- 作成日 : 2025年9月16日
小規模企業共済は節税にならない?損しないための制度活用術を解説
小規模企業共済は、個人事業主や中小企業の経営者が将来の廃業や退職に備えて資金を積み立てながら、所得控除による節税効果も得られる制度です。しかし、インターネット上では「節税にならない」といった否定的な意見も見られます。
本記事では、そうした誤解を整理しつつ、小規模企業共済の仕組みや節税効果を最大化する活用法、さらには他制度との併用や法人化との相性なども踏まえ、どのようなケースで加入を検討すべきか解説します。
目次
小規模企業共済の基本
小規模企業共済は、個人事業主や中小企業の経営者が将来の廃業や退職に備えて資金を積み立てるための制度です。ここでは制度の仕組みと節税効果について解説します。
国が運営する退職金制度としての小規模企業共済
小規模企業共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する退職金準備制度です。加入対象は、常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業では5人以下)の個人事業主や会社役員などで、事業の廃止や退任時に共済金が支給されます。制度は1965年に開始されました。中小企業基盤整備機構の2023年の発表によると、2022年度に事業を廃止した方の共済金平均受取額は約1,154万円、平均積立期間は18.0年となっており長期の資産形成手段として定着しています。
掛金は全額所得控除となり節税に直結
掛金は月額1,000円から7万円の範囲内で500円単位で自由に設定でき、途中で増減も可能です。この掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象となるため、課税所得が減り、結果として所得税および住民税が軽減されます。所得が高い人ほど節税効果が大きくなり、年間84万円(上限)を掛けることで数十万円の税負担軽減が見込まれるケースもあります。
共済金の受け取りも税制優遇がある
共済金は一括または分割で受け取ることができ、それぞれ税制上の扱いが異なります。一括受取の場合は退職所得扱いとなり、退職所得控除が適用され、さらに課税対象額が1/2に軽減されます。分割受取の場合は公的年金等の雑所得として扱われ、年金所得控除の対象になります。つまり、受取時にも大きな税制優遇があり、拠出時と受取時の両方で税負担を抑えることが可能です。
小規模企業共済は節税にならないと言われる理由
小規模企業共済は所得控除を活用できる制度ですが、「節税にならない」と言われることもあります。ここでは主な理由を解説します。
所得が低いと控除による節税が限定的
小規模企業共済の掛金は全額が所得控除の対象となりますが、控除による節税効果は現在の所得税率と住民税率に依存します。たとえば課税所得300万円の方(所得税率10%、住民税率10%)が上限の84万円を拠出しても節税額は約17万円(所得税8.4万円+復興特別所得税約0.2万円+住民税8.4万円)にとどまります。
税率が低ければ節税効果も小さくなるため、実感が乏しいと感じる人も多いようです。また、受取時に他の高額な退職金や所得があるなど、限定的な状況下では、拠出時の節税効果よりも受取時の納税額が大きくなる可能性もゼロではありません。
共済金の受取時にも税金がかかる
「将来受け取る共済金が課税されるなら節税ではない」と思われることもありますが、これは誤解です。一括受取は退職所得扱いとなり、退職所得控除が適用されるほか、課税対象額は1/2に軽減されます。分割受取も年金所得として扱われますが、公的年金等控除の対象となるため、一定額までは非課税です。共済金受取時の課税は優遇されており、節税効果を損なうものではありません。
短期解約は元本割れのリスクがある
この制度は長期運用を前提としており、加入後20年未満で自己都合解約した場合、支払った掛金よりも少ない額しか戻らない元本割れの可能性があります。加入後12カ月未満の解約では掛金が一切戻らない点も注意が必要です。
事業の廃止や65歳以上の退職など正当な共済事由で受け取る場合でも、掛金の納付期間が20年未満だと受取額が掛金総額を下回る(元本割れする)可能性があります。20年以上納付すれば元本割れするケースはほとんどありません。長期加入が基本とされている点を理解し、無理のない計画を立てることが重要です。
法人経営者は社会保険料の負担増に注意する必要がある
法人経営者が共済掛金を拠出するには役員報酬を増やす必要があり、それによって社会保険料も増加します。たとえば84万円の掛金を報酬から支払う場合、約25万円の社会保険料が追加で発生する可能性があり、節税額を相殺してしまいます。ただし、高額報酬で既に保険料等級の上限に達している場合や、報酬内で無理のない範囲で拠出する場合には問題なく活用できます。
小規模企業共済への加入がおすすめなケース
小規模企業共済は全ての個人事業主や中小企業経営者に向いているわけではありません。しかし、一定の条件に該当する場合には高い節税効果と老後資金形成の両面で有利になります。ここでは、加入をおすすめできるケースを紹介します。
安定的な事業所得がある人
