- 作成日 : 2025年2月20日
プロ野球選手は法人化すべき?税金のメリットや会社設立の方法を解説
プロ野球選手の法人化は、税金対策や将来のキャリア形成における重要な選択肢のひとつです。ただし、法人化にあたってはメリットやデメリットを把握し、適切なタイミングを見極める必要があります。
本記事では、プロ野球選手が法人化すべきかどうか、そのメリットやデメリット、さらに会社設立の方法についても詳しく解説します。
プロ野球選手は法人化すべき?
プロ野球選手の法人化については、さまざまな要因を考慮し慎重に検討する必要があります。まずは、プロ野球選手の現状と法人化を検討すべきタイミングについて見ていきましょう。
プロ野球選手は個人事業主として球団と契約している
プロ野球選手は、一般的に個人事業主として球団と契約を結んでいます。これは、プロ野球選手が球団の従業員ではなく、独立した事業者として球団にサービスを提供していることを意味します。このため、プロ野球選手の収入は給与所得ではなく事業所得として扱われ、確定申告が必要です。
選手は個人事業主として、自身の収入から必要経費を差し引いて課税所得を計算する必要があります。また、社会保険料の負担も無視できません。このような状況下で、高額な年俸を得るプロ野球選手にとっては、税金対策が重要な課題となってきます。
プロ野球選手が法人化を検討すべきタイミング
プロ野球選手が法人化を検討するべきタイミングとしては、年収600万円超え程度からがひとつの目安になるでしょう。年収1,000万円を超えるなら、個人事業主としても税負担が大きくなるため法人化したほうが有利になるケースが多いといえます。
また、CM出演料やスポンサー契約など、野球以外の収入が増えてきた場合も法人化が視野に入ってくるでしょう。
個人事業主の法人化について、詳しくは以下の記事もご覧ください。
プロ野球選手が法人化するメリット
プロ野球選手が法人化する主なメリットとして、以下の5点が挙げられます。
- 年俸や契約金が高額でも節税対策ができる
- 出張旅費規程により遠征時の宿泊費を非課税にできる
- 現役引退時に退職金を支給できる
- 社会的信用度が向上する
- 引退後のキャリア形成に活用できる
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
年俸や契約金が高額でも節税対策ができる
法人化のメリットとしてまず挙げられるのは、効果的な節税対策が可能になることです。個人事業主として高額な年俸を得る場合、所得税と住民税を合わせた最高税率は55%に達します。一方、法人税の実効税率は約30%程度であり、大きな差がある点は無視できません。
また法人化によって、経費にできる幅が広がることも節税対策につながるでしょう。
出張旅費規程により遠征時の宿泊費を非課税にできる
国税庁の通達によれば、法人が役員や従業員に支給する出張旅費のうち、以下の一定の要件を満たすものは、原則非課税です。
- 出張の目的や内容が業務遂行上必要であること
- 出張旅費の金額が社会通念上妥当であること
- 出張旅費規程が整備されており、その規程に基づいて支給されていること
プロ野球選手の場合、遠征は明らかに業務遂行上必要な出張です。適切な出張旅費規程を設けることで、宿泊費や日当を非課税で受け取れます。
現役引退時に退職金を支給できる
法人化する大きなメリットのひとつに、現役引退時に「退職金」を受け取れることがあります。個人事業主の場合、事業をやめる際に退職金という仕組みはありません。しかし、法人化し、その法人の代表取締役(または役員)として活動していた場合、適切な条件を整えれば引退時に退職金を法人から支給することが可能になります。
退職金は、所得税法上「退職所得」として扱われます。通常の給与所得よりも税負担が軽くなる仕組みがあり、以下のような優遇があります。
- 退職所得控除:勤続年数に応じて一定額が非課税になる(20年以下の場合、1年につき40万円)
- 課税額の半分が対象:控除後の金額の1/2だけが課税対象となるため、通常の給与所得に比べて税金が大幅に軽減される
10年間その法人の代表取締役として活動し、1億円の退職金を受け取る前提で考えてみましょう。
- 退職所得控除額:10年 ×40万円=400万円
- 課税対象額:1億円-400万円=9,600万円
- 退職所得の金額:9,600万円 ×1/2 =4,800万円
この4,800万円が課税対象となり、通常の給与所得よりも大幅に税金を減らせます。
社会的信用度が向上する
個人事業主と比較して、法人として活動することで社会的な信用度が大きく向上する可能性が期待できます。
信用度が高まることによってスポンサー契約やイベント出演など、ビジネスチャンスの拡大にもつながるでしょう。また、取引先との関係構築もスムーズになり、活動の幅を広げられる可能性もあります。
引退後のキャリア形成に活用できる
法人は、現役引退後もそのまま存続できます。選手時代から継続的に法人を運営することで、ビジネスの基本的なスキルや知識を身につけられます。これは、引退後に自身のビジネスを展開する際に大きな強みになるでしょう。
また、選手時代に蓄積した資産を活用して新規事業を始める際の拠点としても機能します。節税面だけでなく、引退後の第二の人生を見据えた長期的なキャリア形成が可能な点も法人化するメリットだといえるでしょう。
