年、日本の富裕層を中心に、税負担の軽減を目的としたシンガポール移住への関心が高まっています。ミニマムタックスや金融所得課税の見直しにより、国内での節税が難しくなりつつある一方、シンガポールでは所得税やキャピタルゲイン課税が低く、相続税も存在しないなど、優れた税制環境が整っています。

本記事では、日本とシンガポールの税制の違いを比較しながら、移住・法人設立・暗号資産といった観点から、どのような節税効果が期待できるのかを解説します。

シンガポールに移住すると節税できる?

高所得者の税負担が重くなる中、シンガポールへの移住による節税効果は注目を集めています。所得税率の大幅な違いに加えて、キャピタルゲインや相続税の有無といった制度面でも両国には明確な差があります。ここでは、日本とシンガポールの税制を比較し、移住によってどれほどの節税が可能となるのか解説します。

日本とシンガポールの所得税制の差

2025年時点では、シンガポールでは最高税率24%で済み、日本の最高税率(所得税45%+住民税10%+復興特別所得税を含め約56%)と比較すると半分以下です。

2025年時点での日本の所得税は、課税所得が4,000万円を超える層に対して45%の所得税が適用され、加えて全国一律の住民税10%が課されます。したがって、実質的な最高税率は55%にのぼります。

一方、シンガポールでは2024年以降、年収50万シンガポールドル(約5,000万円)を超える部分に対して適用される最高税率は24%です。しかも、地方税に相当する住民税は存在しません。

加えて、シンガポールでは国外所得に対する課税が原則免除されており、利子・配当・事業所得などが国外源泉であれば、たとえそれをシンガポールに送金しても、一定要件を満たす場合は課税されません。ただし、パートナーシップ経由の所得などは課税対象となる例外があります。

一方、日本では居住者には全世界所得課税が適用され、国外所得もすべて課税対象となります。

シンガポールはキャピタルゲイン・相続税がゼロ

シンガポールでは、売却益や相続財産に税金がかからないのが大きな特徴です。

2025年現在、シンガポールにはキャピタルゲイン課税がありません。つまり、株式、不動産、暗号資産などの売却益は、所得税の対象外です。日本ではこれらに対して約20.315%の課税(所得税+住民税+復興特別所得税)が課されるため、売却のタイミングをシンガポール移住後にするだけで、非課税化できる可能性があります。ただし、頻繁な取引など事業性がある場合は所得税課税の対象となります。

さらに、相続税・贈与税もシンガポールでは廃止されており、富の移転に際して税負担が発生しません。対照的に、日本では最高55%の累進課税が適用されます。移住後にシンガポールで家族間で資産を譲渡すれば、日本非居住者として相続・贈与税の対象外となるケースもあり、長期的な資産承継にも有利な選択肢といえます。

ただし、過去10年以内に日本に5年以上居住していた場合は、国外でも相続・贈与に日本の税制が及ぶことがあるため、移住時期と資産移転のタイミングには細心の注意が必要です。

参考:シンガポール税制の概要|日本貿易振興機構(ジェトロ)

海外移住時の日本側の税務手続きと出国税は?

海外へ移住し非居住者となれば、日本での所得税・住民税の課税対象から外れます。しかし、そのためには税務手続きを確実に行う必要があります。1億円以上の金融資産を持つ富裕層は「出国税(国外転出時課税)」の対象になる場合があり、含み益に対する課税も発生します。ここでは、移住時の手続きと、出国税の仕組みと対応方法を解説します。

非居住者になるための税務手続き

年末までに住民票を抜くことで翌年から住民税を回避可能です。

日本では、1月1日時点で「日本に住所を有する者」に対して住民税が課税されます。そのため、海外移住を通じて翌年度から非課税にしたい場合は、年末までに住民票を抜くことが重要です。これにより、翌年度の住民税の納付義務が生じなくなります。

また、移住する際には以下のような税務手続きも必要です。

これらを適切に行わなければ、移住後に税務署とのトラブルが発生する可能性があります。

出国税の対象者と課税内容

1億円以上の有価証券等を保有する人は、移住時に「みなし譲渡課税」の対象になります。

2015年7月から施行された「国外転出時課税制度(通称:出国税)」により、以下の条件に該当する人は出国時に含み益課税を受けます。

  • 有価証券・未決済デリバティブなどの評価額が1億円以上ある
  • 過去10年以内に日本に5年以上居住していた
  • 海外に住所を移転(非居住者化)する

課税対象となる資産には、上場株式、投資信託、未決済のデリバティブ取引などが含まれます。たとえば、取得価格1億円・時価5億円の株式を保有している場合、含み益4億円に対して所得税・住民税復興特別所得税を合わせた実効税率約20%が課され約8,000万円の納税義務が発生します。

