• 作成日 : 2025年7月3日

個人事業主として開業するには?自営業との違いや開業の流れを解説

個人事業主と聞くと、自由で気楽なイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、実際に開業するとなると、さまざまな疑問や不安が出てくるのではないでしょうか。「個人事業主と自営業の違いは?」「開業にはどんな手続きが必要?」「会社員と何が変わるの?」など、気になることはたくさんありますよね。

この記事では、自営業との違いから開業の流れ、必要な準備までをわかりやすく解説します。

自営業と個人事業主の違いは?

個人事業主と自営業は、しばしば同じような意味で使われますが、厳密には異なる意味合いを持っています。

自営業とは

自営業とは、会社などの組織に雇用されずに、自身で独立して事業を営んでいる状態や、そのような人を指す広範な言葉です。

これには、法人を設立して事業を行う経営者も、個人で事業を行う人も含まれます。つまり、自分で事業を営み生計を立てている人全般を指す、働き方や立場を示す言葉と言えます。

個人事業主とは

個人事業主とは、法人を設立せずに、個人として事業を行っている人を指す、主に税法上の区分です。税務署に「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出することで、税法上の個人事業主となります。これにより、確定申告の際に青色申告を選択できたり、事業に必要な経費を計上できたりといった税務上の取り扱いを受けられます。

両者の違いと関係性

端的に言えば、個人事業主は自営業者の一形態であると言えます。

  • 自営業者
    個人で事業を行う人(個人事業主)も、法人を設立した経営者も含む、より広い概念です。
  • 個人事業主
    法人化せずに個人で事業を営む人を指し、税法上の区分としての意味合いが強いです。

たとえば、一人でラーメン店を経営している場合、その人は「自営業者」であり、かつ法人を設立していなければ「個人事業主」にも該当します。一方、株式会社を設立して社長としてラーメン店を経営している場合、その社長は「自営業者」ではありますが、「個人事業主」ではありません。

個人事業主について詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。

個人事業主として開業するメリット・デメリット

個人事業主として働くことには、会社員とは異なるメリットとデメリットが存在します。

メリット

  1. 開業手続きが簡単で費用がかからない
    法人設立と比較して、税務署などへの届出だけで開業でき、登録免許税などの費用もかかりません。
  2. 自由な働き方ができる
    働く時間や休日を自分で決定でき、働く場所の制約も少ない傾向にあります。また、副業も可能です。
  3. 能力次第で収入が増える
    成果が直接収入に反映されやすく、頑張り次第で高収入を目指せます。
  4. 定年がない:年齢に関わらず、健康であれば働き続けることが可能です。
  5. 税務申告が比較的簡単
    青色申告でも会計ソフトを利用すれば、簿記の知識が少ない初心者でも対応しやすいです。法人税申告に比べ、税理士費用も安価な場合があります。
  6. 利益が少ないうちは税負担が少ない
    所得が少ない段階では、法人よりも所得税の方が税負担が軽くなる傾向があります。
  7. 経理などの事務負担が少ない
    自分一人で事業を行う場合、給与計算などの事務負担が発生しません。

デメリット

  1. 収入が不安定
    毎月安定した収入がある会社員と異なり、月によって収入が大きく変動する可能性があります。
  2. 社会的信用度が法人に劣る
    法人格を持たないため、取引や融資、人材採用の面で不利になることがあります。特に大企業との取引では、法人格が求められるケースもあります。
  3. 融資を受けにくい
    事業資金と個人の生活費の区別が曖昧になりがちなため、金融機関からの融資審査が厳しくなる傾向があります。
  4. 社会保険料が全額自己負担
    会社員の場合、健康保険料や年金保険料は会社と折半ですが、個人事業主は全額自己負担となります。
  5. 税金の申告が必要
    確定申告を自分で行う必要があり、所得税、住民税、事業内容によっては個人事業税や消費税の納税義務も生じます。
  6. 無限責任
    事業で生じた負債は全て個人が負うことになります。法人の有限責任とは異なり、これは大きなリスクとなり得ます。
  7. 人材採用が難しい
    法人よりも福利厚生などの面で従業員の採用が難しい場合があります。

これらのメリット・デメリットを総合的に考慮し、自身の事業計画やライフスタイルに合致するかどうかを判断することが重要です。

個人事業主として開業する流れ

個人事業主として開業するまでの主な流れは、事業計画を立て、必要な届出を行い事業を開始するというステップになります。

事業計画の策定

どのような事業を行うか具体的な計画を立てます。事業計画書は、事業の明確化、資金繰りの把握、融資獲得に役立ちます。事業概要や経営理念などを具体的に記載しましょう。

屋号の決定(任意)

