• 作成日 : 2025年10月21日

古物商の法人化で許可はどうなる?必要な手続きと注意点を解説

古物商を個人から法人化する場合、個人で取得した古物商許可をそのまま引き継ぐことはできません。個人と法人は法律上別人格として扱われるため、法人として新たに古物商許可を取得する必要があります。無許可営業は3年以下の懲役または100万円以下の罰金という重い罰則があるため、適切な手続きが欠かせません。

この記事では、古物商の法人化における許可の取り扱い、必要な手続き、費用、注意点までわかりやすく解説します。計画的な法人化のために、ぜひご活用ください。

古物商の法人化で個人許可は引き継げる?

古物商を法人化する際、個人で取得した古物商許可は法人に引き継ぐことができません。個人と法人は法律上別の人格として扱われるため、法人として古物営業を行うには新たに法人名義で古物商許可を取得する必要があります。

個人と法人は別人格として扱われる

古物営業法において、個人事業主と法人は完全に別の存在として扱われています。たとえ個人事業主本人が設立した法人の代表取締役になる場合でも、法的には異なる人格となります。

例えば、個人で古物商許可を取得している田中太郎さんが、株式会社田中商店を設立して代表取締役に就任したとしても、田中太郎個人の古物商許可を株式会社田中商店で使うことはできません。

これは個人の財産と法人の財産が法的に分離されているのと同じ理由によるものです。古物商許可は、許可を受けた主体だけが古物営業を行える一身専属的な性質を持っているため、個人から法人への許可の移転や名義変更といった手続きは認められていません。

法人化後も個人許可を使うと無許可営業になる

個人の古物商許可を持っているからといって、そのまま法人で古物営業を行うと、どうなるのでしょうか。残念ながら、これは無許可営業として古物営業法違反に問われる可能性があります。

無許可営業の罰則
  • 3年以下の懲役
  • 100万円以下の罰金
  • またはその両方

「個人で古物商許可を持っているから大丈夫だろう」と考える方もいるかもしれませんが、これは大きな誤解です。法人で営業する場合は法人名義での許可が必要であり、警察の取り締まりで発覚すれば「知らなかった」では済まされません。

名義貸しは古物営業法違反

古物商許可の名義貸しは、古物営業法第9条で明確に禁止されています。

名義貸しに該当する行為
  • 個人の古物商許可を法人に貸す
  • 法人の許可を他の法人に貸す
  • 自分が代表の会社でも個人許可を使用する

名義貸しが発覚した場合の影響は深刻です。罰則だけでなく、古物商許可が取り消される可能性もあります。一度許可が取り消されると、5年間は再取得できないため、事業に致命的な影響を与えかねません。

古物商の法人化に必要な手続きは?

古物商を法人化する際は、まず法人設立を完了させてから、法人名義で新たに古物商許可を申請する流れになります。個人の許可は返納し、法人として必要書類を揃えて、営業所所在地を管轄する警察署に申請しましょう。

法人設立を先に完了させる

古物商許可を法人で取得するには、まず法人設立を完了させる必要があります。

法人設立の流れ
  1. 定款作成
  2. 公証人による定款認証
  3. 資本金の払込み
  4. 法務局への設立登記申請
  5. 登記完了(1~2週間程度)

登記が完了すると、法人の登記事項証明書(登記簿謄本)が取得できるようになります。この書類は古物商許可申請の必須書類となるため、大切に保管しておきましょう。

定款の事業目的に古物営業の記載が必要

法人で古物商許可を取得する際、定款の事業目的欄への記載が重要になります。

事業目的の記載例
  • 古物営業法に基づく古物商
  • 中古品の売買
  • リサイクル品の買取及び販売

すでに法人を設立していて事業目的に記載がない場合は、定款変更の手続きが必要です。ただし、一部の警察署では「確認書」を提出することで、事業目的の記載がなくても申請を受け付けてもらえることもあります。

法人での古物商許可申請手続き

法人として古物商許可を申請する手続きは、個人申請よりもやや複雑になります。

申請に必要な主な書類
  • 古物商許可申請書(法人用)
  • 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
  • 定款の写し
  • 役員全員の住民票
  • 役員全員の身分証明書
  • 役員全員の誓約書・略歴書

申請手数料は19,000円で、申請から許可までの標準処理期間は40日程度となっています。警察署によっては営業所周辺の地図の提出を求められる場合があります。書類に不備があるとさらに日数がかかることもあるため、事前の準備が大切です。

個人許可の返納手続き

法人化後、個人での古物営業を行わない場合は、個人の古物商許可を返納することになります。

返納手続きのポイント
  • 返納期限:廃業から10日以内
  • 必要なもの:古物商許可証の原本、返納理由書(返納届)
  • 手続き場所:個人許可を取得した管轄警察署

ただし、個人と法人の両方で古物営業を続けることも可能です。その場合は、それぞれ別の管理者を選任する必要があることに注意しましょう。

古物商の法人化でかかる費用は?

