- 作成日 : 2025年10月24日
金の売却でかかる税金の節税対策は?確定申告が必要な条件も解説
金価格の高騰を背景に、保有していた金を売却して現金化する動きが広がる一方で、「税金はどうなるのか?」と不安を抱く人も少なくありません。金の売却益には、所得税・住民税が課される可能性があり、正しく申告しなければ思わぬ税負担を招くこともあります。
本記事では、金の売却に関する課税の仕組みと、合法的に税負担を軽減する節税対策について解説します。
金の売却益にはどんな税金がかかりますか?
金の売却で利益が発生した場合、その利益には所得税・住民税が課税される可能性があります。課税されるのは売却益、つまり「売却価格から取得価格と手数料などを差し引いた純粋なもうけ」の部分です。金の保有期間や課税方式により税率や計算方法が異なるため、正確な理解が重要になるため、以下で解説します。
売却益は譲渡所得として課税される
金を売って利益が出た場合、その利益は「譲渡所得」として総合課税の対象になります。譲渡所得とは、保有していた資産を売って得た利益のことで、金地金、金貨、ジュエリーなどの売却によって発生した所得もこの範囲に含まれます。
課税の対象となるのは、売却額すべてではなく、購入額と売却にかかった諸費用を差し引いた「実質的な利益」の部分です。たとえば、100万円で購入した金を300万円で売却した場合、差額の200万円から特別控除の50万円を差し引いた150万円が譲渡所得となります。
この譲渡所得は、給与所得など他の所得と合算され、所得税と住民税の対象になります。所得税は累進課税制度で、2025年9月時点の最新の税率では5%〜45%の7段階。これに復興特別所得税(所得税の2.1%)と住民税(10%)が加わり、実質的な税率は最低15.105%、最高で約55.945%にもなります。
所有期間により長期・短期の課税差がある
金の譲渡所得には、「所有期間」によって課税方法が変わる仕組みがあります。5年を超えて保有した「長期譲渡所得」と、5年以下の「短期譲渡所得」に分かれ、長期の方が税制上有利です。
まず、どちらのケースでも、年間50万円の「特別控除」が適用されます。つまり、譲渡益が50万円以下であれば課税されません。
- 【短期譲渡所得(5年以内)】
売却益から特別控除50万円を差し引いた金額がそのまま課税対象となります。
計算式:売却益 − 50万円 = 課税対象額 - 【長期譲渡所得(5年超)】
特別控除50万円を差し引いた後、さらにその金額を1/2に軽減して課税対象額を計算します。
計算式:(売却益 − 50万円)× 1/2 = 課税対象額
たとえば、200万円の売却益が出た場合、5年以内に売却すれば200万−50万=150万円が課税対象になりますが、5年を超えて保有していれば(200万−50万)×1/2=75万円となり、税負担が大きく軽減されます。
この長期譲渡所得の優遇措置を活用することで、金の売却時の納税額を大幅に抑えることが可能です。節税の観点からは「できるだけ5年以上保有してから売却する」ことが推奨されます。
譲渡所得の特別控除と合算ルール
譲渡所得には年間50万円の特別控除が設けられていますが、これは金の売却益だけでなく、生活用動産や骨董品など他の譲渡所得とも合算して適用されます。たとえば、同一年内に金を売って40万円、骨董品を売って30万円の譲渡益が出た場合、合計70万円から50万円の控除が適用され、差額の20万円が課税対象となります。
この特別控除は1年に1回限り適用されるもので、分けて売却しても複数回使うことはできません。また、長期譲渡所得の「1/2課税」は、50万円の特別控除を差し引いた後の金額に対して適用されます。
金融商品の金投資にかかる税率はどうなりますか?
