• 更新日 : 2025年7月28日

医院・クリニックを新規開業する方法は?スケジュールや手続き、失敗を防ぐコツを解説

医院・クリニックを開業するにはさまざまな準備が必要です。この記事では、医院・クリニックの開業前に知っておきたい開業方法や必要な資格・届け出、資金の目安、開業までの流れなどを解説していきます。

医院・クリニックを新規開業する方法

医院・クリニックを開業する代表的な方法は2つあります。個人事業主として個人病院を開業する方法と、医療法人として開業する方法です。個人事業主と医療法人では、税金や社会保険、開業のための手続き、事務手続きなど、あらゆる面が異なります。それぞれの開業方法のメリット・デメリットを見ていきましょう。

個人事業主として開業する方法

個人事業主として医院・クリニックを新規開業するためには、事業開始後1カ月以内に所轄の税務署に対して「開業届」を提出する必要があります。

メリット
  • 業務範囲が制限されない
    医療法人が行える業務は「本来業務」「附帯業務」「付随業務」の3つに制限されています。しかし、個人事業主として開業する場合、業務範囲に制限がありません。したがって医業以外の業務を自由に行うことができます。
  • 決定権が個人にあるため事務手続きがシンプル
    医療法人の場合、財産の処分や事業計画の決定など、重要事項を決定する際には社員総会や理事会といった決議機関の決議を受けなければなりません。個人事業主の場合、これらの決議機関を設置する必要がなく、決定権が個人にあるため事務手続きがシンプルになります。
デメリット
  • 事務的な負担が増える
    個人事業主として開業するケースでは、本来の医療業務のほかに経営者としての業務を兼務しなければなりません。診察を行いつつ、会計業務や人事業務なども行うことになるため個人事業主の事務的負担が増えることになります。
  • 税制面で不利になるケースがある
    個人事業主の所得(儲け)には所得税が課税されます。所得税は「超過累進課税制度」が採用されており、所得が高くなるほど税率が上がる(最高税率45%)ようになっています。医療法人に課税される法人税の最高税率23.2%(特定医療法人を除く)と比べて個人では所得に高い税率が適用されるため、税制面で不利になるケースがあります。

医療法人として開業する方法

医療法人として開業する場合にはまず、法務局で「法人設立登記」をする必要があります。

メリット
  • 複数の医院を経営することができる
    医療法人を設立するメリットとして、本院のほかに複数の分院を設置し経営できる点が挙げられます。複数の医院を経営することで、本院しか設置できない個人事業主よりも多くの所得を得られる機会が生まれます。
  • 節税対策がしやすい
    医院を法人化することで、法人税法で認められている範囲で「役員報酬」や「事前確定届出給与」「役員退職金」などを費用計上することが可能になります。個人事業主の所得税と比べて費用計上できるものが増えるため節税対策がしやすくなるメリットがあります。
デメリット
  • 登記手続きが必要になる
    医療法人を設立するためには、法務局で法人設立の登記をしなければなりません。また理事の変更や本店所在地の変更など、登記事項に変更がある都度、変更登記をする必要があるため、登記手続きが煩雑になります。
  • 社会保険の加入義務が生じる
    社会保険制度(健康保険・厚生年金)では、従業員雇用の有無にかかわらず医療法人は制度加入が強制になります。社会保険制度に加入すると、被保険者の保険料のうち健康保険料と厚生年金保険料を法人が半分負担しなければならないため、支出が増加することになります。

医院・クリニックを新規開業する流れ・スケジュール

医院・クリニックを新規開業する際のスケジュールは、以下のとおりです。

  1. 診療圏調査
  2. 事業計画の策定
  3. 開業資金の調達
  4. 開業場所・物件の選定
  5. 医院の内装設計、医療機器の調達
  6. 各種行政手続き
  7. クリニックの求人
  8. 広告宣伝

1. 診療圏調査

開業するにあたって、開業予定地域(診療圏)の人口や競合他社の有無、立地などの条件をあらかじめ調査し、より良い条件で開業できる地域を選定する作業を行います。また、選定する地域が将来的にどのように開発されるかといった開発計画も併せて調査した上で地域選定を行う必要があります。

