- 作成日 : 2025年9月16日
寄付で節税できる仕組みは?個人・法人向け控除制度と活用ポイントを解説
寄付を通じて節税ができる制度には、ふるさと納税や地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)など、個人・法人問わず活用できる仕組みが多数あります。
本記事では、控除の種類、確定申告の方法、法人の損金算入や手続きのポイントなどを解説します。
目次
寄付による節税の仕組み
寄付を通じた節税とは、公益性の高い団体や地方公共団体などに資金を提供した際に、税制上の優遇を受けられる仕組みです。政府はこうした寄付活動を促す目的で、所得税や住民税、法人税などに控除制度を設けています。ここではまず、個人の立場で利用できる2つの寄付金控除の仕組みを解説します。
所得控除(寄付金控除)
個人が寄付を行った場合、「寄付金控除」として所得税の所得控除を受けることができます。これは確定申告により、所得から一定額を差し引くことで課税所得を減らし、税負担を軽くする制度です。具体的には、その年に支出した寄付金のうち、国・地方公共団体、認定NPO法人、公益社団法人・財団法人、学校法人など、法律で定められた団体への合計寄付額から2,000円を差し引いた金額が控除対象となります。
例えば年間5万円を寄付した場合、そのうち2,000円を差し引いた48,000円が所得から控除されます。ただし、控除の上限はその年の総所得金額の40%までと決められており、それを超えた寄付金については控除されません。また、個人間の贈与や営利企業への支出などは制度の対象外となります。
税額控除(寄付金特別控除)
もう一つの方法として「税額控除」があります。これは課税所得を減らすのではなく、支払うべき所得税そのものから一定額を差し引く仕組みです。対象となるのは、認定NPO法人、公益社団法人、政党などに対する寄付で、寄付先により控除率が異なります。政党への寄付では「政党等寄附金特別控除」として(寄付金額-2,000円)の30%が控除され、認定NPO法人や公益社団法人などでは40%が控除されます。
税額控除にも上限があり、寄付金の合計は所得金額の40%まで、かつ控除できる税額はその年の所得税額の25%までとされています。所得控除と同様に、2,000円を引いた額が計算対象です。
所得控除と税額控除はどちらか一方しか選べない
寄付金控除には、所得控除と税額控除の2つの方式がありますが、これらは併用できず、いずれか一方を選択する必要があります。自動的に有利な方式が適用されるわけではなく、自分で選んで確定申告書に反映させる必要があります。
一般に、所得税率が低い方ほど税額控除の方が控除額が大きくなりやすく、反対に所得が高く税率が高い方は所得控除を選ぶ方が節税効果が高くなる傾向があります。たとえば、所得税率10%の人が10万円寄付した場合、所得控除による減税額は約9,800円ですが、税額控除を選べば39,200円の減税になります。一方、45%の高所得者であれば、所得控除の方が約44,100円の節税となり、税額控除を上回る結果になります。
自身の税率や寄付額を考慮し、どちらの方式が有利かを見極めたうえで選択することが大切です。税務署や税理士に相談して判断するのも有効な方法です。
個人が寄付で節税する方法
個人が寄付によって税金の軽減を受けるには、制度の仕組みと手続きを理解し、適切な方法で申告することが必要です。
ふるさと納税
ふるさと納税は、任意の自治体に寄付をすることで、寄付額から2,000円を差し引いた金額が所得税と住民税から控除される制度です。たとえば3万円を寄付した場合、28,000円が控除対象となり、返礼品も受け取れるため、実質2,000円の負担で、寄付額に応じた所得税・住民税の控除を受けつつ、返礼品を通じて地域貢献を実感できます。
控除額には上限があり、年収や家族構成に応じて変動します。自身の控除限度額は、ふるさと納税ポータルサイトなどで事前に確認すると安心です。
また、会社員など確定申告が不要な方は「ワンストップ特例制度」を利用することで、確定申告をせずに住民税から控除を受けることができます。ただし、寄付先が5自治体を超える場合や、医療費控除など他の理由で確定申告を行う場合は、ワンストップ特例制度は利用できず、自身で確定申告を行う必要があります。
