• 更新日 : 2025年11月25日

法人化は何月がいい?最適な決算月を決める5つのポイントを解説

法人化に最適な月は、消費税の免税期間や納税時期、事業の繁忙期などを総合的に考慮して決めましょう。自社の状況をふまえて適切な決算月を設定することが、スムーズな法人成りにつながります。

個人事業主から法人化(法人成り)する際、多くの方が「いつ設立するのが一番得なのだろうか」と悩むのではないでしょうか。特に、税金の支払いや事務手続きの負担は、事業の滑り出しを左右しかねません。

本記事では、法人化するのにおすすめの月や、最適なタイミングを見極めるための5つのポイントについて、わかりやすく解説します。

法人化する月選びは「決算月」選びそのもの

法人化する月を選ぶことは、会社の事業年度の最終月、つまり「決算月」を決めることと同じ意味を持ちます。なぜなら、法人の事業年度は設立日から1年以内で自由に設定でき、その最終月が決算月となるからです。

例えば、4月1日に会社を設立し、事業年度を「4月1日から翌年3月31日まで」と定款で定めれば、決算月は3月になります。この決算月に合わせて、決算書の作成や法人税確定申告・納税といった一連の会計処理を進めていかなければなりません。したがって、「法人化を何月にするか」という問いは、すなわち「何月を決算月にするか」という経営戦略上の重要な判断といえるでしょう。

法人化におすすめの月はいつ?

法人化におすすめの月は、企業の状況によって異なりますが、一般的に推奨されるタイミングがあります。個人事業主からの切り替えや、税理士の繁忙期などを考慮して、法人化の時期を検討すると良いでしょう。ここでは、代表的なおすすめの月を紹介します。

1月:個人事業主からの移行がスムーズ

1月に法人化すると、個人事業主としての事業年度(1月1日~12月31日)の終了直後に新しい会社をスタートできます。この方法なら、個人としての確定申告と、法人としての会計処理の区切りが明確になり、事務作業を簡潔に進められます。

個人事業主の事業を12月31日で締め、翌年1月1日から法人として事業を開始すれば、年をまたいで個人と法人の両方の申告準備をする必要がなく、帳簿や経理の混乱を避けやすくなります。

6月~10月:専門家のサポートを受けやすい

税理士の繁忙期は、個人の確定申告がある2月~3月と、3月決算法人の申告期限にあたる5月に集中しがちです。この時期を避けて6月~10月に決算月を設定すると、税理士から手厚いサポートを受けやすくなるかもしれません。

会社の設立時は、定款認証や登記申請、税務署への届出など、専門的な手続きが多く発生します。比較的落ち着いた時期を選ぶことで、専門家とじっくり相談しながら、着実に設立準備を進めることができるでしょう。

事業の閑散期:本業に集中できる

自社の事業の閑散期に決算月を設定するのも賢明な方法といえます。決算業務には、棚卸や各種資料の準備、税理士との打ち合わせなど、多くの時間と手間がかかるからです。

事業の繁忙期と決算作業が重なると、本業に支障が出たり、経理担当者の負担が過大になったりする恐れがあります。閑散期を決算月とすれば、経営者も従業員も落ち着いて決算業務に取り組むことができ、本業への影響を最小限に抑えられるでしょう。

法人化する月を決める5つのポイントとは?

法人化のタイミング、すなわち決算月をいつにするかは、今後の事業運営や資金繰りに大きな影響を与えます。ここでは、最適な月を選ぶために検討すべき5つのポイントを解説していきましょう。

1. 消費税の免税期間を最大限活用する

資本金1,000万円未満で新たに設立された法人は、原則として設立1期目および2期目に消費税の納税義務が免除される特例の適用対象となります。この免税期間を最大限活用するには、設立1期目の事業年度を「できるだけ長く」設定しておくことが有効です。

例えば2025年10月2日に会社を設立した場合、次のような事業年度の設定によって免税期間の活用度に差が出ます。

2025年10月2日に会社を設立した場合の免税期間の例

設定例第1期の事業年度免税期間の考え方
最大限活用する例2025年10月2日~2026年9月30日約1年間が第1期となり、免税特例の恩恵を十分に受けられる。
免税期間が短くなる例2025年10月2日~2026年3月31日第1期が約半年となるため、免税期間(2期目を含む)の活用幅が小さくなる。

具体的には、事業年度を設立日から1年間に設定するのが基本です。2025年10月2日に設立された会社の場合、最初の事業年度を「2025年10月2日から2026年9月30日まで」とすれば、約1年間の事業活動が免税対象となり、消費税の免税メリットを最大限に活用できます。

一方で、事業年度を短く設定し、例えば「2025年10月2日から2026年3月31日まで」とすると、1期目が約半年で終わってしまいます。その分、免税期間が短くなり、2期目の開始が早まるため、免税の恩恵が受けられる期間が実質的に短くなる点に注意が必要です。

ただし、特定期間(前事業年度の開始の日から6ヶ月の期間)において、課税売上高または給与等支払額のいずれかが1,000万円を超える場合、その翌事業年度(新設法人の場合は2期目)からは課税事業者になる可能性があります。

さらに、消費税の免税事業者はインボイス(適格請求書)を発行できません。そのため、取引先が仕入税額控除を受けられず、取引条件に影響する可能性があります。免税を維持するか、課税事業者として登録するかは、事業内容や取引先との関係を踏まえて総合的に判断しましょう。

参照: No.6501 納税義務の免除|国税庁

2. 税理士や役所の繁忙期を避ける

税理士や行政書士などの専門家、また法務局や税務署といった役所には明確な繁忙期があります。特に、多くの企業が決算月としている3月の申告期限(5月末)や個人の確定申告時期である2月~3月は非常に混み合います。