2. 事業計画の策定

どのような医療を提供するのか、どのような医院やクリニックにしたいのか、まずは開業する医院やクリニック指針を定めて、事業計画に落とし込んでいきます。事業計画は開業の基本となる事項です。開業までスムーズに計画を実行できるようにするためにも、クリニックの規模や必要資金、開業後の収支計画など、具体的な数字に落とし込んで計画を立てていきましょう。

マネーフォワード クラウドでは、医院・クリニックの開業時に使える事業計画書テンプレートをご用意しています。無料でダウンロードいただけるので、ぜひカスタマイズしてご活用ください。

3. 開業資金の調達

事業計画で立てた資金計画をもとに、開業資金をどこから調達するのか、どこからどのくらいの資金を調達できそうか、調達先の選定や申し込みなど資金調達の準備を進めていきます。調達先によっては事業計画書などの提出が求められるため、必要書類も準備しておきましょう。代表的な調達先として、銀行のほか、日本政策金融公庫や独立行政法人福祉医療機構などがあります。

4. 開業場所・物件の選定

自宅を改装するのか、それとも賃貸物件を利用するのか、新たに土地建物を取得するのかを決め、それに合わせて開業場所を決めます。賃貸や土地建物を取得して開業する場合は、診療圏調査(推計患者数などを調査すること)などをもとにして開業エリアを絞り込み、開業エリアの中から条件に合った物件を探します。物件が決まったら、スムーズに開業できるようにするためにも、物件の契約書などを保健所に共有して事前協議を進めておきましょう。

5. 医院の内装設計、医療機器の調達

開業場所が決まったら、施設内部の設計や内装工事、導入する医療機器の選定や調達を進めていきます。診療科によって、医療機器の導入に多額の費用がかかることもあります。初期費用を抑えるためにすべて新品を購入するのではなく、一部リースを利用したり、中古機器を利用したりするのも方法のひとつです。

6. 各種行政手続き

先述した保健所や厚生局などへの申請や届出などを行い、医療を提供するための準備を開業までに進めておきます。医師や看護師などのスタッフを必要とする場合は、開業までに社会保険などの手続きも進めておきましょう。

7. クリニックの求人

看護師や医療会計業務に携わる事務員など、クリニックの求人を行います。勤務時間や勤務形態、基本給・資格手当などを決定し、ハローワークや医業専門の求人サイトなどを使って必要な人員を確保し、研修を行います。

8. 広告宣伝

新規開業するにあたって、開業する地域の住民に対して開業する旨の広告宣伝を行います。具体的にはホームページの開設や広告看板の設置、チラシの配布などを使って宣伝を行うことになります。医療法で定める広告規制に抵触しないよう注意する必要があります。

医院・クリニックの開業に必要な届出

次に、医院・クリニックを開業する際に必要な各種届出について解説します。

保健所|開設届

医院・クリニックを開業する際、管轄する保健所に対して「開設届」を提出しなければなりません。「開設届」が受理されることで、医療行為を行うことが可能となります。

「開設届」は、診療の開始日より前に提出する必要があります。診療を行えるのは届出が受理されてからになるため、注意しましょう。

厚生局|保険医療機関指定申請

保健所に「開設届」を提出することで「自由診療」は可能になりますが、公的医療保険制度が適用される「保険診療」を行うためには別途、厚生局に「保険医療機関指定申請」をする必要があります。

届出は厚生局事務所に提出しますが、「提出期限が月1回」であることと「受理されるまで約1カ月」かかる点に注意しましょう。「開設届」と同様に届出が受理されるまで「保険診療」を行えないため、開業日に合わせて余裕を持って届出を行うようにしましょう。

医院・クリニックの開業に必要な資格や許可

医院・クリニックの開業にはどのような資格や許可などが必要になるのでしょうか。ここでは必須の資格など代表的なものを紹介します。

※場合によっては、ここで取り上げる以外の手続きが必要になることがあります。例えば、従業員を雇用した場合は労働保険の手続きが必要です。

医師免許

医師免許を持たない人が開業するケースもありますが、いずれの場合でも医師免許を持つ医師を1人以上配置しなければなりません。そのため、医院・クリニックの開業には医師免許を持つ人が必須です。

