- 作成日 : 2025年10月24日
はぐくみ基金で節税するには?仕組み・メリット・注意点を解説
節税と老後資金対策を両立できる制度として、近年注目を集めているのが「はぐくみ基金」です。 正式には「はぐくみ企業年金」と呼ばれ、企業型の年金制度でありながら、掛金は給与から天引きする形で拠出されるのが最大の特徴です。本記事では、はぐくみ基金の制度内容から節税効果、対象者や注意点などを解説します。
目次
はぐくみ基金とは?【はぐくみ企業年金基金が正式名称】
はぐくみ基金(正式名称:はぐくみ企業年金)は、2018年に誕生した確定給付型の退職金制度で、近年その導入件数が増加傾向にあります。社会保険料の軽減と安全な資産形成を両立できる点から、中小企業や福祉系事業所で注目されている制度です。ここでは、はぐくみ基金の基本構造を解説します。
確定給付型の企業年金として安心の元本保証
はぐくみ基金は、将来の受取額があらかじめ決まっている「確定給付型企業年金(DB)」に分類されます。この形式では、基金(企業側)が運用責任を負い、掛金の元本は保証されます。不足が生じた場合は企業が補填する仕組みがあるため加入者は運用リスクを負う必要がありません。企業が選定した信頼性の高い保険商品等で資産運用が行われており、将来の受取額が明確である点が安心材料です。さらに、退職時や在職中の特定事由に応じた給付金受取が可能で、資産流動性にも優れています。
給与天引き型の仕組みで税・社会保険料の対象外に
最大の特徴は、掛金を従業員の給与から天引きする「給与控除方式」にあります。これにより、拠出された金額は給与支給額から差し引かれたものとして扱われ、所得税・住民税だけでなく、健康保険料・厚生年金保険料などの社会保険料の計算対象外となります(条件として「就業規則・賃金規程に規定し、制度導入手続きを経ていること」が必要となります)。
掛金は月額1,000円から、給与の20%かつ月40万円まで設定可能で、役員や高所得者の節税にも適しています。加入は任意であるものの導入企業では加入する従業員の割合が多く、柔軟かつ実用的な制度として広がりを見せています。
参考:はぐくみ企業年金基金ナビ
はぐくみ基金で節税できる仕組みは?
はぐくみ基金は、拠出時・受取時ともに税制上の優遇措置がある制度です。給与からの天引きで社会保険料と税金を抑えながら、将来は退職所得控除などを活用して非課税での受取が期待できます。ここでは、節税効果の仕組みを2つのタイミングに分けて解説します。
給与天引きで課税所得が減る
はぐくみ基金では、従業員が毎月積み立てる掛金が給与から天引きされます。この掛金は、課税対象から除外されるため、所得税・住民税だけでなく、厚生年金や健康保険などの社会保険料の計算にも含まれません。その結果、給与の「額面」は変わらなくても、実際に税や保険料がかかる「対象所得」が下がるため、毎月の負担が軽くなります。
たとえば、月収(額面)26万円・扶養なし・東京都在住の30歳会社員が、毎月2万円をはぐくみ基金に拠出するケースを想定します。この場合、給与のうち拠出分が控除されるため、課税および社会保険料の算定対象となる給与は24万円に減少します。結果として、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料および所得税・住民税の合計額が月あたり約4,700円軽減され、同額を単純に銀行預金に回す場合と比較して手取り収入が増えるという効果が得られます。
年間に換算すると約5.6万円の節税効果が得られます。
退職時の受け取りも優遇される
はぐくみ基金の資金は、原則として退職時に「退職金」として受け取ります。この際は「退職所得」として扱われ、退職所得控除が適用されます。退職所得は他の所得とは分離され、勤続年数に応じて控除額が設定されるため、大半が非課税になります。20年以上勤務していれば、800万円以上の控除が可能で、税金をほとんど払わずに受け取れるケースもあります。
また、年金形式での受け取りを選べば「公的年金等控除」が適用されるため、長期で計画的に受け取ることも有利です。一方、退職前に育児・介護休業などで中途受取する場合は「一時所得」として処理され、50万円までは非課税で受け取れます。
従業員にとってのはぐくみ基金のメリットは?