金融商品としての金投資は、現物の金地金や金貨の売却とは異なり、課税方式や税率が商品や口座の種類によって分かれます。金ETFは「上場株式等」として分離課税の対象となる一方、純金積立は契約内容によって扱いが変わるため注意が必要です。
金ETFの売却益は分離課税で20.315%が課される
金ETFの売却益は「上場株式等」に該当し、申告分離課税の対象です。税率は一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が適用されます。証券会社の特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合は、利益が出た時点で金融機関が自動的に税額を差し引くため、確定申告を省略できるケースもあります。たとえば10万円の利益が出た場合には約2万円が源泉徴収され、残り約8万円が口座に振り込まれます。
純金積立はETFと同じ扱いではない
純金積立はETFと異なり、その課税区分が一律ではありません。現物の金を定期購入して最終的に受け取るタイプであれば譲渡所得として扱われる一方、差金決済型や金融商品の性格を持つ場合には雑所得とされるケースもあります。そのため純金積立は常に「上場株式等」として分離課税されるわけではなく、契約内容や取引形態に応じて税務上の判断が変わる点に注意が必要です。
源泉徴収で課税が完結するケースと申告が必要なケース
金ETFなどを特定口座(源泉徴収あり)で取引している場合、金融機関があらかじめ税金を差し引くため課税関係はそこで完結します。ただし一般口座で取引している場合や、損益通算や繰越控除を希望する場合は確定申告が必要です。高所得者にとっては、累進課税が適用される現物の金地金よりも、分離課税が適用されるETFの方が税負担を抑えやすい傾向があります。このように、課税方式は商品と口座区分によって大きく異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
金の売却で税金を節約する方法は?
金を売却して利益が出ると、所得税・住民税の課税対象になりますが、正しく制度を理解し、計画的に売却を行うことで節税することが可能です。
5年以上の長期保有で譲渡所得の課税額を半減できる
金地金や金貨などを購入から5年以上保有した場合、その売却益に対して「長期譲渡所得」の扱いとなり、課税計算上の大きな優遇を受けられます。年間50万円の特別控除を差し引いた後の金額が1/2に軽減されるため、税負担が大きく下がります。
たとえば200万円の売却益が出た場合、5年未満の短期保有では150万円(200万円-50万円)が課税対象となりますが、5年以上保有していれば75万円([200万円-50万円]×1/2)に圧縮され、実質的に税額も半分となります。
高額の金を保有している場合、5年以上の保有が節税効果を高めます。ただし、税制が将来的に変更される可能性もあるため、制度の動向と金価格の変動を見ながら売却タイミングを検討することが重要です。
譲渡益を年50万円以下に抑え、特別控除を最大活用
譲渡所得には年50万円の特別控除が設定されています。つまり、金の売却による年間の利益が50万円以下であれば、その年は課税されません。これを利用し、複数年に分けて少額ずつ売却することで、課税されないまま手元に利益を残す方法があります。
たとえば、合計500万円の利益が見込まれる金を所有している場合、1年でまとめて売却すると450万円が課税対象になりますが、100万円ずつ5年間に分けて売れば、毎年50万円の特別控除を活用でき、売却益を複数年に分散すれば各年の課税対象額を抑えられます。(実際の税額は他の所得・各種控除により変動します。)
ただし、あまりに継続的・高頻度に売却を繰り返すと、営利目的と見なされ、譲渡所得ではなく「事業所得」や「雑所得」と判断されてしまう可能性があります。この場合、特別控除や長期譲渡の優遇が受けられなくなるため、あくまで「個人資産の売却」の範囲にとどめるようにしましょう。
取得費を証明するため、購入時の領収書は必ず保管する
金の売却益を正しく計算するには、「取得費(購入価格)」を証明する書類が必要です。売却益は「売却額 - 取得費(購入額+諸費用)」で算出されますが、購入時の記録が残っていない場合、税法上のルールにより「売却額の5%」しか取得費として認められません。
たとえば、50万円で購入した金を300万円で売却したにもかかわらず、証明書類がなければ300万円×5%=15万円しか取得費にできず、285万円が売却益として課税対象になります。本来なら250万円の利益で済むはずが、35万円多く課税されてしまうのです。
このような不利な扱いを避けるためには、金地金や金貨の購入時に発行される領収書・明細書・売買契約書などを必ず保管しておきましょう。特に長期間保有する場合、紛失リスクが高まるため、デジタル保存なども活用すると安全です。
万一領収書を紛失した場合でも、売却額の5%を取得費とする扱いがあり、代替資料の採否は個別判断となるため、早めに税理士や所轄税務署へ相談してください。
金融商品として運用すれば税率がフラットで有利になる場合も
金地金などの現物を売却すると、所得税の累進課税が適用され、最大で55%前後の税率が課せられる場合があります。一方、純金積立や金ETFなどの金融商品としての金投資では、売却益は一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の源泉分離課税で完結します。
この税率は所得額にかかわらず一定であるため、年収が高くなるほど現物売却よりも有利になります。例えば、年収3,000万円の方が金地金を売却すれば、売却益の約半分が税金で引かれますが、同じ金額の利益を金融商品で得た場合は、常に20.315%の税負担に抑えられます。
もちろん、金融商品には元本保証がない、売買スプレッドや信託報酬がかかる、現物資産としての安心感に欠けるなどのデメリットもありますが、節税効果を重視するなら有力な選択肢の一つです。
投資目的で金を保有しており、現物にこだわらない場合は、地金を一度売却し、金融商品へと乗り換えることも検討する価値があります。その際は、売却タイミングや再購入の価格変動リスクを十分考慮したうえで判断しましょう。
金を売ったら確定申告は必要?