このタイミングに会社設立や決算業務が重なると、専門家のスケジュールが取りづらくなったり、役所での手続きに時間がかかったりする可能性があります。繁忙期を避けて決算月を設定することで、以下のようなメリットが見込めます。

繁忙期を避けるメリット
  • 税理士と余裕をもったスケジュールで相談できる。
  • 役所の窓口が比較的空いており、手続きがスムーズに進む。
  • 繁忙期対応による追加料金の発生を避けられる。

3. 納税資金の準備がしやすい時期にする

法人税や消費税などの納税は、原則として決算日から2ヶ月以内に行わなければなりません。そのため、決算月は、売上入金が増えて手元資金に余裕が出る月の約2か月前あたりに設定すると、納税時期の資金繰りが安定します。例えば、建設業で9月に大きな入金が見込まれる場合、決算月を7月に設定すれば、納税期限(決算から2か月後)が9月末となり、資金繰りに余裕をもって納税できます。一方、資金が不足しやすい時期に納税期限が重なると、銀行からの一時的な借入が必要になるなど、余計な手間やコストが発生するおそれがあります。

自社のキャッシュフローのサイクルを十分に分析し、無理なく納税資金を確保できるタイミングを決算月として設定することが重要です。

4. 事業の繁忙期を避ける

決算月は、事業の繁忙期と重ならないように設定するのが基本です。決算期には、日々の業務に加えて、在庫の棚卸、帳簿の整理、各種申告書の作成といった決算関連業務が集中します。

もし事業のピークと決算作業が重なってしまうと、経理担当者だけでなく、営業や現場の従業員にも大きな負担がかかり、本業のパフォーマンス低下につながりかねません。

売上が落ち着く時期や、業務が比較的閑散となる時期を決算月とすることで、社内全体で余裕をもって決算業務に取り組める体制を整えることができます。

5. 個人事業主からの切り替えをスムーズにする

個人事業主から法人化(法人成り)する場合は、切り替えのタイミングも大切です。最もシンプルなのは、個人事業の事業年度が終わる12月末を区切りとし、翌年の1月1日に法人を設立する方法でしょう。

年の途中で法人化すると、その年は個人と法人の両方の申告が必要になり、会計処理や手続きが煩雑になりがちです。例えば、8月1日に法人化した場合、その年の申告作業は以下のようになります。

  • 個人事業主として:
    1月1日~7月31日までの事業所得について、翌年3月15日までに所得税の確定申告を行う。
  • 法人として:
    8月1日~(決算月)までの事業年度について、決算日から2ヶ月以内に法人税等の申告を行う。

年末年始は手続きが立て込む可能性もありますが、会計処理のシンプルさを優先するなら、1月設立(12月決算)は有力な選択肢といえるでしょう。

法人化を縁起の良い日や語呂合わせで決めるのはどう?

実務的な観点とは別に、縁起を担いで法人設立日を決める経営者も少なくありません。「良い日」に会社をスタートさせたいという思いは、経営者として自然なものかもしれません。

縁起の良い日とされる例

  • 一粒万倍日(いちりゅうまんばいび):
    「一粒のもみが万倍にも実る」とされ、何かを始めるのに最適な日といわれています。
  • 天赦日(てんしゃにち/てんしゃび):
    「天が万物の罪を赦す日」とされ、年に数回しかない最上の吉日といわれています。
  • 大安(たいあん):
    六曜の中で最も吉日とされ、万事に良い日とされています。

これらの吉日が会社の設立日(登記申請日)になるようにスケジュールを組むことも一つの考え方です。また、縁起の良い語呂合わせの日を設立日に選ぶ経営者も少なくありません。自身の誕生日や創業記念日などと並び、人気のある日付の例をいくつか紹介します。

人気のある語呂合わせの例
  • 8月8日:末広がりで縁起が良いとされる「八」が重なる日。
  • 3月9日:「サンキュー(Thank you)の日」として、顧客や社会への感謝の気持ちを込める日。
  • 2月9日:「ふ(2)く(9)の日」として、会社に福が来ることを願う日。
  • 1月11日:「1」が並ぶことから、No.1やオンリーワンを目指すという意味を込める日。

会社の決算月は後から変更できるのか?

一度設定した決算月は、後から変更することも可能です。事業内容の変化や、経営上の理由により決算期を変更したい場合、株主総会の特別決議を経て定款を変更し、税務署などに異動届出書を提出することで手続きが完了します。

ただし、決算月の変更には以下のような手間や注意点がありますので、事前に把握しておきましょう。

  • 株主総会の開催と議事録の作成が必要
  • 定款変更の登記手続きが必要
  • 税務署および都道府県税事務所への届出が必要
  • 市町村(または区などの地方自治体)への届出が必要な場合がある
  • 変更後の事業年度が1年を超えてはならない

頻繁に変更するものではなく、手続きにも手間がかかるため、会社設立時に自社にとって最適な決算月を慎重に検討することが望ましいといえます。

参照: C1-8 異動事項に関する届出|国税庁

最適な法人化の月を見極め、スムーズなスタートを

法人化に最適な月は、一概に「何月がいい」と断言できるものではなく、自社の事業内容や資金状況、そして将来の展望をふまえて総合的に判断することが大切です。

消費税の免税メリットを最大限に活かすには、設立1期目をできるだけ長く設定することが有効です。また、納税資金を確保しやすい時期を考慮しておくと、資金繰りにも余裕をもてます。

さらに、専門家や役所の繁忙期を避け、本業に集中できるタイミングを選ぶことも、スムーズなスタートを切るための賢明な判断といえるでしょう。

もしタイミングに迷う場合は、税理士などの専門家に相談し、自社にとって最もメリットの大きい決算月を見極めることをおすすめします。


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