はぐくみ基金は、社会保険料や税負担の軽減に加えて、元本保証による安定運用や、ライフイベント時の柔軟な資金受取が可能な制度です。ここでは、従業員にとってのメリットを整理します。
税・社会保険料の軽減で手取りが増える
はぐくみ基金に拠出した掛金は、給与から控除されたうえで非課税扱いとなるため、所得税・住民税だけでなく社会保険料の対象からも外れます。この構造により、実質的に手取り収入を増やしながら資産形成が可能です。他の制度にはない、社会保険料まで抑えられる点が大きな特徴です。
元本保証でリスクなく積み立てられる
はぐくみ基金は確定給付型(DB)の年金制度で、拠出額と勤続年数などに応じて将来の給付額があらかじめ決まっています。加入者が運用リスクを負う必要はなく、元本割れの心配もありません。運用は基金側が専門機関を通じて行い、確実性と安定性が確保されています。投資に不慣れな人でも、安心して老後資金を積み立てることができる仕組みです。
ライフイベント時にも給付を受け取れる柔軟性
はぐくみ基金では、60歳まで受け取れない他制度と異なり、退職時だけでなく、育児休業・介護休業・長期の傷病による休職などでも中途給付を受け取ることができます。また、退職時に一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金形式で受け取る場合は公的年金等控除が適用され、いずれも税制面で有利です。中途受取は一時所得として扱われ、他の一時所得と合算の上で特別控除50万円が適用されます。
会社(法人)にとってのはぐくみ基金のメリットは?
はぐくみ基金は、従業員だけでなく、導入する企業にとっても財務的・組織的な多くの利点をもたらします。ここでは、法人側が得られるメリットについて解説します。
社会保険料の会社負担を軽減できる
はぐくみ基金では、従業員の給与から掛金を天引きするため、その分、企業が支払うべき社会保険料の対象給与も減少します。社会保険料は雇用主と従業員が折半で負担する仕組みであるため、従業員が拠出する掛金が増えるほど、企業側の負担額も自動的に減少します。たとえば月給30万円の従業員が毎月3万円を基金に拠出すれば、企業負担分の健康保険・厚生年金保険料も下がります。複数の従業員が加入すれば社会保険料の会社負担が軽減され、人件費削減につながる可能性があります。
これは長期的に見て、企業のコスト構造の健全化にもつながります。
低コストで退職金制度を導入・整備できる
通常の退職金制度や中小企業退職金共済(中退共)では、企業が掛金を拠出するため一定の資金負担が発生します。一方、はぐくみ基金では、従業員の給与から拠出する制度であり、企業が直接積立原資を用意する必要がありません。初期費用(設立時に30万円前後)と、加入者1人あたり月数百円程度の運用コストを除けば、制度の維持にかかる費用は非常に小さく、財務負担を抑えながら退職金制度を導入できます。また、役員も加入可能であるため、経営者自身の老後資金対策にも活用できます。さらに、企業が負担する掛金として設定することも可能で、その場合は法人税の損金処理ができる点も、節税の観点で評価されています。
福利厚生の強化と人材採用・定着に寄与する
はぐくみ基金は、制度導入によって「退職金制度あり」という企業アピールができるため、福利厚生の充実を図る手段として有効です。中小企業では、退職金制度の有無が採用活動の競争力に直結するケースも多く、福利厚生面での差別化は重要なポイントになります。また、従業員が自ら老後資金を積み立てる選択ができる仕組みは、従業員満足度の向上にもつながります。長期的に勤務してもらう動機づけや、優秀人材の流出防止策としても機能します。
はぐくみ基金の対象者と加入条件は?
