- 作成日 : 2025年10月24日
「一般社団法人で節税」はまだ使える?現行制度と注意点を解説
一般社団法人を活用した節税スキームは、かつて相続税・贈与税対策として一部で注目されてきました。しかし、2018年の税制改正により「特定一般社団法人等」への課税ルールが導入され、2025年時点では抜け道としての効果は制限されています。
本記事では、最新の法制度に基づいた一般社団法人の位置づけと注意点、代替手段について解説します。
目次
一般社団法人を使った節税スキームとは?
一般社団法人を使った節税スキームとは、個人の資産を法人名義に移し、相続税や贈与税の課税対象から外すことを目的とした方法です。2025年時点では、相続税法第66条の2等の導入によりスキームの適用範囲が大幅に制約され、従来ほどの節税効果は期待しにくくなっています
ここでは、そもそも一般社団法人を活用した節税とはどういうものか、そしてどのような仕組みで税の軽減が期待されたのかを解説します。
一般社団法人は「所有者のいない法人」として資産を保持できる
一般社団法人には持分という概念がなく、特定の個人がその法人の財産を直接的に所有することはできません。つまり、出資比率に応じて財産を受け取る「株主」や「社員」は存在せず、誰か一人が法人の資産を個人的に相続することが構造的に不可能です。このため、資産家が自分の持つ不動産や株式などを一般社団法人に移転し、自らや子どもを役員に就任させた場合、その資産は法人のものとなり、以降、相続税の対象から外れるという考え方が成立していました。
1億円相当の不動産を親が所有していた場合、通常であれば死亡時に相続財産とみなされ、子に相続税が課せられます。しかし、その不動産を事前に一般社団法人に現物出資し、法人の資産として管理しておけば、親の死亡時点でその不動産は法人名義であり、子は法人の理事に就任するだけで実質的に管理・使用を継続できます。形式的に財産の移転が起こらないため、相続税の発生を回避できるという仕組みです。
贈与税にも影響が及ばないとされた過去のスキーム
贈与税の回避にも、このスキームは利用されていました。親が生前に子へ財産を直接贈与すると、その価額に応じて贈与税が課税されますが、一般社団法人を通じて財産を移し、親が退任し子が代表理事となるだけであれば、名義の移転はなく「贈与」とは扱われません。これにより、贈与税も発生しないと考えられていたのです。
役員の交代や会計上の処理だけで実質的な資産の支配権が移転するにもかかわらず、課税関係が生じない状況が見られ、税務当局からは「制度の隙を突いた租税回避」として問題視されてきました。現在は相続税法第66条の2等の導入・通達整備により、当該手法には制度的な制約が広く設けられています。
現在では制度上の抜け道とはなりにくい
2025年時点では、こうしたスキームを抑制するために、特定一般社団法人への課税制度が導入されており、親族等による同族理事が理事総数の過半数となる等の要件を満たす場合には、相続税法第66条の2に基づき課税対象となる可能性があります。
現在ではこのような節税スキームは抜け道とはなりにくく、形式的な運用だけでは税負担を回避することは困難です。
法改正で一般社団法人節税はどう変わった?