古物商の法人化には、法人設立費用と古物商許可申請費用の両方が必要になります。トータルでどのくらいの費用を準備すればよいのでしょうか。

法人設立・古物商許可取得の費用一覧

項目株式会社合同会社
定款認証手数料5万円不要
定款印紙代4万円(電子定款なら0円)4万円(電子定款なら0円)
登録免許税15万円(最低額)6万円(最低額)
会社印鑑作成1~3万円1~3万円
設立費用合計約20~25万円約6~10万円
古物商許可申請手数料19,000円19,000円
必要書類取得費3,000~6,000円3,000~6,000円

専門家への依頼費用

手続きを専門家に依頼する場合の費用目安もご紹介します。

依頼費用の相場
  • 司法書士(法人設立):5~15万円
  • 行政書士(古物商許可申請):4~10万円

専門家に依頼するメリットは、書類作成や収集の手間が省けること、申請のミスを防げること、許可取得までの期間を短縮できることなどがあります。費用と時間のバランスを考えて検討してみてはいかがでしょうか。

古物商の法人化で必要な書類は?

法人で古物商許可を申請する際は、個人申請よりも多くの書類が必要になります。とくに役員全員分の書類を揃える必要があるため、計画的な準備が大切になります。

必要書類チェックリスト

法人関係の書類

□ 登記事項証明書(発行から3か月以内)

□ 定款の写し

□ 営業所の賃貸借契約書または使用承諾書

役員全員分の書類

□ 住民票(本籍地記載、発行から3か月以内)

□ 身分証明書(本籍地の市区町村で取得)

□ 誓約書(欠格要件に該当しないことを誓約)

□ 略歴書(過去5年間の職歴等)

役員が遠方に住んでいる場合、書類の取得に時間がかかることもあるでしょう。郵送での取得も可能ですが、通常1~2週間かかるため、余裕を持って準備を進めることをおすすめします。

古物商の法人化における注意点は?

古物商の法人化では、許可の空白期間を作らないスケジュール管理が重要になります。また、管理者の掛け持ちができないなど、個人許可との併存にも制限があることを理解しておきましょう。

古物商許可の空白期間を作らない

古物商許可の申請から許可まで約40日かかるため、この期間をどう乗り切るかが課題となります。

空白期間を避ける方法
  • 法人許可が下りてから個人許可を返納する
  • 空白期間は仕入れを停止し、在庫販売のみにとどめる
  • 事前に警察署に相談し、柔軟な対応を依頼する

継続的に営業を行いたい場合は、管轄警察署に事前相談することをおすすめします。警察署によっては、柔軟な対応をしてもらえることもあるでしょう。

管理者の掛け持ちはできない

古物商の営業所には必ず管理者を置く必要がありますが、この管理者には個人と法人で別々の管理者が必要など重要な制限があります。

管理者に関する注意点
  • 個人と法人で別々の管理者が必要
  • 管理者は常勤できる人を選任
  • 複数営業所の管理者兼任は原則不可

個人事業で自分が管理者になっている場合、法人でも自分が管理者になると掛け持ちとみなされ、申請が認められない可能性があります。家族経営の場合は、配偶者や親族を管理者にすることも検討してみてはいかがでしょうか。

法人口座開設や融資への影響

法人化後、古物商許可を取得しないで営業を続けてしまうと、思わぬところで事業に支障が出ることがあります。

許可がないことによる影響
  • 銀行での法人口座の開設を断られる可能性
  • 融資審査で不利になる
  • 大手企業や取引先との契約が結びにくい

最近は銀行口座開設の審査が厳しくなっており、事業実態の確認として許可証の提示を求められることが増えています。日本政策金融公庫などの融資審査でも、古物商許可証の提示は必須となっているため、早めの取得が大切です。

これらの点を事前に理解しておくことで、スムーズな法人化を進められるのではないでしょうか。

古物商を法人化するメリット・デメリットは?

古物商の法人化には、さまざまなメリットとデメリットがあります。事業規模や将来性を考慮して、最適なタイミングを見極めることが大切です。

法人化のメリット・デメリット比較

メリットデメリット
社会的信用力の向上設立・維持費用の負担
節税効果(所得800万円超が目安)経理・税務の複雑化
事業承継が容易社会保険加入義務
リスクの分離(有限責任)意思決定の手続き増加
優秀な人材を確保しやすい税理士費用(年30~50万円)

古物商を法人化すべきタイミングは?