ふるさと納税以外に活用できる寄付先
ふるさと納税以外にも、節税につながる寄付先は多数あります。たとえば、認定NPO法人、公益社団法人・財団法人、学校法人、独立行政法人、日本赤十字社、政党などが対象です。これらへの寄付は、所得控除または税額控除の対象となり、ふるさと納税と同様に2,000円を超える部分に対して優遇を受けられます。
寄付先によって控除方式や割合が異なるため、寄付先の種類と制度内容を確認のうえ、自分にとって最適な方法を選ぶことがポイントです。返礼品の有無はありませんが、より純粋な社会貢献としての意味合いが強く、税制面でもきちんと支援される仕組みが整っています。
寄付金控除を受けるための確定申告の手続き
寄付による税の控除を受けるには、確定申告での手続きが必要です。会社員であっても、寄付金控除は年末調整では反映されないため、ふるさと納税を含む寄付控除を希望する場合は、翌年2月~3月に自身で確定申告を行わなければなりません。
申告には、寄付先から交付される「寄付金受領証明書(領収書)」の提出が求められます。寄付先ごとに発行されるため、各書類は忘れずに保管しておきましょう。なお、ふるさと納税に関しては、令和3年分以降、国税庁長官指定事業者が発行する年間寄付金額証明書を用いれば、複数自治体への寄付であっても1枚の書類で代用できる仕組みが整っています。
確定申告書の第二表には「寄附金控除に関する事項」として、寄付先の名称と金額を記入し、第一表には控除額を計算して転記します。控除額は、寄付金総額または所得金額の40%のいずれか少ない方から2,000円を引いた額です。ふるさと納税分は、住民税の特例控除欄への記載も忘れないようにしましょう。
紙で確定申告を行う場合は証明書の原本を添付して提出します。一方、電子申告(e-Tax)では証明書の添付を省略できますが、その場合、証明書を自宅等で5年間保管する義務があります。
法人が寄付で節税する方法
法人が行う寄付にも税制上の優遇措置がありますが、個人とは異なり、損金(経費)として認められる範囲に制限があります。課税所得を恣意的に圧縮できてしまう恐れがあるため、法人税法上では寄付金に厳格な損金算入枠が定められています。
寄付金の種類と損金算入の扱い
法人の寄付は、税務上次の4つに分類され、それぞれで損金算入の可否や限度額の扱いが異なります。
① 国や地方公共団体への寄付金
地方自治体や国そのものへの寄付。災害義援金などが該当し、全額が損金算入可能です。
② 指定寄付金
財務大臣が指定する特定の公益事業への寄付。たとえば赤い羽根共同募金などが該当し、全額を損金として処理できます。ただし、指定には個別認定が必要です。
③ 特定公益増進法人への寄付金
学校法人や日本赤十字社、公益社団法人などへの寄付。全額損金にはできませんが、特別損金算入限度額まで損金にできます。限度額は資本金と所得に基づく計算式で定められています。
④ 一般の寄付金
上記以外の寄付。社寺への玉串料や見舞金などが該当し、最も厳しい限度枠が適用されます。損金算入限度額は、法人の資本金等の額と所得の金額を基に、法人税法で定められた計算式『(資本金等の額 × 0.25% + 所得の金額 × 2.5%) × 1/4』を用いて算出します。
たとえば資本金1億円、所得1,000万円の法人では、一般寄付金の損金算入上限はおおよそ12万5,000円程度となり、それを超える部分は税務上の経費としては扱えません。
損金算入のための手続きと書類管理
損金として処理するには、確定申告書への寄付金額の記載、ならびに寄付先や内容を明示した明細書・証明書類の提出・保存が必要です。寄付先が適正かどうか、金額が妥当かなどが後日税務調査で確認されることもあるため、領収書などは必ず保管しましょう。
地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)による税額控除
法人向けの寄付制度として注目されているのが「地方創生応援税制」です。一般には「企業版ふるさと納税」として知られていますが、正式名称はこのとおりで、地方公共団体が実施する地方創生事業への寄付に対し、法人関係税から大幅な税額控除を受けられる制度です。