屋号(店舗名や事務所名など)は必須ではありませんが、事業の認知度や社会的信用を高め、屋号付き銀行口座を開設できるメリットがあります。事業内容が伝わりやすく、他者の権利を侵害しない名称を選びましょう。

許認可の確認・取得(該当する場合)

事業によっては、国や自治体の許認可(届出、登録、認可、許可、免許など)が必要です(例:飲食店、古物営業、建設業)。無許可営業は罰則の対象となるため、必ず事前に確認し、手続きを済ませましょう。

税務署への届出

最も重要な手続きです。

  • 開業届
    事業開始から1ヶ月以内に提出します。
  • 青色申告承認申請書
    最大65万円の控除など節税メリットを受ける場合に提出します。開業時期により提出期限が異なります(例:開業日が1月16日以降なら開業日から2ヶ月以内)。
  • その他
    従業員へ給与を支払う場合など、状況に応じて必要な書類を提出します。

都道府県税事務所・市町村役場への届出

事業所の所在地を管轄する自治体に「事業開始等申告書」などを提出します。これは個人事業税に関するものです。

社会保険の手続き

会社員から個人事業主になる場合、切り替えが必要です。

  • 国民健康保険
    退職日の翌日から14日以内に居住地の市区町村役場で加入手続きをします。
  • 国民年金
    第1号被保険者への種別変更手続きを退職日の翌日から14日以内に市区町村役場または年金事務所で行います。

開業に必要な準備

開業を成功させるためには、資金計画に加えて以下の事前準備が重要です。

  1. 事業場所の確保
    事業内容や予算に応じて、自宅、賃貸物件、コワーキングスペースなどから最適な場所を選びましょう。それぞれにメリット・デメリットがあります。
  2. スキル・資格の習得
    事業に必要な専門スキルや、事務能力を高める資格(例:簿記、ファイナンシャルプランナー、業種関連資格)を計画的に取得しましょう。
  3. 設備・備品の調達
    事業に必要な通信環境、オフィス家具、事務用品などを準備します。初期費用を抑えるため、中古品やリースの活用も検討しましょう。
  4. 事業用銀行口座の開設
    プライベートと事業の資金を明確に分け、経理処理をスムーズにするために開設します。「屋号+氏名」の口座は社会的信用を高めますが、開設には審査や書類が必要です。
  5. 会計ソフトの選定・導入
    日々の取引記録や確定申告を効率化するために会計ソフトを導入しましょう。多くは無料プランや試用期間があるので、操作性を試してから選ぶのがおすすめです。

開業に必要な資金

開業には、初期費用としての「設備資金」と、事業を運営していくための「運転資金」が必要です。

設備資金と運転資金

  • 設備資金(初期費用)
    事業開始時に一度だけ、あるいは初期に集中して発生する費用です。

    • 例:店舗・事務所の敷金・礼金・保証金、内外装工事費、機械・設備・什器の購入費、パソコン・ソフトウェア購入費、広告宣伝費(ホームページ制作費、チラシ作成費など)、許認可取得費用など。
  • 運転資金
    事業を継続的に運営していくために日常的に発生する費用です。

開業資金の目安

開業資金の総額は、業種や事業規模、店舗の有無などによって大きく異なります。IT業のように比較的少額で始められるものから、飲食店や製造業のように多額の設備投資が必要なものまで様々です。

業種別開業資金の目安(フランチャイズではない場合)

業種開業資金の目安
飲食業(カフェ)500万円~1,500万円
美容業(サロンなど)500万円~2,000万円
小売業(アパレルなど)800万円~1,500万円
IT業50万円~2,000万円
学習塾300万円~1,000万円

運転資金については、一般的に月商(月の売上)の3~6ヶ月分を準備しておくのが目安とされています。たとえば、月の売上が100万円の場合、300万円~600万円の運転資金があると安心です。ただし、仕入れから売掛金の回収までの期間が長い業種では、より多くの運転資金が必要になることもあります。

資金調達方法

開業資金が自己資金で不足する場合の調達方法です。

  1. 日本政策金融公庫の融資
    政府系金融機関で、創業者向け融資が充実しています。代表例は「新規開業・スタートアップ支援資金」で、比較的低金利となっています。事業計画書と面談対策等が重要で、融資実行まで数週間~1ヶ月程度かかります。
  2. 地方自治体の制度融資
    自治体・金融機関・信用保証協会が連携する融資です。信用保証協会の保証で融資を受けやすくなりますが、保証料が必要です。金利は比較的低いものの、融資実行までに時間がかかる傾向があります。
  3. 民間金融機関の融資(ビジネスローンなど)
    銀行、信用金庫、ノンバンクなどが提供します。審査が比較的早く、急な資金ニーズに対応しやすい一方、金利は公的融資より高めになる傾向があります。無担保・無保証で利用できるものもありますが、高額融資では担保や保証人が求められることもあります。
  4. 補助金・助成金
    国や自治体が提供する返済不要の資金です。特定の事業目的(事業再構築、IT導入など)や雇用創出に対して支給されます。例として「小規模事業者持続化補助金」などがあります。応募期間や要件があり、申請が複雑な場合も多いため専門家の活用も有効です。受給のタイミングをよく確認しましょう。
  5. その他
    クラウドファンディングや親族・知人からの借入れも選択肢となります。