また、病院の規模や施設の種類に応じて医療法に定められた人員配置基準を満たせるよう、医師のほか、薬剤師や看護師などを配置する必要があります。病床(療養のためのベッド)がない、または病床が少数の診療所であれば医師1人でも開業できます。

防火管理者

防火管理者は、消防法に定められた施設管理者としての資格です。収容人数が30人以上の病院では、防火管理者の設置が求められます。防火管理者の資格を取得するには、防火管理者講習の受講が必要です。

保健所への開設届や許認可

医師が個人医院やクリニックを開業する場合には、保健所へ診療所の開設を届け出る必要があります。個人事業主として開業する場合は、税務署への開業届や源泉徴収関係の手続きなども必要です。医療法人などを開設する場合には、診療所開設許可申請を行います。

なお、医療法人を設立する前には、都道府県知事の認可が必要です。

厚生局への保険医療機関指定申請

健康保険の対象となる診療(健康保険の適用で自己負担が3割などに軽減される診療)を保険診療といいます。開業する医院やクリニックで保険診療を行うためには、管轄の厚生局への保険医療機関指定申請を行わなくてはなりません。

また、保険診療を行う保険医の登録がない場合は、登録が必要です。医師であっても、自動的に保険医登録されるわけではありません。

経営の資格や民間資格

医院やクリニックの開業に必要な資格ではありませんが、病院経営に役立つ資格として、日本医療経営実践協会の「医療経営士」、日本医業経営コンサルタント協会の「医業経営コンサルタント」、日本病院会の「病院経営管理士」などの民間資格があります。

医院・クリニックは医師以外でも開業できる?

医師以外の人でも、医療法人などを設立して医院やクリニックを開業できます。ただし、医師免許を持たない場合、医業に直接携わることはできません。クリニック経営のための事務手続きや雇用などの医業以外の部分で経営に携わることになります。医院やクリニックとして医業を提供するには、医師免許を持つ医師を雇用するなどして配置する必要があります。

医院・クリニックの開業に必要な資金は?

開業のパターンとしては、自宅を利用する方法、賃貸物件を利用する方法、医院開設のために新たに専用の物件を取得する方法が考えられます。

自宅を利用して開業する場合

所有している自宅を利用して医院やクリニックを開業する場合、一部を改装するだけで済みます。改装する範囲などにもよりますが、初期費用を抑えて開業できる可能性があります。

主な初期費用は、自宅の改装費と設備費用(医療機器の導入費用など)になるため、開業する診療科によっては1,000万円以下で開業できることもあるでしょう。

賃貸物件を利用して開業する場合

賃貸物件を取得して開業する場合、物件を借りるための初期費用として、礼金や仲介手数料、前家賃、保証金(家賃の6~12カ月程度が目安)が必要です。これに加え、内装費用や設備費用などがかかります。

賃貸物件の立地や広さ、診療科にもよるものの、初期費用として数千万円以上の資金が必要になる可能性があります。

新たに土地と建物を取得して開業する場合

土地と建物を新たに取得して開業する場合、ほかの方法よりも多額の資金が必要になる可能性があります。特に、地価の高い首都圏で開業する場合や、大型の医療機器が必要になる整形外科や循環器科などを開業する場合は、開業資金が大きく膨らむことがあるでしょう。必要資金はケースによって大きく異なるものの、1億円を超えることもあります。

医院・クリニックの開業資金を調達する方法

医院・クリニックを開業する際には、多額の資金が必要です。次に、開業資金を調達する方法について解説します。

銀行融資

民間の金融機関や日本政策金融公庫などから、開業に必要な資金の融資を受ける方法です。一般的に、金融機関が融資審査を行う際、事業実績を審査項目の1つとしますが、新規開業の場合、事業実績がありません。その代わりとして「事業計画書」を作成し、提出しなければなりません。銀行融資を検討する際にはあらかじめ「事業計画書」を作成しておくようにしましょう。

日本政策金融公庫の創業融資

日本政策金融公庫では、新たに創業する企業に対して「新規開業・スタートアップ支援資金」を用意しています。「女性・若者・シニア起業家支援」「再挑戦支援」「中小企業経営力強化」など、新規開業する起業家に対して資金調達のサポートを行っていますので、これらを利用するのも1つの方法です。