年間売上高が1,000万円を超えたとき、または所得金額が800万円を超えた時点が、古物商を法人化する一つのタイミングといえるでしょう。これらの基準を超えると、税制面でのメリットが大きくなる可能性があり、事業拡大の必要性も高まってくるため、法人化を真剣に検討すべき時期となります。

売上1,000万円・所得800万円が分岐点

年間売上高1,000万円以上、または年間所得金額800万円以上になったら、法人化によって期待できる節税効果と事業拡大のメリットが大きくなります。

法人化を検討すべき数値基準の目安
  • 年間売上高:1,000万円以上
  • 年間所得金額:800万円以上
  • 月間粗利益:70万円以上

とくに所得金額が800万円を超えると、個人事業主は累進課税によって税率が高くなり、住民税・事業税を含めると実効税率は30%を超えます。一方、法人税率はおおむね30%前後に抑えられるため、法人化の方が有利になるケースが増えてきます。ただし、社会保険料の負担も考慮する必要があるため、税理士など専門家に相談しながらトータルで判断することをおすすめします。

従業員雇用や複数店舗展開を検討するとき

従業員の雇用や大手企業との取引開始、複数店舗の展開などを考え始めたら、法人化を検討すべきタイミングです。

法人化を検討すべき事業状況
  • 従業員を雇用する予定がある
  • 複数の営業所を展開したい
  • 大手企業との取引が増えてきた
  • 銀行融資を受けて事業を拡大したい
  • 海外との取引を始めたい

これらの状況では、個人事業主のままだと限界があります。とくに大手企業は与信管理の観点から、個人事業主との新規取引を避ける傾向があるため、ビジネスチャンスを逃さないためにも法人化が必要になるでしょう。

消費税の免税期間を活用したいとき

個人事業で売上が1,000万円を超えた場合、資本金1,000万円未満で法人化すれば、最大2年間の消費税免税期間を改めて得られる可能性があります。

消費税に関する法人化の検討ポイント
  • 個人事業で売上1,000万円を超えた場合、2年後から消費税の課税事業者
  • 法人化すると最大2年間、消費税が免税になる可能性
  • インボイス制度導入後は、取引先との関係も考慮が必要

ただし、2023年10月からインボイス制度が始まったため、免税事業者のままでは取引先から敬遠される可能性もあります。事業の実情に合わせて判断することが大切です。

事業承継や資産分離を考えているとき

家族への事業承継を考えている場合や、個人資産と事業資産を分離したい場合は、早めの法人化がおすすめです。

個人的な観点での検討ポイント
  • 家族を従業員として雇用し、所得を分散して節税を図りたい
  • 将来的に子供への事業承継を考えている
  • 個人資産と事業資産を明確に分離したい
  • 社会的信用を高めて、ローンや融資を受けやすくしたい

とくに事業承継を考えている場合、個人事業主が亡くなると古物商許可は失効しますが、法人なら代表者変更で事業を継続できるため、早めの対応が大切になります。

大口取引や設備投資の機会があるとき

大口取引の商談や不動産購入、出資の話が出てきたときは、法人化を前向きに検討すべきタイミングです。

早期法人化が推奨される状況
  • 大口の取引案件が決まりそう
  • 不動産の購入や高額設備投資を予定している
  • 複数の投資家から出資を受ける話がある
  • フランチャイズ加盟を検討している(加盟条件は法人限定が多い)

これらの機会を逃さないためにも、事前に法人化の準備を進めておくことが大切です。法人設立から古物商許可取得まで2か月程度かかることを考慮し、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。

古物商の法人化では新たに法人許可の取得が必要

古物商の法人化において最も重要なことは、個人の古物商許可を法人に引き継ぐことはできないという点です。個人と法人は法律上別人格として扱われるため、法人として古物営業を行うには、必ず法人名義で新たに古物商許可を取得しなければなりません。

法人化の手続きは、法人設立を完了させてから古物商許可を申請する流れになります。申請には役員全員分の書類が必要で、許可まで約40日かかるため、計画的な準備が大切です。費用は法人設立に20~30万円程度、古物商許可申請に2~3万円程度が必要になるでしょう。

とくに注意すべきは、個人許可のまま法人営業を行うと無許可営業となり、3年以下の懲役または100万円以下の罰金という重い罰則の対象になることです。許可の空白期間を作らないよう、事前に管轄警察署に相談しながら手続きを進めることをおすすめします。

年間売上高が1,000万円を超え、さらに事業拡大を目指すなら、法人化は有効な選択肢となるでしょう。手続きに不安がある場合は、行政書士などの専門家に相談することで、確実かつスムーズな法人化を実現できるはずです。


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