資金調達時は、各方法のメリット・デメリットを理解し、事業計画や返済能力を考慮して最適なものを選びましょう。自己資金をある程度用意しておくと、融資審査で有利に働くことが多いです。

開業後の運営について

開業後の事業を成長させるためには、日々の運営における集客、税務・会計処理、そしてリスクへの対応が特に重要です。

集客方法の検討

効果的な集客は事業成功に不可欠です。

オンライン集客

ウェブサイト、ブログ、SNS、MEO(マップエンジン最適化)、Web広告などを活用し、広範囲の顧客にアプローチします。SEO対策や情報発信の継続が鍵です。

オフライン集客

チラシ、DM、口コミ、地域イベントへの参加などで、特に地域密着型ビジネスの顧客獲得を目指します。 事業の目的とターゲットを明確にし、予算や特性に応じてオンラインとオフラインの施策をバランス良く組み合わせましょう。

税金の種類と納税義務

個人事業主は、基本的には所得税(復興特別所得税含む)、住民税、個人事業税、消費税などの税金を納める義務があります。その他、固定資産税なども該当する場合があります。これらは税金によって確定申告を通じて計算・申告するものや納付書が送付されるものがあります。インボイス制度の導入により、請求書を含めた消費税の取り扱いも確認が必要です。

日々の帳簿付けと確定申告

日々の取引を記録する「帳簿付け」と、年に一度の「確定申告」は必須です。

白色申告

事前申請不要で帳簿付けも比較的簡単ですが、節税メリットは少ないです。

青色申告

事前申請が必要ですが、最大65万円の青色申告特別控除や家族への給与を経費にできるなど、大きな節税メリットがあります。複式簿記での記帳が基本ですが、会計ソフトを利用すれば効率的に行えます。 節税効果の高い青色申告の選択が推奨されます。確定申告は原則毎年2月16日から3月15日です。

事業リスクと対策

個人事業主は、収入不安定、就業不能、老後資金、賠償責任、取引先の倒産といったリスクに自身で備える必要があります。

対策例

就業不能保険、国民年金基金やiDeCo、損害賠償責任保険、経営セーフティ共済(倒産防止共済)、小規模企業共済(退職金制度)など。 公的制度と民間保険を組み合わせ、事業内容や状況に応じた対策を講じましょう。特に小規模企業共済や経営セーフティ共済は節税効果も期待できます。

法人成り(法人化)を検討するタイミング

個人事業が成長すると、株式会社などの法人へ組織変更する「法人成り」を検討する時期が来ることがあります。法人成りには、社会的信用の向上や節税の可能性がある一方、設立費用や社会保険加入の義務、事務負担の増加といった側面も考慮が必要です。

法人成りを検討する主なタイミング

  1. 所得(利益)が一定額を超えた時
    一般的に年間利益が800万~900万円を超えると、個人の所得税・住民税より法人税の方が有利になる可能性があります。法人成りした場合、役員報酬には給与所得控除も適用されます。
  2. 課税売上高が1,000万円を超えた時
    個人事業主は2年前の売上が1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じますが、法人成りで設立後最大2年間、消費税が免除される場合があります(資本金1,000万円未満など条件あり)。ただし、インボイス制度を適用する場合には消費税の申告納税が必要です。
  3. 事業拡大・資金調達・人材採用を本格化したい時
    法人の方が社会的信用を得やすく、融資や取引、求人活動で有利になる傾向があります。
  4. 事業承継を考えている時
    個人事業より法人の方が、株式承継により事業をスムーズに引き継ぎやすいメリットがあります。

注意点 : 法人設立には費用(株式会社で約20万円~、合同会社で約6万円~)がかかります。また、社会保険への加入が義務となり、保険料の会社負担分が発生します。赤字でも法人住民税の均等割(年間約7万円~)も必要です。

法人成りの判断は、税金面だけでなく、事業の将来性や取引関係などを総合的に考慮し、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

個人事業主としての開業を成功させよう

個人事業主としての開業は、自由な働き方や大きな成功の可能性がある一方で、相応の準備が必要です。

この記事では、開業の定義から手続きの流れ、必要な準備と資金、税金の種類と確定申告、さらには集客方法やリスク対策、法人成りのタイミングまでを解説しました。この記事が、これから自営業の世界へ踏み出す皆様の一助となれば幸いです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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