出国税は「みなし譲渡課税」として扱われ、実際に売却していなくても譲渡したとみなされます。

参考:国外転出時課税制度|国税庁

納税時期と猶予制度の活用

納税は翌年3月15日まで、納税猶予制度を使えば最長10年4ヶ月の延長も可能です。

原則として出国した翌年の確定申告期限(通常は3月15日)までに納税を完了しなければなりません。ただし、資産を売却せずに保有を続けたい場合などで納税が困難な場合には、以下の条件で「納税猶予」を申請することが可能です。

  • 担保の提供(不動産や保証金)
  • 所定の届出書類の提出

この猶予期間は最長10年4ヶ月です。猶予中に資産を売却した場合はその時点で納税義務が確定します。

日本居住のままシンガポール法人を設立して節税できる?

シンガポールは法人税が低く、税制もシンプルです。しかし、日本に居住したままでは、日本のタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)や恒久的施設(PE)課税の対象となる場合が多く、想定どおりの節税効果を得ることは難しいのが現実です。

シンガポール法人の税率と日本法人との違い

シンガポールの法人税は一律17%で、日本の実効税率と比較すると低いです。

シンガポールの法人税は2025年現在、一律17%で地方税などの上乗せはありません。さらに、設立から3年間は中小法人に対するスタートアップ優遇措置もあり、所得20万SGD(約2,200万円)までの利益に対して、段階的に最大75%の減税が可能です。これにより実効税率は6〜7%程度まで下がるケースもあります。

一方、日本の法人税は中小企業でも所得800万円超に対して23.2%、これに加えて住民税・事業税を含めると、実効税率は約25〜30%。大企業では約30%超にもなります。税率差だけを見れば、シンガポール法人の方が圧倒的に有利です。

タックスヘイブン対策税制による合算課税のリスクがある

シンガポール法人は、日本の「外国子会社合算税制」により、日本の課税対象になる可能性があります。

日本の税制では、実効税率が20%未満の国にある海外法人で、一定の条件を満たすものは、日本の居住者がその利益を得ていなくても「みなし分配」されたものとして課税対象となります。シンガポールは実効税率17%のため、この制度の適用対象となる可能性が高くなります。

特に、以下のいずれかに該当する場合には、タックスヘイブン対策税制が適用され、法人利益が株主である日本居住者の所得として課税されます。

  • ペーパーカンパニー(実体のない法人)
  • キャッシュボックス(配当・利子等の受動的所得が主)

投資運用のみを行う資産管理会社をシンガポールに設立し、そこに利益を貯めていても、タックスヘイブン対策税制の対象となった場合、その法人所得が合算され、総合課税で最高55%超の負担となる恐れがあります。

経済活動基準を満たせば節税余地はある

実態のあるビジネスであれば、日本での合算課税を免れることも可能です。

外国子会社合算税制には「経済活動基準」による除外規定があります。これは、海外法人が実際に現地で事業活動をしており、次のような要件を満たす場合に、日本での課税対象から外れる制度です。

  • 現地に事務所や工場、スタッフを持つ
  • 取締役会や管理業務が現地で実施されている
  • 主たる顧客や取引先が現地または第三国に存在する

たとえば、シンガポール法人が現地でソフトウェア開発を行い、アジア圏の顧客にサービス提供している場合などは、適用除外となる可能性があります。

恒久的施設(PE)課税の可能性にも注意

実質的な経営が日本国内にあると認定されると、日本で法人課税されます。

たとえ法人がシンガポールに登記されていても、代表者が日本居住者で、日本から業務指示・契約締結・実質的な営業が行われていれば、その法人は日本に「恒久的施設(PE)」を有しているとみなされる場合があります。

この場合、シンガポール法人で得た利益の一部または全部が、日本の法人税課税対象となり、せっかくのシンガポールでの低税率メリットが失われます。

このように、日本に居住したままシンガポール法人を設立しても、節税効果を得るには厳しい要件をクリアする必要があります。実体を伴わない法人や、税制の網をかいくぐるようなスキームでは、日本側で合算課税やPE課税を受けるリスクが高いため、専門家の助言を得ながら慎重に設計することが重要です。

富裕層の税負担の動向は?