もともと自治体への寄付は法人税法上、損金算入が認められていますが、本制度ではさらに税額控除が加わります。まず寄付額の全額が損金算入の対象となります。それに加え、法人税、法人住民税、法人事業税のいずれからも控除されますが、具体的な内訳は法令と算定式に基づき計算されます。2020年度の改正により、寄付額の最大9割が税負担軽減される仕組みとなっています。
利用にあたっては、あらかじめ寄付先の自治体と対象プロジェクトを選定し、寄付後に自治体から交付される受領証を用いて申告します。地方創生応援税制ポータルサイトでは、対象事業や申請方法などの情報が公開されています。
中小企業から大企業まで、社会貢献と節税を両立できる制度として、活用が広がっています。
寄付を活用した節税の注意点とアドバイス
寄付は節税手段として有効ですが、正しく活用するためには制度の仕組みだけでなく、寄付金の性質や申告時の注意点を理解しておく必要があります。ここでは個人・法人を問わず、寄付による節税効果を確実に得るための注意点と、実務上のアドバイスを整理します。
寄付は「支出」であることを忘れない
寄付は税負担を軽減する手段ではあるものの、手元資金を支出する行為であることに変わりはありません。どれだけ制度を活用しても、個人では最低2,000円の自己負担が必ず発生します。法人の場合も、地方創生応援税制を活用しても最大で寄付額の9割までしか軽減されず、残り1割程度は企業の実費負担です。節税目的で過度な寄付を行うと資金繰りを圧迫しかねません。節税というより「社会貢献と税軽減の両立」という視点を持つことが大切です。
控除対象となる寄付先かを事前に確認する
寄付を行う際は、その寄付先が税制上の控除対象となる法人・団体かどうかを事前に確認する必要があります。たとえば、認定NPO法人、公益社団法人、学校法人、地方公共団体、政党などは対象となりますが、街頭募金や返礼付きクラウドファンディングなどは控除の対象とならないことがあります。領収書の発行がないものや、対価性のある支出は原則として対象外となるため注意が必要です。
所得控除と税額控除の選択で節税効果に差が出る
個人の寄付金控除には「所得控除」と「税額控除」の2種類がありますが、どちらか一方しか選べません。どちらが有利かは所得税率によって異なります。税率が低い人ほど税額控除の方が効果が大きくなり、高所得者は所得控除を選ぶ方が節税効果を得やすい傾向があります。あらかじめシミュレーションして判断することが重要です。法人であれば、寄付金が損金算入限度額を超えると課税所得に含まれてしまうため、事前に自社の算入余地を確認しておきましょう。
証明書類の保管と整理も忘れずに
控除を受けるには、寄付金受領証明書や指定法人の証明書など、根拠となる書類の提出・保管が必須です。個人の場合、ふるさと納税では各自治体から発行される受領証を整理しておく必要があります。法人では領収書の他、寄付先の法人格証明が必要となるケースもあるため、寄付の根拠となる領収書や関係書類は、原則としてその事業年度の確定申告書提出期限の翌日から7年間保管する義務があります。
所得が増えてきたら法人成りも検討する
個人事業主の方は、収益規模が一定以上になった段階で、会社設立(法人成り)を検討することで節税の選択肢が広がります。法人化することで、法人税率の利用や、寄付金の損金算入、地方創生応援税制の活用など、法人独自の制度を利用できるようになります。社会保険の加入義務や運営コストも発生しますが、利益が安定してきたタイミングで税理士に相談し、将来的な節税戦略の一環として法人化を視野に入れるとよいでしょう。
寄付制度を正しく理解して賢く節税しよう
寄付による節税は、社会貢献と税負担の軽減を両立できる有効な方法です。個人では所得控除や税額控除、ふるさと納税が、法人では損金算入や地方創生応援税制が活用できます。ただし、控除には対象の限定や手続き上の要件があり、寄付は支出でもあることを忘れてはいけません。自分に合った制度を正しく選び、無理のない形で寄付を取り入れることで、健全な節税と社会的価値を同時に実現しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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