独立行政法人福祉医療機構の福祉医療貸付制度

独立行政法人福祉医療機構が行っている融資制度「福祉医療貸付制度」を利用する方法です。「福祉医療貸付制度」には「福祉貸付制度」と「医療貸付制度」の2つがありますが、医院・クリニックの対象となるのは「医療貸付制度」です。開業するにあたって必要となる建設資金や土地の取得資金、医療機器の調達資金や運転資金などを幅広く借り入れすることができます。

補助金・助成金制度

補助金や助成金は、事業支援や地域創生、労働者の雇用安定などを目的に、国や自治体が要件を満たす法人を金銭によってサポートする制度です。いずれも採択後に支給されるものですので、支給時期と費用の支払い時期との間にタイムラグが生じますが、費用負担の軽減に役立ちます。

代表的なものとして、へき地や過疎地などの環境充実を目的にした「医療施設等施設整備費補助金」、ITツールの導入を補助する「IT導入補助金」、労働者の職場定着の取り組みを支援する「人材確保等支援助成金」などがあります。自治体によっては、開業者を支援する補助金や助成金のような制度を実施しているところもあるため、開業前にチェックしておくとよいでしょう。

医院・クリニックの開業・運営に失敗しないために

医院やクリニックの開業・運営で失敗しないために押さえておきたい4つのポイントを紹介します。

立地を意識する

開業エリア内で競合となるクリニックなどの数や見込み患者数などを調査する診療圏調査は、開業エリアを決めたり、物件を探したりする際の参考になります。立地は、医院やクリニックの運営に大きく関わる部分ですので、データなども参考に慎重に決めていくことがポイントです。

また、診療圏調査だけではわからない部分もありますので、ある程度エリアを絞ったら、実際にその土地に足を運んでみて、交通機関はどうなっているか、人の動きはどうかなども確認しておくとよいでしょう。

初期費用と運転資金のバランスを考える

運転資金とは、医院やクリニックを運営するためのランニングコストのことです。人件費や水道光熱費、賃貸物件の場合は家賃、減価償却費、医療機器類がリースの場合はリース費用、学会出席のための費用などが運転資金に含まれます。医院やクリニックの経営が軌道に乗るまでは、期待する収益が上がらない可能性があることから、開業後すぐは収入よりも運転資金が上回ることもあるでしょう。

開業してすぐに資金繰りに困らないようにするには、開業直後の状況も予想して緻密に事業計画を練って資金調達することが重要です。初期費用にばかり意識がいくと、開業直後の運転資金に支障が出ることもありますので、初期費用と運転資金のバランスも考えて資金を配分するようにするとよいでしょう。

スタッフが働きやすい環境を作る

医院やクリニックの規模によっては、医師や看護師などの医療スタッフを雇用することがあります。医療スタッフを雇わずに医師1人で開業する場合でも、医業に専念するため事務スタッフを雇用するケースもあるかと思います。

スタッフを雇用する場合に問題になりやすいのがスタッフとの関係性です。スタッフとの関係がうまくいかず、突然の離職に悩まされるケースなどもあります。スタッフの離職は医院やクリニックの運営にも影響するため、予防策として、個別面談を行ったり、適切に評価できる制度を取り入れたりと、働きやすい環境作りに力を入れることも重要なポイントです。

効率化を意識する

患者様にとって待ち時間の長さはストレスになります。人によってはクレームにつながることもあるでしょう。待ち時間を短くするには、開業の段階から効率化を意識した環境を整備しておくのがポイントです。

例えば、電子カルテや自動精算機の導入による事務作業の効率化、予約システムの導入による待ち時間の可視化などがあります。開業の段階から効率化を意識し、導入するシステムなどを選定しておくのが効果的です。

しっかり準備を整えて医院・クリニックを開業する

開業するエリアや診療科、規模にもよるものの、医院・クリニック開業のためには多額の資金を必要とします。収益の中から借入金を返済しつつ安定した経営を実現するには、立地の段階からしっかり準備を進めていく必要があります。事業計画などを綿密に練った上で、開業のためのステップを進めていきましょう。


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