2025年末施行の税制改正では、富裕層を対象とした税の最低負担(ミニマムタックス)の導入、金融所得課税の見直し、総合課税と申告方式の調整など、従来の優遇措置を見直す動きが明確になっており、資産運用や所得構成によっては負担がかなり増えることになります。

ミニマムタックスの導入と金融所得税率の最低保証

2025年分の所得から、超富裕層に対して所得税負担の最低ラインを設定するミニマムタックス制度(高所得者向け追加課税措置)が導入される予定です。この制度は、主に金融所得(株式譲渡益や配当所得)を中心とする超高額所得者が、現行の分離課税制度によって実効税率を著しく低く抑えていたことへの是正措置です。

年間所得が約3億3,000万円以上の超富裕層に対し、所得税の最低負担率を22.5%に引き上げるという内容で、計算された所得税額がこの水準を下回る場合は差額を追加で納税する仕組みです。住民税は別途加算されます。

現行制度では、配当・譲渡益などは20.315%(所得税15% + 住民税5% + 復興特別税0.315%)の分離課税で済んでいたため、給与所得者よりも実効税率が低いという「1億円の壁」と呼ばれる現象が問題視されていました。ミニマムタックスはこの不公平を是正する措置として、2025年度税制改正大綱に盛り込まれました。

この制度の導入により、資産運用に大きく依存する富裕層の税負担が増加する可能性が高まっており、今後の資産設計・配分戦略にも影響を及ぼすと見られています。

所得税・控除の改正による税負担の調整

所得税の基礎控除給与所得控除などが引き上げられている一方で、高所得者の総合課税対象範囲などで負担が増加する見込みです。2025年度の改正で、基礎控除が最大48万円から58万円に引き上げられ、給与所得控除の最低額も引き上げられています。これにより低・中所得層の控除メリットが増しますが、超富裕層には控除率の低下や申告方式の見直しが影響することとなります。

暗号資産(仮想通貨)はシンガポールで非課税になる?

暗号資産の課税扱いは国によって大きく異なります。2025年現在、シンガポールにおける暗号資産の売却益は基本的に非課税です。しかし、日本からの移住者にとっては「出国税」や「居住実態」によって課税される可能性もあり、完全な非課税化にはいくつかの条件があります。

売却益は個人投資家であれば非課税になる

シンガポールでは、暗号資産を個人資産として保有・売却する限り、売却益は課税されません。

IRAS(シンガポール内国歳入庁)は、暗号資産の取引を「個人投資目的」と認定する限り、売却益には所得税を課さないと明言しています。ただし、頻繁な売買やマイニング・ステーキングなどによって収益を得ている場合は「事業所得」と見なされ、課税対象となる可能性があります。

日本に居住していれば55%課税される

日本では、暗号資産の利益は雑所得として最大55%課税されます。暗号資産の売却益・譲渡益・マイニング報酬などは「雑所得」として扱われ、所得税(最大45%)+住民税(10%)の累進課税が適用されます。損益通算や繰越控除も認められないため、高額取引者にとって大きな負担となります。

非課税にするには移住・出国税・取引形態に注意

非課税とするには、税務上の非居住者となり、日本の出国税や取引実態に留意する必要があります。シンガポールで非課税となるには、日本の居住者でなくなることが大前提です。現行の出国税は、有価証券や未決済デリバティブなど評価額合計1億円以上を保有している場合に“みなし譲渡課税”が適用されますが、暗号資産は対象に含まれていません。

ただし、将来の税制改正で暗号資産が対象に加わる可能性が議論されています。また、シンガポールでは取引が事業と判断されれば課税されるため、長期保有主体であることが望ましいです。実行前に専門家の助言を得ることが安全です。

シンガポール移住による節税は可能だが慎重な計画が不可欠

シンガポールは、所得税・キャピタルゲイン課税・相続税が低水準またはゼロであるため、移住や法人設立によって日本と比較して大きな節税が期待できます。ただし、出国税や日本側の課税ルール(タックスヘイブン対策税制、PE課税、5年・10年ルール)などにより、必ずしもすべてが非課税になるわけではありません。制度の恩恵を最大限に活かすには、居住地の切替え、資産の移動時期、法人運営の実態などを総合的に設計し、税務リスクへの備えも含めて慎重に対応する必要があります。税理士等の専門家との事前相談が成功のポイントとなるでしょう。


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