金を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その金額や個人の所得状況によっては確定申告が必要になります。所得税と住民税の課税対象となるかどうかは「年間の譲渡益」と「他の所得との合計」によって判断されるため、正確に理解しておくことが重要です。
年間の売却益が50万円を超える場合は確定申告が必要
金の売却で発生した利益は、譲渡所得として扱われます。譲渡所得には年間50万円の特別控除が設けられており、この控除額を超える譲渡益がある場合には、所得税の確定申告が必要です。たとえば、年間に金の売却益が100万円あった場合、控除後の50万円が課税対象となり、確定申告の対象となります。
この確定申告は、売却した年の翌年の2月16日から3月15日までの期間に行う必要があります。期限を過ぎると延滞税や無申告加算税が課される可能性もあるため、売却時に記録を残し、早めに準備を進めておくことが大切です。
なお、金の売却額が大きい場合には、税務署にもその取引内容が通知されます。具体的には、1回あたりの売却代金が200万円を超えると、買取業者が「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を税務署に提出する義務があり、これによって税務署側も取引内容を把握できます。
給与所得者は「20万円ルール」に注意
会社員などの給与所得者の場合、「給与以外の所得が年間20万円以下」であれば、所得税の確定申告は不要とされています。これがいわゆる「20万円ルール」です。ただし、これは以下の2条件を満たす人に限られます。
- 年収2,000万円以下で年末調整を受けている
- 給与以外の所得(たとえば金の売却益から特別控除を引いた額)が年間20万円以下
たとえば、金の売却益が60万円でも、特別控除50万円を差し引いた後の10万円が対象となり、他の副収入がなければこのルールの対象になります。つまり、確定申告は不要という扱いになります。
しかし、この場合でも住民税の申告は原則として必要です。所得税の確定申告を省略したとしても、市区町村へは「住民税申告書」の提出が求められることがあります。提出先や書式は自治体ごとに異なるため、事前に確認しておきましょう。
無職・年金受給者などはより注意が必要
給与収入がない方、たとえば専業主婦や年金生活者の場合は「20万円ルール」が適用されず、金の売却益が特別控除50万円を超えた時点で所得税の確定申告が必要になります。逆に言えば、50万円以下の利益であれば非課税扱いとなり、確定申告も不要です。
ただし、いずれの立場でも、所得税は発生しなくても「住民税の申告」は原則必要です。これを怠ると、後に市区町村から問い合わせが入る場合があるため、売却益が出た年は住民税の手続きを忘れずに行いましょう。
正しく申告して、金売却益の税負担を最小限に
金の売却で利益が出た場合、その売却益(譲渡所得)は所得税・住民税の課税対象となります。ただし年間50万円の特別控除や5年超保有での1/2課税といった優遇により、適切に計算すれば税負担を軽減することができます。
確定申告が必要なケースも年間の利益額によって異なり、給与所得者であれば20万円以下の副収入は申告不要(住民税申告は必要)といった緩和策もあります。
税制の変化も踏まえつつ、長期保有や売却タイミングの工夫、取得費管理といった節税対策を講じて賢く金を現金化しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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