一般社団法人を用いた節税スキームは、かつて相続税や贈与税の課税逃れの手段として利用されてきました。しかし、2018年の税制改正以降、その抜け道は大きく制限されることとなりました。ここでは、「特定一般社団法人等」という制度の導入を中心に、改正内容と影響について解説します。
「特定一般社団法人等」制度の創設で課税対象が明確化した
2018年の税制改正では、「特定一般社団法人等」という新たな区分が設けられました。これは、法人の運営実態が特定の親族によって支配されており、かつ、法人の資産が実質的に個人資産と変わらないと判断される場合に、法人に対して相続税や贈与税を課す仕組みです。
この制度は、非課税であるはずの一般社団法人の財産が、結果として親族の資産承継手段として使われる事例が増えたことを背景に、国税庁が租税回避策を封じる目的で導入したものです。法人の設立形態や運営実態によっては、これまで回避できていた課税が厳格に行われるようになりました。
課税対象となる3つの主要な条件
「特定一般社団法人等」として課税されるかどうかは、以下の3つの条件のいずれかに該当するかによって判断されます。
親族役員が3分の1超で構成されている
法人の理事に占める親族(被相続人、配偶者、三親等内の親族)の割合が3分の1を超えると、特定一般社団法人に該当します。この場合、法人は実質的に一族で支配されているとみなされ、独立した非営利法人としての性格が否定されます。
解散時の残余財産が親族や企業に帰属する定款がある
法人の解散時に、その残余財産が親族や特定の営利企業に帰属すると定められている場合、法人の財産が将来的に個人資産へと移ることを前提に設計されていると見なされ、課税対象となります。非営利法人としての性質に反すると判断されます。
元所有者が資産移転後も利益を得ている
法人に資産を移した後も、その元の所有者が法人から役員報酬を受け取ったり、法人資産を私的に使用したりするなどの経済的利益を得ている場合、実質的に財産を手放しておらず、形式上の移転に過ぎないと判断されます。このような場合も課税対象になります。
相続税の課税方式と例
特定一般社団法人に該当する法人が相続時に関与していた場合、その法人は「遺贈により財産を取得した」とみなされ、法人自体に相続税が課税されます。このときの課税額は、法人の純資産額を「同族役員の人数+1」で割った金額に対して相続税を計算するという方式がとられます。
たとえば、法人の純資産が1億円あり、同族役員が1人だけだった場合、「1+1=2」で割った5,000万円が課税対象額となります。さらに、法人が遺贈を受けたとみなされるため、相続税の2割加算の対象ともなり、実質的な税負担は増加します。
この制度は、2018年の改正により導入され、2021年4月1日以降に相続が発生した場合から適用されています。そのため、改正以前に設立された法人であっても、現在では同様の課税が行われるようになっています。
法改正後の節税スキームへの影響と現状
このような法改正の影響により、2025年時点では一般社団法人を用いた節税は事実上困難になりました。特定の親族に財産を集中させる目的で法人を設立・運営する場合、ほとんどのケースで「特定一般社団法人等」に該当し、逆に相続税や贈与税の課税対象となるからです。
もちろん、法人の運営を親族以外の第三者中心に行い、残余財産を公益法人に帰属させるなど、純粋な非営利活動を目的とするのであれば課税は回避可能です。しかしそのような運用では、節税のために財産を子に集中させるといった目的は果たせません。
結果として、現在では一般社団法人の節税のみを目的とした設立の有効性は大きく低下しており、目的や運営実態を踏まえ慎重な検討が求められます。
制度を知らずに旧来の節税スキームを模倣すれば、むしろ高額な税負担を招く可能性があるため、十分な理解と専門家への相談が欠かせません。
一般社団法人を活用する節税以外のメリットは?
節税スキームとしての有効性は薄れたものの、一般社団法人は相続・資産管理のツールとして依然有用です。不動産管理や所得分散、非課税制度の活用など、税金以外の面でも多くのメリットがあります。
不動産を分割せずに承継できる
相続財産に不動産が含まれると、相続人同士での分割が困難になることがあります。一般社団法人を利用すれば、不動産を法人名義にしておくことで、分割や売却を避けたまま、法人を通じて経済的利益を次世代に渡すことが可能です。法人の代表理事や役員として子世代が関与することで、法人資産としての不動産を管理し続けられます。資産を保持しながら承継できる点は大きな利点です。
所得分散による税率の軽減が期待できる
法人を通じて家族に役員報酬や給与を支払えば、特定の個人に所得が集中するのを避けられます。累進課税制度の下では、所得を複数人に分けることで税率を抑えられる可能性があります。資産運用益を法人で管理しつつ、実務に従事する家族へ給与を支払えば、家族全体としての税負担が軽減される場合があります。ただし、業務実態のない報酬は否認リスクがあるため注意が必要です。
非営利型法人としての非課税制度が利用できる
法人が「非営利型」として認定されると、収益事業以外の所得に法人税が課されません。会費や寄付金など、公益性のある活動に対しては税負担が生じず、地域活動や文化団体の母体としても適しています。ただし、非営利型法人として扱われるには、定款で剰余金処分や残余財産の帰属先を公益法人等に限定する必要があります。
柔軟な法人設計が可能で、非親族への承継も容易
一般社団法人は株式会社に比べて設立が簡単で、事業目的や役員構成の自由度が高い点も魅力です。信頼できる第三者を役員に迎えることで、血縁以外への財産承継も可能になります。遺言では難しいケースでも、法人を通じて柔軟な資産承継が実現できます。個人資産管理と社会的活動を両立できる点で、活用の幅は広がっています。
一般社団法人の税務申告と法人運営における注意点は?