はぐくみ基金は、厚生年金に加入している企業・法人であれば比較的導入しやすい制度ですが、一部に制限もあります。また、従業員の加入は任意であり、個人事業主は原則として利用できません。ここでは、制度の利用対象と加入条件を解説します。
基本的な対象は厚生年金適用の企業とその役員・従業員
はぐくみ基金は、厚生年金に加入している事業所であれば導入可能で、対象者はその企業に所属する従業員と役員です。中小企業から医療法人、社会福祉法人まで幅広く利用されています。企業規模に関する制限は基本的にありませんが、制度の安定運用の観点から、次のような法人は導入が難しい場合があります。
- 設立から1年未満の法人
- 2期連続で赤字決算となっている法人
- 従業員が極端に少ない法人(役員のみの会社など)
制度の趣旨が「従業員の資産形成支援」であるため、役員だけが加入することを目的とした導入(例:社長1名のみの節税目的)は原則不可とされています。
加入は任意、従業員が自由に掛金額を決められる
企業が制度を導入した後は、各従業員に対して制度の説明を行い、加入希望者を募る流れになります。従業員の加入は任意であり、強制加入ではありません。
掛金は、月額1,000円から給与の20%以内、かつ月40万円を上限に設定できます。各従業員が自身のライフプランや収入状況に応じて自由に金額を決められ、途中で変更や一時停止も可能なため、無理なく長期的な積立ができる設計となっています。
フリーランスは加入できないが、法人化すれば活用可能
はぐくみ基金は厚生年金適用事業所向けの制度のため、個人事業主やフリーランスは原則として加入できません。ただし、フリーランスが自身で法人を設立し、役員兼従業員として厚生年金に加入すれば、制度導入のうえで加入が可能になります。この場合、一定の利益や役員報酬があれば、将来的な節税対策として活用を検討する価値があります。
一方、法人化の予定がない個人事業主は、「小規模企業共済」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」といった制度を代替手段として活用するのが現実的です。
はぐくみ基金を導入するデメリットや注意点は?
はぐくみ基金には多くのメリットがありますが、導入・利用にあたっては、事前に確認しておくべきデメリットや注意点も存在します。
【従業員にとっての注意点】手取り減少や将来給付への影響
はぐくみ基金では掛金を給与から天引きするため、拠出額に応じて毎月の手取りが一時的に減少します。月2万円を拠出すれば、課税や社会保険料の軽減はあるものの、使える可処分所得はその分下がるため、生活費への影響が出る可能性があります。若年層や扶養家族が多い方は、無理のない範囲で拠出額を設定することが重要です。
また、給与の額面が下がることで、将来の厚生年金や雇用保険の給付額に微小ながら影響が出る可能性があります。標準報酬月額が1等級下がることで老齢厚生年金が減る可能性もあります。ただし、掛金に対する給付(退職金や中途給付)を含めれば、最終的な受取総額はプラスになるケースが大半です。
【企業側の注意点】初期コストや制度運用の手間
企業がはぐくみ基金を導入する際には、初期費用として約30万円程度の設立費用が発生します。さらに、加入者1人あたり月額数百円の管理費用(システム利用料など)も継続的に発生します。ただし、これらのコストは、従業員の給与控除による社会保険料削減効果により、数カ月〜1年程度で十分回収可能とされています。
もう一点の注意点は、確定給付型制度であることによるリスク管理です。仮に基金の運用実績が給付に届かない場合、企業側に不足分を補填する義務が生じます。ただし、はぐくみ基金では保険会社などが堅実な商品で運用を行っており、元本割れリスクは低いとされています。
また、導入にあたっては就業規則や賃金規程の見直し、従業員説明会の実施、書類提出などの初期的な事務手続きが必要です。これにより一時的に人事・労務部門の業務負荷が増える可能性もあります。
はぐくみ基金の仕組みを活かして賢く節税しよう
はぐくみ基金は、給与天引きという仕組みを活かして社会保険料から所得税まで幅広い節税効果を発揮できる画期的な制度です。毎月の掛金拠出で着実に老後資金を準備しながら、手取り収入を増やせるため、会社員や経営者にとって魅力的な選択肢となっています。制度導入には一定の手間や条件がありますが、計画的に運用すれば、節税対策と資産形成の両立が実現できるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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