プロ野球選手が法人化するデメリット
プロ野球選手の法人化には多くのメリットがありますが、同時にいくつかのデメリットも存在します。ここでは、主な3つのデメリットについて詳しく解説します。
日本のプロ野球では法人と業務委託契約ができない
日本のプロ野球界では、選手と球団の契約は個人契約が原則となっており、法人との業務委託契約は認められていません。これは、日本野球機構(NPB)の規約によって定められています。
この規定により、プロ野球選手が法人を設立しても、年俸や契約金などの主要な収入を法人の収入として直接受け取れません。つまり、球団からの収入は依然として個人の事業所得として扱われることになります。
そのため年俸を法人の収入として計上できず、個人所得として高い税率が適用される可能性があり法人のメリットが活かせません。
ただし、テレビなどへの出演や講演料など、球団以外からの依頼によって得る副収入に関しては法人口座への入金が可能なケースがほとんどです。
マネジメント会社は税務調査の対象になりやすい
プロ野球選手が法人化する際、別途マネジメント会社を設立するケースがあります。これは、球団から個人として受け取る年俸を業務委託費として移し、税務上のメリットを享受するために行われるのが一般的です。
しかし、マネジメント会社が適切な業務を行っておらず、実体が不明瞭な場合、税務署から「節税目的のペーパーカンパニー」と見なされ、税務調査の対象になりやすい傾向があるため、注意が必要です。
そのため、業務内容や支出の記録を明確にすることはもちろん、必要に応じて専門家のサポートを受けることが推奨されます。
コスト増加の可能性もある
法人化によって、コストが増加する可能性も否定できません。法人税や社会保険料が節税効果を生む一方で、法人維持には多くの固定費が発生します。
例えば、会社設立費用、毎年の法人税申告にかかる税理士費用、従業員の社会保険料、事業運営に必要なオフィスやスタッフの費用などです。特に、選手個人の活動が主な収入源の場合、収入規模に対して維持コストが高くなるリスクがあります。
さらに、将来的には法人を清算するための手続きや費用が発生することも視野に入れておかなければなりません。
したがって、収入規模や長期的な運営計画を十分検討し、法人化のメリットとデメリットを慎重に比較する必要があります。
プロ野球選手がマネジメント会社を設立する方法
プロ野球選手の法人化は、以下の流れで進めるのが一般的です。
会社の基本事項を決める
法人化にあたっては、まず以下の基本事項を決める必要があります。
- 会社名(商号)
- 本店所在地
- 事業目的
- 資本金の額
- 役員構成
事業目的はマネジメント業務、広告宣伝業、イベント企画運営やスポーツ用品の企画・販売などを含めて設定するといいでしょう。役員構成は通常、選手本人が代表取締役となり、必要に応じて家族を取締役として選任するのが一般的です。
定款を作成し認証を受ける
定款は会社の根本規則を定めたものです。以下の項目を含め、作成後は公証役場で認証を受けなければなりません。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立時の資本金の額
- 発行可能株式総数
- 株式の譲渡制限に関する規定
- 設立時役員の氏名
- 株主総会に関する事項
認証には、印紙代と手数料がかかります。
法人設立登記を行う
法務局に以下の書類を提出して、法人設立登記を行います。
- 設立登記申請書
- 定款(認証を受けたもの)
- 登録免許税納付用台紙
- 発起人の決定書
- 設立時取締役の就任承諾書
- 設立時代表取締役の就任承諾書
- 設立時取締役の印鑑証明書
- 資本金の払込みがあったことを証する書面
- 印鑑届出書
- 登記すべき事項を記載した書面またはCD-R
資本金の払込完了後、2週間以内に管轄の法務局で登記申請を行わなければなりません。
法人名義の銀行口座を開設する
登記完了後、登記事項証明書や代表者の印鑑証明書、法人印鑑証明書を持参して銀行で法人口座を開設します。
必要書類を提出する
各種行政機関に、必要書類を提出しましょう。税務署には法人設立届出書と青色申告の承認申請書、都道府県税事務所には法人設立届、市区町村には法人住民税の申告書を提出します。
社会保険の加入手続きを行う
会社設立後は、労働保険、健康保険、厚生年金保険、雇用保険などの社会保険への加入手続きが必要です。特に役員や従業員を雇用する場合は、これらの社会保険への加入が法律で義務付けられています。
プロ野球選手など個人事業主の法人化について、詳しくは以下の記事もご覧ください。
プロ野球選手の法人化はメリットが多いが注意点もある
プロ野球選手は法人化している方も多く、ある程度の年収を超えると現実的な選択肢になってくるでしょう。特に節税面においてメリットが大きいほか、信用度の向上などのメリットも得られます。
ただし、無視できないデメリットもあるため、慎重に時期などを見極めることが求められます。税理士や弁護士などの専門家と相談しながら、現役引退後のことも見据えた長期的な視点で会社運営を行うことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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