年間を通じて一定以上の利益が出ており、毎月の掛金を無理なく拠出できる場合は、小規模企業共済のメリットを最大限に活かせます。特に課税所得が高い人ほど所得控除による節税効果が大きくなるため、税負担軽減と将来の退職金準備が同時に可能です。
退職金制度がない個人事業主・法人役員
会社員と異なり、個人事業主や中小企業経営者には退職金制度が存在しないことが一般的です。小規模企業共済はその代替として活用できる制度であり、退職や廃業時にまとまった資金を受け取ることができます。長期的な資産形成を目的とする方には特に適しています。
小規模企業共済で節税のメリットを最大化するには
小規模企業共済は、適切に活用すれば高い節税効果が得られる制度です。ここでは、制度の特性を活かし節税メリットを最大限に引き出すためのポイントを整理して解説します。
高所得者にとっての節税効果は大きい
小規模企業共済は、掛金の全額が所得控除の対象となるため、課税所得が高い人ほど節税効果が大きくなります。たとえば、課税所得1,800万円の人が上限の84万円を拠出すると、所得税率と住民税率を合わせた43%の税率により、年間で約36万円の節税が可能です。20年間継続すれば累計720万円以上の減税効果が見込まれます。
一方、課税所得が約300万円の人では、節税効果は年間16.8万円程度にとどまります。このように高所得者ほど節税の恩恵は大きいですが、低所得者でも節税と同時に将来の資金準備ができる点に意義があります。掛金は月1,000円から設定できるため、少額から無理なく始めて収入増加に応じて調整することも可能です。
長期継続と計画的な受取が節税の鍵
節税効果を最大化するには、長期にわたって継続加入することが重要です。20年以上積み立てれば、共済金の受取額が掛金総額を上回るだけでなく、退職所得控除などによって受取時の税負担も大きく軽減されます。とくに一括受取の場合は課税対象額が1/2になるため、老後資金の受取方法として有効です。
また、受取方法の選択によっても節税効果は異なります。一括受取では退職所得扱いとなり、長期勤続による退職所得控除が適用されます。分割受取では公的年金等控除が毎年使えるため、一定額までは非課税です。さらに、一部を一括、残りを分割で受け取るなど、組み合わせも可能です。どの方法が有利かは所得状況により異なるため、受取時期が近づいたら専門家に相談すると安心です。
他制度との併用や法人化による最適化も視野に
小規模企業共済だけでなく、他の制度と組み合わせることで節税の幅を広げることもできます。たとえば、個人型確定拠出年金(iDeCo)などと併用することで、さらなる所得控除を受けることが可能です。
また、一定の利益水準を超える場合には、事業の法人化も有効な選択肢となります。個人事業主では所得が増えるほど累進課税により税負担が増大しますが、法人にすると中小法人向けの軽減税率が適用され、税率を抑えることができます。たとえば課税所得が800万円を超える場合は、法人化によって税率を20%台に抑えられるケースもあります。
法人化すれば、小規模企業共済を役員として継続利用できるほか、役員退職金制度との併用でさらに退職所得控除を活用することも可能です。ただし、法人化には社会保険の加入義務や設立コストなども伴うため、収益状況や事業の将来性を踏まえた判断が必要です。
小規模企業共済と併用可能な節税方法・制度
小規模企業共済はそれ単体でも節税効果の高い制度ですが、他の制度と組み合わせることでより効果的な節税が可能になります。ここでは、併用できる代表的な制度を紹介します。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは、掛金が全額所得控除の対象となる個人型年金制度です。小規模企業共済とは別枠で控除が認められており、同時に活用することで控除額を増やせます。運用益が非課税で、60歳以降の受取時にも退職所得控除や公的年金等控除が適用されるなど、節税効果と老後資金形成の両立が可能です。
経営セーフティ共済(倒産防止共済)
中小企業が取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐ目的の制度で、掛金は損金または必要経費として計上できます。最大800万円まで積み立て可能で、共済金受取時は収入計上されますが、利益が出ている年に掛金を集中させることで法人税・所得税の圧縮に有効です。
小規模企業共済は計画的に活用すれば強力な節税制度
小規模企業共済は、個人事業主や中小企業の経営者が退職金を準備しながら節税効果を得られる制度です。「節税にならない」と言われることもありますが、それは制度の一部を見た誤解や短期利用によるリスクに過ぎません。安定した収入があり、長期にわたって計画的に拠出・受取ができる場合には、優れた制度です。iDeCoや倒産防止共済との併用、法人化との組み合わせによってさらに効果を高めることも可能です。自身の所得状況や将来設計を踏まえ、柔軟に制度を活用していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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