一般社団法人は非営利法人ではありますが、法人である以上、税務申告や法的義務を適切に履行する必要があります。ここでは、税務申告と日常的な運営における注意点を解説します。
収益事業を行っている場合は法人税の申告が必要
一般社団法人が収益事業を行っている場合、その所得に対して法人税が課税されます。「収益事業」とは、国税庁が定める34業種(物販、飲食、不動産貸付など)に該当する営利的な活動を指し、非営利型であっても該当すれば課税対象となります。
会費制の団体であっても、営利目的で物品販売や有料セミナーを開催していれば、その部分は収益事業として申告義務が発生します。税務申告は原則として年1回、事業年度終了から2か月以内に法人税・法人住民税・法人事業税の申告を行う必要があります。記帳や決算書の作成も求められるため、会計処理の体制を整えることが重要です。
非収益事業でも「均等割」の納税義務がある
仮に収益事業を行っていない非営利型法人であっても、法人住民税の「均等割」は毎年課税されます。これは所得の有無にかかわらず法人に課される定額税で、多くの自治体では年額7万円(2025年現在)程度が課税されます。
したがって、法人としての実態がない、いわゆる「ペーパーカンパニー」であっても、納税義務を免れることはできません。設立だけして放置しておくと、未納によって延滞税が発生したり、法人の信用に傷がついたりするリスクがあります。
役員報酬・寄付金などの支出に注意が必要
一般社団法人では、役員に報酬を支払うことができますが、その支出が不相当に高額であったり、実態のない業務に対して支払われていたりする場合には、法人税の課税上、損金不算入とされる可能性があります。さらに、税務調査では「同族経営」であることを理由に、利益の流用がないか厳しくチェックされます。
また、法人から個人への資金移動が「寄付」とみなされた場合は、受け取った個人に贈与税が課されるリスクもあります。運営上の支出が税務上のトラブルにつながらないよう、支出の根拠を明確にし、書面で管理することが重要です。
一般社団法人の代わりに検討できる節税方法は?
一般社団法人による節税スキームは、現在の制度では制約が強く、実質的に活用が難しくなっています。ここでは、実効性の高い代替的な節税策を紹介します。
小規模企業共済制度の活用
小規模企業共済は、個人事業主や中小企業の役員が退職後の資金準備を行いつつ、掛金全額を所得控除できる制度です。掛金は月1,000円から70,000円まで設定でき、年間最大84万円まで全額が所得控除となります。受取時も退職所得または公的年金等として課税され、税制上の優遇を享受できます。ただし、任意解約や法人成りによる解約では一時所得扱いとなることもあるため注意が必要です。
参考:小規模企業共済とは | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
中小企業倒産防止共済の活用
取引先の倒産に備える制度でありながら、実務上は法人の利益圧縮策としても有効です。掛金は月額5,000円〜200,000円で、年最大240万円まで損金算入可能です。掛金の累積上限は800万円です。2024年10月からの改正で、解約後2年間は再加入掛金が損金不算入となる制限が設けられたため、解約タイミングには注意が必要です。一定期間継続加入すれば、掛金の全額返戻も可能で、資金準備と節税を両立できます。
生命保険の活用による利益圧縮
法人が契約者・保険料負担者となり、役員を被保険者とする生命保険(定期保険や逓増定期など)を活用することで、保険料の一部または全部を損金に計上できます。これにより利益を圧縮し、将来の退職金財源とすることが可能です。ただし、保険商品や契約形態により返戻率や税務上の扱いが大きく異なるため、事前の設計が極めて重要です。保険を利用した節税についても税務署の視線が厳しくなっており、正確な理解と実態に即した活用が求められます。
節税目的で一般社団法人を使う前には慎重に検討を
一般社団法人を活用した節税スキームは、かつて相続税・贈与税対策として注目されましたが、現在では法改正により大幅に制限され、形式的な利用では節税効果は期待できません。現在は、特定一般社団法人として課税対象となる条件も厳格に定められており、制度を誤解したまま設立すると逆に課税リスクが高まります。資産の一体管理や所得分散といった非課税以外の目的がある場合を除き、節税手段としては慎重な検討が必要です。
いずれにせよ、制度全体を理解し、専門家の助言を得たうえで自社・自分に合った方法を選ぶようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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